27 失恋【アイザック視点】
彼女の十歳の誕生日当日。主役のリリーはとびきり美しくて大人びていて驚いてしまった。
リリーが現れた瞬間、みんなが彼女から視線が外せない。俺より年上の男達も頬を染めて彼女を見つめている。
彼女はどんどん魅力的になる。会えなかった半年でとても大人びた。その分……彼女を好きになる男も増えた。いやだ、俺以外見ないでくれ。
そんな時、彼女が知らない男の名前を嬉しそうに呼んで、その知らない男に嬉しそうに抱きついた。誰だよ……それ。リリーはそんなに嬉しそうな顔できるんだな。
彼はサムと言って護身術の先生らしい。詳しく聞くと誘拐事件の時に助けれくれ騎士で、俺が離れている半年の間にスティアート家に来るようになったらしい。
「もしかしてリリーは、サムさんのことす、好きなの?」
俺は彼女に否定して欲しくてそう聞いた。お兄様みたいに慕ってるだけだ……そう言って欲しい。だってサムさんはとても年上の大人の男だったらから。
「私、サムが大好き。将来は彼と結婚したい」
その言葉に俺は顔面蒼白になり、吐き気がしてきた。告白する前に失恋してしまった。こうなったら指輪など渡せるわけがない。俺は体調不良といい、早めに会場を出て家に戻った。
部屋に閉じこもり、ベッドでわんわん泣いた。俺はこんなにリリーが好きなのに……なんでリリーは俺を好きじゃないんだろう?
ポケットに入れた指輪の箱を乱暴に投げ捨てた。ゴミ箱は離れた場所に置いているにも関わらず、一回でスッと入ってしまったことに哀しさが募る。
俺の気持ちもこんなに綺麗に捨てられればいいのに……
ずっと泣いてる俺を親父は慰めに来た。
「本当に好きな女は諦めるな。自分から手を離してどうする?泣いてないで、惚れてもらえるくらいいい男になれ」
そう言って頭をひと撫でし、捨てた指輪を拾って机に置き……部屋を出て行った。
そうだ。その通りだ……俺が彼女を諦めるなんてできるはずがない。昔から俺を守って、助けて、元気付けてくれたリリー。命の恩人でもある。彼女は俺の全てだった。
俺がサムさんより魅力的になればリリーは振り向いてくれる?そのためならば何だって努力する。
それからの俺は魔法も、剣術も真面目に訓練しぐんぐんと才能を伸ばしていった。
彼女はサムさんが大好きなようで、毎日のように俺に彼のことを話してきた。彼がくれたブレスレットを愛おしそうに眺め、ここが素敵だったとかここが格好いいとベタ褒めしている。
――聞きたくない。
しかも彼は魔力を持っていない普通の騎士で、身分も貧乏な子爵の次男らしい。
年齢だって、魔力だって、身分だって、お金だって……何ひとつリリーに相応しくないではないか。俺の方がよっぽど彼女を幸せにできる。
「サムさんは子爵の次男なんだよね?継ぐ家もないし、リリーの結婚相手にはなれないと思うよ」
「そんなの関係ないわ!サムは家が大変だから、自分で生計を立てるために努力して騎士団に入ったの。格好良いわ」
「でも……彼は魔力もないんだよ?」
「だから何よ!魔力があるから好きになるの?魔力がある人だけがすごいの?貴方だってついこの間まで魔力がなかったのに……どうしてそんな酷いことを言うのよ!」
「それは……」
俺はそう言われて口を閉ざした。大きな魔力を急に手に入れて浮かれていた――魔力量が少ないだけで差別されることを嫌がっていたのに、いつの間にか差別する側になってしまっていた事実に気が付いて恥ずかしくなる。
急に強い魔力を持ったことで、周囲の心ない大人達は手のひらを返したように俺に擦り寄ってきた。「さすが、やはりハワード家の長男だ」とか「昔から素晴らしいお子さんだと思っていた」など批判していた奴らがみんな持ち上げてくる。
俺はそれを冷めた目で見ていたのに……知らぬ間に嫌な大人と同じ考えをしてしまっていた自分が許せなくなる。
「強い魔力を持って貴方は変わってしまったわ。昔は可愛くて優しかったのに……今の貴方の考え方は嫌いよ」
そう言われショックだった。そうだ、彼女は何も持っていない弱い俺をそのまま受け入れてくれていたじゃないか。サムさんのことも『条件』で好きになったわけではないんだ。
実際に話してみるとサムさんは大人で、明るくて、穏やかでとても良い男だった。体格も良くて騎士団のエース……それにリリーを可愛がり甘やかしていた。俺より彼が魅力的なのは明らかだ。
「そりゃ……俺よりサムさんが好きなはずだ」
この日からリリーとはどんどん疎遠になっていく。十三歳の魔法学校に入る頃にはほとんど話さなくなっていた。
ただ、俺はずっとずっとリリーが好きだった。直接話さないがこっそりと眺めていたし、彼女が困っていたらばれないように裏から助けていた。リリーの笑顔が見れればいい。例え俺以外のことが好きでも――




