26 昔話③【アイザック視点】
そして、忘れもしないリリーの誘拐事件。魔法騎士団長の親父にも事件の一報はすぐに入ってきた。
「リリーが誘拐されたらしい!今デュークが現場に向かってる。俺はいつでも動けるようにスティアート家で待機する。エヴァも不安だろし……」
「わかったわ」
そんな両親の恐ろしい会話がたまたま聞こえてきた。リリーが誘拐……?もしなんかあったら……想像しただけで恐怖で身体が震えてくる。
「父様、僕も連れて行って!リリーが心配なんだ」
「アイザック……お前聞いてたのか?」
「リリーになんかあったら……どうしよう?」
「大丈夫だ。必ず助かる!よし、一緒に行こう」
俺はずっと祈っていた。お願いだから、お願いだから……リリーを助けて下さい。その日の深夜になり、家にリリーが助かったと連絡が入り全身の力が抜けた。よかった……
しばらくすると彼女は無傷で戻ってきた。よかった。本当によかった。
「リリーが誘拐されたって聞いて……心配した……ひっく、ひっく」
俺は涙を流しながら、彼女をギュッと抱きしめた。ああ、彼女は温かい……ちゃんと生きている。
「リリー……好きだよ。遠くに行かないで」
「ええ、私も貴方が大事よ」
俺はもう気持ちが抑えられず、好きだと告白した。彼女も俺を大事だと言ってくれた。それだけで心が満たされる。
しかも、彼女は俺の頬にキスをしてくれた。うわ……これは嬉しすぎる。胸のドキドキが止まらない。唇が触れた場所がとても熱く、頭がぼーっとする。
そのまま手を繋いで、彼女と眠ってしまった。
♢♢♢
次の日、俺は高熱を出し寝込んでいた。医者には昨日リリーのことが心配で、深夜まで起きていたせいだろうと言われた。
なんだこれ?身体が熱い……中からドクドクと熱いものが溢れてくるような感覚だ。
「苦し……い。リリーに会いたい……」
俺は気を失うように眠りにつき、次の日には嘘のように熱が下がって気分もスッキリしていた。
「昨日の苦しさが嘘みたいだ」
俺は部屋の窓を開けて新鮮な空気を吸い込む。
「気持ちがいいな……」
その時ぶわっと強い風が吹き、机の上に置いていた手紙が庭に落ちた。部屋が二階にある俺は、取りに行くのも面倒なので魔法で取ることにした。物を浮かす程度の魔法は魔力の少ない俺でも簡単に使える。
魔法を使おうと手に力を込めた瞬間――
ドォーーーーン
ものすごく大きい爆発音がし、さっき手紙を落とした庭がメラメラと燃えている。
「え……?これは何……??」
外からバタバタとした音が聞こえ、庭に親父が出てくる。
「何だこれは!とりあえず、水と消火剤たくさん用意しろ」
使用人達に的確に指示をし、庭はすぐに鎮火した。親父はキョロキョロと見渡し、窓を開けたままで青ざめている俺と目が合った。
すぐに階段を駆け上がってきた親父に「お前がやったのか?」と聞かれたので「わからない。落ちた紙を浮かせて取ろうとした……なのに何故かあんなにすごい火が出てきた」と答えた。
ガタガタと震える俺の手を「大丈夫だ」とギュッと握ってくれた。その後はすぐに、魔力量のチェックができる機関に連れて行かれ検査をした。
すると信じられないくらい急に魔力が増えていることがわかった。後天的に魔力が上がることは稀にあるが、珍しいらしい。
「俺と近いくらい魔力が強くなってる……アイザック、魔力の使い方を学ばないと怪我をするし、大事な人を傷つける。これからすぐに、俺と田舎へ籠って訓練するぞ。ここで練習したら大火事になる」
「わかった」
俺は頷いた。リリーと会えなくなるのは寂しかったし、いきなり手に入った強い魔力は怖かったが、訓練すれば彼女を守れるようになるという高揚感の方が強かった。
訓練はしんどかったし大変だったが、今まで憧れていたができなかったことなので楽しくもあった。
どうしても辛い時は、リリーの写真と去年の誕生日に彼女に貰った刺繍入りのハンカチを握りしめて眠り、なんとか耐えた。なんとか彼女の誕生日までには帰りたいと、最短の半年で訓練を終え、俺は魔力の制御を完璧に覚えた。
久々にリリーに会えてとても嬉しかった。彼女は親父さんから俺のことを聞いていたらしく、魔力量が増えたことを自分のことのように喜んでくれた。
俺はこの半年で彼女より少し背が高くなっていた。きっとこれからも伸びるだろう。嬉しくて口元が緩んでしまう。大人になったら魔法騎士団で働いて、たくさんお金を稼ぎリリーを幸せにしたい。
やっと彼女に胸を張って「好きだ」って言える。
「僕……今度のリリーの誕生日に伝えたいことがあるんだ。聞いてくれる?」
「もちろんよ。美味しいケーキ用意してるから!誕生日会楽しみにしててね」
彼女の誕生日に指輪を渡そう。リリーの好きなところをいっぱい伝えて、大人になったら結婚して欲しいって伝えよう。
親父にリリーに指輪を渡したいと相談した。最初は笑っていて相手にしてもらえなったが、俺が真剣だとわかると「好きな女のプレゼントくらい自分で選べ」とこっそり有名な宝石店に連れて行ってくれた。
プラチナのリングにシークレットストーンとして俺の瞳と同じ色のサファイアをはめる。彼女に俺の色を身につけて欲しいというのは、女々しい独占欲だ。『あなたは僕の全て』というメッセージの刻印もしてもらった。
出来上がった指輪はシンプルだが本当に綺麗で、大満足だった。あとは……あげるだけ。急に彼女に告白なんてしたら困った顔するかな?……喜んでくれたらいいな。




