64 代わりじゃない
ざわざわと街中は活気があり、とても賑わっている。さっきまで学校にいたのに――本当に一瞬で驚いた。
移動魔法は魔力消費が大きいが、二人で移動するのはさらに魔力消費が激しい。だから、普通は使わないのだ。しかし……ブライアンの姿に戻った彼は平気な顔をしている。さすがこの国一の魔法使いだ。
「初めての移動魔法……驚いたわ」
「そうなのか?君の初めてを貰えるなんて光栄だよ」
「誤解を与える発言はやめてよね」
私は怒っているのに、彼はケラケラと笑っていてとても楽しそうだ。
(あ……前髪切ってる。やっぱりこの人元々の顔はなかなか良いのよね)
「前髪切ったのね」
「リリーがその方が良いって言ったからね。男前になった?」
「そうね、今の方がとっても格好いいわ」
私が素直にそう言うと、彼は頬を染めて目を逸らした。
「君って……無自覚に悪い女だよね」
「は?悪い女ってなによ?酷い!」
「いい女ってことさ」
「誤魔化さないでよ。悪い女といい女じゃえらい違いじゃない!」
怒ってる私の頭をよしよしと撫で「どんな君も愛してるよ」と髪にキスをした。今度は私の頬が赤くなる。
「や、やめてよ。ブライアンはリリアンが好きだったんでしょう?彼女の娘で顔が似てるから代わりのつもりなの?やめてよね」
私は彼に揶揄われっぱなしなのが悔しく、つい強い口調で責めてしまった。
「違う!君とリリアンは……ちがう」
絞り出すような哀しい声でブライアンはそう言った。私は彼の泣きそうな顔を見た瞬間、これは絶対に言ってはいけない言葉だったと反省する。
「最初は……もちろん彼女の娘だったから興味を持ったし、代わりだと思っていたかもしれない。正直、顔も性格もとても似てるしね。でも、リリーに会ってリリーと話して君自身を好きになった。リリアンを好きだった気持ちはもちろん心に残っているけれど、それとは別だよ」
「ブライアン……」
「君は生命力に溢れてる。私にはなぜか君の周りだけ温かく明るく光って見えるんだ。リリーの近くにいれば……私の心は満たされるし、幸せなんだ」
「あの、酷いこと言ってごめんなさい」
「……」
返事がないので、私はチラッと上を向いて彼の表情を確認する。
「その上目遣いはずるいね。もう二度と代わりだなんて言わないでくれ」
「わかったわ」
「リリーは素直ないい子だね」
そう言って微笑み「よし!甘いの食べに行こう」と手を取り走り出した。お父様より上の年の離れた男性なのに……不思議。ブライアンはとっても話しやすくて居心地が良い。
「今はこれが人気らしいよ。はい、どーぞ」
「ありがとう」
受け取ったのは……うさぎの形のアイスクリーム。クッキーで耳、チョコレートで目を表現してある。
「きゃー!か……か、可愛い」
私はあまりの可愛さに子どものようにはしゃいでしまった……が、すぐに我に返って恥ずかしくなり「取り乱したわ、ごめんなさい」と謝った。
ブライアンはそんな私を見て、蕩けるような優しい笑顔で眺めている。
「気に入ってよかった。あのベンチに座って食べようね」
「ええ、貴方の分は良かったの?」
「流石に私は一個は食べれなさそうだから」
「ふふっ、若くないから?」
私は冗談のつもりで悪戯っぽく言ったが、彼はムッと怒った。意外と年齢のことを気にしているようだ。
「私は大人だからな。無駄口を叩かず早く食べなさい。溶けるぞ」
「はーい」
くすくすと笑いながら、アイスを食べていく。
「可愛くて食べれられない!とか言わないんだな」
「言わないわよ。だって食べ物じゃない?」
そんな当たり前のことを何故聞いてくるのか?
「くっくっく。可愛いとあんなにはしゃいでたのにそういう部分はクールだよね……君は本当に面白い」
「え?普通の御令嬢はそう言うの?」
「そう言わずに無慈悲にパクパク食べてる君が私は好きだよ」
なんか褒められてるような貶されているような複雑な気持ちだ……
「んーっ、冷たくて甘くて美味しいわ」
「それは良かったな」
「うん、ねえ?一口食べない?」
私は彼に向けてアイスを差し出した。
「じゃあ……一口だけ」
ペロッ
ん?今なんか……唇の横を温かいものが掠めた気がする。いや、これは――もしかして舌で舐められた!?
「ああ、甘くて美味いな」
ブライアンはそう言った後、私の方を見ながら自分の唇を色っぽくペロリと舐めた。
「な、な、何するのよ」
「一口くれるって言うから」
「アイスのことに決まってるでしょ」
「わかってるさ。だから、君が口の横に零したアイスをいただいたんだよ」
ブライアンはさも当たり前のようにそう言っている。
「い、いやらしい!」
「これは大人の食べ方だよ?……リリーが知らないだけだ。もっと私と大人の勉強する?」
「し、し、しませんっ!」
「くっくっく……まだ可愛い少女のリリーには刺激が強かったかな?」
私は恥ずかしさと揶揄われたことで頬が染まり、彼からプイッと顔を逸らす。
「貴方がそんなことばかりするから、アイザックと喧嘩しちゃうのよ」
「喧嘩?」
「貴方が私に……キ……スしたりするから」
「ガキだから仕方がないけど、あいつの嫉妬心はどうにかした方がいいな。自分の気持ちをコントロールできていない。今後、君の負担になる」
「私は彼の婚約者だし」
「婚約者なら何してもいいの?君を傷つけても?」
「……」
「嫉妬で大事な物を見失うなど愚かだ。本来はリリーのことは、君を愛する魔法使い達が協力して守るのが一番なんだ。それをあの男は理解していない。本当にあいつが君の婚約者になりたいのであれば、もっと器のでかい男にならないとだめだ」
「でも、私はそんな複数の男性となんて無理です。だってアイザックのことが好きだから」
意を決してそう言った私に、ブライアンは興味が無さそうに「ふーん……」と呟いた。
「だってよ?良かったなクソガキ」
振り向いたその先には、顔を真っ赤に染めたアイザックが立っていた。




