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14 仲直り

 おば様と話していると、怠そうな態度でアイザックが降りてきた。家で謹慎していたわりに彼は髪も服もキッチリ整えられて完璧な身なりで、この前だらしない夜着姿を見られた私は居た堪れない。


「リリー……何の用だよ?お前が俺の家まで来るなんて」


 アイザックは怒ったような声でそう聞いてきた。やっぱり来るんじゃなかったかも。


「アイザック!リリーちゃんがせっかく来てくれたのにその態度は何なの」


 おば様は怒りの声をあげた。


「いいんです、私もう帰りますから」

「……帰れなんて一言も言ってない。何の用か聞いただけだろ」


 アイザックは先程より随分穏やかな声でそう言った。


「ちょっと貴方に聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」


「アイザック、私がいてはリリーちゃんは話しにくいでしょうから貴方の部屋に案内なさい」

「え?お、俺の部屋」


 彼はそれを聞いて何故か頬を染めている。熱でもあるんだろうか?


「言うまでもないでしょうけど、必ず扉は開けておくように!リリーちゃん、何か嫌なことされたら大声出すのよ。すぐ助けに行くから」

「は、はい」

「何もするわけねぇだろ」


 彼はおば様をギロっと睨み怒りの声をあげる。


「息子に睨まれても怖くなんてないわ。それにしても今日は()()()とっても()()()()服を着ているわね。似合っていてよ」


 おば様はなぜか急にそんなことを言い出し、それを聞いたアイザックはまた赤面し「うるさい」と小声で呟いた。


 アイザックは「行くぞ」と私の手を取って、階段を登り、彼の部屋に入る。


「そこのソファーでも座れば?」


 言われるがまま、私はソファーに腰掛ける。何年も前に遊びに来た時とはまるで別の部屋になっていた。物は少なく、黒やグレーの落ち着いた仕様だ。


「私、今日から学校に復帰したわ」

「そうかよ。よかったな」


 アイザックは目を細めて優しく微笑んだ。


「あなたのおかげよ。ありがとうね」

「別に。俺は何もしてない」

「アイザックが謹慎中だって聞いて驚いたの。ウェイターを殴ったのって……私にあの現場を見せた犯人を見つけようとしてくれたのよね?」


 彼は何も言わずに黙っている。


「そうなんでしょう?ごめんなさい……本当に迷惑をかけて」

「俺が勝手にしたことだから」

「でも!私が……私一人だけが傷付けば済む話だったのに」


 私は涙目になりながらそう言うと、彼は私の頬を両手で包み込みじっと見つめてくる。


「そんな哀しいこと言うな。リリーは何も悪くないだろ!」


 そう……言ってくれて素直に嬉しい。


「俺は許せねえ。わざわざ呼び出して……あんな悪趣味なことしやがって」


 アイザックが私のために怒ってくれている。


「ありがとう」


 ポロリと涙が流れ落ちる。彼は指で涙を拭って、私の頬からそっと手を離した。


「もう泣くな。リリーには笑ってて欲しい」


 そう言ったアイザックに私は笑いが込み上げて来る。くすくすくす……


「なんでそこで笑うんだよ」

「だっていつも喧嘩吹っかけて私を怒らせて、泣かせるのはアイザック自身でしょ?」


 そう言った私に彼はバツが悪そうな顔をする。


「お前が……他の男に泣かされるのは嫌なんだ」

「なによ、それ」


「今まで酷いことばかり言って悪かった。もうお互い大人だし、やめようぜ。俺はリリーと……仲直りしたい」


 彼は緊張しているのか、ギュッと握りしめた拳が震えている。しかし、真っ直ぐ私の目を見てそう言ってくれた。アイザックが勇気を出してくれたのだから、私も素直になろう。


「私も今までごめんなさい。昔のように貴方と仲良い関係に戻れたら……嬉しいわ」


 私の言葉を聞き、彼は嬉しそうに微笑んで手を差し出してきた。私はそっとその手を握り、握手をする。


「じゃあ仲直りってことで……」

「うん……」


 そうは言ってもなんとなく気まずさはあり、二人とも目線を彷徨わせそわそわしてしまう。なんだか少し恥ずかしいし。喧嘩以外の会話って何話してただろう?


 そんな時、開いている扉をノックする音がする。二人ともパッとそちらを向くとおじ様が立っていた。


「アイザック!邪魔するぞ」


 おじ様はニヤニヤしながらアイザックに視線を送っており、彼はチッと舌打ちをする。


「あの!おじ様のご不在時に連絡もせず、急にお伺いして申し訳ありません」


 私は頭を下げて謝罪をする。


「リリー!そんなこと気にすんな。久しぶり、相変わらずお前は可愛いな」


 おじ様は昔のように私を高く抱き上げてくるっと回った。大人になってからされるのは初めてで「きゃあ」と驚きの声をあげてしまう。


「親父、何してんだよ!」


 おじ様はそんなアイザックの声は全く気にしていないようで、無視しながらそっと私を床に下ろした。


「リリー、毎日でも遊びに来い。いや、ずーっとここに住んでくれてもいいぞ。この馬鹿息子が嫌なら追い出してやるから」


 おじ様は豪快に笑って、私の頭をわしわしと撫でてくれた。


「おじ様ったら相変わらずね」

「親父っ!」


「あの!おじ様……アイザックが謹慎してる件なんですが、実はあれは私が悪くて……私をかばっ」

「あー!!やめろ!やめろ!なんも言わなくていい」


 アイザックは急に大きな声をあげて、私の話を無理矢理遮った。「でも……」という私に「黙ってろ」と睨まれる。


 おじ様は私達の顔をチラリと見たが、それ以上何も聞かなかった。


「さあ、ディナーの時間だ。レディ、お手をどうぞ」


 おじ様が手を出してくれるので、私はエスコートを受けてダイニングまで降りた。アイザックは何故かまた不機嫌になっている……なんで?

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