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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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52 悪夢【アイザック視点】

 あいつが「試そう」と言った後、俺の周りは真っ暗闇に覆われた。なんだ?これは……幻覚魔法?


 真っ暗な中、周囲をきょろきょろと確認するとある場所だけ光が見えた。そこにいたのは――リリーっ!


 彼女の場所まで走って行くと……そこにはサムさんと抱き合っているリリーの姿があった。


「私貴方が好き。出逢った頃からずっとサムだけが好きだった」

「俺もだよ、可愛いリリー。好きだよ、愛してる」

「嬉しい」


 そう言って嬉しそうに彼の胸に飛び込み……彼もリリーを抱きしめ熱く口付けを交わしている。


「なんだ……これ?」


 俺は目の前で起こっていることが理解できない。そんなわけがない。彼女は俺を好きだと言ってくれた。こんなのは……嘘だ。


 そう思っているとフッと真っ暗になり、またボワーッと光が灯る。


「んっ……」

「リリー……可愛いよ」


 そこにはブライアンに組み敷かれ、気持ちよさそうに声を上げているリリーがいた。


「やめろ……やめろっ!」


 俺はそんな場面を見たくなくて、大声をあげる。しかし、目の前の光景は消えてくれない。


「いいの?君はアイザックが好きなんだろ?」

「いいの」

「どうして?」

「貴方の方が強いもの。私は強い男がいいの」

「へぇ?君は悪い女だね」


 二人は見つめ合いながら、睦み合っている。


「やめろ、ふざけるなよ!!こんなの見せやがって……許さねぇからな」


 これは幻覚だ。俺を好きだと言ってくれた彼女がこんなことをするはずがない。こんなのが本当の彼女なわけがない。


 二人が抱き合っている映像が急にパリーンと割れて、崩れていく。


 はぁ……はぁ……チッ。


 俺は叫びすぎて息が切れる。悪趣味過ぎて吐き気がする。


 そして次に現れたリリーは、沢山の男に追いかけられていた。なんなんだ……この悪夢の連続は。


「いやっ!やめて」


 沢山の男達に魔法で身動きを拘束されている。


「これが女神(ヴィーナス)か。美しい」

「彼女がいれば魔力は増え、いくら消耗してもいつでも回復できる」

「力も女も手に入るなんて夢みたいだ」


「リリーをお前らになんか渡すか!」


 俺は周りにいる男どもに魔法をかけ、追い払う。


「大丈夫か?リリー」

「ひっく……ひっく……怖かった」

「安心しろ、俺が絶対に守るから」

「ありがとう」


 彼女をギュッと抱きしめる――ちゃんと温もりがある。これは現実なのか?それとも……


 その後もひっきりなしに襲ってくる魔法使いを倒しながら、二人で逃げて行く。そして時間の経過と共にだんだんとリリーの元気がなくなっていった。


「もう……置いていって」

「なに言ってるんだ?置いていけるわけないだろ」

「私のせいで、大事な貴方が傷付くのは嫌なの」

「傷付いてなんてない。リリーがいない人生なんて意味ないんだから!俺は君と一緒にいるだけで幸せなんだ」

「私じゃなければ!貴方はこんな目に遭わなかったわ。もっと普通の幸せが手に入った!!」


 リリーが泣きながら悲痛に叫ぶ。彼女のその声を聞くだけで哀しくて胸が張り裂けそうになる。


「さようなら、愛してた」


 リリーが首にナイフを突き当てる。そんなナイフ……どこから出したんだ。


 彼女に声をかけたいのに、彼女のナイフを奪い取りたいのに、俺は何故か全く声も出ず身動きも取れなくなった。


 (やめろ、やめろ、やめてくれーーーっ!)


 ドサっ……


 彼女が倒れた後、急に拘束が解かれたように身動きが自由になる。彼女を抱きしめると、俺の体にぬるぬるとした生温い血が纏わりつく。


「リリー……」


 名前を呼ぶが全く反応はない。だんだんと彼女の体が冷たくなっていく。


 (俺は彼女を守れなかった……何よりも大事だったのに……見殺しにした……)


「君一人で逝かせない」


 すっかり冷たくなったリリーに最期のキスをして、彼女の血のついたナイフを拾い上げ首に当てた。



『アイ……ク……』


『お……がい……んじ……して』


 何か頭の中で声が聴こえる。でも、邪魔しないで欲しい。早くリリーの元へ向かわないと……


『アイ……ック』


 女の人の声……なんか懐かしいような。

 誰だっけ?


『アイザ……ク』

『アイザック!お願い返事して!!』


 俺はその声にビクッと体が反応する。そうだ、どうしてわからなかったんだ。

 この声は……この声は……


「リリー!」


 俺は大きな声で彼女の名前を叫んだ。

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