表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/100

17 差し入れ【アイザック視点】

 リリーが……あのリリーが俺を心配してくれた。しかも手作りの差し入れまで作って、わざわざ家に来てくれた。仲直りもできたし、晩御飯も一緒に食べて、眠る直前まで共に過ごせたなんて幸せすぎる。


 謹慎中の俺は、スティアート家の窓から侵入した日以来リリーに会えておらず確実に彼女不足でやさぐれていた。


 部屋から出ない俺はボサボサの髪に適当な服で過ごしていた。ジルから彼女が来たと聞いた時はかなり驚いて急いで身なりを整えた。焦ったせいで色々と落としたり、新しい服を引っ張り出したりとバタバタしてしまったが……仕方がない。


 彼女が目の前に現れただけで、俺の渇いた心が満たされていく。なぁ、俺じゃだめかな。サムさんなんかより俺の方がずっとずっと君を――


 その夜は彼女のことばかり考えてなかなか眠れなかった。


♢♢♢


 眩しい光は寝不足の瞼には刺激が強すぎて、思わず眉をひそめる。


「おはようございます。坊っちゃん、朝ご飯どうされますか?」


「おはよう。リリーがくれた差し入れを食べる……下じゃなくて自分の部屋で食うから」


「かしこまりました。すぐにご用意致します」


 執事のジルがそう言って部屋の扉から出て行く。すると俺の答えを聞く前からすでに用意してあったかのように、すぐにワゴンに乗せた差し入れと紅茶が運ばれてきた。


 俺の考えていることなんてジルには手に取るようにわかるのだろう。それが悔しいし、何となく気に食わない。


「……やけに早くないか?」

「坊っちゃんに仕事が早いと褒めていただけるなど、大変光栄にございます」


 ジルは何食わぬ顔でニコニコと微笑んでいる。こいつはこういうやつだ。俺と話しながらも、皿にサンドウィッチやキッシュを食べやすいサイズに切り美しく並べてくれる。


 俺はチキンが入ったサンドウィッチを手に取って口に運ぶ。


 パクッ


 (うわ……美味い。なんだこれ)


 俺はその美味しさに驚いた。男の俺でも満足できるようになのか、焼かれた分厚いチキンが豪快に挟まっている。


 パクッ


 ベーコンの挟まってるものはトマトやレタスも入っておりソースも絶妙だ。


「これも美味い」


 俺はついそう口に出して呟いてしまった。ジルは目を細めて嬉しそうに俺を眺めている。


「坊っちゃん、良かったですね。リリー様は本当にお美しくてお優しくて……その上、料理上手なんて素晴らしい御令嬢ですね」


「そんなこと……お前に言われなくても俺が一番知ってる」


 例えジルであっても、他の男が彼女を褒めるのは面白くない。自分が好きな女性が魅力的だと言われるのは本来嬉しいはずなのだが、独占欲強めの俺は……彼女の良さは俺だけが知っていたい。


「これは差し出がましいことを申しました」


 ジルはニヤリと意地悪く笑いながら頭を下げている。俺は恥ずかしさを紛らわせるために、キッシュを口に運ぶ。キッシュも……めちゃくちゃ美味い。リリーは俺の胃袋まで掴もうとしているのだろうか?これ以上好きになったらどうすればいいのか。


「坊っちゃん、食べ終えたら旦那様が部屋に来るようにおっしゃられていました」

「親父が?今日仕事休みなのか」

「お仕事は午後からだそうです」

「わかった」


 親父がわざわざ呼び出すなんて珍しい。


♢♢♢


 俺は差し入れを一つ残らずペロリと平らげた。そして、すぐに親父の部屋を訪れる。


「アイザックです」

「入れ」


 部屋に入ると、奥の机で書類作業をしていた親父と目が合った。


「アイザック、答えろ。今回は拒否権はない。お前が舞踏会の日あのウェイターを殴った理由はなんだ?」


 ギロっと睨む親父はあまりに怖く……真剣で、俺は戸惑った。この質問は舞踏会の日の夜に何度も聞かれてたが黙秘していたのだ。親父に気絶させられかけても口を割らない俺に「ほお、さすが俺の息子だ、いい度胸してやがる。そんなに言いたくねぇならもういい」と諦めてくれたのに。


「……言いたくない」

「お前の耳は飾りか?拒否権なんかねぇって言ったろ?リリー絡みなんだな」

「……」

「もういい。出てけ。お前が言わないならリリーに聞く」


 そう言った親父の顔は本気で怒っている。リリーに……彼女に直接聞いたら……またあの時の哀しみを思い出してしまうではないか。彼女をもう傷つけたくない。


「やめてくれ。言うから」


 俺はついに折れた。そして、親父に舞踏会であったことをかいつまんで話した。


 リリーが騙されて庭に呼び出されたこと、サムと恋人の逢瀬を見せられて彼女が立てないくらいショックを受け傷ついたこと、そして怒った俺が彼女を騙したウェイターを殴って真犯人の名前を吐かせようとしたこと。


 彼女が失恋したことなんて、親父に話したくなかったが……殴った理由を伝えるためには言わざるを得なかった。


 親父は「そうか」と呟き、難しい顔で最後まで俺の話を聞いていた。


「そのウェイターが死んだ」


 は?死んだだと……?どうして……殴ったとはいえ命に関わるような傷などなかった。


「正確に言えば殺された」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ