29 守りたい人【アイザック視点】
俺はクロエと付き合いながらも、リリーのことは陰ながら守っていた。もちろん、本人から守ってくれなんて言われていないので勝手にしているだけだ。
リリーは困っている人を放って置けないのか、よくトラブルに巻き込まれている。危ないのでやめて欲しいが、これは彼女の良いところなのだと……半ば諦めている。
昔、俺もその彼女の優しさに助けられた一人なのだから。
エミリーが俺の教室に走って入ってきた。こんな時は大抵良くないことだ。
「アイザック!お願いっ!」
「どこ?」
「南側の庭園」
それを聞いた瞬間、俺は全速力で走り出した。リリーに何か良くないことがあれば、エミリーが俺に教えてくれることになっている。彼女は俺がリリーを好きだと気が付いているから……
庭園に着くと傷だらけの地味な眼鏡をかけた男の前に彼女が立ち、そいつを虐めていたであろう特進クラスの男の先輩から守っていた。
(お願いだから、一人で男に向かって行くのはやめて欲しい。力では敵わないのだから……)
「酷いことはやめてください!」
「それは……聞こえが悪いですね?勉強ばっかりで魔法もろくに使えない奴に、優しい俺達が直接指導してあげてたんだけど?」
ははは……その通り!とそいつの周りの取り巻き達も笑っている。リリーは屑でも見るように軽蔑した目で彼らを睨みつけた。
「そう言えば……リリー嬢も魔法は苦手でしたね?俺達が手取り足取りゆーっくり教えてあげますよ」
そいつはニヤッと嫌らしく笑い、彼女の手首を無理矢理掴んだ。
(お前の汚ない手でリリーに触んじゃねぇ!)
「威勢がいい女を従わせるのも一興だな。しかも君は顔も身体も一級品だ」
「離して下さい」
「ふふ、大丈夫……貴方もすぐ楽しくなりますよ」
「うるせぇんだよ」
俺は大声でそう言った。下衆野郎達は俺を見て驚いている。リリーはなぜここにいるの?とキョトンと首を傾けている。俺はこんな状況なのに……その姿も可愛いと思ってしまった。
(彼女は人の気も知らないで……呑気なもんだ)
「人が昼寝してりゃ……先輩達がガタガタうるさいから目が覚めてしまいましたよ」
俺はこの学校で有名人。こいつらが知らないわけがない。なぜなら名家ハワード侯爵家の長男で、この学校の三本の指には入るほどの魔法使いだからだ。こいつらが纏めてかかって来たって、俺は簡単に魔法で捻り潰せる。それくらいの大きな実力差がある。
「急に起きたから、不愉快で。こんな時は体動かすほうがいいんですよね……ああ、気分転換に先輩方が苦手な魔法を俺が直接指導してあげましょうか?」
俺はニッコリと微笑んでそう脅した。
「い、いや……遠慮しておく」
「さっさと消えろ」
俺は低い声でそう言い、奴等を追い払った。
「アイザック……ありがとう。でもなんでこんなとこに?」
「寝てたって言ってるだろ」
「庭で?」
子どもじゃないんだから、こんな場所で寝てるわけないだろ。リリーを助けるための言い訳なんだから、そこは知らないふりをして欲しい。
「……お前さ、一人で解決できないくせに厄介ごとに首突っ込んでんじゃねぇよ」
「なんですって……じゃあ困ってるのを放って置けって言うの?私はアイザックがいなくても大丈夫だったわよ!」
「俺がいなけりゃお前は今頃あの屑共に襲われてんだぞ!いい加減…………自分は女だと自覚してくれ」
怒るつもりだったのに最後は懇願するような、弱々しい声が出てしまった。しかし、彼女は気にする様子はなく俺にベーっと舌を出して、虐められていた男の傍に座った。
「す、すみません。僕なんかのために……リリー様もアイザック様もありがとうございました」
「貴方はひとつも悪くないわ。ねぇ、勉強が好きってとても素敵なことよ!胸を張ってこれからも励んでくださいませ」
「リリー様……」
その男はリリーを熱っぽい目で見つめている。ああ……また彼女を好きな男がひとり増えた、と心の中で溜息をつく。
「お前もさっさと去れ」
俺はその男に苛つき、面倒くさそうにシッシと手で払う仕草をする。男はペコリと頭を下げ、その場からいなくなった。完全に見えなくなったのを見届けてから、リリーに「じゃあな」とだけ言い教室に戻ろうと歩き出した。
(なんとか間に合った。リリーに何もなくて……本当に良かった)
俺はリリーから見えない場所に入ると、壁にもたれズルズルと座り込んだ。はぁ……疲れた。全速力で走ったせいで汗だくだし最悪だな。
そう思った時、俺の前に人影ができた。一体誰だと思って上を向くと、クロエがとても哀しそうな顔で目の前に立っていた。




