45 女神【アイザック視点】
学校に着いてすぐにリリーを探したが、彼女はなぜか来ていなかった。今日は休みなのだろうか?何かあったのではと心配になる。
しかも、彼女に貰った大切な万年筆がどこにも無いことが俺の不安を加速させる。倒れる前には絶対に持っていた。倒れた時に落としたのかと昨日の場所に行ったが見つからなかった。あとは医務室か……授業が終わったらすぐに探しに行こう。
俺の宝物……リリーの代わりとして大事にすると決めていたのに。こんなことなら家に大切に置いておけば良かったかな。
今日は魔法使いとこの国の歴史についての授業だ。正直、座学はあまり好きじゃないが必修なので仕方がない。こういう座学は俺じゃなく優等生なマックスの方が得意だ。そういえば……こいつも今日休んでいるなとぼーっと考えていた。
様々な伝説の魔法使いの紹介がされていたが、途中で女神の話が出てきたため、俺は急に集中して話を聞く。
手紙にはリリーのことを『女神』と書かれており、唯のあだ名として彼女をそう呼んでいるとは思えなかった。きっと意味がある。それに、教科書に載っている女神の絵はやはりリリーに顔が似ているのだ。
皆さん女神のことは知っていますね?そう、我が校の噴水に銅像が建っている女性です。彼女はその能力から想像上の魔法使いだと思われがちですが、二千年前に実在していたとされています。
彼女はとても珍しい魔力の持ち主で、愛した人を守る加護の力があったとされています。古いことなので文献が少なく、詳細はわかりませんが彼女に愛された魔法使いは巨大な力を手に入れたとの記録が残っています。
ただその力のせいで彼女を巡って魔法使い達が争い、それを嘆いたヴィーナスが自ら命を絶ったという哀しい歴史があります。
それを憐れみ、彼女に憧れていた他の魔法使い達がヴィーナスのことを神として「愛の女神」と呼び魔法使いを守る象徴として偶像崇拝されるようになりました。今でもこの国では彼女はみんなから大切にされています。
もちろん、この力は火や風のような基本属性からは外れており完全に先天性な能力です。この話で貴方達に知っていただきたいことは、ヴィーナスのような『特異体質』の魔法使いが実在するということです。この世に一人しかいないような能力の場合もあります。
珍しい魔力の持ち主は、ある一点のみ優れており他の能力は皆無で弱い者も多い。そのようなレアな能力の魔法使いを守り、保護するのは私達のように基本属性を持つ魔法使いの役目でもあります。
そして、もし他国の魔法使いと皆さんが対峙することがあればそのような『特異体質』の者がいる可能性があるため充分気をつけないといけないと言うことです。
その哀しい結末を辿った女神の話を聞きながら、俺はまるでこれはリリーのことではないかと考えていた。もしかして、ヴィーナスはリリーの祖先……?
「愛した者を守る加護」
「特異体質で他の能力は弱い」
加護というものが何を指すのかはわかりかねるが、俺は彼女といて魔力の回復と魔力の増強は身をもって感じている。
では親父と話していた「発動条件」はなんだ?……愛した者を守る加護……愛した者……愛する行為……
――もしかしてキスか?
おそらく当たっている。俺と彼女がキスしたことなど指で数える回数しかない。なんか、その事実を目の当たりにして少し哀しいが……実際そうだ。
リリーが誘拐された日、泣いてる俺に彼女は頬にキスをしてくれた。その次の日に才能が開花し魔力量が膨大に増えた。
デートの日、彼女とキスをした。その次の日に俺の魔力が急激に増え暴走した。
俺が倒れた日、寝ていたので確証はないが……おそらく彼女はキスをしてくれたのではないだろうか?魔力は回復していた。
必ず何か起きているではないか。いや、待てよ。リリーの親父さんと話した時に彼女がおでこにおやすみのキスをしてくれたことがあったな。しかし、この日は特に何も起こらなかった……だとしたら、この仮説は間違っている?しかし無関係とは思えない。
いや、あの日は魔力を消費していなかったのかもしれない。だから回復を感じられず、何の影響も出なかったのでは?
それに彼女は簡単な魔法しか使えない。基本属性の能力を使うこともできない。特異体質で他の能力は弱いのもリリーに当てはまっている。
俺が頭の中で色々と考えていると、一限目の授業が終わった。その瞬間、エミリーが息を切らして俺の教室に走って入ってきた……こんな時はいつも悪い知らせだ。
「アイザック!リリーが……リリーがいないの」
彼女はかなり取り乱し、涙を流している。
「一回落ち着け。リリーは休みなんじゃないのか?」
「学校には休むって連絡がきてたらしいの。なのに、さっきスティアート家から『リリーは学校にいますね?』って連絡があったらしくて、みんな騒然としてる」
「なんだって?」
「アイザック、リリーのこと知らないのよね?あのね……色んな人に聞いたら、朝に校内で貴方と一緒に歩いているところを見たって子がいるの」
一緒に歩いているところ……俺と……?
「俺は今日リリーに会ってない」
「そうよね?だって貴方朝にリリーを探していたもの」
「おかしい……どういうことだ」
俺は嫌な予感がして、胸がザワザワする。その時、俺の元に勢いよく鳥が飛んでくる。
これは……親父の伝達魔法!学校にメッセージを送るなんて緊急に決まっている。
俺は鳥を手に乗せると、親父の音声が再生される。
「アイザック、俺だ。落ち着いて聞け……リリーが攫われた。場所の特定はできている。お前はメモに書いた場所に移動魔法で行け。デュークはすぐに向かうと言っているが、俺は部下達を連れて後で追いかける。相手はどんな魔法使いかわからない。決して油断するな」
「そんなっ……リリーが攫われたなんて……」
「大丈夫だ。絶対に俺が助ける!」
リリー無事でいてくれ。お願いだから。
「アイザック、移動魔法なんて平気なの?あれは魔力消費がすごいって聞くけれど」
「大丈夫だ。行ってくる!」
「リリーをお願いね」
手に力を込めると俺の周りが光り輝く。移動魔法は属性に関係のない基本魔法だが、その中でも高度魔法とされておりそれなりの魔力量がないと使えない。親父がわざわざ魔法で来いと指定してくるということは……リリーが危ないのだろう。一分一秒でも早く彼女の元へ行きたい。
フッと浮くような感覚があり、次に足が地面に着いた時には見知らぬ森の中にいた。




