52 悪夢【アイザック視点】
あいつが「試そう」と言った後、俺の周りは真っ暗闇に覆われた。なんだ?これは……幻覚魔法?
真っ暗な中、周囲をきょろきょろと確認するとある場所だけ光が見えた。そこにいたのは――リリーっ!
彼女の場所まで走って行くと……そこにはサムさんと抱き合っているリリーの姿があった。
「私貴方が好き。出逢った頃からずっとサムだけが好きだった」
「俺もだよ、可愛いリリー。好きだよ、愛してる」
「嬉しい」
そう言って嬉しそうに彼の胸に飛び込み……彼もリリーを抱きしめ熱く口付けを交わしている。
「なんだ……これ?」
俺は目の前で起こっていることが理解できない。そんなわけがない。彼女は俺を好きだと言ってくれた。こんなのは……嘘だ。
そう思っているとフッと真っ暗になり、またボワーッと光が灯る。
「んっ……」
「リリー……可愛いよ」
そこにはブライアンに組み敷かれ、気持ちよさそうに声を上げているリリーがいた。
「やめろ……やめろっ!」
俺はそんな場面を見たくなくて、大声をあげる。しかし、目の前の光景は消えてくれない。
「いいの?君はアイザックが好きなんだろ?」
「いいの」
「どうして?」
「貴方の方が強いもの。私は強い男がいいの」
「へぇ?君は悪い女だね」
二人は見つめ合いながら、睦み合っている。
「やめろ、ふざけるなよ!!こんなの見せやがって……許さねぇからな」
これは幻覚だ。俺を好きだと言ってくれた彼女がこんなことをするはずがない。こんなのが本当の彼女なわけがない。
二人が抱き合っている映像が急にパリーンと割れて、崩れていく。
はぁ……はぁ……チッ。
俺は叫びすぎて息が切れる。悪趣味過ぎて吐き気がする。
そして次に現れたリリーは、沢山の男に追いかけられていた。なんなんだ……この悪夢の連続は。
「いやっ!やめて」
沢山の男達に魔法で身動きを拘束されている。
「これが女神か。美しい」
「彼女がいれば魔力は増え、いくら消耗してもいつでも回復できる」
「力も女も手に入るなんて夢みたいだ」
「リリーをお前らになんか渡すか!」
俺は周りにいる男どもに魔法をかけ、追い払う。
「大丈夫か?リリー」
「ひっく……ひっく……怖かった」
「安心しろ、俺が絶対に守るから」
「ありがとう」
彼女をギュッと抱きしめる――ちゃんと温もりがある。これは現実なのか?それとも……
その後もひっきりなしに襲ってくる魔法使いを倒しながら、二人で逃げて行く。そして時間の経過と共にだんだんとリリーの元気がなくなっていった。
「もう……置いていって」
「なに言ってるんだ?置いていけるわけないだろ」
「私のせいで、大事な貴方が傷付くのは嫌なの」
「傷付いてなんてない。リリーがいない人生なんて意味ないんだから!俺は君と一緒にいるだけで幸せなんだ」
「私じゃなければ!貴方はこんな目に遭わなかったわ。もっと普通の幸せが手に入った!!」
リリーが泣きながら悲痛に叫ぶ。彼女のその声を聞くだけで哀しくて胸が張り裂けそうになる。
「さようなら、愛してた」
リリーが首にナイフを突き当てる。そんなナイフ……どこから出したんだ。
彼女に声をかけたいのに、彼女のナイフを奪い取りたいのに、俺は何故か全く声も出ず身動きも取れなくなった。
(やめろ、やめろ、やめてくれーーーっ!)
ドサっ……
彼女が倒れた後、急に拘束が解かれたように身動きが自由になる。彼女を抱きしめると、俺の体にぬるぬるとした生温い血が纏わりつく。
「リリー……」
名前を呼ぶが全く反応はない。だんだんと彼女の体が冷たくなっていく。
(俺は彼女を守れなかった……何よりも大事だったのに……見殺しにした……)
「君一人で逝かせない」
すっかり冷たくなったリリーに最期のキスをして、彼女の血のついたナイフを拾い上げ首に当てた。
『アイ……ク……』
『お……がい……んじ……して』
何か頭の中で声が聴こえる。でも、邪魔しないで欲しい。早くリリーの元へ向かわないと……
『アイ……ック』
女の人の声……なんか懐かしいような。
誰だっけ?
『アイザ……ク』
『アイザック!お願い返事して!!』
俺はその声にビクッと体が反応する。そうだ、どうしてわからなかったんだ。
この声は……この声は……
「リリー!」
俺は大きな声で彼女の名前を叫んだ。




