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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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42 仮説【アイザック視点】

 頭が痛くて体が怠いが、だんだんと意識が戻ってゆっくりと目を開く。


「アイザック様!目を覚まされたんですね」


 目の前には涙目のクロエが俺の手を握っていた。俺は握られた手に驚き、彼女を傷付けないようにそっと離した。


 俺はもうリリー以外に触れたくない。


 彼女は少し哀しそうな顔をし「私のせいでお怪我をされたので、看病させていただいていました」と頭を下げた。


「すまない。だが、本当に君のせいじゃないから気にしないでくれ」

「ハワード家に連絡しております。そろそろ、お迎えが来られるはずですわ」

「そうか。時間を取らせて悪かった。もうクロエは帰ってくれ。ありがとう」


 そう言うと、彼女はポロポロと泣き出した。


「リリー様は……貴方が怪我をされたのに今、ここにいらっしゃいません。」

「え?」

「貴方を心配もしてくださらない……そんな女性のどこがよろしいのですか?」


「彼女は魔力も少なく、感情的で、お転婆で、貴方の優しさや愛情にも全く気が付かない無神経な方です。そんな女性の何がいいと言うのですか?私なら……私なら貴方を大切にするのに」


 彼女は俺に抱きついて本格的に泣きだした。俺はすぐに体を離し、まっすぐ彼女を見つめる。


「これ以上リリーのことを悪く言うのであれば、俺はクロエであっても許せない。俺は彼女を心から愛している」

「私の方が貴方を大事にできるのに……」

「俺が君を好きになることはない」

「……そう……ですか」


 彼女はふらふらとしながら、医務室を出て行った。気持ちに応えられない以上ははっきりと断る以外ない。俺はリリー以外は考えなれないのだから。


 しばらくすると、親父が迎えに来て驚いた。


「なんで親父が?仕事どうしたんだよ」

「息子が倒れたって聞いて心配で優しいお父様が来てやったんだ。感謝しろ」

「何がお父様だ!気持ち悪い」

「それは冗談で、学校から連絡入ったんだ。お前が魔力暴走したって。しかもかなりの威力だったらしいな」

「ああ。親父……今日の俺は魔力がおかしいんだ」

「だろうな。通常の状態でこんなことはありえない。それに……さっきまたあの手紙が届いたらしい」


 その真っ黒な手紙は俺への警告。あれっきり届いていなかったがまた……。リリーを諦めていないということか。



 アイザック・ハワード


 力のないお前が女神(ヴィーナス)を望むなど許されぬ

 身の程をわきまえよ


 これ以上近付くなら命はないと思え



「この前より過激だな」

「ああ」


「デューク様は彼女が狙われる心当たりがあるけど、まだ俺には話せないって言っていたんだ」

「そうか……」

「きっとリリーには何か秘密がある。それが何かは恐らく彼女自身も知らない。しかし、こんなに脅してくるということは手に入れたら何か巨大なメリットがあるとしか考えられない。これだけ必死に手に入れたい『何か』が」


 この俺の魔力の暴走ももしかしたら彼女の秘密に関わっていることなのだろうか?思い返せば、俺の魔力が開花したのは彼女の十歳の誕生日の翌日。そして、プロポーズの翌日に魔力が暴走した。なんだか偶然には思えない。


 しかしリリー自身に弱い魔力しかなく、俺が彼女から魔法の影響を受けるとはどうしても思えなかった。


 その後、なんとか家に帰ったが巨大な魔力を使い過ぎた反動でまた眠ってしまった。


 体が重い……苦しい……頭が痛い。ずっとそんな不愉快な感覚で過ごしていたが、フッと急に体が軽くなり目を覚ました。


 さっきまでの辛さが嘘のように体の調子がすっきりしており、魔力も充分に戻っている。不思議だ……


 その時、ふわっといい匂いがする。これは……リリーの香り!もしかして来てくれていたのか?嬉しい。


 逢いたい!逢って……抱きしめて、彼女が何に怒っていたのかきちんと教えてほしい。そして、仲直りしたい。


 俺は階段をかけ降り彼女を探した。


「アイザック!あなた起きて大丈夫なの?」

「大丈夫だ。リリーが来てたのか」

「ええ、ずっと貴方の部屋で看病してくれてたわ。今、アルファードが送って行ってる」


 俺が急いで外に出て行こうとした時、帰ってきた親父と鉢合わせる。


「おお、起きたのか。もう少し目覚めればリリーに会えたのにな。ずっと傍にいてくれていた」

「今から行って……」

「やめとけ。お前も病み上がりだし、彼女もお前に付き添って疲れてる。明日にしろ」


 そう言われて、俺は渋々従った。


「親父……一個の仮説があるんだが」

「なんだ?」

「リリーには使った魔力の回復とか、力を強くしたり、弱くしたりする調整みたいな能力があるんじゃないだろうか」

「なぜそう思う?」

「あんなにしんどかったのに、彼女が来てくれたら体が楽になった。魔力量も寝る前と比べて急激に戻ってる感覚がある」


「それが本当なら……魔法使いはみんな彼女を欲しがるぞ」

「だよな。考えただけで恐ろしい」


 親父が難しい顔をしている。


「だが……それなら彼女の周りにいるとみんな魔法が使い放題という状況になるはずだ。しかし今までそんなことになっているのを見たことがない」

「そうだよな」

「何か制約……発動条件があるのか」


 レアな魔法には発動条件が決められているものがある。自分の魔力が半分以上残っていないと使えないとか、直接手に触れた時だけ使えるとかそういうものだ。


「明日、デュークと話してみる。手紙の事も伝えないといけないからな」

「親父、頼んだ」


 リリーの能力とはなんなのだろうか。能力自体には俺は興味がない。だが彼女がその能力のせいで狙われるのであれば、俺は全力で守るだけだ。

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