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天才の君の隣に立ちたくて  作者: パールさん
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鋼鉄の導

前回の話より少し短いです。すいません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー2068年9月8日


 「え、どういうことですか?」


 昨日のこともあり、少し遅めに面談室に入った。

 だが、島村さんは咎める様子もなく、むしろ長く息を吐き呼吸を整えていた。

 その後、間髪入れずにこう言われた。

 

 『純一くんは第二特攻隊に配属したわ。リボルデン内で最強の部隊よ。気をつけてね』


 全く意味がわからない。昨日はあんなに僕を戦闘員にしたくないと言っていたのに。

 それになんでそんな部隊になったんだ。

 僕はただ人並みでいいんだ。


 「言った通りよ。あなたはルビナ部隊に配属になったの」


 「え、ルビナって?」


 「ああ、まだ言ってなかったわね。14歳の時に交通事故で“死亡”。その後ルビナという名でリボルデンに入隊。あなたも受けたテストで、周りを大きく引き離す結果を叩き出した。当時までに蓄積されてたデータの中でも最高ね。ちなみに今でも彼女の記録を上回る結果は誰1人として出せてないわ。ミッション成功率92%の天才よ。状況判断力がずば抜けて高く、更にそれを正しく処理するだけの知能、運動能力も兼ね備えてるわ」


 そんな、なんで僕なんかが。

 何もできないのに。居るだけで人の不幸を買うのに。なんでそんな人の部隊に行かなきゃいけないんだ。

 僕が頼んだのは事実だけど、だからって、無謀すぎる。


 「⋯⋯気をつけてね。死なないように。それじゃあ、この後早速ルビナに会ってもらうわ。彼女は第一基地にいるの。そこまでの移動は地下連絡ポッドを使うわ。あなたの端末にデータを送っておいたから、ステーションまで行って。そこからはスタッフがいるからその人の指示に従ってね」


 「え、待ってくださいよ。どこいくんですか」


 島村さんは面談室の奥にある別の部屋に入り鍵をかけた。

 何回か扉を叩くが返事がない。開ける気はないようだ。

 ⋯⋯わかったよ。変わるって言ったのは僕だ。せっかく与えられたチャンスなんだ。文句を言える立場ではないのだ。行くしかない。


 端末の案内に従い基地を練り歩く。

 相変わらずこの基地は人が少ない。数十分ほど歩いているにもかかわらず1、2人しかいないのだ。それに講堂にいた他の人たちはどうなったのだろう。彼らとも演習以降は会っていない。

 ステーションとやらに到着する。闇に溶けている漆黒のトンネルが左右に伸びていた。トンネルの下には電磁式のレールが敷いてあり、その上には卵形のポッドが数個浮いていた。

 すると黒服に身を包んだ怪しげな男性が1人現れる。顔にもスカーフを巻いていて表情が見えない。


 「お前が、純一か?」


 男は低くかすれた声で僕に言ってきた。


 「あ、はい」


 「ならこれに乗れ。後は俺が操作する。お前はただ座っていればいい」


 そう言うと彼はポッドに乗った。

 僕も後に続いてポッドに乗り込む。

 狭いように見えたが中は4人分のシートが設けられていて、座り心地も良さそうだ。

 僕は黒服の斜め後ろに座りシートベルトをつける。


 「動くぞ」


 男はそれだけを言うとポッドを加速させた。徐々にスピードは増していきコイルの駆動音が増していく。

 トンネルの中はたまに光がぽつぽつと現れるだけでほとんど真っ暗だ。ポッドに窓はついてるもののあまり意味がないように見える。


 「付いたぞ。降りたらお前の端末に従え。ルビナ様は第四会議室にいらっしゃる」


 「わ、わかりました」


 男は僕が降りるのを見るとすぐさまポッドを動かして帰っていった。

 第一基地のステーションは放射場にトンネルが伸びていた。きっと第一、第二基地以外にも基地があるのだろう。


 <第四会議室へのナビゲートを開始します>


 端末の指示に従い僕は曲がりくねった通路を歩いていく。

 第二基地はすこし寂れた感じがあったが第一基地は異なった。

 白衣を着た医者や研究者、戦闘服を着た隊員、資料を抱えてうろつく事務員。彼らが縦横無人に交差している。ようやく組織という実感が湧いてくる。








 「ここが第四会議室」


 リフトなどを駆使してようやくたどり着いた。ナビシステムがたまに表示がおかしくなったのでここにくるのには無駄な時間を浪費してしまった。

 ナビのホログラムの左上に書かれている集合時間までは1分もない。

 僕はすぐに部屋の中へ駆け込んだ。


 「お前が純一か?早くしろ、ミッション開始時刻はすぐだ。我々も所定位置に急ぐぞ」


 会議室に入るとそこには綺麗な桜色のショートヘアを持った女の子が居た。

 丸い縁のメガネをかけてはいるが、その中で輝く赤い瞳は僕を力強く射抜いている。

 身長は160後半といったところか。華奢な体つきに似合わず体にはボルトアクション式のライフルを抱えている。肩からは弾薬を仕舞うポケットがついたベルトをかけていて、フードの付いたローブの下に動きやすそうな戦闘服を着ていた。


 え、なんでこんな人が⋯⋯。

 僕の第一印象はこれであった。

 

 「おい、早くしろ。時間がないんだ。お前の戦闘服も用意してある。これを着て私についてこい。武器は向こうの棚から好きなのを持っていくがいい。言っておくが私の指揮は荒いことで有名だ。気を抜かすなよ」


 無機質な表情でルビナは言う。

 この人は何を言ってるんだ。ミッション?それはどう言うことだ。訓練もなしに実戦だと?

 なんで島村さんが死ぬなと言ったのかがすぐに分かった。


 「聞こえなかったのか?」


 僕は彼女の目力に押され、すぐに着替える準備にとりかかった。だが、カーテンも何も用意されていないためルビナに見られるかも知れなかった。

 僕は出来るだけ彼女を見ないようにズボンを履き、上の服を着てボタンを閉めた。

 ふと、ルビナの方を見ると、彼女はパイプ椅子に座り興味なさげに扉の方を見ていた。

 僕は銃を選ぼうとしたのだが、何を選んでいいかわからなくなった。

 昨日の演習である程度銃の知識は付いたが、結局僕に何が合うのかはわからない。

 とりあえず、ズボンにハンドガンをしまうポケットが付いていたのでマシンピストル式のハンドガンを仕舞い込む。ついでに予備のマガジンを上着のポケットに入れる。

 次にメインで使う銃を決めなければならないのだが、僕は銃を扱うのには向いていないのだ。


 ⋯⋯。実戦で経験して強くなるしかない。

 今できないからと言って何もしないと成長には繋がらない。

 彼女はおそらく長距離狙撃が得意なのだろう。

 なら僕はサブマシンガンかアサルトライフルを持つべきだ。どんなミッション内容かは分からないが、分からないならバランスの良い部隊にすべきだ。

 なら、力のない僕でも扱える反動が軽い銃。

 これなんかどうだろう。


 僕は過去に自衛隊で使われたと聞くMP5に似たサブマシンガンを選んだ。

 替のマガジン3個程を持ち、昨日の演習を思い出しながら簡易医療キットや、その他必需品を仕舞い込んだ。


 「選んだか。なら行くぞ。ついて来い」


 ルビナは僕が銃を選び取るのと同時にこちらに振り向きそう言うと、扉の向こう側へ走っていった。

 僕も慌ててその後を追いかけるしかなかった。


 「ちょっと、早いよ」


 ルビナは基地内を凄い速さで駆け抜けていく。

 僕は時々人にぶつかりそうになりながらなんとか終えていたのだが、見失いかけてきたので声に出した。


 「おい、なんだそのため口は、私はお前の上官だ。もっと丁寧な言葉遣いをしてくれ。それと、私が早い?ちゃんとついてこれてるではないか」


 上官か。そうだった。僕の同級生⋯⋯今は違うか。元同級生と変わらない見た目をしてるんだ。どうしても身分の違いを忘れてしまう。

 それと、どこを見てついて来れてると思ったのだろうか。このままではミッションに行く前に疲れ果ててしまう。


 「この車に乗れ」


 がむしゃらに走っていると車両が多く止まっている巨大な駐車場に出た。ルビナはそのうちの一つ、頑強な装甲板で四方を囲んだ四輪駆動車に乗り込むと、僕を座るよう促した。

 僕が助手席に座るとルビナはすぐに発車した。

 駐車場内をドリフトしながらスロープを登っていき、やがて地上に出た。

 久しぶりの日光に目を焼かれながら外を見ると、どうやら森の中のようだ。


 「飛ぶぞ」


 ルビナの声が聞こえると車両は土手から飛び出していた。

 呆気ないことに悲鳴を上げてしまった。

 車は低い駆動音を響かせながら道路に降り立った。


 「おい、ミッションについて説明するぞ。よく聞け。VECからの犯行予告が国内軍に通達された。場所は第3環γ区のショッピングモールだ。そこにこれから移動する。近くに移動したら車を降りて近くのビルに立て籠る。相手が行動を起こし次第すぐに対処する。他にもいくつかの部隊が近隣で待ち構えている。彼らと協力して敵を制圧せよ」


 え⋯⋯それだけ?他に何かないのか?

 そうこうしているうちに車はいつしか街中に入っていた。

 見慣れたビル群も見える。

 本当にこのまま敵と戦うのか。僕は本当に人を殺すのか。

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