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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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64 代わりじゃない

 ざわざわと街中は活気があり、とても賑わっている。さっきまで学校にいたのに――本当に一瞬で驚いた。


 移動魔法は魔力消費が大きいが、二人で移動するのはさらに魔力消費が激しい。だから、普通は使わないのだ。しかし……ブライアンの姿に戻った彼は平気な顔をしている。さすがこの国一の魔法使いだ。


「初めての移動魔法……驚いたわ」

「そうなのか?君の()()()を貰えるなんて光栄だよ」

「誤解を与える発言はやめてよね」


 私は怒っているのに、彼はケラケラと笑っていてとても楽しそうだ。


 (あ……前髪切ってる。やっぱりこの人元々の顔はなかなか良いのよね)


「前髪切ったのね」

「リリーがその方が良いって言ったからね。男前になった?」

「そうね、今の方がとっても格好いいわ」


 私が素直にそう言うと、彼は頬を染めて目を逸らした。


「君って……無自覚に悪い女だよね」

「は?悪い女ってなによ?酷い!」

「いい女ってことさ」

「誤魔化さないでよ。悪い女といい女じゃえらい違いじゃない!」


 怒ってる私の頭をよしよしと撫で「どんな君も愛してるよ」と髪にキスをした。今度は私の頬が赤くなる。


「や、やめてよ。ブライアンはリリアンが好きだったんでしょう?彼女の娘で顔が似てるから代わりのつもりなの?やめてよね」


 私は彼に揶揄われっぱなしなのが悔しく、つい強い口調で責めてしまった。


「違う!君とリリアンは……ちがう」


 絞り出すような哀しい声でブライアンはそう言った。私は彼の泣きそうな顔を見た瞬間、これは絶対に言ってはいけない言葉だったと反省する。


「最初は……もちろん彼女の娘だったから興味を持ったし、代わりだと思っていたかもしれない。正直、顔も性格もとても似てるしね。でも、リリーに会ってリリーと話して君自身を好きになった。リリアンを好きだった気持ちはもちろん心に残っているけれど、それとは別だよ」


「ブライアン……」


「君は生命力に溢れてる。私にはなぜか君の周りだけ温かく明るく光って見えるんだ。リリーの近くにいれば……私の心は満たされるし、幸せなんだ」

「あの、酷いこと言ってごめんなさい」

「……」


 返事がないので、私はチラッと上を向いて彼の表情を確認する。


「その上目遣いはずるいね。もう二度と代わりだなんて言わないでくれ」

「わかったわ」

「リリーは素直ないい子だね」


 そう言って微笑み「よし!甘いの食べに行こう」と手を取り走り出した。お父様より上の年の離れた男性なのに……不思議。ブライアンはとっても話しやすくて居心地が良い。


「今はこれが人気らしいよ。はい、どーぞ」

「ありがとう」


 受け取ったのは……うさぎの形のアイスクリーム。クッキーで耳、チョコレートで目を表現してある。


「きゃー!か……か、可愛い」


 私はあまりの可愛さに子どものようにはしゃいでしまった……が、すぐに我に返って恥ずかしくなり「取り乱したわ、ごめんなさい」と謝った。


 ブライアンはそんな私を見て、蕩けるような優しい笑顔で眺めている。


「気に入ってよかった。あのベンチに座って食べようね」

「ええ、貴方の分は良かったの?」

「流石に私は一個は食べれなさそうだから」

「ふふっ、若くないから?」


 私は冗談のつもりで悪戯っぽく言ったが、彼はムッと怒った。意外と年齢のことを気にしているようだ。


「私は()()だからな。無駄口を叩かず早く食べなさい。溶けるぞ」

「はーい」


 くすくすと笑いながら、アイスを食べていく。


「可愛くて食べれられない!とか言わないんだな」

「言わないわよ。だって食べ物じゃない?」


 そんな当たり前のことを何故聞いてくるのか?


「くっくっく。可愛いとあんなにはしゃいでたのにそういう部分はクールだよね……君は本当に面白い」

「え?普通の御令嬢はそう言うの?」

「そう言わずに無慈悲にパクパク食べてる君が私は好きだよ」


 なんか褒められてるような貶されているような複雑な気持ちだ……


「んーっ、冷たくて甘くて美味しいわ」

「それは良かったな」

「うん、ねえ?一口食べない?」


 私は彼に向けてアイスを差し出した。


「じゃあ……一口だけ」


 ペロッ


 ん?今なんか……唇の横を温かいものが掠めた気がする。いや、これは――もしかして舌で舐められた!?


「ああ、甘くて美味いな」


 ブライアンはそう言った後、私の方を見ながら自分の唇を色っぽくペロリと舐めた。


「な、な、何するのよ」

「一口くれるって言うから」

「アイスのことに決まってるでしょ」

「わかってるさ。だから、君が口の横に零したアイスをいただいたんだよ」


 ブライアンはさも当たり前のようにそう言っている。


「い、いやらしい!」

「これは大人の食べ方だよ?……リリーが知らないだけだ。もっと私と()()()勉強する?」

「し、し、しませんっ!」

「くっくっく……まだ可愛い()()()リリーには刺激が強かったかな?」


 私は恥ずかしさと揶揄われたことで頬が染まり、彼からプイッと顔を逸らす。


「貴方がそんなことばかりするから、アイザックと喧嘩しちゃうのよ」

「喧嘩?」

「貴方が私に……キ……スしたりするから」


「ガキだから仕方がないけど、あいつの嫉妬心はどうにかした方がいいな。自分の気持ちをコントロールできていない。今後、君の負担になる」

「私は彼の婚約者だし」

「婚約者なら何してもいいの?君を傷つけても?」

「……」


「嫉妬で大事な物を見失うなど愚かだ。本来はリリーのことは、君を愛する魔法使い達が協力して守るのが一番なんだ。それをあの男は理解していない。本当にあいつが君の婚約者になりたいのであれば、もっと器のでかい男にならないとだめだ」

「でも、私はそんな複数の男性となんて無理です。だってアイザックのことが好きだから」


 意を決してそう言った私に、ブライアンは興味が無さそうに「ふーん……」と呟いた。


「だってよ?良かったな()()()()


 振り向いたその先には、顔を真っ赤に染めたアイザックが立っていた。

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