34 再会
街中を歩いていると、急にドタドタという騒がしい音がして数人の逃げる男を「待て!」と追い掛ける騎士達の姿が見えた。
「リリー、俺の後ろにいろ」
「うん」
アイザックは壁際に私を寄せ、前に立ってくれている。私は不安で彼の服をギュッと握った。するとその手を包み「大丈夫だ」と微笑んでくれた。
犯人の何人かは騎士に捕まったが、まだ刃物を持って暴れ回っている男がいる。周囲からきゃーと悲鳴が聞こえて来る。
「しょうがない……リリー、絶対動くなよ」
アイザックはそれだけ言って、犯人の前に出て行った。
「おい、いい加減にしろ」
「なんだ!お前は」
「お前のせいで彼女が怖がってんだよ。邪魔だ」
彼は一瞬で犯人の刃物を持った腕を掴んで、腹に蹴りを入れて体を倒し、背中側に手を回して拘束した。
あまりに無駄のない華麗な動きに、街民達は「わーっ」と賑わい「お兄さんすごい」と、みんなが拍手を送っている。
アイザック……格好良い。胸がドキドキする。彼が魔法使いとして強いのは知っていたが、体術もこんなにできるんだ。
彼は近くにいた騎士団に犯人を引き渡し、すぐにこっちに戻ってきた。
「アイザック!すごいね。急に前に行っちゃうから驚いたけど」
「一人にしてごめんな。いや、あれくらい大したことないから」
「格好良かった」
私が思ったことを素直にそう言うと、アイザックはぶわっと頬が真っ赤に染まった。照れてるのだろうか?
「リリーにそう言われると……嬉しい」
さっきの彼はものすごく格好良かったのに、今はなんだか可愛らしい。そのギャップについふふふ、と笑ってしまった。その時……
「アイザック、手間をかけたね。ありがとう」
――その声を私はよく知っている。
私はゆっくりと顔を上げてその声の男を見た。なんで……なんで、よりにもよって今日サムに会ってしまうんだろう。
「あれ?リリーも一緒にいたんだな」
彼は私を見て嬉しそうにニカッと笑った。その笑顔を見るだけで、反射的に泣きそうになるのを必死に堪える。
「サムさん……お久しぶりです」
アイザックも驚いているのか、それ以上は喋らなかった。
「ああ、久しぶり。元気そうだね。あいつ俺の隊が追ってた窃盗団でさ。アイザックが捕まえてくれて助かったよ。君は強くなったな」
「いえ……大したことないですから」
サムはアイザックと話した後、私の前に来ていつものように屈んで目線を合わせてくれる。
「リリー……毎日のように現れていた君が、最近全く来ないから体調でも悪いのかと心配してたんだ。変わりなかったかい?」
そうだ……彼は舞踏会でのことを知らない。だから、なぜ私が急に彼の前に現れなくなったのかがわからないのだ。恋人との逢瀬を私に見られていたことも知らないはず。
「うん……元気よ」
まずい。全然元気じゃない声が出てしまった。こんな言い方をしたらきっとサムは変に思う。
「リリー?そんな元気がないなんて君らしくないな。何か悩みがあるんだろ?俺に話してごらん」
そう言って彼はいつものように私の頭を撫でようとした。
(やめて!他の女の人が好きなのに私に触らないで。……優しく心配もしないで)
頭に触れる直前に、サムの手をアイザックが掴んだ。
「サムさん……俺達今日デートしてる」
「え?」
「だからさ……サムさんには悪いけど、今後リリーに気安く触れるのやめてくれない?俺が嫌なんだ」
サムはそう言われて驚いた表情をした。その後、少し寂しそうに微笑んだ。
「そうか。悪い、俺が無神経だったな」
「……狭量ですみません」
「いや。そう思うお前が当たり前だ。リリー、会えてよかった。君の幸せを祈ってる」
彼は私にそう言った後、「リリーを頼むな」とアイザックの肩をポンと叩いて去って行こうとした。
私は……サムの元に駆け寄り、背中に抱きついた。驚いた彼は振り向こうとしたが、私はそのままで聞いてと制止する。
「私、サムのことずっと大好きだった。一人の男性として!でも貴方には私ではだめだって、やっとわかったの」
「リリー……」
「ずっと迷惑かけてごめんなさい。サムも貴方が愛する人と幸せになってね。私も……それを遠くから祈ってる」
私は泣かないと決めていたのに、自然とポロポロと涙が出てくる。
「いつか……ちゃんと妹として会いに行くから。今は……ごめんなさい。お願いだから、振り向かないでこのまま行って」
「黙っていて悪かった。そうだ、俺には愛してる人がいる。なのに慕ってくれる君を……妹として手放したくなくて、俺は誤魔化して真正面から君と向き合うことから逃げた。ごめんな、俺が全て悪い。リリーの気持ちはとても嬉しかった、ありがとう」
「さようなら」
私がそう言うと彼は、振り返らずにそのまま街中に消えて行った。
「リリー……」
アイザックが呼んでいる。ゆっくり振り向くとギュッと強く抱きしめられた。
「……っく、ひっく……ちゃんと自分からさよならって言えたよ」
「ああ」
「哀しいけど、スッキリした」
「そうか……よかった」
「君がサムさんに走って行った時は焦った」
「どうして?」
「サムさんに気持ちが戻るかもって……生きた心地がしなかった」
「……新しい恋をするって決めたもの」
「俺と?」
「ふふっ、どうかな」
「ほら……うん、って言ってみて?」
「ふふふ……嫌よ」
彼がよしよしと頭を撫でてくれる。不思議……アイザックに触られるとすごく落ち着く。




