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1・お色気王子の日常

アルファポリス様に掲載させて頂いていたお話をこちらにも上げます。

既に読んだ事ある方、まだ読んだ事がない方、どうぞお付き合い頂ければ幸いです。

 私の名はレオンハルト・フォン・オルヴィア。


 オルヴィア王国の第一王子だ。

 王族のみが持つ銀髪と紫紺の目。幼い頃から王族に相応しい品格と教養を求められ、博識と柔軟な思考、全ての人々の模範となる人格を持てと厳しく躾けられてきたし、私自身、いずれは国の頂点に立つ器となれるよう、努力し続けてきた。

 そう、私は二十年間、ずっと努力し続けてきたのだ。


「あ、王子殿下よ」


 誰かが囁く声がする。


「相変わらず、何て美しいのかしら」

「本当に。銀色の髪がキラキラと輝いていらっしゃる」

「ええ。見て、あの美しい白い肌。光を弾いてあんなに瑞々しくいらっしゃる」

「愁いを帯びた瞳が何て艶めかしいのかしら」

「顔に掛かるほつれ髪の一房がとても扇情的だわ」

「ええ、そうね」

「全く持ってそうね」

「同意以外ないわ」



「相変わらず、何てエロいの…!」

「………」


 聞こえてるんだけど。髪も目も王族の標準装備なんですが。



「本当に歩く姿を見るだけで、もう私はしたない事になりそうですわ!」

「え、貴女も? 私もあの方を見ているだけでもう…!」

「仕方がないわ。あの方はエロスの化身ですもの! 全身をフェロモンで覆ってらっしゃるのよ…!」


 誰がエロスの化身か。生まれてこの方、そんな怪しげなもので体を覆った覚えなどない。



 そう。私はこの十八年間、ずっと民の模範であれと努めてきたというのに、現実は無常だ。



「よ! エロ王子! 今日も大人気だな! って、何震えてるんだ?」


 ―――コイツ、殴ってもいいだろうか?



 私が理不尽さを堪えていると、後ろから声が掛かる。

 余りにも失礼な言葉に眉を吊り上げて振り返れば、案の定、そこには私の幼馴染にして従兄弟である公爵令息が立っていた。


「おいおい、そんなに睨むなよ。本当のことを言われただけで」


 そんな事実は一切ない。


「仕方ないだろ。お前のエロさは常軌を逸しているんだから。道を歩けば、男女関係なく見惚れて崩れ落ちる。声を聴けば妊娠して、目が合えば出産するって言われている程だし」


 化け物じゃないか。


「生まれた瞬間に性に目覚め、五歳で第一子を身籠らせ、王国民全員抱いたっていう伝説のエロスの化身なんだからさ!」


 誰の話だよ。本当にそうだったら怖すぎるだろ。というか、私は生まれてこの方、誰一人抱いていない。私の私はずっと新品のままだ。


「恋人千人、愛人万人、お前を想う人間は百万人と言われているしな。男でも三秒目が合えば、尻を差し出すって程だ」


 お前はただちょっと見ていただけで、頬を染めながら尻を差し出される恐怖を知らないからそんな笑っていられるんだ…!


 ………そう怒鳴ってやりたいが、言えない。

 何を言っても惚れられるし、気が付いたら恋人ぶってくるのが怖すぎて、私はコミュ障気味なのだ。

 代わりに何も言わずにジロッと睨んでやった。

 頬を染めて、そっと無言で尻を差し出される。

 私はスルーして廊下を歩き始めた。

 幼馴染ですらこれだ。誰も信用できない。

 この顔か? 母譲りのこの顔がいけないのか?

 それとも髪か? 目か? 私の何がそんなにエロいというのだ?

 ああ、もう引き籠もりたい。誰もいない場所へ行きたい。

 ああ、これから会議へ行くのも憂鬱だ。

 父の命令で毎回きちんと時間通りに出席しているのに、私がいると皆見惚れて話が進まないと父に追い出される。じゃあ、何で呼ぶんだ。ああ、行きたくない、行きたくない。


「キャッ! 見て、王子殿下よ!」

「ひゃあ、愁いを帯びた瞳が何て麗しいの…!?」

「エロいわ」

「エロいわ」


 …………無人島へ行きたい。


 ウンザリとしながら歩いていると、前から何やらカツカツと音が聞こえる。

 ハッとして顔を上げれば、廊下の向こうから一人の女性が歩いてきた。



「アレクサンドラ嬢!」

「殿下」



 顔を輝かせて駆け寄れば、相手は歩みを止めて私へ目礼する。

 その仕草の何て優雅な事だろう。

 彼女を見上げながら、私は胸を高鳴らせる。

 王国の女性騎士であり、女性将官でもある彼女、アレクサンドラ・グローライトはとても美しく、とてもカッコ良い女性だ。

 燃えるような赤い髪に、馨しいブランデーの様な琥珀色の目。

 一般的に長身と言われる私より少し高い身長に、私の倍はある逞しい筋肉。キリリとつり上がった眉に、引き結ばれた唇。

 大の男をも投げ飛ばす怪力、一瞬で戦場を駆け抜ける脚力、卓越した頭脳から生み出される戦略は何度も我が国の危機を救った。

 彼女は伯爵令嬢であると同時に、国の英雄なのだ。

 戦場で生まれ、その時から父親と共に戦場で生きたという伝説の戦士である彼女は、毎年社交が行われる季節になると父親の名代としてやって来る。


 今日は何て素晴らしい日だろう。――――だって、彼女に逢えた。


「アレクサンドラ嬢、明日の舞踏会には参加されますか?」


 アレクサンドラ嬢は無言で頷く。

 寡黙な所が又、凄くカッコいい。彼女は多くを語らない。有言実行ではなく、不言実行なのだ。ヤバい。カッコいい。惚れる。いや、もう惚れている。


「では又、明日会えますね。明日は是非、私とも踊って頂きたい。楽しみにしています」


 ニヤニヤしてしまうのを何とか堪えながら、私は思わずスキップしそうなほど浮かれて、その場を後にした。

 アレクサンドラ嬢は私を見て奇行に走らない。とても優しい。それにとても綺麗だ。

 私は何度も彼女に助けられている。


 彼女は私の英雄でもあるのだ。



「やったぞ! 明日こそ、彼女をダンスに誘おう!」



 いつも邪魔が入るけど、明日こそは絶対彼女と踊るのだ。そして、そして――――ああ、緊張してきた!

 私はウキウキで会議へと向かう。

 顔が緩んでいたからか入った瞬間、父から退出が命じられた。解せぬ。






「…………で、殿下にダンスに誘われた……う、嬉しい……」


 王子の微笑みを見て死屍累々となった廊下で、強面令嬢がコッソリと頬を染めた。



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