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3 扉が開く

「なんで急に優しいの?いつも意地悪なのに気味が悪いわ」

「……昔、俺が食えなかった時食べさせてくれたのリリーだろ?だから今日はそのお返し」


 アイザックはそう言って、私の頭をポンポンと撫でた。


「そんな昔のこと……」

「今の俺があるのはリリーのおかげ。感謝してる」

「か、感謝してるなら日頃から優しくしなさいよっ!」


 私がつい大声を出すと、彼はフッと笑った。


「そんだけ声が出るならもう元気だな。扉開けてやれ。お前の家族も使用人もみんな心配してるぞ」

「わかってる。でもどうすれば諦められるのかな」

「……失恋には新しい恋に決まってんだろ」

「新しい恋?」


 小さい頃からサムが好きだった私に、そんな相手ができるものだろうか。


「……意外と相手は近くにいるかもしれないぜ」


 アイザックは私から目線を外し、下を向きながらそう言った。


「そうかしら?でも、いい加減前を向かなきゃね」

「ああ」

「ありがとう。今日も……舞踏会で運んでくれたことも。貴方に感謝する日が来るとは思わなかったわ」


 私は珍しく素直にお礼を言えた。扉が開かないように積み上げた机や椅子などをアイザックが「お前の力でこんなによく置いたな」と呆れながら、サクサクと元に戻してくれた。


 ガチャッ


 三日振りに扉を開けた。その瞬間、開く音が聞こえたのか家族がみんな部屋に入ってくる。


「リリーっ!」

「姉様っ」

「心配かけて……ごめんなさい」


 私はお母様と弟のアーサーにギュッと抱きしめられた。お父様は部屋にアイザックがいることに驚き、彼が窓から侵入したことを知ると「いくら幼馴染でも、未婚の令嬢の部屋に男が無断で入るなど許されない」とボカッと殴った後「だが……今回は感謝する」とお礼を言われていた。


「お嬢様、着替えてご飯にしましょう?料理長がお嬢様の好きなものばかり作って待ってますよ」

「ふふ、ありがとう。そうするわ」


 アリスや他の使用人達にもだいぶ心配をかけてしまったことを申し訳なく思った。


「じゃあ、俺はこれで帰るわ」

「アイザック、晩ご飯食べて行ったら?」

「……いや、久々に家族でゆっくりしな。また学校で」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 アイザックは後ろを向きながら軽く手を上げ家を出て行った。


「ねえ、姉様はアイザックと仲悪かったよね?どうしてあいつ部屋に来たのさ。あいつ姉様に酷いこと言うから嫌いだよ」


 アーサーが私にくっつきながら不機嫌そうにそう尋ねてくる。弟は私にべったりなシスコンのため、私とよく喧嘩していたアイザックのことを敵だと思っているようだ。


「今回はね……助けてもらったの」


 そう言ってアーサーの頭を撫でる。こんなに普通に話せるのであれば、何故アイザックと今まで喧嘩していたのかと不思議になる。


 私はグッと拳に力を入れて、深く息を吸い込み真っ直ぐ前を向いた。


「お父様……私、ずっとお断りしていたお見合い受けてみるわ」

「無理する必要はない。リリーは見合いをあんなに嫌がっていたじゃないか?」


 お父様は私の発言に目を見開き驚いている。私はそろそろ結婚適齢期。早く婚約者を見つけるべきだが、頑なに恋愛結婚をしたいと言い張っていた。

 そして、お父様は君が幸せになるのが一番だと何も言わずに優しく見守ってくれていた。



「いいの。お父様が良いと思う男性がいたら試しに何人か会ってみたいわ」

「釣書は山程届いているから見繕うことはすぐにできる。だが、本当にいいのか?君はサムが……」

「もういいの。今まで我儘言ってごめんなさい。じゃあお願いしますわ」

「……君を幸せにしてくれる最高の男を探そう」


 家族はみんな私がサムを大好きだったことを知っている。そして、私のこの発言でサムと何かあったこともみんな勘づいただろう。お母様とアリスが心配そうな顔で私を見ているので、無理矢理笑顔を作った。


 アーサーだけが「姉様がどこかへ嫁ぐなんて嫌だよ。まだお見合いなんてしないで」と涙ぐんでいた。

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