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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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22 守ってやる

 私は昔と今のアイザックが重なってしまい、戸惑いが隠せない。いや、あれは子どもの頃に友達に言った「好き」という意味だ。


 目線を彷徨わせる私を、アイザックは不思議そうにぐっと顔を覗き込んでいる。


「リリー、どうかした?」

「アイザック!ちょ、ちょっと距離が近いわよ。それに貴方今日変よ」

「変?どんな風に」

「急に私を褒めてくるし……なんか優しいし。調子狂うわ。いつものアイザックに戻ってよ」


 そう言った私に彼は「いつもの?」と呟き何だが難しそうな顔をしている。


「最近、この七年間の方が()()()()俺らしくなかったかなと気がついた。本来の俺は……ずっと君を追いかけていたはずだけど?」

「え?」

「俺はリリーが好きだから」

「は?」


 オレハ リリーガ スキダカラ


 もちろん聞こえてはいるが、音として耳に入ってきているだけで意味がわからない。私は驚きで口を開いたままボーッとしてしまっていた。


 ガタン


「さあ、着いた。行こう」


 馬車が止まった振動で私の意識は戻った。彼は私の手を引いてエスコートし、街に降りた後も……何故かそのまま手を離してくれなかった。


「あの!もう大丈夫だから、手を離してちょうだい」

「人が多くて危ないからだめ。それに小さい頃は何度も一緒に手を繋いで歩いたんだから、今さら恥ずかしがることない」


 そう言って「行こう」と手を繋いだまま街中を進んでいく。街中は本当に賑わっていて活気がある。店の前でパンやお花、アクセサリーなど色々売っている。


「まだ時間早いし、リリーが言ってた店先に行くか?」

「本当?あの角のお店なの」


 カランカラン


「いらっしゃいませ」


 キラキラと煌びやかな店内は女の子ならみんなが好き!と思うようなお洒落なお店だ。口紅や香水などが美しい容器に入って売られている。


「何かお探しですか?」

「あ、あの。口紅を探していて。クリスタルシリーズの……」


 店員さんは私のその言葉ですぐにわかってくれたようで「こちらですよ。お色はどうされますか?」と聞かれた。カラーは十色ほどあり、どれも素敵で迷ってしまう。ううーんと考えていると、店員さんはニッコリと微笑んだ。


「お兄さんはどの色が彼女に似合うと思います?」


 急に話しかけられたアイザックは、驚いたように振り向いた。


「迷う時は恋人のアドバイスを聞くのが一番よ」


 店員さんは私にウィンクしながら、そんなとんでもないことを言った。まさか私達……恋人同士と勘違いされてる?


「ち、違います。私達、恋人じゃなくて」

「ふふ、照れなくてもいいわよ」

「いや、本当に違って……」


 私が真っ赤になって否定しているのに、アイザックは素知らぬ顔をしている。


「このピンクベージュが似合うと思う」

「さすがお兄さん!そうね、きっとこれがいいわ」

「じゃあこれをくれ」

「ふふ、すぐに包むわね」


 ええっ?なんか知らぬ間にアイザックが色を選び、代金まで払ってくれた。


「はい」


 彼は私の手にラッピングされた袋を渡してくれた。


「あ、あのこれ!私が払う」

「いい。今年誕生日プレゼント渡してないからその分だと思って受け取って」


 そう言われると拒否はできない。しかし、私もアイザックには何もあげていない。喧嘩していた間……そういうやり取りがなかったのだ。


「ありがとう、嬉しい」


 そう言った私の頭を彼は優しく撫でた。


「ありがとうございました。また来てね」


 店員さんはそう言うと、店を出る直前に彼に肩をトントンとして何か耳打ちをしていた。何だろうか?


 実はこの口紅は恋愛に効くと言われている。持っていれば恋が実り、つければ好きな人に愛してもらえると……御令嬢達の間で人気の商品。


 家に取り寄せるのはなんとなく恥ずかしく、こっそりと買いに行きたかったのだが伯爵令嬢である私が気軽に街に行けるはずなどなく諦めていたのだ。


 アイザックはそんなこと知っているはずがないから大丈夫だ。なるべく知られたくない。


 その後も街をうろうろし、いろいろな屋台を見ながら歩いていく。


「私、こんなに自由に街を回るの久しぶり」

「え?そうなのか?」

「ほら……私って昔、この街で誘拐されたことあったでしょ?それから両親が過保護になっちゃって。お父様かお父様レベルの魔法使いが一緒にいない時は行っちゃ駄目だって」


 私は自分で話していて少し哀しくなった。お父様が心配する気持ちはわかる。だが、もっと街に出て色々見てみたい。


「そうか」

「たぶん、アイザックはお父様と匹敵するくらい魔力強くなったよね?だから二人で行くの認めてもらえたんだと思う」

「……俺、強くなって良かった。昔のままならお前と出掛けられないとこだった」

「そうね。仕方がないけど私って不自由だわ。じゃあ……これからは、買い物のたびにアイザックに声を掛けようかしら」


 私がふふふと笑いながらそう言うと、彼は何故か全く笑っていなかった。


「そうしろ。いつでも、何度でも俺を呼べ」

「じょ……冗談よ。そんなのアイザックに迷惑じゃない」

「迷惑じゃない。俺が守ってやる」


 真面目な顔でそう言ってくれた。俺が守るなんて生まれて初めて言われて胸がドキドキしてしまう。


「ありがとう」


 私は胸の鼓動が煩くて、彼にそう言うだけで精一杯だった。

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