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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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55 恋人のいる婚約者 【ブライアン視点】

 お見合いに現れた彼女はラベンダーのような紫の瞳、サラサラのブロンド髪、整った顔にスタイルの良い体……どこからどう見ても美しい御令嬢だった。だが、正直それ以上の感情は何も抱かなかった。


 (この人が次期女神(ヴィーナス)か……不憫なことだ)


 見合いの最中、二人きりになった瞬間に彼女から「貴方と結婚するつもりはない」とはっきりと断られた。


 私と結婚したくないのはわかる。こんな出自もわからぬ気味の悪い男は嫌なのだろう。


 だが、こっちはお前の親やこの国の王に()()()()のだ。こっちも犠牲者と言ってもいい。そう思うとだんだんと腹が立ってきた。


「そうか、奇遇だな。私もお前と結婚したくなかった。じゃあな」


 こいつが望んでいない以上、私が助けてやる筋合いはない。そう思ってその場を去ろうと立ち上がった時に、彼女に袖を強く引っ張られた。


「私と結婚したくないの?」


 彼女は首を傾げてキョトンとした顔をしながらそう質問してきた。


「したいわけがないだろう」

「どうして?お母様がいらっしゃるから、いつかはわからないけど、そのうち女神(ヴィーナス)の力が手に入るのよ?」

「力なんていらないんだよ。私は現時点でこの国一番の魔法使いだ。今でも自分の力を持て余してるのに、これ以上なんてはっきり言って迷惑だ!」


 そう言い切った私を見て、彼女は何故か嬉しそうに微笑んだ。


「そうなの?嬉しい!」

「は?」


 こいつは頭がおかしいのだろうか。意味がわからない……


「魔法使いで私の力が欲しくないって人に初めて会ったわ!」

「はぁ?」


「ほら、基本的には女神(ヴィーナス)は秘密とされているけど……国の重役達は知ってるじゃない?その息子達なんてみんな私の能力がわかった途端にすり寄ってくるの。嫌になるわ」

「まあ、普通の魔法使いにとっては君の力は魅力的だろうからな」

「貴方はいらないのね!」

「……いらない」


 彼女は私の手をギュッと握り、ブンブンと手を振りニコニコしている。


「いいお友達になれそう」

「……友達などいらん。お前は私が怖くないのか?」


 私はずっと気になっていたことを恐る恐る聞いた。


「何が怖いのよ?」

「私は闇魔法を使う。この黒い髪も瞳もまるで呪われているようだろう?」


 私は鼻で笑いながら自虐的なことを言った。いや、これは常に周囲から言われ続けたことなので世間の意見というものだ。


「何も怖くないわ。闇の魔法は貴方以外誰も使えないんでしょう?唯一なんて格好良いじゃない。髪も瞳も見事に美しい漆黒で素敵よ」


 私はそんなことを言われたのは初めてで、開いた口が塞がらなかった――こいつは変な女だ。


「ああ、でもその鬱陶しい前髪はだめね。切った方が似合うわよ」


 そう言って美しく微笑んだ。その笑顔に胸がドキッと音を立てる。なんだ……この感情は。それに自分を否定されなかったことに心が温かくなる。


「この結婚はお前を守るためのものだ……嫌だろうが、危険な目にあいたくなければ()()()()()受け入れたらどうなんだ」


 私はいつの間にかそんな言葉を発していた。さっきまでお前と結婚なんてするか!と思っていたのに……彼女の傍にいたいと思ってしまった。「形だけ」なんて言い訳まで付けて。


「駄目なの。私恋人がいるもの」


 その言葉に私は衝撃を受けた。恋人……それは見合い相手に話すことなのだろうか?彼女は馬鹿だな、黙っていればいいのに。


「それは魔法使いか?」

「違うわ。騎士団の団長なの!昔、街で困っていたところを助けてくれてから……好きになったの。私を大事にしてくれるし、とっても優しくて素敵な人よ」


 彼女は頬を染めその男のことを嬉しそうに話している。魔法使いではない……そんな男が好きだって?女神(ヴィーナス)の君が……唯の男に守れるはずがない。


「君は自分の能力の貴重さ、危険さがわかっているのか?そんな男を伴侶に選んだら確実に君は無理矢理拐われるぞ」

「……」

「それがわからぬほど馬鹿じゃないだろう?」

「彼は私自身を好きになってくれた。だって……魔力のない彼にこの能力はなんの意味もないもの」


 なるほど……。女神(ヴィーナス)の力を求めない男を好きになったと。


「好きな男を巻き込みたいのか?君と関われば……君を求める魔法使いが襲ってきたら、真っ先にその男は殺される」


 彼女は「わかっている」と哀しそうに俯いた。


「でも……いつ能力が引き継がれるかわからないのよ?もしかしたら、何十年も先かもしれない。なのに私は好きじゃない人と結婚しないといけないの?」

「私が決めることではない……だが、お前の好きにすればいい。この話はお前から断れ。私は立場的に王命には背けない」


 そう言って今度こそ立ち去ろうとしたが、また引き止められる。


「自分勝手なお願いだけど、貴方に協力して欲しいの!!私、家族から彼のこと大反対されてる。無理矢理別れさせられたわ……結婚は貴方じゃないとだめだって」

「……」

「貴方、恋人いるの?いないのであれば……このまま婚約者のふりをお願いできないかしら?」

「……」

「私……私は彼じゃないと嫌なの。こんな別れ方ってないわ」


 彼女の目からポロポロと涙が溢れる。その涙はキラキラ光っていてとても綺麗だった。


 その必死さと……彼女の抗えぬ運命を不憫に思い私は名ばかりの婚約者を続けることにした。

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