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13 ハワード家

 私は授業が終わるとすぐに家に帰り、料理長のところへ行ってキッチンと食材を使ってもいいか聞くと、好きにして良いと許可が出た。


 普通、貴族令嬢は料理をしない人が多いが、私は昔から簡単な物は作れる。護身術の訓練の後にお腹を空かせているサムに自作の物を食べさせたくて練習したからだ。


 サンドウィッチにはチキンやベーコンを挟んで食べ応えがあるように作り、キッシュには野菜とソーセージをたくさん入れた。あとは以前私が作った苺ジャムを使ってパイを焼く。


 ふう、なんとか一時間ほどで作ることができた。これから行くとなると夕飯の時間になってしまうかも……流石に迷惑だろうか?しかし、すぐに渡して帰ればいいか。


 この数年アイザックとは仲が悪かったが、相変わらずおじさまやおばさまとは良好な関係のままだ。恐らく笑顔で迎え入れてくれるとは思う。


「お母様、今からハワード家に行ってきてもいい?」

「え?これから?」

「うん。この前のことでアイザックにお礼言いたいの。しかもあいつ……恐らく私のせいで謹慎してるらしくて」


「そうらしいわね。アイザック君があんなことするなんて信じられなかったけど……あの事件はリリーと関係があるの?」

「んー……関係あるかもしれなくて」


 お母様は私の曖昧な答えに首を傾げていたが、ハワード家に行くことには了承してくれた。


「この薔薇をマーガレットに渡してくれる?いきなり行くのだから、もしアイザック君が忙しそうなら後日出直すのよ」

「わかってるわ。ちゃんとおば様に渡すね」


 私はアリスに着いてきてもらい、歩いてハワード家に向かう。私と彼の家は馬車に乗るほどの距離もない目と鼻の先だ。


 すぐに侯爵家の立派なお家が見えて来る。舞踏会ではおじ様達に会っていたが、ここに来るのは数年ぶりかもしれない。


「失礼します」


 私はおそるおそる玄関を開けると、昔から顔見知りの執事ジルが出迎えてくれた。ほんの一瞬だけ驚いた顔をしたが、さすがは完璧な執事……すぐに顔を戻しにこやかに対応してくれる。


「リリー様。よくぞお越しいただきました。お久しぶりでございますね」

「本当にお久しぶりね。連絡もせずに急に来てごめんなさい、ちょっと……アイザックに用事があって。おば様に今から上がっても大丈夫か聞いてくださらない?」


「アイザック坊っちゃんにですか?……リリー様であれば奥様はいつでも大歓迎されますよ。すぐに確認してまいりますので、客間でお待ちください」

「私はここで待っているわ」

「いいえ、玄関でお待たせなどしたら私が叱られます。さあ、リリー様どうぞお上がりくださいませ」


 ジルは有無を言わさず、笑顔で私を案内してくれる。そして、客間に座るとすぐにメイドのドロシーが嬉しそうに紅茶とお菓子が運んで来てくれる。彼女も幼い頃の私をよく知っている使用人だ。


「リリー様、お久しぶりでございます。またお会いできて……本当に嬉しいですわ」

「まあ、ドロシー。久しぶりね!元気そうで嬉しいわ」


 私はこの家に来るのは本当に久しぶりなのだ。アイザックと仲が悪くなったとはいえ……こんなに喜んでもらえるのであれば、近いのだしもっと顔を出せばよかったなと後悔した。


 ドロシーと話していると、おば様が客間に来てくださった。


「リリーちゃん!来てくれて嬉しいわ」


 いきなり来たにもかかわらず満面の笑みで歓迎してくださる。


「おば様、急にごめんなさい。しかもこんな変な時間に伺って……ご迷惑じゃなかったですか」

「何言っているの!急でも、何時でも貴方なら大歓迎よ」


 私はその言葉にホッとして、お母様から預かった我が家の庭で育った薔薇の花束を渡す。


「まぁ、エヴァから?すごく綺麗ね、嬉しいわ」

「あの……今日はアイザックと少し話したいことがありまして。彼は謹慎中なんですよね?」


 おば様はそれを聞いて驚いた顔をした。そりゃそうだ……私達が何年も喧嘩していることをよく知っていらっしゃるだろうから。


「息子を気にかけてくれて、ありがとう」 


 おば様は嬉しそうに私に微笑んだ。


「ジル!アイザックにリリーちゃんが来てくれていると伝えて」

「かしこまりました」


 そう言って彼は頭を下げ、すぐに二階のアイザックの部屋に向かった。


「ねえ?リリーちゃん、今日晩御飯食べて行って。このまま帰したらアルファードに私が怒られちゃうわ。彼も今日は早めに帰る予定なの」

「いや、そんな悪いですわ。それに……アイザックも食卓に私がいたら嫌がります」

「そんなことないわよ。でもそもそもあの子の意見なんて通らないわ、嫌なら彼が晩御飯を食べなければいいの」


 ツンとそう言い切る彼女はさすが侯爵家夫人だ。なかなか強いのだ。


 その時、二階からガタガタガタっと大きな物音がした――え?何の音?怖いんですけど。


「おば様……なんか上からすごい音してますけど大丈夫でしょうか?」


 不安な顔をする私とは対照的におば様は何食わぬ顔で紅茶を飲んでいる。


「大丈夫よ。どうせアイザックが焦ってるんだわ」


 焦っている?何に?意味がわからない。


「ね?それより晩御飯!」

「じゃ……じゃあお言葉に甘えます」

「良かったわ。スティアート家にはすぐに連絡しておくから安心してね」


 おば様はとても嬉しそうに私を見つめていた。

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