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8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。  作者: 大森 樹


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21 瞳の色

 今日はアイザックとお出かけする日だ。人気のレストランに行くということで、やっぱりお洒落をしたいとお母様と大いに盛り上がりキャッキャと騒ぎながらワンピースを選んだ。


 私の瞳の色に合わせたラベンダー色の生地の上に、レースの花を重ねた美しいワンピース。腰には生地より少し濃い色のリボンが付いており、結ぶとキュッと締まってスタイルが良く見える。首元は少し広めに開いており、大人っぽさと可愛さを兼ね備えた完璧な服だ。


「リリー、似合ってる!輝いてるわ」

「お嬢様素敵です」「わぁ!大人可愛いです」


「お母様、みんなありがとう」


 お母様と侍女達からはこのワンピースはとても評判がいい。


「なっ……めちゃくちゃお洒落してるじゃないか!」

「父上、もうこれから家族で出かけましょう!アイザックなんかと姉様を歩かせたくないよ」


 お父様と弟はこのワンピースが不満のようだ。


「お父様、アーサー……この服は私に似合ってないかしら?」


 私はわざとしゅんと哀しげな目で彼等を見つめた。


「目に入れても痛くないくらい可愛い!」

「似合ってるよ!姉様は誰よりも素敵だ」


 ……よろしい。そう、紳士たるものすぐにレディを褒めるべきなのだ。


 私が玄関を出ると、ちょうどハワード家の馬車が我が家の前に着いた。そこから降りてきたアイザックは学校で会う時よりも格好良かった。


 シンプルなシャツに仕立ての良いベスト。パープルのアスコットタイをリングで留めているなんて、さり気ない小物遣いもなかなかだ。左耳にはいつもは付けていないイヤーカフもしている。そして背が高く、引き締まった彼はスタイルも良いのだ。


「お誘いとお迎えありがとう。今日のアイザックはいつもより格好良くて素敵ね」


 私は思ったことをそのまま素直に口に出した。それなのに……彼はお洒落をした私を見ても何も言って来ない。それどころか、私を見つめながらボーッとしている。


 (全く……我が家の男といい、アイザックといい……すぐに女の子を褒めるってことを知らないのかしら?)


「アイザック!聞こえてるの?」


 私は怒った声で再度彼に話しかけた。すると、ハッと我にかえった彼は片手を口に当てて頬を染めた。


「ああ。ありがとう。リリーもとても……良く似合ってる」


 彼は女性を褒めるのに慣れていないのか、恥ずかしがっているようだ。こんなことで侯爵家の令息が務まるのだろうか?社交界では大袈裟なくらい褒め称えないと美しい御令嬢方は振り向いてくれないのに。


「アイザック!勝手に姉様の色なんて身につけないでよ」


 私の後ろに隠れていたアーサーがひょこっと顔を出して、アイザックにべーっと舌を出している。


「なっ……!色はたまたまだ」


 (そう言われると確かに二人で示し合わせたようなカラーコーディネートだ。ちょっと恥ずかしいかも。まさかアイザックは本当に私の瞳の色を入れたのだろうか?いや……きっとたまたまだ)


「アーサー、お前何歳だ?そろそろ姉離れする時期だろ」

「うるさい!僕は姉様のこと大好きなのに、なんで離れなきゃいけないんだよ」


 私は二人の言い合いを見てため息をつく。


「息子がごめんなさいね、アイザック君。こらアーサー、貴方は将来伯爵家を継ぐのですから言葉遣いは気をつけなさい。呼び捨ても失礼ですよ」


 アーサーは普段は優しいお母様に叱られてぐっと黙った。


「いえ、俺こそ彼の見本にならないといけないのに……申し訳ありません」


 頭を下げたアイザックにお母様は「今日は娘を頼んだわね」と微笑んだ。


「夕方には絶対に戻るように!」


 お父様はそう念を押し、私達を見送ってくれた。私は叱られたアーサーの頭を撫でて「お土産買ってくるからね」と慰め、アイザックにエスコートを受けて馬車に乗り込む。


 改めて馬車で彼と向かい合うと、なんだか照れてしまう。


「街に出たら他に行きたいところはあるか?」

「レストラン以外も寄っていいの?」

「もちろん。せっかく行くんだし」

「じゃあコスメのお店行ってもいい?店内は女性ばかりだから貴方は嫌かもしれないけど……実は買いたい物があって」

「いいよ。リリーと一緒ならどこでも行くよ」


 何だが調子が狂う。いつもの彼なら「そんな女だらけのところはエミリーと行け」とか言いそうなのに。


「あと、さっきは上手く言えなかったけど……今日の君はとっても綺麗で可愛い」


 急に褒められた私は真っ赤に頬が染まる。私は恥ずかしさを隠すために、思わず憎たらしいことを言ってしまう。


「あら、失礼ね。今日の君()じゃなくて()でしょ」


 そう言った私に彼はフッと微笑んだ。


「もちろん、いつも綺麗で可愛いと思ってる。今日はそれ以上に素敵って意味だ」


 彼は私の髪をひと掬いし、愛おしそうにそっと口付けた。今日の彼は変だ!こんなことを言うなんておかしい。


「リリーの髪、サラサラで気持ちいい」

「なっ、何して……」

「君は昔と変わってないな」

 

 彼は嬉しそうに目を細めて私の髪をひと撫でし、すっと手を離した。


『僕、リリーの髪好き。綺麗なブロンドだし、サラサラだし、いい匂いがする』

『ありがとう』

『あのね……本当はリリーの髪以外も全部好きなんだ。大好きだよ』


 私は急に幼い頃に言われたアイザックの言葉を思い出した。

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