33 青か紫か
「そろそろ、行こうか?」
恥ずかしくて何も話せなくなった私に彼は優しく声を掛けた。彼は微笑み「俺のこと少しでも好きになったら教えて」と頭を撫でた。
アイザックのことは好きだ。幼馴染だし、昔から仲良くてよく遊んでいた。大人になってからずっと喧嘩していたけど、彼はサムのことでボロボロになった私を救ってくれた。私を守ってくれて嬉しかった。
でもこれが男性として好きなのか、恋愛経験の乏しい私にはわからない。
店を出ると、また自然に私の手を取り歩き出した。彼はこんなにスマートに、さらっと女性の手を繋げる男だったのかと驚く。
「なんか見たいところある?」
彼はさっきプロポーズしてくれたのが嘘のように、私に話しかけて来る。そのあまりに普通の態度に、ドキドキしてた私の気持ちもだんだんと落ち着いてきた。
「エミリーとアーサーにお土産買いたい」
「ああ、何がいい?」
「じゃあ、文房具店に行ってもいい?」
「もちろん」
連れて行ってくれたのは、広い文具店。可愛いものから本格的なものまですごく沢山揃っている。エミリーはハンス様によく手紙を出すため可愛い便箋が欲しいと言っていたな、と思い出したのだ。綺麗なペンとセットであげようと思っていた。
アーサーには……ダークブラウンの革の手帳ケースにしよう。来年から魔法学校に行くし、その時に使えるだろうから。
「これはアーサーに?」
「ええ。あの子ももう大きくなったし、こういう物の方がいいかなって」
「きっと喜ぶよ。でも俺……なんでアーサーにあんな嫌われてるんだろ?」
私はアイザックをチラリと見た。なぜ彼がアーサーに嫌われているか――それは私のせいだ。喧嘩するたびにアイザックのことを「嫌い」「酷い」「意地悪」と弟に愚痴っていた。シスコンの彼はアイザック=姉の敵と思い込んでいる。
『安心して。僕が大きくなったら強くなって、姉様をアイザックから守ってあげるから!』
アーサーはよくそう言ってくれた。だから、彼は今日私達が二人で出掛けることが許せず悪態をついたのだ。
「ごめん……それ私のせい。喧嘩する度、アーサーに貴方の愚痴を聞いてもらっていて」
「えっ?」
「だからアーサーの中で貴方は私を虐めてる最悪な男だと思われてるのよ。あの……誤解は解いておくから」
「いや……それなら俺の自業自得だ。アーサーにも認めてもらえるように、自分でなんとかするわ」
アイザックは気にすんな、と笑ってくれた。
「俺もジョージに何か買って行ってやろうかな?ちょっと奥見てきてもいい?」
「もちろんよ。私、これ買って包んでもらったりするから時間かかると思うからゆっくり見て」
「ああ。危ないから一人で店を出るなよ」
「わかってる」
そう言って彼は店の奥に消えて行った。よし……一人になれた。実は私はアイザックにあげれるものを秘密で探したいなと思っていた。彼は私から欲しいものがあると言っていたが、それとは別に今日連れてきてくれたお礼に何かプレゼントしたかった。
私は美しい万年筆に目が奪われる。シンプルながらも持ち手とペン先に美しい装飾がされている。これにしよう!やっぱり色は使いやすい黒がいいかな。
私は二人のプレゼントと万年筆を持って店員さんに渡した。
「万年筆は刻印もできますし、先に石をいれることもできますよ?」
「そうなんですね。あの……それは時間がかかるのでしょうか?」
「いえ、数分でできますよ」
それであればと……アイザックの名前の刻印と、青の石を入れてもらうことにした。
「あの、お節介かもしれませんが……石は紫でなくていいんですか?」
「え?」
「これは良い物だし、きっと大事な男性へのプレゼントですよね。貴方の目の色じゃなくていいのかと思いして」
私は店員さんにそう言われて頬を染めた。私の色を入れる?それは……ちょっと。でも、確かにそうした方が彼は喜んでくれるのではないだろうか。
「あ、いえ失礼しました。大きなお世話でしたね」
「い、いえ。あの……では紫で」
私はついそう言ってしまった。でも!い、嫌なら石は変更できるもんね!そうよ。
「わかりました。きっとお喜びになります」
店員さんは微笑んで、すぐに刻印と石をいれてくれた。石はわざわざ私の瞳に近い紫を選んでくれたようだ。
ちょうど、ラッピングが終わった頃にアイザックが戻ってきた。うわ、なんとかばれずに間に合った。
「買えた?」
「ええ、ありがとう。ジョージに良い物あった?」
「ペンケースにした」
「それはいいわね」
買いたい物を買えた私達は店を後にした。




