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5・お色気王子と舞踏会の夜


 煌びやかなシャンデリアが照らす大ホール。

 その中央には一人の清らかな乙女が不安げな顔で立ち尽くしている。

 中央の階段を降りてやってきた一人の男が乙女の前に立った。


「美しいお嬢さん。宜しければ、私と一曲」


 差し出された手に、乙女は恥ずかし気にはにかみながら自らの手を乗せる。

 やがて軽やかなワルツが流れ始め、二人は手を取り合い踊り始めた。


「今宵の君はまるで月の女神のようだ。どうか、私だけを照らしておくれ」

「殿下…」


 ウットリと乙女が男を見つめる。

 二人は自然と距離を縮めていった。



「ああ、愛してます。美しい私のアレクサンドラ……」



 ――――――――

 ――――――

 ――――



「お兄様、イメージトレーニングはそれくらいになさって下さいませ」

「イライザ……今、いい所だったのに……」

「どうせ役には立ちませんわ。お兄様はヘタレですもの。声を掛ける事で精一杯のくせに……せめて今夜は手ぐらい握られませ」

「…………」


 容赦のない妹の口撃に撃沈する。

 いいじゃないか。妄想の中で位、カッコつけたって。

 ヒソヒソと妹と話しながらも、目は会場の一か所に釘付けだ。――――正しくは一人にだが。

 誰よりも美しい立ち姿が目を惹く我が愛しのアレクサンドラ嬢は、今宵もとても美しい。

 延々とどうでもいい事を話している父の話を半分以上聞き流しながら、私は彼女を見つめた。


「お兄様、分かっておりますわね? お父様の無駄話が終わった直後が勝負ですわ」

「分かっている。スタートダッシュが勝負の分かれ目だからな」


 いつもはここで失敗するのだ。

 父の話に義理で拍手をしている内に、彼女は親衛隊に取り囲まれてしまう。

 そして、グズグズしていると私の方にも人が集まってしまい、舞踏会の間中、身動きが取れなくなってしまうのだ。人の壁に阻まれ、私達は悲劇の恋人のように引き裂かれてしまうのである。


「恋人どころか、いいとこ顔見知りじゃないですか」

「何故、お前は私の脳内にまで突っ込みを入れるんだ」

「お兄様は分かり易いのですわ」


 妹が溜息を吐いた時、父の無駄に長い話が終わった。

 拍手などしている時間はない。

 よし、行くぞ!


「殿下! 宜しければ、私と一曲踊ってください!」

「いいえ、殿下! どうか、私と踊ってくださいませんか!」

「殿下! 宜しければ、僕を踏んでください! お願いします!」


 踏み出そうとした瞬間、令嬢A、令嬢B、変態Cが道を塞いできた。

 拍手をしながら先手必勝で攻めてくるとは…いや、最後の奴。踏まないからな。

 そうこうしている間に拍手が終わり、人が動き始める。

 今回も駄目なのか――――



「お兄様!」



 ハッと振り返れば、妹がさっさと行けというジェスチャーを送ってきた。

 そうだ、ここで諦めてはいつもと同じ。


(私は約束したんだ。アレクサンドラ嬢と!)


 私は視線を前に向けて、はっきりと言った。




「退いてくれないか」

「はふんっ!」




 言った瞬間、前方を遮っていた三人の腰が砕け、崩れ落ちる。

 え、何で? 退いて欲しいって言っただけなのに、何これ怖い!

 ビクビクとしていると、三人の後ろにいた人々も、ペタンペタンと次々腰が砕けていくではないか。

 ヤダ、何これ、怖いんですけど? 私、ただ退いてって言っただけなのに!

 オロオロしていると、妹から叱咤が飛んだ。


「ヘタレ! 早く!」


 もう兄とすら呼ばれていない事が気になったが、これはチャンスだ。だって、彼女まで一直線に道が空いている。

 私は足早に彼女の元へと向かった。

 倒れている人を踏まないように気を付けたが、何人かは踏んでしまったし、女性のドレスは裾が長い為かなり踏んでしまう。

 足元から『ありがとうございます』という謎の感謝の言葉が聞こえてきたが、聞こえないふりをして彼女の元へと進んだ。


「アレクサンドラ嬢!」


 声が弾む。

 やっとやっと、彼女と踊れるのだ。



「アレクサンドラ嬢、私と…………え?」



 思わず足が凍り付いた。

 すぐ近くまで来るまで気付かなかったが、彼女の手を握っている者がいる。




「――――何で殿下が……」




 唖然としたように澄んだ声が響く。

 彼女の手は、少女のように美しい少年に既に握られていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] いいですねー、こーゆーの、大好きですよ。 続きが楽しみすぎますね!!
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