表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/100

18 警告【アイザック視点】

「……殺された?」

「ああ。数日前に顔は潰され、口に×印をつけられた男の変死体が見つかった。調べていくと身に付けていた物からお前が舞踏会で殴った男だとわかった」


 親父はこのことを知り、舞踏会でのことを再度問いただしたのかと納得する。


「親父……おかしいよな?」

「ああ」

「犯人は彼女を好きな男か、彼女を妬む女だと思っていた。だが、そんなやつらが口封じでウェイターを殺すなんてやり過ぎだろ?」

「では何故殺してまで口封じしたのか?犯人は自分だと知られたくない何か()()()()()があるはずだ。それも、リリー絡みの。ただ嫌がらせで失恋させたかっただけとは到底思えない」


 リリーは人を殺めるようなやつに狙われているのか?絶対に彼女を守らないと……


「これを見ろ。お前宛に届いたんだが、あまりに怪しかったからこちらで開封した」


 親父は明らかに怪し気な真っ黒な紙の手紙を差し出した。



 アイザック・ハワード


 これは警告だ。

 私の女神(ヴィーナス)に近付くな。



 それだけが書かれてあった。


「我が家に届いた時は悪戯だと思って無視していた。俺はリリーが女神(ヴィーナス)と呼ばれていることも昨日まで知らなかったしな。でもこれは確実にお前への脅しだ」

「誰なんだ!こんなことしやがって」

「どうする?アイザック。死人が出てる以上、お前も危険だが」

「そんなのリリーを守るに決まってるだろ!」

「よく言った。俺も協力するし、このことはデュークにも報告しておく。必ずリリーを守れ」

「ああ」


 俺は力強く返事をした。俺達とリリーの親父さんの魔力は強い……三人が協力して勝てない相手はそうそういない。きっと大丈夫だ。


「詳しいことがわかるまでリリーには言うな。不安がるだろうから」

「わかってる」

「お前な……そんなに好きならさっさと告白しろよ、ヘタレ」


 親父がそんなことを言ってニヤニヤと笑っている。


「なっ!うるせぇな!!彼女が失恋でショック受けてるところを狙うなんて卑怯だろ」

「はぁー……お前は本当に馬鹿だな」


 頭を抱えて呆れたようにはぁとため息をついた。


「絶対に手に入れたい大事な物は、手段なんて選んでちゃいけない。例え格好悪くても卑怯でもな。そうじゃないと別の男に掻っ攫われて後悔するぞ」


 そう言われて、俺は握っていた手にギュッと力を入れる。他の誰かに彼女を奪われるなど……耐えられない。


 俺はサムさんが彼女を「妹」としてしか見ていないことに早い段階でわかっていた。剣術を習いに行っている時に、俺とリリーが喧嘩しているのをみて『アイザック、俺の可愛い妹をあんまりいじめないでくれ……好きなら素直になれ』と言われたことがあったからだ。サムさんは俺が好きなことも気が付いていた。


 だから彼女が彼を好きだと言うたびに、嫉妬はすれど、心のどこかで安心していた。


 リリーがサムさんを好きな間は他の男と付き合ったり、婚約したりしないため他の男に奪われる心配はないとたかを括っていた。


「言うよ。もう気持ちを隠すのも限界だ」


 俺はずっとずっと彼女を好きだった。だがサムと結婚したいと言う彼女を見るのが辛くて、この恋を諦めようとしたことがある。


 告白してくれた女の子となんとなく付き合うことにしたが、続かなかった。俺なりに向き合ったつもりではあったのだが……結局女の子を傷付けただけで終わった。


 誘われるまま別の子ともデートをしたことがあったが、何も心は動かされず、ただただ面倒だった。


「私のこと好きじゃないでしょ?」


 どの女の子にも最後にそう言われてしまうのだ。そして痛い程わかった――リリーじゃなきゃ意味がないってことを。


 それに、あえて異性と付き合うことでリリーから嫉妬してもらえるかもと……淡い期待もしていたのに「おめでとう」とか「もてるのね、意外」とか「色んな女の子と遊ぶとか信じられない」と俺に全く興味がなさそうな上に、軽蔑を含んだ言葉を言われ……こんな意味のないことはしないと誓った。


♢♢♢


 今日から俺は謹慎が明け、久しぶりに学校へ行く。いつもより早めに登校すると、歩いているメアリーの姿が見えた。彼女はリリーの親友で、俺の恋心にも気が付いている。


「メアリー、おはよう」

「アイザック!今日から復帰なのね」


 当たり障りのない話をしながら、二人並んで教室へ向かう。


「俺、やっとリリーと仲直りしたんだ」


 陰で色々と彼女のことを相談していたため、俺はエミリーに報告することにした。仲直りできたことを思い出し、嬉しくてつい顔が緩んでしまう。


「ええ?本当に?良かったじゃない。長い喧嘩だったわねぇ」

「これからは俺を好きになってもらえるように、素直にアプローチしていく」


 そう言った俺に、何か言いたそうにジッと見つめてくる。


「早くした方がいいわよ」

「え?」

「ぐずぐすしてる暇はないと思う。あの子がサムさんに失恋するの待ってた男が、これからいっぱい動き出すわよ」

「え……」

「貴方は彼女と仲が悪かった分、不利なんだから頑張りなさいよ」


 エミリーはそう言って、じゃあねと教室の中に入って行った。俺が不利?幼馴染だし、現時点で一番彼女と距離が近くて周囲より有利だと思っていた俺の自信はガタガタと崩れ落ちた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ