31 許可【アイザック視点】
「残念、生きてるか。今の攻撃は娘への度重なる暴言分だから」
親父さんはニッコリと笑ってそう言った。
(痛ってぇ……この人本気で全力で殺しにきてないか?)
「普通レベルの魔法使いなら死んでますよ」
「これで簡単に死ぬ男なら、彼女を任せられないからね。確かに愛も大事だが、私の判断基準は『強さ』だ。彼女が狙われているなら余計にね」
「もしかして狙われる理由、心当たりあるんですか?俺のあの手紙以来、何も動きはありませんが……」
「ある。だが、悪いが今は話せない。お前が正式にリリーの婚約者になれたら教える」
(やはり理由があるのか。しかも身内にしか話せないようなことだと?いや、でも親父さんのこの反応は……)
「え?じゃあ……認めてくださるんですか?」
「リリーが良いと言ったら仕方がない」
俺は認めてもらえたことが嬉しすぎて、ついつい口元が緩んでしまう。
「ありがとうございますっ!」
俺は頭を下げて親父さんにお礼を言った。
「喜んでいるが、決めるのはリリーだ。お前は彼女にこっ酷く振られる可能性もあるけどな」
そう言ってゲラゲラと笑っている。この人はリリーのことになるとめちゃくちゃ性格が悪い。
「デューク様、来週の見合いはすぐに中止してくださいね」
「リリーがお前で良いって言ったらな。言わなければそのまま決行だ」
「ちょっと!何でですか!話が違う……」
「当たり前だろ?ちなみに見合いは来週だからな。まあ、せいぜい頑張れ……ははは」
そんなこんなで、俺は夜遅くまで親父さんと二人で話す羽目になったのだ。でも……大人になって初めてゆっくり話せて嬉しかった。
♢♢♢
そして、デートの当日。ラベンダーのワンピースを着た彼女はとっても綺麗で可愛かった。美しさに見惚れてしまって言葉が出てこない。
リリーは褒めないなんて気が利かない!ときっと怒っているだろう。だけど、違うんだ。本当に綺麗なものを目の前にすると……言葉が出ないのだと彼女に知って欲しい。
彼女は俺の服も褒めてくれて、とても嬉しくなった。これは秘密だが昨日、部屋の中の服を全部ひっくり返してコーディネートしたものだ。
部屋で一人で悩んでいるところを使用人達に知られ、ジルとドロシーに「それはだめです」「気合入りすぎ!引きます」「ださい」と散々酷いことを言われながら何とか落ち着いたのがこの服だ。
彼女が欲しいと言った口紅を買いに行く。俺は化粧品になど詳しくないが……リリーはこんな店が好きなんだなとキョロキョロと眺める。今度、プレゼントする時の為に覚えておかなければ。
店員に恋人同士だと勘違いされ、彼女は必死に否定している。いや、そんな全力拒否されると傷付いてしまう。俺は否定せずに素知らぬ顔をし、彼女に似合う色を選んで誕生日プレゼントとして渡す。
俺は十歳から……ずっと彼女に誕生日プレゼントを渡していない。本当は毎年渡したくてしょうがなかったのに渡せなくてずっと後悔していた。
受け取って「ありがとう」と嬉しそうな彼女を見て、俺は嬉しくなった。
そんな時、なぜか店員が俺の肩をトントンと叩いて耳打ちをしてくる。
「うちの店の口紅ね……つけたら恋が叶って、好きな人から愛してもらえるってジンクスがあるの。贈ったお兄さんが責任持って愛してあげてよ!」
そう言われて俺は驚いた。そんな意味のある口紅だとは思っていなかった。大人びた彼女が恋愛成就の御守りとしてこれを欲しいと言っていたのかと思うと、十七歳の少女らしくて可愛らしい。
俺は口紅なんてつけなくてもこれ以上ないくらいリリーを愛してるけど……と心の中で呟いた。
その後は街をブラブラしながら、今までの誕生日を埋めるように彼女が気に入ったものを半ば強引に買って渡していった。
そして時間になり『オ・ソレイユ』へ向かった。さすが人気店……雰囲気がいいし料理もとても美味しかった。
リリーとも他愛のない話では盛り上がり、彼女もとても楽しそうにしてくれていた。そして、デザートが運ばれてきた……ついに最後だ。
ドキドキドキ……
胸の鼓動が激しくなる。俺は十歳の時に言いたかったことを七年越しに伝える。あの時、子どもながらに一生懸命選んだ指輪は……今も色褪せることなく輝いている。俺の気持ちもあの時と同じように、いや……むしろあの時よりも好きな気持ちで溢れている。
「アイザック・ハワードはリリー・スティアートを心から愛しています。俺と結婚してくれないか?必ず……必ず君を世界一幸せにする」
――やっと君に伝えることができた。
「昔からずっと愛している」




