32 プロポーズ
今回からリリー視点に戻ります。
「昔からずっと愛している」
彼からプロポーズをされた。私はあまりにびっくりして声が出せなかったが、手に誓いのキスをされ……やっと意識が戻ってきた。
触れられた場所がドクドクと熱い。胸もバクバクと音を立てて騒がしい。
「本当は十歳のリリーの誕生日に、これを渡してプロポーズしたかった。当時に作ったから……サイズが小さいんだ。でも、どうしても君に渡したかったからネックレスにしてある」
彼は指輪の箱を私の手の中にそっと包んだ。
「驚いた?」
「ええ……ずっと貴方には好かれてないと思っていたから」
「俺の態度がそう勘違いさせたよな。ごめん」
「そんなに昔から好きなら……どうして、十歳の時に渡してくれなかったの?」
「あの日の誕生日会でリリーは彼と結婚したいって言ってたから、俺は失恋したと思って指輪を渡さなかった」
「えっ」
「リリーと喧嘩してたのも、全部嫉妬が原因だ。君がサムさんの話ばかりするから、俺に少しでも目を向けて欲しくて……わざと意地悪言ってた。本当にごめん」
サムに嫉妬していた?
そうだ……私はアイザックにサムが好きだと何度も言っていた。それが本当なら彼をかなり傷付けているはずだ。とても酷いことをしている。
「わ、私……アイザックの気持ちも知らずに、あなたに何度もサムが好きだって言ってたわ。きっとあなたをたくさん傷付けた」
「いいんだ」
「よくない!こんな……こんな酷いことする私、アイザックに好きになってもらう価値ない」
そう言った私に彼はゆっくりと頭を横に振った。
「価値がないなんて言うな!俺が君を振り向かせる勇気がなくて言えなかっただけなんだから、気にしないで」
「でも……」
「俺は君の勇敢なところが好きだ。泣き虫だった俺をいつも守ってくれた。君の優しいところが好きだ。俺が辛い時、当たり前のように毎日そばにいてくれた。君の明るいところが好きだ。君が笑ってくれたら俺はなんでもできる気がする。君の前向きなところが好きだ。何があっても諦めず、いつも努力して頑張ってる姿に何度も励まされていた」
私は褒められ過ぎて、恥ずかしくなってしまう。こんなに人に好きだって言われたことはない。
「もう、もうわかったから」
「いや、君はわかってない。まだ全然伝えきれていない」
アイザックはニッコリ微笑んで話を続けた。
「君のサラサラの髪も、透き通るような白い肌も、大きな美しい紫の瞳も、小さな唇も、すらっとした足も、鈴の鳴るような可愛い声も、全部が愛おしくてたまらない」
私は沸騰してしまうのではないかと思うほど、頬が熱くなる。アイザックがこんな甘いことを言っているところを初めて聞いた。
「こんなに君を愛してる男は俺以外いない。それは胸を張って言える。だから、俺のこと一人の男としてきちんと考えてくれないか?ゆっくり考えてくれたらいい」
「わ、わかった」
「よかった」
私はドキドキが止まらない。チラリと彼を見ると目が合い、蕩けそうな笑顔でこちらを見てくるので恥ずかしくてパッと視線を外す。
私はサム以外好きになったことがない。だから、アイザックのことをそんな風に考えたことはなかった。もちろん恋人もいたことがないので、恋愛というものが全くわからないのだ。
その時、私は彼が彼女を作ったり女の子達とデートを繰り返していたことを思い出した。だって……小さな頃からずっと私を好きと言うのであれば、それはおかしいではないか。
「アイザック……彼女いたじゃない。ずっと私を好きって嘘でしょ」
私は疑いの眼差しで彼を見た。彼は少し気まずそうな顔をしている。
「確かに付き合った女性はいる。君を忘れようと思って試しに付き合ってみたんだが、上手くいかなかった。俺はずっとリリーのことしか見えてなかったから。結局彼女を傷付けただけで、好きになれないまま別れた」
「……」
「他の御令嬢達とも出掛けたりしてみたけど、全然楽しくなかった。そこで改めて確信した。俺はリリーじゃないとダメなんだって」
「随分ともてるわね」
アイザックの話を聞いて何だか胸がムカムカしてきた。どうしてだろう。私は彼に彼女がいたことも、他の女の子とデートしていたことも知っていたのに、急に嫌な気持ちになった。
「リリー……?」
「結婚する男性には私だけを見て、私だけを愛して欲しい。だから他の女をふらふらする人は嫌よ!」
「もちろん、俺は君だけを一生愛するよ」
「し、信じられない!貴方は私を好きなのに他の女性と付き合えたんでしょ?」
私は子どものようにプイッとそっぽを向き、ムッと怒ってそう言った。
「……もしかしてさ、リリーは俺の過去に妬いてくれてるのか?」
(え……?妬いてる?そんなつもりはないけど)
「だって、今までリリーは俺の女性関係なんて全く気にしてなかったのに」
「ち、違う!」
私は必死に否定する。確かにこんなことを言ったら私が嫉妬していると勘違いされても仕方がない。しかも過去を責めるなどしてはいけない事だ。
「君が俺に妬いてくれるなんて……嬉しい」
彼はそう言って照れたように笑った。
「何言ってるのよ?過去のことを責める女なんて面倒くさいじゃない」
「普通なら面倒なんだろうけど、俺はリリーになら嫉妬されても嬉しい。俺を男としてみてくれた証拠だから」
「……」
「これからは君だけを愛する。信じてくれ」
彼のまっすぐな瞳はとても真剣で、本当にそう思ってくれているのだと感じた。




