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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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30 別れ【アイザック視点】

「クロエ……なんでこんなとこに」


 彼女は涙を堪えているのか、潤んだ瞳で俺をじっと見つめている。


「教室を飛び出して行かれたのが見えたので、どうされたのかと心配になって……来てしまいました」

「そうか」

「勝手に……ごめんなさい」


 ――彼女が謝ることなどひとつもない。

 ――俺が全て悪いのだ。


 クロエは俺がリリーを助けたのを見たのだろう。教室から全速力で走って行って、もともとこの場にいたと偶然を装って助けた俺を彼女はどう思っただろうか?きっと……彼女は俺がリリーを好きだと気がついた。


「彼女は、幼馴染のリリー様ですね」

「ああ」

「仲が悪いというお噂がありましたが……」

「悪いさ」


 本当に仲は良くない。俺は彼女に嫌われている。


「私に何かあった時……貴方はあんなに必死に走って下さるのでしょうか?」


 クロエの目からポタポタ……と涙が溢れている。俺は彼女の頬に流れた涙を指で拭い「泣かないでくれ」としか言えなかった。


 彼女の質問に正直に答えるのであれば「ノー」だ。俺が全速力で走るなんてリリーのことだけだ。もちろん、クロエに何かあれば心配だし助けに行く。だが、こんなに我を忘れる程必死に走らない……いや、走れないと思う。


「クロエ、俺と別れ……」

「嫌です!嫌です……」


 俺が別れを告げる前に、彼女は泣いたまま俺の胸の中に飛び込んできた。しかし俺はもうこの関係を終わらせたかった。これ以上一緒にいても……クロエを苦しませるだけだ。


「絶対に私の方がリリー様よりアイザック様のことを好きです。大好きです!だから貴方も私の何十分の一でもいいから好きになって……欲しい……ひっく……っく」

「クロエ……」


 俺はそれを聞いて胸がギュッと苦しくなった。絶対にサムさんより俺の方がリリーを愛しているのに、なぜ好きになってくれないのか……と同じことを考えていたから。


「彼女は貴方のことを好きではありません」

「……そうだな」

「追いかけても無駄です」

「わかってる」

「それなのに……あの方でないとだめなんですか?」


 俺は真っ直ぐにクロエを見つめた。彼女にもう嘘をつきたくない。


「クロエ、君をたくさん傷付けてすまなかった。俺はリリーが好きだ。どうしても、リリーでないとダメなんだ。だから別れてくれ」

「わかり……ました」

「俺が全て悪い。君は本当に優しくて可愛い素敵な女性だ」

「アイザック様……いつも言ってくださらないのに、別れ際だけ褒めるなんて卑怯ですわ」


 彼女はそう言って力なく笑った。


「アイザック様、最後に一つだけ。私のお願いを聞いてくださいますか?」

「ああ、なんでも言ってくれ」

「では……口付けを下さい」


 俺はそう言われて一瞬固まってしまったが、真剣な彼女の顔を見てすぐに意識が戻った。


 ちゅっ


 俺は手で彼女の頬をそっと包み、唇に軽く触れるだけの口付けをしてすぐに離れた。彼女の涙のせいか……とても哀しい味がした。


「アイザック様を好きになって幸せでした」


 彼女はそう言って、無理矢理微笑みを作って足早に去って行った。


 (俺は馬鹿だな……中途半端な気持ちで付き合ったりしてクロエを傷付けただけだ。もうやめよう、リリーときちんと向き合おう)


 そして、その覚悟をした少し後に例の舞踏会での事件が起こった。


 そのことがあって大変だったが、結果的には彼女と仲直りできたし……サムさんのことも諦めようとしてくれている。俺はもう彼女に気持ちを隠す気がないため、あの日リリーの親父さんに直接話す機会をもらった。


「アイザック、話したいこととは?出かける許可取りというのは口実だろう?」

「はい」


 そう、俺達は見知らぬ相手ではないのだから、許可取りは手紙でもよかった。ただリリーの父、デューク様と話したかったのだ。


「デューク様、俺はリリーが好きです」

「……」

「街へ出掛けた時、自分の気持ちを彼女に伝えます。リリーが了承してくれたら婚約させてください」


 俺は親父さんに頭を下げた。


「アイザックが小さな頃から彼女を好きだったことは知ってる。でも、本当にリリーを幸せにできるのか?お前は……サムに嫉妬して、彼女に酷い態度を取っていただろう?私は娘を傷付けたお前を許してはいないよ?」


 ニッコリと笑いながらそう言っているが、目がものすごく怖い。この人は昔から、本気で怒っている時は笑うことを俺は知っている。絶対に言われるとは思っていた。喧嘩していた時、彼は本気で俺に怒っていたから。


「あれは本当に俺がガキでした。もうリリーを絶対に泣かせたりしません。幸せにします」

「別にお前でなくてもリリーは幸せになると思うけど?今度の見合い相手達の名前教えてやろうか?みんな優しくて、魔力が高くて、男前だ。彼女は引くて数多で、選び放題だったから良い男が集まってよかったよ」


 これは事実だ。リリーは社交界でも人気があるし、しかもスティアート家の令嬢ともなれば釣書は雪崩がおきるほど来ていたはずだ。


「俺が幸せになりたいんです。彼女がいなければ幸せになれない!」

「なんだそれは。ただの自分勝手だろ」

「彼女を好きな男は五万といる。でも!俺は彼女をどの男より愛してる。どんな素晴らしい経歴の男でも負けはしません。サムさんでも、アーサーでも、たとえデューク様であっても……負けません。俺がこの世で一番リリーを愛してる」


 そう言い切った俺を親父さんは真顔でじっと見つめている。


「私より彼女を愛してるとは。そんなことをよく言ったものだ」


 フンッと不機嫌そうに鼻で笑い、俺の前まで来たと思うと「上手く防御(ガード)しろよ?死にたくなかったらな」と言った瞬間に……拳に氷魔法纏わせ俺の腹に全力でパンチした。


「ぐっ……うっ……」


 反射的に魔法で防御(ガード)したが、いきなりのことで精度が甘かった上に、親父さんの魔法の威力が強すぎて俺はあまりの痛さに膝をつく。

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