61 呼び捨て
色々あったが、とりあえず落ち着いたので今日は学校に来ている。
昨日はアイザックが帰った後から、アーサーの「好き好き」攻撃がすごくて疲れた。いや、今まで通り甘えてるのと言動は何も変わりはないのだが「女性として好き」と言われてから抱きつかれたりするとさすがに反応に困ってしまう。はぁ……
「リリー!無事だったのね。良かったわ……もう心臓が止まるかと思った」
「エミリー……ありがとう。無事よ」
ずっと心配してくれていたエミリーと抱き合って喜び合った。
「リリー様。あの……ご無事でよかったです。少しお話よろしいですか?」
そんな時に声をかけてきたのはクロエ様だ。エミリーは彼女を睨みつけ私を後ろに隠した。
「クロエ様、貴方大変失礼ではなくて?私が彼女と話しているのが見えないのかしら」
「ちょっと……エミリー」
エミリーは医務室でのことを知っているので、私を守ろうとしてくれている。
「わざわざ、人の話に割って入ってまでのご用事なの?」
「あの……私……」
彼女はカタカタと震えている。恐らく、アイザックのことを話したいのだろう。
「エミリー、大丈夫よ。ありがとう。クロエ様……私もお話ししたいことがありましたの」
「リリー!はぁ……相変わらずお人好しね」
「リリー様」
「行きましょう」
少し歩いて、二人で庭のベンチに腰掛ける。クロエ様の顔色が悪い。彼女は本来……心優しい女性なのだ。それをあんな風に変えてしまうほどアイザックのことが好きなのね。
「リリー様、すみません。私、アイザック様とよりを戻したと嘘をつきました」
「嘘だと気が付いていたわ」
「万年筆も彼が貴方に貰ったと自慢していたのを耳にして、寝ていらっしゃるうちに盗みました」
「……」
「次の日、アイザック様は失くされたと思い様々な場所を探しておられました」
「彼には拾ったと言って返しておいたわ」
「私が盗んだと……なぜ彼におっしゃらないのですか?」
「言う必要がないからよ。貴方が拾って私に渡してくれた。それだけ」
「お優しいのですね……」
「私、彼のことがずっと大好きでした。付き合えた時は眠れないくらい嬉しかった。でも、彼はずっと貴方ばかり見ていて……それが悔しくてこんな恥ずかしい真似を。本当に申し訳ありませんでした」
クロエ様は涙を浮かべながら頭を下げた。
「わかったわ。いいの……私誘拐された時、貴方に助けてもらったわ」
「え?」
「クロエ様が万年筆を渡してくれたおかげで、犯人がわかったの」
「そんなことが?あの万年筆で?」
「ええ。だからもう気になさらないで。今回のことはお互い不問としましょう」
「本当にすみませんでした」
「もう、やめて。あと……ちゃんと自分の口から伝えておきますわね。私達、婚約したの」
「そうですか……」
その時に息を切らしてアイザックが走ってきた。ああ、タイミングが悪い。今回は女同士で話すべき案件だったのに。
「リリーっ!なんでクロエと……」
彼は複雑な表情で私と彼女を交互に見ている。そりゃそうよね、元彼女と今彼女が話しているとか修羅場の雰囲気しかない。
「アイザック!私、クロエ様とお友達になったの。二人で話してて悪い?」
「クロエと……?」
彼は疑いの眼差しでこっちを見てくる。
「ええ、ね?クロエ様」
話を合わせなさいよ!と目で訴えたことに気が付いた彼女は縦に首をうん、うんと振っている。
「……いや、何かあったのかと思って」
かなり気まずそうな彼を見て、もう私も一緒に立ち去った方がいいと判断し私はベンチから腰を上げた。その時、クロエ様も立ち上がり美しく礼をする。
「アイザック様……リリー様とご婚約おめでとうございます。どうかお幸せに」
彼は少し驚いた表情をしたが、すぐに「クロエ、ありがとう」と柔らかく微笑んだ。
「あと……アイザック様?私達はもう何の関係もないのですから、今後呼び捨てはご遠慮くださいませ」
そう言ったあと「では、先に失礼いたしますわ」と可愛らしく微笑んで去って行った。アイザックは何を言われたのかわからず「え?」と呆けている。
くっくっく……クロエ様。彼女は大人しそうな見た目だが、芯の強い生粋の御令嬢だわ。本当にお友達になれそう。
「アイザック、振られたわね。呼び捨てにするな……だって。ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「よかったわ。これで私だけのアイザックね」
「そ、そんな可愛いこと言うな。学校では何もできないだろ!」
「当たり前よ。変なことしたら口聞かないから」
私達はギャーギャー言いながら、教室に戻った。




