57 女神の死【ブライアン視点】
「来てくれてありがとう。でも帰って!もう私に関わらないで」
彼女は私の案を頑なに拒否した。そして、仕方なく……スティアート家を後にした。
そして、あの日。事前にトーマスから連絡が来ていた。他国の魔法使い達から彼女を手放せと脅されているため、今日二人で逃げると。リリアンには生きて欲しいと書かれていた。
この男は本当に愚かだ。馬鹿だ。許せない。力もないくせに、好きな女の手を離す勇気もない。それなのに……彼女に好かれているなんて。
「チッ」
私は二人が逃げたであろう森に向かった。子どもはどうなったのか。無事生まれたのだろか……?色んな不安が湧いて出てくる。
(……死ぬなよ)
森の中で何人かの魔法使いに遭遇した。みんな裏ルートから入ってきた侵入者だ。その度にやり合わねばならず、時間を取られる。
「なぜこんなに沢山の魔法使いがいる?おかしい……」
個人ではない。こいつらは組織で来ている……もしかして国単位で女神を奪いに来ているのか??それならば……早く行かねばまずい!!
森を駆け抜けると、壊れた馬車と倒れている男が目に入る――きっとこれだ。
そこには身動きを封じられて数人の魔法使いに囲まれたリリアンがいた。まだ生きている!
「彼女からその薄汚い手を離せ!闇の矢」
彼女は涙を溜めた瞳を大きく見開いて、私が来たことに驚いていた。
「ぐっ、うわぁ!」
下衆どもからは苦しげな声が漏れる。
「なんで……お前が?話が違う」
「魔法使いじゃない男と逃げると聞いていたのに」
私は他国でも恐れられるレベルの魔法使いであり、有名人だ。
「彼女に危害を加えるなら殺す」
「お前は面倒だな。でも女神を手に入れるためだ……他勢に無勢だが悪く思うな」
「ははっ、弱者が束になっても何の意味もないと教えてやろう」
私は纏めて数人相手をした。だが、まずい。まだまだ他にも隠れている気配がする。さすがに一人で守り切れるのか……?ここに着くまでにだいぶ魔力も消費してしまった。
「ブライアン、どうしてここに」
「私は君を守ると言っただろ」
「トーマスが……死んじゃった。最期まで私を庇って……」
あいつは死んだ。自分で死ぬことがわかっていたが、あいつはその道を選んだ。なら、約束通り俺がリリアンを守る番だ。
「逃げろ。私がここはなんとかする」
「そんなことできないわ」
「いいから行け!自宅までなんとか逃げろ……君の弟は優秀な魔法使いだ。守ってもらえ」
「私のせいなのに、貴方を置いて逃げるなんてできない」
「さっさと行け!!」
私は彼女を睨みながら怒鳴った。
「私は君を愛してる!リリアンだけは……君だけは絶対に死んでほしくないっ!!」
そう言った私に彼女は一瞬驚いたが、すぐにふわっと微笑んだ。その微笑みは本当に美しくて……こんな状況なのに時が止まったように見えた。
――まさに女神そのもの
「来てくれてありがとう。私も貴方と二人で話すのとても楽しかった。今まで出会った魔法使いで初めて、女神の力なんていらないって言ってくれてとても嬉しかった。ぶっきらぼうにしてるけど、実はいつも私を心配してくれていて感謝していた。私、ブライアンのこと好きよ」
彼女は私のシャツを引き寄せ、乱暴に唇に激しい口付けをした。その後に頬にチュッと軽いキスをし……呆然としている私を真正面から見つめた。
「生きて。私が女神の祝福を使うのはブライアンが最初で最後よ。貴方はここで死んではだめ」
そう言った後息絶えているトーマスに優しいキスをし、彼女は首にナイフを押し当てた。
「ありがとう、さようなら。私が巻き込んだのに愛するトーマスを一人で逝かせられない。お願い、貴方はどうか私の娘を……守ってあげて。そして貴方も幸せになって」
「やめろーーーっ!」
ブシュっ……
私の声より一瞬早く、一気に喉をかき切った彼女からはドクドクと血が流れ……すぐに倒れた。
バクン……バクン
「ゔあぁーーーーーっ!リリアーーン!!」
私の叫ぶ声と共に森が真っ黒になり、闇に包まれ至る所で爆発音がする。私は女神の祝福によって得た巨大過ぎる力と彼女が死んでしまった哀しみで魔力暴走を起こしていた。
気が付いた時には周囲の魔法使い達は全て倒れ、息絶えていた。私が……やったのか?
彼女の亡骸を抱きしめる。祝福は「好きな相手」にしか能力が発揮されない……だから私には関係のないものだと思っていた。
しかし、能力が発動したということは……私は彼女から『愛されていた』ということだ。彼女の一番の愛では無かったかもしれない。だが、誰にも愛されなかった私をリリーは確かに愛してくれていた。
そんなこと彼女が死んでから知りたくなかった。
なぜ……なぜ私は彼女を止められなかった?なぜ守れなかった?例え彼との仲を引き裂いて恨まれても、嫌われてもリリアンに生きていて欲しかった。
一体何分そうしていたのだろう?気がつくと彼女の弟のデュークが立っていた。きっと騒ぎを聞きつけて来たのだろう……もう遅いが。
「リリアンは……馬鹿だ。こんな男を選んで」
私はついそう口に出していた。デュークはこの惨劇から私が彼女を殺したと思い込んでいた。
愛おしい彼女を殺すはずがない……いや……見殺しにしたのだから「殺した」ようなものか。もう私はどうでもよかった……否定する気力もなかった。
ただ……彼女の娘だけはリリアンの二の舞にならぬように陰ながら支え、来たるべき時がくれば自らの傍に置き守ると心に誓い……それだけを心の支えに今を生きてきた。




