62 事件の決着
私は今日、お父様と一緒に王宮に呼ばれている。ブライアンの取り調べが終わったらしいのだ。アイザックも私の婚約者として呼ばれた。
「リリー嬢、久しいな。元気そうで何よりだ」
「お久しゅうございます。おかげさまで元気に過ごしておりますわ。陛下、私などのためにお心を砕いていただき感謝致します」
私は深々と最敬礼をする。
「今日はブライアンの処遇について話す。関係のある者はここに呼んだ。皆、聞いてくれ」
「はっ」
ブライアンは特に拘束されることもなく、少し離れた場所に立っている。あ……アルファードおじ様も護衛で待機しているようだ。
そんな時にブライアンとバチっと目が合った。彼はフッと笑い私に向けて口をパクパク動かしている。
……ん?何か私に伝えようとしてる?彼はさらにゆっくりスピードを落として口を動かした。私は真剣に彼の唇をじっと見つめる。
『あ』……『い』……『し』……
『て』………………『る』
(あ……い……してる?愛してる!?)
私は恥ずかしさで顔が真っ赤に染まった。陛下がいらっしゃる場で何を言ってるんだ!この男は。しかも、貴方の話なのに!!きっとブライアンに揶揄われたのだと思い、ギッと睨みつける。
彼は面白そうに、声を殺して肩を震わせて笑っていた……本当に不愉快だ。
その様子を面白くなさそうにアイザックが見ていることなど私は知らなかった。
「まずは昔の話になるが……リリアン嬢の事件について。あの時沢山の魔法使いが死んだが、他国からの侵入者であり彼等は犯罪者だ。むしろリリアン嬢守ろうと戦ったブライアンはこの国の英雄ともいえる。事後報告を怠り、身をくらませたことは罪だが婚約者だったリリアン嬢の死を考えるとそれも仕方のないことだっただろう。よって、この件は不問とする。デューク、何か異論はあるか?」
「ございません」
「では今回の件だ。まずは八年前のリリー嬢の誘拐事件。これはブライアンが女神の保護のため企てたこと。幼いうちに彼の手元で守るべきだと考えたが、途中で見つかり失敗した。その後は、無理に拐うのはやめて変化魔法を使い……別人の『マックス』としてリリー嬢を見守ってきたということだった」
周囲からザワザワとうるさくなる。彼が変化魔法を使えることに驚いている。
「マックス……だ……と?」
「は……あのマックス?同じクラスの?」
お父様はマックスがブライアンと知って呆然としている。そりゃそうだ……マックスは私の婚約者候補だったのだから。
アイザックもとても驚き固まっている。まさか同じクラスにブライアンがいたなんて思わないだろう。
「これは見せた方が早いな。ブライアン、変化魔法を皆の前で見せよ」
陛下にそう言われた彼は、めんどくさそうにパチンと指を鳴らした。するとそこには、爽やかな見た目の私と同級生のマックスが立っていた。
「マックス!!」
「まさか変化魔法ができる者が実在するとは……」
実際の変化を目の当たりにして、みんなザワザワする。彼はパチンと指を鳴らし、元の姿に戻った。
「そして、今回の誘拐。これはリリー嬢に婚約の話が出たために焦って行ったことだと。リリアンの二の舞にならぬよう、彼女が強い伴侶を選べるかを試したかったらしい」
「舞踏会でウェイターが殺された事件があったが……この件は知らぬらしい。詳しく言うと、リリー嬢を呼びだすために利用したが、殺していないと」
(あのウェイターが……しかも殺されてたですって?)
「あいつは他国の魔法使いだが弱かった。何者かの指示でリリーを監視してたやつだ。だから、捕まえて脅して自分の計画に利用した。だがその後行方がわからなくなり、見つけた時には死んでいた。私は殺していない」
「まあ、ブライアンのやり方も褒められたものではないが、この話が本当だと裏は取れている。殺した者を探しているが、残念ながら未だ不明だ」
本当に私は狙われているんだわ。私はブルっと体が震える。
「もちろん、女神のためとはいえ、今回のブライアンの強引な誘拐には罰を与えねばならないが……リリー嬢も無事に帰ってきているし、何より彼の巨大な力を失わせるのはこの国として損だ」
「よって、魔法省に戻り王家に忠誠を誓え。変化魔法も使えるのであれば……私の影武者として利用する。それが今回の事件のブライアンへの罰だ」
「……お断りします」
ブライアンのその言葉にみんなが一斉に彼の方を向く。
(な、な、何言ってるのよ!命が取られないなんて、陛下の温情じゃないの)
「陛下、恐れながら申し上げます。私は亡きリリアンに彼女を守ると誓いました。そのため、この命はリリー・スティアートを守って死ぬと決めております。王家にお使えし影武者になることはできても、忠誠を誓うのは彼女にだけでございます」
そう言って彼は私の元にゆっくり歩いて来て、目の前で跪いた。これではまるでプロポーズだ……
アイザックはブライアンを睨みつけている。
「不敬だぞ!」「そんなこと許されない!!」
周囲から彼を非難する声が出る。それは……そうだ。ここにいるのは、この秘密の事件を知ってもよい王にかなり近しい側近達ばかりなのだから。
「それをお許しいただけないのであれば、自分の信念のために命を賭して闘いますよ。どうぞ、皆さんでかかってきてください……まぁ私は簡単には死にませんがね?」
彼はニッコリ笑ってそう言った。いやいや、笑顔が怖すぎるから。
「陛下!こいつは危険です。みんなで処分しましょう」
「陛下をなんだと思っているんだ」
王を守るこの国有数の魔法使い達が、今にもブライアンに攻撃しそうだ。そんなのだめ!どうしたら……
「皆、黙れ!」
その一言に部屋がシーンと静まり返った。
「よい。元よりこういう男だ。ブライアンのことは幼い頃から知っている。それに……こいつとまともに闘えば我々の負う代償は計り知れない」
陛下はなぜかハッハッハと大きな声で楽しそうに笑った。
「亡き者との約束では流石の私でも、こちらを優先しろとは言えぬではないか。リリー嬢、君がこの問題児の面倒をみてくれまいか?私では噛みつかれるものでな」
陛下は悪戯っぽく私にウィンクしながら、そうおっしゃられた。これでは断れないではないか!
「僭越ながら、このお役目リリー・スティアートが責任を持って引き受けさせていただきます」
私は陛下に深々と頭を下げた。
「ブライアン、私が尊敬する陛下に誠心誠意仕えてくださいませ。仕えながら……そして死なずに私のことも守ってください。私は貴方にそう望みます」
「仰せのままに」
彼は私の手の甲にキスをした。その後、陛下の方へ向き直り最敬礼をする。
「このブライアン、主人の命により陛下にお仕え致します」
「ああ、頼んだぞ」
(はあ、どうしてこんなことになったのか?)
こうして……ブライアンの事件はとりあえずは決着を迎えた。




