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6・天使な幼馴染の恋心と誓い


 オレの名前はミシェル・ディアーラ。

 ディアーラ侯爵家の子息で、現在は王国騎士団に所属している。

 母譲りの金髪に青い目。顔も生まれてすぐに亡くなったという母親ソックリらしい。

 昔から線が細く、病気がちだった所も母譲りらしく、小さな頃はよく寝込んだ。その所為か、父は随分とオレに甘く、幼い頃から甘やかされてきた。

 生粋の箱入り息子と言う奴だったのだ。

 そんな父は基本的にオレを外に出したがらなかったが、唯一、隣の伯爵領にだけはよく連れて行ってくれた。

 そこにはオレと同じ年の娘が一人いて、オレの友達は彼女だけだったから、伯爵領に行くのはいつもとても楽しみだったのだ。


 彼女の名前はアレクサンドラ・グローライト。

 赤い髪に琥珀色の目を持つ、とても美しい少女だった。


 彼女も母を幼い頃亡くしていて、オレと同じように父親の手で育てられてきていたが、彼女はオレとは全く違う。

 出逢った時、身長はもうオレよりも高かったし、身体能力はその辺の大人顔負け。

 オレはそんな彼女が友達であることがとても誇らしかったし、彼女の事がとても好きでたまらなかった。きっと、オレの初恋だったのだろう。


 オレたちはずっと穏やかに仲良く過ごしていた。だが、ある日の事件を切っ掛けにその関係は崩れてしまう。


 ある日、いつものように伯爵領で遊んでいると、見慣れない男が近づいてきた。

 丁度、アレクサンドラがおやつを取りに席を外していた時で、オレは警戒心もなく男を近づけてしまったのだ。

 気が付けば、男に抱きかかえられていた。

 誘拐されたのだと確信したのは、男に連れ去られ、伯爵領を出てしまった時だ。

 オレは母譲りの少女めいた容姿をしていたから、ずっと狙われていたらしい。だから、父は外に出さなかったのだと知ったのは全てが終わった後の事だ。

 恐ろしさに怯えるオレを助けてくれたのは、アレクサンドラだった。

 遠目でオレが攫われるのを見たアレクサンドラは、単騎で追いかけ、怪我を負いながらも誘拐犯を倒し、オレを救い出してくれたのだ。

 あのままだったら、どんな目に遭わされていたか、想像もしたくない。

 その事件を得て、オレは益々アレクサンドラが好きになった。

 強くてカッコいい彼女に、憧れと尊敬は募るばかり。

 もっと彼女に近づきたい。そう思ったオレは、とにかくお礼を言おうとアレクサンドラを探した。

 その時、見てしまったのだ。



 彼女は泣いていた。オレの目の前でポロポロと涙が零れ続けている。



 オレを助ける為に、彼女は怪我を負ってしまっていた。

 顔についた傷は深く、髪で隠れるとはいえ、幼い少女の心を傷つけていたのだ。

 こんな姿ではもう誰も貰ってくれないと、彼女は鏡を見ながら泣いていた。


 泣いている。誰よりも強くて優しいアレクサンドラが泣いている。


 その事にオレは酷くショックを受けた。

 ガッカリしたのではなく、彼女はヒーローでも何でもなく、只の女の子なんだと気付いたからだ。

 憧れと尊敬の中に、彼女に対する淡い想いが生まれた瞬間だった。



「グローライト伯爵様! どうか、僕にアレクサンドラをください!」

「ミシェル!?」



 父はオレの発言に仰天するが、オレの意志は固い。

 オレは、傷をつけた責任を取りたいと伯爵に願い出たのだ。

 けれど、伯爵はオレの願いをあっさりと却下する。


「ミシェル。君はとてもいい子だけれど、アレクサンドラは強く男らしい男にやると決めているんだ。すまないね」


 そう言われた僕は、それでも引き下がらなかった。



「……っ、なら僕が……いや、『オレ』が強くなったらアレクサンドラをください!」

「オレ!?」



 箱入り息子の変貌に父はショックのあまり泡を吹いて倒れたが、伯爵は大らかに笑って頷く。



「いいだろう。君が誰よりも強い男になったら、アレクサンドラとの婚姻を認めてやる」



 それから十年。僕は十年間、ずっと努力し続けてきた。

 勉強をし、体を鍛え、ひたすら自らを律し続ける。

 全てはアレクサンドラに相応しい男になるためだ。

 そして、騎士学校に首席で入学し、同じく首席で卒業し、厳つい男共の頭を押さえ、堂々と華々しく騎士として認められた。



 ――――なのに。



「あ、ディアーラ侯爵子息よ」


 誰かが囁く声がする。


「相変わらず、何て美しいのかしら」

「本当に。金色の髪がキラキラと輝いていらっしゃる」

「ええ。見て、あの美しい白い肌。光を弾いてあんなに瑞々しくいらっしゃる」

「愁いを帯びた瞳が何て愛らしいのかしら」

「少し大きめの軍服姿の麗しい事ったら!」

「ええ、そうね」

「全く持ってそうね」

「同意以外ないわ」



「相変わらず、何て可愛らしいのかしら……!」

「オレを可愛いっていうな!!」



 頭を使い、体を鍛え、必死で頑張ったが、母に似た女顔だけはどうしようもなかった。

 騎士学校でもアイドルの様な扱いをされたし、騎士になった今も言い寄ってくるアホが後を絶たない。勿論、不埒な事をしようとする野郎は全員返り討ちにしてきたが。


 オマケに――――



「あ、アレクサンドラ・グローライト将官よ」



 誰かのはしゃいだ声がする。


「相変わらず、何て素敵なのかしら」

「本当に。赤色の髪が燃える様に靡いていらっしゃる」

「ええ。見て、あの美しい褐色肌。光を弾いてあんなに逞しくていらっしゃる」

「愁いを帯びた瞳が何て扇情的なのかしら」

「キッチリ着こまれた軍服姿の凛々しい事ったら!」

「ええ、そうね」

「全く持ってそうね」

「同意以外ないわ」



「相変わらず、何て男らしいのかしら……!」

「……っ!!」



 思わず、前方から歩いてきたアレクサンドラを睨んでしまう。

 だって、オレはこんなに努力したのに! お前に相応しくあろうとずっと頑張ってきたのに!




「……っ、何でお前の方がカッコよくなるんだよバカ!」

「え、ミシェル?」




 そのまま走り去る。

 ああ又、やってしまった。

 これでは、アレクサンドラに誤解されてしまう。


「…………バカなのはオレだろ……」


 物陰まで走って、ガックリと肩を落とした。

 いつもこうだ。彼女に前に出ると、つい見栄を張ったり、意地を張ったり。


「――――そろそろ、ちゃんと話さなくちゃいけないのに」


 騎士学校の卒業と、騎士への就任。

 それが彼女の父親が定めた最低ラインだった。



「今度の舞踏会が勝負だ」



 エスコートもしたいけど、無理ならせめて一番に彼女とダンスを踊ろう。

 誰よりも早く彼女の手を取って、それから、それから――――


 顔に熱が集まってくるが首を振って払って、気合を入れ直す。




「よし! 頑張るぞ!」




 舞踏会の日。オレは、アレクサンドラにプロポーズする。




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