41 魔力の暴走【アイザック視点】
デートの翌日、俺は朝からご機嫌だった。授業前にリリーに会えて頬にキスをして、万年筆のお礼も言えた。俺と目が合って頬を染めて照れているリリーは少し素っ気なかったが、その態度すら可愛くて顔がにやけてしまう。
(あー……幸せだな)
そして、昼休憩が終わる前にリリーの教室へ向かうと途中で彼女に会った。俺は嬉しくて彼女に駆け寄り「一緒に帰ろう」と伝えたが「用事がある」と冷たく断られた。
なんか……彼女は怒ってる?俺は知らない間になんかしたのか?え?でも朝まで普通だったのに。
せめて怒ってる理由を教えてくれと頼むと……
「自分の胸に手を当てて考えなさいよっ!!しばらく話しかけないで!」
……え?
彼女は自分の教室のドアを強めに閉めて、中に入っていった。かなり怒っている……
俺は彼女にそう言われたショックで、膝をつき立ち上がれなくなった。
隣からエミリーが「ド……ドンマイ」と声を掛けてくる。彼女はこの怒りの理由を知ってるはずだ。絶対に話してもらわなければ。
「エミリーどういうことだよ?俺、朝まではめちゃくちゃ幸せだったのに……むしろ、昨日の出来事が夢だったんじゃないかと不安になる」
俺は頭を抱えながら、不安を吐露する。
「大丈夫。貴方はちゃんと『脈あり』みたい」
「え?」
「もう時間がないから、授業が終わったら教えてあげる」
(脈あり?それはどういう意味なんだ?)
俺はよくわからなかったが、時間が来たため魔法の実践授業へ向かう。今日は二つの特進クラス合同の授業だ……だからクロエの姿も見える。
「アイザック、もうはじまるぞ?」
「ああ、今行く」
話しかけて来た穏やかで爽やかな男はマックスという同じクラスの男だ。彼は平民出身だが魔力がかなり強い特待生だ。魔法学校に入ってからというもの、試験では俺と彼のどちらかが一番で、どちらかが二番。それを繰り返している。
俺達は性格が違いすぎるので、友達なのかはよくわからない。プライベートで遊ぶほどではないが、クラスではよく話す……そんな感じの昔からの腐れ縁である。
この学校でも身分はもちろん重要視されてはいるが、魔力の強い特進クラスの生徒は「エリート」とされ一目置かれている。そして、このクラスの生徒同士では身分は不問。だから、彼は俺にも気安く話しているし、もちろん俺も気にしない。
「ボーっとして、またリリー嬢のことを考えていたのか?」
「ああ。知らない間に怒らせてしまったらしくて」
「くっくっく、朝から仲良かったのに?あんなことするって事は気持ち伝えられたの?」
「ああ、プロポーズした。あとほら!見てくれ。彼女がこの万年筆もくれたんだ」
俺は嬉しくて、胸ポケットの万年筆を自慢する。マックスは「プロポーズ……」と少し驚いた顔をしたが「プレゼント貰えて良かったね」と言ってくれた。
「なあ、お前は好きな人いないのか?」
「ん?いるよ」
「へえ、マックスはどの御令嬢にも興味なさそうだったから意外だな」
「僕はね、ずっと心に決めた女性がいるんだ。彼女以外いらないからね」
「その気持ちはわかる。特別な女性は一人でいいよな……上手くいけばいいな!」
「ありがとう、僕もそろそろ本気で手に入れるつもりだよ」
マックスは嬉しそうにニコッと笑った。それを見て、俺も彼女ときちんと話そうと心に決めた。
リリーと喧嘩して気が滅入っているはずなのに、今日の俺はなんだかかなり調子が良い。この調子というのは魔力の感覚で、むしろ調子が良すぎるくらい澱みがなく力がみなぎっている。
――なんだ?この感覚……初めてだ。
実践授業は、動く的を的確に魔法で当てていくというものだ。しかも、それぞれに指定された通りに魔力の強弱をつけなければならない。
俺は指示通り課題をクリアしていくが、いつもと同じ感覚でいるとかなり炎が強くなる。暴走しそうな力を自分でなんとか抑えつけている。
最後の的は強い魔法でないと壊れないようになっているが、今日の俺が本当にこの力を加減せずに出していいものか悩んでいた。だが、的の周りには誰もいないため……そのまま力を込める。この暴走気味の魔力がどれ程の威力なのか興味もあった。
ドォーーーーン
しかし、魔法を出した瞬間に「まずい」と感じた。俺が想像した以上に強い威力だとわかったからだ。大きな音を立てて炎が爆発し、いつもの倍くらいの範囲で燃え広がって……
「危ないっ!」
そこには何故かクロエが立っていたが、俺の声に彼女はハッと気がつく。防御をかけようとするか、クロエの魔力では俺の炎を塞ぎきれないだろう。
俺はすぐに彼女の元に移動し、防御をかけた。その後すぐに、マックスも周りに怪我がないように魔法でサポートしてくれ、なんとかその場はおさまった。
「クロエ、怪我はないか?」
「アイザック様、大丈夫です。申し訳ありません。私、ぼーっとしてしまっていて」
彼女は涙を流しながら謝っている。無事なら良かった。
「いや、俺の魔力が暴走したせいだ。あんな広範囲にいくのは予想外だった。むしろすまなかった」
「いいえ」
「アイザック、君ってやつはなんてことを」
マックスが俺を睨んでいる。魔力を暴走させた俺に呆れて怒っているのだろうか。
「マックスもすまない。お前のおかげで助かった……」
俺はその後、魔力切れで意識を失った。




