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DEATH ERASE MINE/デス イレイズ マイン  作者: 堺 かずき
第3ゲーム
PR
16/16

第16章 死の家

「タヌキくんを連れてケモノの巣へ行こう」カジがそう言った途端、病院の出口へと行ってしまった。

「え、それって……」羅奈はカジの後を追う。この場に残されたヒカルと僕はその二人の背中を見届けていた。

「カジはおそらくホヅミのいる場所へ行ったな」ヒカルが言った。

「ホヅミのいる場所……?」僕はそう言いながら、思考を巡らせる。

 ホヅミが【いた場所】ならまだ分かるが、【いる場所】とはどういうことだ?ホヅミは急病で死んでしまっているのに現在形でホヅミが存在しているだと……?

「ヒムト。カジが今向かった場所について説明する」ヒカルはそう言うと周りを見渡しながら言葉を紡ぐ。

「ここでは話しづらい。俺の部屋に来い」ヒカルは患者や看護師のような人々が行き交っている光景を見て、僕たちは診察室へと向かった。


 *


 診察室に着くと、ヒカルと僕はお互いに丸椅子に座り、向かい合った。

「カジが向かった場所について知る前に予備知識が必要だ」

 ヒカルは重度の黒生病の患者や病院での治療の回復が見込めない重体患者は【死の家】に送ることを僕に説明してくれた。

「【死の家】に送る患者の基準が三つあり、一つ目が頭部や背腹部(はいふくぶ)に黒のまだら模様やケモノの毛が確認できること、二つ目が眠っている状態を除き八時間ごとの問いかけに三日間以上応じず意識無しと言えること、三つ目が赤い瞳であること。この三つをまとめて【生の禁忌】と呼ぶ。生の禁忌のどれか一つでも該当すれば重体患者として【死の家】に送られることになっている。また生の禁忌に触れた患者の家族や親友、恋人には、たとえ患者が生存していても死亡宣告しないといけない」ヒカルは言葉を続ける。

「ニンゲンは死んでも遺体として物質的に世界に残るが、マインは死んだら何も残らず、粒子となって消える。だから医療研究があまり進んでない。黒生病もほとんど謎に包まれている」ヒカルはそう言いながら立ち上がった。

「死の家での重体患者はケモノになって初めて銃戟隊によって討伐される。クレーンの近くに配置されている銃戟隊には死の家について了解を得ている。銃戟隊がクレーンの住民にどのような説明をしているのかは俺は知らないが」ヒカルはそう言いながら診断室の奥へと歩みを進める。僕はヒカルの言葉を聞いて今の銃戟隊の状況を思い浮かべた。

「銃戟隊のほとんどが乗っ取られましたよ」僕はヒカルにそう言った。

「乗っ取られただと?一体どういうことだ」ヒカルは進んでいた足を止める。

「殆どの銃戟隊がヨロズという会社の社員によってコンティニューブレスを使って捕らえられ、隊長のグンが引き連れていた小隊だけはまだ捕らえられていない状況です」

「コンティニューブレス……つまりは死の家の近くに銃戟隊はいないのか」ヒカルはそう呟いた。その時、僕は少し違和感を抱いた。しかしその違和感はすぐさまどこかに消えていった。

「銃戟隊を捕らえて何がしたいんだヨロズの連中は……」ヒカルはさらに呟き、言葉を続けた。

「銃戟隊が居なければ死の家で発生したケモノは討伐されなくなる。そうすれば……」ヒカルの言葉はそこで止まった。


 *


「一ノ瀬グループ突撃開始!前線の丸井と安田は目標を発見したら報告しろ!」突如、死の家の外で大声が鳴り響いた。

 一ノ瀬ってクレーンで銃口を住民に向けろとヨロズの社員に命令した人だよね……

「ねぇ!あいつらをここに通しちゃいけない!食い止めて!」カジはオノムさんの肩を叩きながらそう言った。

「おう分かったぜ!」オノムさんはカジの言葉を汲み取り、背中の大剣を手に取る。

 外で十数人の足音が聞こえる。そして入口からの光が人影で遮られた。

「生存者発見!」入口で声が聞こえる。

「突入中止!一時待機!」別の人の声が響くのと同時に十数人の足音が止まった。私はオノムさんの後ろへ歩き、入口の様子を見た。外には背中にライフル銃を装備し、左手首に赤いコンティニューブレスを付けた男の人たちがいた。コンティニューブレスの画面は灯っていない。もしかしてヨロズの社員たち……?

 一人がライフル銃を構えながらこっちに近付いてくる。薄暗い屋内で顔ははっきり見えない。もしかしてこの人が一ノ瀬なの?

「そこで何をやっている?」一ノ瀬と思われる男は私たちに問いかける。

「あなたたちは誰?そっちこそ何をしに来たの?」カジは男の質問に対して無視し、腰のホルダーに手をかけながら質問を投げた。

「俺はヨロズの会社の一つのグループリーダーである一ノ瀬だ。クレーンの住民からケモノの討伐を依頼されたため、ここにやって来た」一ノ瀬はカジの質問に対して答えた。

「ここにケモノは居ないわ。だから離れなさい」カジは一ノ瀬に言ったが、一ノ瀬は近付くのをやめない。

「お前はショッピングモールの子どもか?」一ノ瀬は私の顔を見て疑問を抱いた。

 やばい。銃戟隊本部で私はヨロズの社員全員から捕獲されそうになったけど逃げることが出来た。けどここでヨロズの社員たちに見つかってしまった。

「中の様子を見させてもらう。退け」一ノ瀬は顎をしゃくり、どこかへ行けと私たちに示した。

「私を捕まえないの?」私は一ノ瀬に質問した。

「ああ。俺らのグループの任務はお前の捕獲じゃない。しかし捕獲にあたるグループには連絡するがな」一ノ瀬はそう言った。

 私を捕まえるグループがいるという情報を手に入れたのは大きい。

「もう一度言うぞ。そこをさっさと退け」

「ここは通さない」オノムさんが大剣を構え直しながら、一ノ瀬に対して言い放った。しかし一ノ瀬は手を挙げ、声を上げた。

「総員突入!」

 すると後ろにいた十数人のヨロズの社員が一斉に死の家になだれ込んできた。

 オノムさんはヨロズの社員を死の家の中に入れないように大剣を構え、カジはオノムさんの隣に立ちヨロズの社員を迎える。

 しかし、死の家は元々は老人ホームであり通路の幅が広く、社員は二人の隙間や壁際をすり抜け死の家に入ってしまった。

「まずい!」カジはヨロズの社員たちの行く先を見るために振り返った。

「重度の黒生病罹患(りかん)者を確認!それぞれに対し銃口を向けろ!」一ノ瀬はすぐさま目が虚ろでケモノになりそうな人のこめかみにライフルの銃口を向ける。

 一ノ瀬に続き、ヨロズの社員は黒生病の人におでこや心臓の辺り、みぞおちなどの人の弱点に銃口を向ける。

 このままライフルの引き金を引かれてしまったら瞬時に多くの命が奪われてしまう。


 *


「人が前触れもなく、急に光の粒子となって消えていく現象は知ってるか」ニンゲンは己に質問する。

「ああ。何回も目の当たりにしている」

「まだ確証は掴めていないが、おそらく【コンティニュー関係のニンゲンとマインはどちらかが死ぬと、もう一方が消える】」

「ニンゲンとマインはどちらかが死ぬと、もう一方が消える……?」己はニンゲンの言葉を頭で理解するために復唱した。

「もう一回言うぞ。俺が死んだらグンも死ぬことになる。もちろんグンが死んだら俺も死ぬことになる。理解したか?」

「それじゃあ今この場で己がお前を殺したら、己は消えるのか」

「そうだ。俺とグンは一蓮托生だ」目の前のニンゲンは椅子に縛られたまま倒れていた己を起こし、椅子に座った状態へと戻した。

「だからお互い困難を乗り越えるため手を組まないか?」ニンゲンは言葉を続ける。

「困難だと……?」

「今、万師定はそれぞれの十のグループに対して指令を出している。俺が把握しているそれぞれのグループの指令は、八手と九重はヨロズの社員の食料確保、六車はヨロズの会社警備だ。一ノ瀬、双見、五見、七浦の指令はまだ分からない」

「なぜ己にお前たちの状況を説明する?」

「俺とグンは目的が一緒だからだ」

「目的……?」

「俺達のグループの目的は【ヨロズの社員とその家族、交際相手のヨロズからの解放】だからだ」

「お前たちのグループの目的と己の目的は全然違うだろ……」己はそう言ったが言葉が止まった。そして気付いた瞬間に言葉が出た。

「まさかヨロズの社員全員と捕らえられた銃戟隊全員がコンティニュー関係ってことか?」

「ああ。ヨロズの社員だけがここから逃げ出してもコンティニュー関係の銃戟隊がここにいて殺せばヨロズの社員も殺せる。俺達のコンティニュー関係の銃戟隊を捕獲していないのは自分の命、そして銃戟隊の命をヨロズ、いや万師定の手に収めないためだ」

「そう言えばラナが大剣を持った銀髪の男に『銃戟隊を避難させろ』と伝言をもらって来ていたのは他のヨロズの社員に銃戟隊の行方を分からなくさせるためか……!」

「そうだ。だが銃戟隊本部にグンがいきなり現れたのは計算外だった。あのまま師定にグンを殺されると俺は死んでしまうためコンティニューせざるを得なかった」ニンゲンは銃戟隊本部での出来事の心中を明かした。

「さらに羅奈とカジを銃戟隊本部に連れてきたのも予想外だ」

「カジが勝手に着いてきただけだ。ラナもカジに着いてきた」

「そうか」ニンゲンは一つ呼吸をした。そして言葉を続ける。

「残りの銃戟隊は今どこに居る?」

「最後に確認した場所はアサヒという場所だ。建物の一階にいるだろう」

「分かった。俺達のグループには伝えてはおくが、コンティニューし捕獲するためには行かないでおこう」

「よし、それなら己も銃戟隊解放のためにお前に手を貸そう」己はニンゲンの協力関係になることを宣言した。

「ならば銃戟隊確保のタイムリミットまでの九日間でのヨロズの社員と家族、交際相手および銃戟隊解放までのプランをここで話そう」

「その前に一つ確認したいことがある。ニンゲン、お前の名前を知りたい。銃戟隊本部で聞いたはずだが、その時はいささか覚えようとしなかった」

「十師斜だ。十師と呼んでくれ」

「分かった。トシ。銃戟隊と社員の解放についてのプランを教えてくれ」

「銃戟隊とヨロズの社員解放のために俺らの敵となるのは社長である万師定と一ノ瀬グループだ。そのほかのグループが味方になるか敵になるかは分からない。もし銃戟隊とヨロズの社員解放のことが万師定の耳に届いたら必ず対処してくる。そのためには……」トシからプランについて三十分間真剣に話し合った。


 *


 師定の部屋に師定とミユ、カイがいる。

「ヨロズの社員って本当に信頼できる人達なの?」ミユが師定に対して質問をする。

「仕事として任務を遂行するはずだ。それなりの報酬は払ってるからな」

「ふーん。どうやって集めたの?」ミユが師定に対して質問する。

「グループリーダーの全員は大卒以上で面接して精鋭を集めている。その他の大半は【ゲーム入社】だな。ゲーム入社は学歴を全く見ずに、主にシューティングゲームの強さで採用するかどうか決めている」

「しゅーてぃんぐげーむ??」ミユは頭を傾け、指を顎に当てながら分からないジェスチャーをした。

「説明するより、やった方が分かりやすい」師定はモニターとゲーム機の電源を入れ、コントローラーを持ち操作する。

「これがげーむってやつ?」ミユは興味津々でモニターを大きな目で見る。カイも流し目ながらも物珍しそうにモニターを見ている。

「DEATH ERASE MINEとは別のゲームだが、やってみろ」師定はミユにコントローラーを渡す。モニターには男が銃を持っている。三人称シューティングゲームだ。

 ミユはモニターの目の前に座る。コントローラーのスティックを右に倒すと、モニター内の男は足音を立てながら右に走っていく。

「え!右に動いた!すごいすごい!これって前に倒したら前に動く?」ミユはそう言いながらスティックを前に倒す。

 するとモニター内の男は前に走っていく。

「え!前に動いた!すごいすごい!これって左に倒したら左に動く?」ミユはそう言いながらスティックを左に倒す。

 するとモニター内の男は左に走っていく。

「え!左に動いた!すごいすごい!これって後ろに倒したら後ろに動く?」ミユはそう言いながらスティックを後ろに倒す。

 するとモニター内の男は後ろに走っていく。

「え!後ろに動いた!すごいすごい!これって前に倒したら……」

「もう分かっただろう」ループに入りかけたミユにカイが指摘した。

「エリア内にいるプレイヤーを撃って最後の1人になることがこのゲームの目標だ。メルムが起こる前は人間同士で戦うゲームだったが、今回はNPCと戦ってもらうがな」師定がゲームの説明をする。

「えぬぴーしー?ってなに?」ミユが首を傾げながら質問する。

「コンピュータのプログラムによって自動で動くキャラのことだ」師定はミユに説明する。

「射撃するボタンはスティックの横のボタンだ。やってみろ」

 師定の言葉を聞いたミユは本格的にゲームを始める。

 モニター内の男はおぼつかない走り方でエリアを走っている。しかしすぐに途中で出くわしたキャラに射撃され、あっという間に負けてしまった。

 モニターは倒れる男を映していた。

 画面内でのランキングの表では下から数える方が早いぐらいだった。

「もう終わり??つまんなーい」ミユはコントローラーをソファに投げた。

「シューティングゲームでの射撃の能力を見てヨロズの社員を選別していった。ゲームでの射撃が優れていると、実際の射撃では少しの訓練があればすぐに実戦レベルに上達する」師定はゲーム入社についての目的についてミユとカイに説明した。

「ふーんそうなんだ」ミユは適当な返事を師定にした。

「カイもこのしゅーてぃんぐげーむやってみてよ!」ミユはソファに投げたコントローラーを拾ってカイに渡そうと差し出した。

「分かった。やろう」カイはそう言いながらコントローラーを手に取る。

「見ていたと思うが操作は……」師定はカイに操作説明をしようとしていたが、カイは説明を遮るようなジェスチャーをした。

「必要ない」カイはモニターの目の前に行き、モニターを注視しプレイを始める。ミユと師定もモニターを見る。

「あれ?この男の人ってさっき死んじゃったんじゃないの?」ミユはモニター内の男に指を差して師定に質問する。

「どういうことだ?」師定はミユの意図が分からず、聞き返す。

「さっきは死んでなかったってこと?生き返ったの?」ミユはさらに言葉を重ねる。

「こいつらは死んでもいないし生きてもない。ただ男たちは生きていると俺たちが思っているだけだ」カイがミユの質問に答える。

「こいつらはただのデータに過ぎない。モニターの電源を切ればこいつらは消える。コントローラーの指示に従ってるだけのただの器だ」師定がカイの言葉に付け足す。

「ゲームっていうのは大概そういうものだ。DEATH ERASE MINEは異例中の異例だよ。本物の世界を使ってゲームを作るのは」

「ねえDEATH ERASE MINEって何で作ったの?」ミユは師定に質問をした。

「それは……」師定はDEATH ERASE MINEのあらゆる経緯をミユとカイに喋った。


 *


「重度の黒生病罹患(りかん)者を確認!それぞれに対し銃口を向けろ!」一ノ瀬はすぐさま目が虚ろでケモノになりそうな人のこめかみにライフルの銃口を向ける。

 一ノ瀬に続き、ヨロズの社員は黒生病の人におでこや心臓の辺り、みぞおちなどの人の弱点に銃口を向ける。

「一体何をしてるの!?」カジはヨロズの社員全員に対して質問する。

「ケモノになる前にここで始末する!」一ノ瀬はカジの質問に答えながら、ライフルを持っている腕に力を入れる。

「撃たないで!」私は叫んだ。

「あ?」私の言葉に一ノ瀬は眉間に皺を寄せた。

「いずれケモノになって暴れられて面倒になるより今殺しておけば何も問題ないだろう!」

「だからって人の命を奪っていい理由にならない!」私は再び叫んだ。

「なんだと?こいつらを殺すこととケモノを殺すことは一緒だろ?」しかし一ノ瀬は反論する。

「違うよ」私はぼそっと言った。

「確かに私、世界が反転して私の意思で身体を動かして目の前のケモノを討伐すると、だんだん命を奪うことに抵抗感が大きくなった。私は必死に考えたの。何で命を奪うんだろうって」私は言葉を続ける。

「死の家にいるケモノになりかけてる人達を見て分かった。この人たちはまだ生きてるって!ケモノになるから先に命を奪うなんてあなた達のただのわがままで自分勝手な行動は許しちゃいけない!」私は何故か目から涙を流しながら叫んだ。

「はぁ?近くの町の破壊や住民たちの皆殺しをやすやす見過ごせって言うのか?お前がこいつらを殺したくないならそう思っておけばいい」一ノ瀬はライフルの銃口を真下に向け、ライフルの引き金を離す。

「だが、俺のグループは全員そうは思っていない。悪の芽を摘むのは早い方がいい」一ノ瀬は一度、息を大きく吸って大声を放つ。

「総員!撃て!」死の家に一ノ瀬の声が響いた。

 しかし時間が経っても銃声は一つも聞こえず、静寂を保った。

「聞こえなかったのか?総員撃て!」一ノ瀬の度重なる命令でも一ノ瀬のグループは誰一人ライフルの引き金を引かなかった。

「丸井!安田!木下!なぜ撃たない!女で子どものあいつに同情したのか!」一ノ瀬はグループの社員の名前を呼ぶ。

「クソ!これだからゲーム入社のやつは使えない!社長にはここでの出来事をそのまま話す!いいな?」一ノ瀬はそう言いながらライフルを構え直し、さっき狙っていたケモノになりそうな人のこめかみに銃口を向けようとしている。

「ダメ!」カジはそう言いながら一ノ瀬に駆け寄ろうと足を踏み出した。だけどカジが一ノ瀬を止めるよりも先に一ノ瀬が引き金を引いてしまう。もう間に合わない。

「その人はまだケモノにならないよ」突然、どこからか声がした。私でもオノムさんでもワタヌキさんでもカジでもない。ましてや一ノ瀬やヨロズの社員でも無い。女の子の声だ。一ノ瀬はその声に気を取られ、引き金を引くのに一瞬、間が出来た。

 ドカッ。

 カジが一ノ瀬の身体に体当たりをして、一ノ瀬は倒れ込み、手に持っていたライフルが床に落ちる。

「このアマ!何をするんだ!」一ノ瀬は身体の上に乗ったカジに言葉で責めるが、カジは一ノ瀬に身動きを取らせないように両腕で身体を捕まえる。

「ねえ!その銃を取って!」カジは私に目線を向けながら、床に落ちた一ノ瀬のライフルを指差した。

「分かった!」私はすぐさまライフルに向かって走り出す。

「木下!あいつを止めろ!」一ノ瀬は私の近くにいた社員に指令を出す。

「了解!」木下と呼ばれた男はライフルの銃口を黒の毛で覆われた人から外し、ライフルを背中に背負い、私に向かって走り出す。

 しかし、私は木下に捕まる前に一ノ瀬のライフルを手に取った。

 そして、向かってくる木下にライフルの銃口を向ける。木下は両手を上げたままの状態になった。

「クソ!遅い!」一ノ瀬は木下を叱責する。

「あなたたちは何をしに来たんですか?」女の子の声が死の家にいる人たちの耳に入ってくる。

 私は女の子の声がする方に目を向ける。するとそこにはケモノの黒の毛で覆われておらず、瞳の色が赤にもなっていない元気そうな女の子がいた。

「あっホヅ……」女の子を見たワタヌキさんがそう言いかけて口を噤(つぐ)んだ。

 まさか、あの女の子がホヅミちゃん……?

「ここでは元気な人は用の無い場所です」ホヅミちゃんは私たちやヨロズの社員など、重度の黒生病患者以外の人に向かって喋っている。

「あなたこそ元気そうに見えるけど」カジはホヅミちゃんの容姿を見て疑問を投げかけた。

「私は一度、生の禁忌である赤い瞳になりましたが、死の家に来た時は赤い瞳が消えました。だから私はここから出ようと思いましたが、死の家にいた男の人から死の家でのルールを教わりました」ホヅミちゃんの言葉は続く。

「『死の家から許しが無い限り、自ら出るということはあってはならない。たとえ自分が軽度の黒生病だと思っても病院の先生たちが下した判断が間違っていることではないし、死の家の近隣にいる住民に影響を与えてしまう。だから死の家に留まることだ』と言ってました」ホヅミちゃんは死の家のルールを喋った。

「だからあなたは【死の家の管理人】になったって事だよね」カジはそう言った。

「死の家の管理人?」ワタヌキさんが首を傾げた。

「死の家は人とケモノの間である生物が人としての過去を振り返る清らかな場所。そしてケモノとなる生物は死の家から出る」カジは死の家について話す。

「赤い瞳は生の禁忌に触れてる。だけど赤い瞳が治まるほどの軽度の黒生病だから死の家からは出られない。だから死の家での管理人になるってこと」カジは死の家の管理人の説明をする。

「そういうことです」ホヅミはカジの説明を肯定する。

「今ここにいる重度の黒生病患者は最低でも三回、日が沈んでもケモノにはならない人達です。私には分かります」

「何でそんな事が分かるんだ?お前は医者か?」一ノ瀬はホヅミちゃんの言葉に疑問を持つ。

「理屈や論理ではありません。なぜかはわかりませんが直感でケモノになりそうな度合いなどが分かります」

「なに?直感でケモノになりそうな度合いがわかるなんてありえない」一ノ瀬はそう言った。

 しかし私はホヅミちゃんがいうことにはしっくりくるものがあった。

 ケモノの大群を銃戟隊と討伐しようとした時、グンさんの包帯で巻かれた腕に激痛が走りもだえた後に、突然激痛が収まりケモノの気配が分かるようになったことがある。のちにグンさんは包帯に巻かれた腕にはケモノの黒の毛が生えていて黒生病を患っていることを知った。

 もしかしてケモノの気配が分かるようになったのは黒生病の症状が進んだから……?

 グンさんみたいにケモノの気配を感じることができるように、ホヅミちゃんも黒生病の人の症状の重さがわかるようになったのかな……?

「人の名前を大声で呼んだことや、重度の黒生病の人を殺そうとしたことなど死の家のルールに反している行為を行なったコンティニューブレスを着けている男の大人たちはここから立ち去ってください。悪意を感じます」ホヅミちゃんは一ノ瀬を含め、ヨロズの社員に向かって言葉を放つ。

「ふん。分かった。ここから立ち去る。総員ここから出るぞ」床に倒れたままカジに捕まえられている一ノ瀬はヨロズの社員に向かって指令を出す。

「……了解」ヨロズの社員はケモノになりそうな人に対して構えていたライフルを背負い、それぞれ死の家の出口へと向かう。

「おいアマ。俺から離れろ」一ノ瀬はカジの腕から逃げようと身じろぎをしながらカジに言葉を放つ。

「変な真似すれば私の拳銃でいつでもどうにもできるからね。あとあなたのライフルは私達が預かる」カジはそう言いながら一ノ瀬の顔を窺(うかが)う。

「……分かった」一ノ瀬はそう言いながら身じろぎをやめた。そうするとカジは対応するように一ノ瀬への拘束の腕を解いた。

 一ノ瀬は静かに立ち上がり、両手を上げながら死の家の出口へと足を向ける。

「このままお前らのやりたいようにやれると思うなよ。これは忠告だ」一ノ瀬は捨て台詞を吐きながら死の家から出ていった。

「ふう。とんでもない奴らだな」オノムさんがヨロズの社員への感情を吐き出す。

「今後も絡みたくない輩だ」カジもヨロズの社員のイメージを吐き出す。

「さあ私達もここから出よう。ここはケモノでも人でもない生物の居場所」カジはそう言いながら死の家の出口へと向かう。

「そうだね」私もカジの言葉通り、死の家から出ようとホヅミちゃんに背中を向けた。

「待ってください」突然、ホヅミちゃんから私たちの足を止める言葉が出た。

「何か用?私たちまだ元気なんだけど」カジは振り返りながらホヅミに質問する。

「ケモノを狩るハンターとしてあなた達に用があります」ホヅミちゃんは言葉を続ける。

「あちらの方向にケモノの気配があります。もしかしたら重度の黒生病の人かもしれません。ケモノであれば討伐、黒生病の人であればこちらへお送りしてほしいのです」ホヅミちゃんはクレーンの住民たちとカジがケモノごっこをしたサッカーコートがある方向へ指を差している。

「距離と数は?」オノムさんがホヅミちゃんに対して質問する。

「一人、もしくは一体。距離は歩いて二十分から三十分ぐらいです」

 まさしく死の家からサッカーコートまでの距離だ。

「分かった。黒生病の患者であればここに連れてくるし、ケモノであればそのまま討伐してここには戻らない。それでいい?」

「はい。気配が分かるので私への報告も要りません」ホヅミちゃんはそう言った。

「それじゃ行ってくる」カジは死の家の出口へと向かった。

「あの、今後はどうするんですか?」私はワタヌキさんに向かって質問した。

「とりあえずこの子と色んなことを話してみるよ。また何か用があったらクレーンに来て欲しいです」

「分かりました」私はそう言いながら死の家から出ることにした。

「元気でやれよ」オノムさんもホヅミちゃんとワタヌキさんに励ましの言葉を送りながらケモノの気配へと足を向けようとした。

「あーそうそう伝えることがあったんだ。忘れてた」死の家の出口からカジが戻ってくる。

「死の家の周りに銃戟隊がいなくなった。今後はどうするか考えていて欲しい」カジは伝えたいことを伝え終わると、またも死の家の出口へと足を向ける。

「銃戟隊がいない……?それってどういう……」

「まだ私たちはこの周りでうろちょろしとくから方針が決まったら私達に伝えて欲しい。ケモノがいる場所に私たちはいるから」カジはそう言いながらホヅミちゃんに背中を向けて死の家から出ていく。

「『この周りでうろちょろしとく』ってやっぱり優しいじゃん」私はカジの一見厳しそうな言葉に優しさが見えたのでぼそっと呟いた。

 私はカジの後ろに着いていく。


 *


 コンコンコン。師定の部屋にノックが三回鳴り響いた。

「入ります」そう言って一ノ瀬は金属製の扉を開けた。

「どうした?」師定はそう言いながら目線は一ノ瀬には向いていなかった。

「社長、今は何を?」一ノ瀬は扉を閉めながらベッドの上に腰を掛けている師定に近付きながら、師定の目線の先を見る。

「どう見てもミユのゲームを見てるだけだろう」

「あーもうむかつく!なんでカイはゲームが上手いの!」ミユは手元にあったボールをソファにぶつけ、ストレス発散する。

「はあ……」一ノ瀬はミユの態度に呆れたように生返事をする。

「それで何か用か」師定は一ノ瀬に対して入室の意図を問いただす。

「はっ。実は今日、ケモノの巣だと思った建物に突入した際に、実際は重度の黒生病罹患者が住まう【死の家】だったことが判明したのですが、重度の黒生病罹患者はケモノになる可能性があったため、部下に黒生病罹患者への発砲を命じたのですが、どうやら生命を奪うことを恐れ発砲をしなかったのです。このままだと今後、スムーズに社長の指令を遂行できるかどうかわからないのですがどうしましょう」一ノ瀬の言葉に師定は一度、思考を巡らす。

「指令が遂行できないということは一ノ瀬グループの失態だな」

「やっぱりヨロズの社員は信用できないって」ミユは一ノ瀬の報告を聞き思ったことをぽろっと口に出す。

「おいこのガキ!何でぽっと出のやつが会社のトップレベルの地位にいるんだよ」

「はあ……!?そんなんだからあんたの部下が指令を聞かないんじゃないの?そのチクチク言葉をぽんぽん出てくるその口をどうにかするのが先じゃないの?」

「うるさい!そもそもお前に用はないんだよ!社長に用があるからここにいるんだ」

「一ノ瀬。もうやめろ。命令だ」師定は一ノ瀬に口喧嘩を止めるように指示する。

「分かりました」一ノ瀬はそう言って師定の指示を素直に聞く。

「もうむかつく!ゲームもうまくいかないしイライラする!もう外出る!」ミユはそう言いながら師定の部屋の扉を開け、出ていった。外からぺちぺちと裸足で階段を下りていく音がする。このままだと一階まで下りていきそうな勢いだった。

「おいミユ!」カイは出ていったミユを追いかけるために師定の部屋から出た。階段を下りていく音が響く。ミユよりも速いリズムだった。

「あの二人はヨロズの部外者ですよね?なんで会社の建物に立ち入って……」

「ミユとカイに関してヨロズの社員は一切口を出すな。集会の時に話したと思うが……?」

「そうでしたね。すみませんでした」一ノ瀬は師定に深く頭を下げる。

「一ノ瀬グループには【仕事の報酬】の話はしていないのか?」

「いえ、そんなはずは……」

「なら、なぜ部下は命令に背き対象への発砲を拒否したのか?その話にはもっと裏があると感じるのだが」

「実は死の家にノートパソコンを奪った女で子どものニンゲンとそのコンティニューボディ、そして取り巻きがいまして、生命を奪うことへの感情論をニンゲンが訴えてきたのを部下がまじまじと聞き入れ、対象への発砲の指令を受け入れなかったのです」

「ふん。それならばいっそもっと平和ボケした部下に説教しなければならないな」師定はそう言うと、再び深く考え込む。そして言葉を放った。

「お前のグループに一番出来が悪いと感じる部下はいるか?」

「……はい。木下という奴です。木下は死の家でニンゲンのコンティニューボディにタックルされてヨロズの装備であるライフルをニンゲンに奪われました」一ノ瀬は師定にそう報告した。

 しかし実際に起きた出来事はカジに体当たりされ、手に持っていたライフルを落としたのは一ノ瀬であり、一ノ瀬のライフルを取ろうとした羅奈を止めるために羅奈の近くにいた木下に命令したのだが結局奪われてしまったのだ。木下は本来、一ノ瀬が背負うべき失態を擦り付けられたスケープゴートに仕立て上げられた。

「木下が申請した家族・交際相手はいるか?」

「いえ、独り身です」

「……そうだな。なら他の部下にいい教育が出来るな」師定はそう言いながら言葉を続ける。

「死の家にニンゲンとコンティニューボディがいたと言っていたな」師定は羅奈とカジについての存在を一ノ瀬に訊いた。

「はい。そうですが……」

「そこでニンゲンとコンティニューボディは何をしていた?」

「えっと……」一ノ瀬は死の家に突入する時から死の家の管理人から追い出された時の出来事を思い出す。

「憶測ですが、死の家にいる黒生病罹患者の状態を確認していたかと思います。ニンゲンとコンティニューボディの他に銀髪の大剣を持った男と青年がいたのですが、死の家の管理人が現れた時に青年が驚いた表情をしていたので探していた人なのではと思います」

「そうか……銀髪の男はなぜそこにいた?黒生病罹患者ではないだろう?」

「そこまでは私もわかりません」

「そうか。分かった。ニンゲン捕獲にあたっているグループに死の家にニンゲンがいたことを連絡しておく」師定は一度、部屋の扉に目を向け、一ノ瀬に視線を戻した。

「一ノ瀬。ミユとカイを連れ戻して来い」

「なぜいまミユとカイを……」

「これは命令だ!聞こえなかったのなら繰り返す!ミユとカイを連れ戻して来い!」

「はっ!」一ノ瀬はそう言ってミユとカイを探すために師定の部屋から急いで外に出て扉を閉める。階段を駆け下りていく音が師定の耳に入る。

 一ノ瀬の階段を下りる音が聞こえなくなった時、師定の部屋の扉が開かれた。

 師定は部屋に入ってきた人物に声を掛ける。

「ミユ、カイ。一ノ瀬は信用に値する人物か?」ミユとカイは一ノ瀬が入ってくる前の場所に戻った。

 実はミユとカイは建物の途中の階まで下り、ミユとカイのいた階を一ノ瀬が通り過ぎると二人は足音を立てずに最上階にある師定の部屋まで戻ってきたのだ。

 二人は一度、目を合わせて師定を見る。

「あいつぜーったい信用できない。だって悪口言うしむかつく奴」

「ミユの目にはそう見えたのかもな。だが俺はそうはいかない。もっと根拠がある。師定への報告に嘘を混ぜ込んでいた」

「どんな嘘だ?」

「その前に事実であろう部分を話そう。事実は『死の家ではニンゲンのコンティニューボディにタックルされてヨロズの装備であるライフルをニンゲンに奪われました』であるが、主語が違う。一ノ瀬の説明だと木下がライフルを奪われたが、本来は一ノ瀬本人だろう。わずかに声が掠(かす)れてた。あの掠れは嘘を吐くときに出る現象で事実を述べるだけなら本来出ないはずだ」

「そうか……」師定はカイの言葉を聞いて一度、深く考え込む。

「一ノ瀬が申請した家族・交際相手はいるか?」師定は先ほど一ノ瀬に木下のことを聞いた時の質問を一ノ瀬に代えてカイに質問する。

「そうだな。調べてみるか」カイはそう言って師定の部屋の扉を開け、木製のドアで仕切られている社長室へと入っていった。社長室にはヨロズの社員の情報が載っている紙が束ねられている。

 カイが社員の情報が載っている紙の束を上にめくりながら師定の部屋に入ってくる。

「一ノ瀬は以前、配偶者の申請があったが、度重なるモラハラやパワハラ等の理由で離婚していて申請を取り下げている。現在は独り身だ」カイは一ノ瀬の情報を師定に伝える。

「ならば一ノ瀬を使って社員に再度伝えるか……悪の芽を摘むには早いほうが良い」師定はそう言ってミユとカイに目を向ける。

「ミユとカイにお願いがある」

「なに?師定のお願いって」ミユは再びゲームするためにコントローラーを握りながら喋った。

「ショッピングモールでのニンゲン捕獲失敗や一ノ瀬グループの死の家での失態により今一度ヨロズの社員の不正や裏切り、謀反(むほん)の可能性が拭いきれないことが分かった。だからミユとカイには社員のグループ内における動向の監視と不正の調査をやって欲しい」

「え、むほん?絵本のこと?」ミユは師定の発した言葉の一つに引っ掛かりを感じた。

「裏切りをしないかどうか社員の行動をよく見るってことだ」カイは師定の言葉を噛み砕いて説明する。

「あ、そういうことね」ミユはカイの説明で理解した。

「それじゃあ早速とりかかろうか」師定はそう言ってベッドから腰を上げた。


 *


 私とカジ、オノムさんは死の家の管理人のホヅミちゃんの情報でサッカーコートへと足を進めている。

「オノム。このことが終わったら特訓をしよう」

「ああ。そうしよう。オレらはまだ甘いな」カジとオノムさんが私にとって謎の会話をした。二人は何のことか分かっているみたいだ。

「特訓って何をするの?」私はカジに質問をした。

「死の家でヨロズの社員たちを私たちは食い止められなかったでしょう?」カジはそう言った。言葉を続ける。

「私とオノムはケモノを狩るハンターだけれども、人と戦ったりは今までしてこなかった。今後はヨロズの社員っていう敵みたいな人たちと敵対するから対人戦を軸とした訓練を私とオノムですることにしたの」

「ああそうだ。こんな大剣を持ってるのに人をぞろぞろ入れちまってオレはオレに腹が立つぜ」オノムさんは背中に背負っている大剣をトントンと叩きながらそう言った。

「長年ケモノを討伐するけど人を殺めたりはしなかった。いつも相手はケモノで、人であったことは決してなかった。メルムが起きてから人との戦いになるのかもね」カジはそう言った。

「よし、じゃあ終わったらケモノごっこしたところで手合わせ願おう!」オノムさんは両手を合わせてカジに軽く頭を下げる。

「そうね。武器は無しで体術を伸ばしたい」

「そうだな。カジは手加減が出来ないもんなあ」

「はあ?あなたよりは手加減できるわよ。この銃で一発も撃てないくせに」

「撃てるぞ!何発も撃ってたじゃないか!」

「ふっ。あれを撃ったって思ってるの?面白いわね」カジはオノムさんに対してそう言った後、私に駆け寄って小声で呟いてくる。

「昔ね、練習で私の拳銃とオノムの大剣を交換してみたのよ」カジは昔の出来事を語る。


 *


「なあその拳銃オレに貸してくれないか?ちょっと撃ってみたい」オノムはカジの腰のホルダーに指を差して言って来た。

 ある森林のなかだった。洞窟に住み着いているケモノを討伐してほしいという依頼が私とオノムに来ていた。洞窟のケモノは一日に十分だけ外に出る習性があり、ケモノが出てくるところを討伐する算段だった。洞窟の前の森林はケモノが通ったせいで木々が倒されている。

 カジとオノムは洞窟の真正面にある木々が生えていない少しの平地でケモノを待ち構えている。

 しかしケモノを出てくるまでは時間が余るため暇つぶしとしてオノムは以前まで気になっていたカジの拳銃を触りたかったそうだ。

「いいよ。その代わりその大剣貸してくれない?ちょっと振り回してみたい」カジはオノムの背中に背負っている大剣を指差して言う。

 カジは一丁の拳銃を、オノムは大剣を手に取り相手に渡す。

「おっっも!」カジはオノムから離れたオノムの大剣を手にした瞬間、大剣の先端が地面につき、細い穴が出来た。持ち手は両手で何とか持てているようだ。

「おおっ意外と軽いな」オノムは一丁の拳銃を手のひらで何回か空に上げる。

「ねえこれどうやって持ち上げるの?このままだと全然振り回せないんだけど」カジは大剣を持ち上げようとしても地面に刺さった大剣の先端を中心として回ることしかできない。大剣の持ち手まで地面に落とすとカジ一人では持ち上げられないほどの重さだ。地面の穴がどんどん広がっていく。

「そうか?まあ包丁よりは重いと思うが。この拳銃ちょっと持ち手短いな」オノムはカジの拳銃を実際に撃つ持ち方をすると、持ち手の終わりがオノムの手のひらの中心で終わっている。カジが持つと手のひらで拳銃の持ち手を過不足なく持っていた。

「もう無理。もう持てない」カジは大剣の持ち手を地面にゆっくりと近づかせ、両手を離し、大剣を地面に横たわらせる。カジは両手をパンパンと擦り合わせる。

「これ撃ってもいいか?」オノムはカジに質問する。

「いいよ。あそこに撃ってみてよ」カジは一本の木に指差して言った。

「おっけーあそこだな」オノムは片手で拳銃を持ち、腕を伸ばしてカジの指差した木に銃口を向ける。

 パーーーン

 すると、オノムの体勢が後ろに崩れた。拳銃の反動で身体が後ろに圧されたようだ。弾は大きく外れ、木の右上に行ってしまった。

「くそー今度は当ててやる」オノムは立て直し、今度は拳銃を両手で持ち反動を抑えるように構える。

 パーーーン

 オノムの体勢は崩れずにそのまま立っている。

「今のは銃を意識しすぎて狙ったとこをちゃんと見てないから全然当たってない!」カジはオノムに指摘した。

「そうかそうか難しいな」オノムはカジに注意されて視線を木に集中する。

 パーーーン

「うわあああ」オノムは拳銃の反動を抑えきれずに後ろによろけてしまった。

「今度は狙いの木を意識しすぎて銃の反動を抑えられてない!さっきは出来てたよ!」カジにさっきとは違う撃つときのポイントを指摘した。

「よし、木と銃を意識すればいいんだな」オノムは再び銃を構える。木と銃を交互に見る。

 しかし、オノムは銃を構えるのをやめた。

「だめだ。全然集中できない。銃の反動を抑えるか狙いを定めるかどっちかしか出来ない。やっぱりオレはこの大剣でぶんぶん振り回すほうが性に合ってる」オノムは地面に横たわっている大剣を片手で軽々持ち上げて背中に背負う。

「えっすご。もう一回やって」カジはとてつもなく重い大剣をまるで葉っぱ一枚を持ち上げるかのような軽々しさで扱っているオノムの姿を物珍しそうに見た。

「もう一回?なにをするんだ?」オノムはカジのリクエストの意図が分からず、聞き返した。

「その大剣を置いて持ち上げてみて」カジはリクエストの詳細を伝えた。

「いいが、なんでだ?」オノムはそう言いながら背中の大剣を地面に置き、再び大剣を持ち上げ背中に背負う。

「ええすご。すごすぎてグロいかも」カジはオノムの一連の動作に驚きの表情を隠せないでいる。

 グオオオオオオオーーーー

 洞窟の方向でケモノの咆哮が聞こえた。

「おっどうやらケモノが外に出るみたいだ」オノムは背中の大剣を取り出し、大剣を構える。

「そうだこれを返す」オノムはずっと手に持っていたカジの拳銃をカジに差し出す。カジは無言で拳銃を手に取り銃を構える。腰のホルダーにあるもう一丁の拳銃は取り出さなかった。

 洞窟の中から黒い物体が出てくる。ケモノは四足歩行で身体全体に斑点が、額には縦縞(たてじま)があり、まだらな縞模様(しまもよう)の太く長い尻尾がある。まるで山猫のようなシルエットだ。しかし大きさは人の五~六倍であり大きなケモノである。

 山猫のケモノは、先ほどまで寝ていたかのように、のそのそとした足取りで倒れている木々を踏みつけながらカジとオノムに近づいてくる。しかし山猫のケモノはカジとオノムに気付いていない。

「弱点はあそこっぽい。一撃で仕留められるかも」カジはそう呟きながら山猫の正面に立ち、銃を構える。

 パーーーン

 銃声が森林の中を駆け巡る。山猫のケモノはカジの弾を額に直で受け止める。

 ギャオオオオオーーーーーー

 ケモノの断末魔が森林の中を駆け巡る。黒い四肢はそこですぐさま倒れ、木々をなぎ倒していく。長くて太い尻尾から山猫のケモノは黒の粒子となって消えていく。

「す、すげえな」オノムは一発でケモノを始末する光景と、自分がさっきまで持っていた威力が強い拳銃を器用に扱うカジの姿を見て感嘆した。

 そのとき、カジに向かって物凄いスピードで飛んでくる物体があった。カジは黒の粒子となって消えていくケモノに集中してその物体に全く気付いていない。

「あぶねえ!」オノムは真っ先にカジの表に立ち、背中の大剣を振るってその物体を弾き飛ばした。

 その物体は木片だった。山猫のケモノが倒れていく際にともになぎ倒された木々の一部が運悪くカジに飛んできていたのだ。

 弾き飛ばされた木片は他の木に刺さった。カジはその木片の行きつく先を見て青ざめた。

「礼を言うわ。ありがとう」

「どうってことねえさ。早く依頼完了したことを報告しないといけねえ」そう言ってオノムは依頼された集落へと足を向けた。カジもオノムの行動をまねた。

 これがカジとオノム、お互いの優れた武器の扱い方を認識したときの出来事である。


 *


「それから何回かお互いの武器を交換して遊ぶことがあるけど、一度も私の銃で狙ったとこを撃ったことが無いの。面白いでしょ」

「カジは大剣を持ち上げたこと一度もないだろう」オノムは背中の大剣を見やる。

「ふん。そうだけども」カジはそう言って不機嫌そうな顔をした。

 キュオオーーーーーーーン

 私達が目指している目的地の方向で高い鳴き声がした。おそらくケモノだろう。

「よし、あそこだな」オノムさんは背中の大剣を取り出し、両手に持つ。

「そうみたい。ラナ、コンティニューして」カジは走り出し、後ろにいる私を見る。

「うん。カジ、行くよ」私はカジを追うように走り出し、コンティニューブレスをカジに向けてボタンを押す。

 目の前が真っ暗になり、身体が浮遊するような感覚に襲われる。その感覚は一瞬で消え、足が地面を蹴って走っている感覚になって瞼を開ける。

 視界の端に緑の髪が揺れ動いているのが見える。

「おお。目の前でコンティニューしていくのを初めて見たぜ。不思議なもんだな」オノムさんが私のコンティニューしていく姿を見て感嘆している。そしてオノムさんもケモノの鳴き声へと走り出している。


 キュオオオオーーーーーーーーーーーン

 ケモノの鳴き声はクレーンの皆さんと一緒に鬼ごっこ……じゃなかった。ケモノごっこをしたサッカーコートから響いている。ケモノの動く地響きは未だに起きていない。

「オノムさん!ケモノを挟み込みましょう!」私はオノムさんに作戦を話した。

「そうだな。ケモノがどこを見ているか分からないし、違う方向で攻めたほうがケモノが混乱する」オノムさんはそう言って頷いてくれた。

「よし、お互い良い位置について、次のケモノの鳴き声で一斉に飛び出そう」

「はい分かりました」私はオノムさんの提案に頷き、オノムさんと別の方向へと足を進める。

 丁度サッカーコートから死角になっている自動販売機が置かれている小さな建物の物陰に隠れる。オノムさんはおそらく選手の控室が入っているであろう建物の陰にいる。オノムさんと別れてからまだケモノは鳴いていない。

「どんなケモノだろう……」私は今までのケモノの姿を思い浮かべる。私の家を襲ったイノシシのケモノ、アサヒでは巨人みたいな大きいサルのケモノ、銃戟隊の皆さんで討伐したヤマアラシのケモノ、クレーンの近くの【死の家】から出てきたイタチのケモノ。

 キュオオオオオオオオーーーーーーーーーーーン

 ケモノの鳴き声が鳴り響く。私は両手に拳銃を持って銃口をサッカーコートの真ん中へと向ける。

 すると、そこには予想していなかったケモノの姿があった。

「おいラナ!これケモノか?」サッカーコートの向かいからオノムさんの声が聞こえてくる。

 オノムさんが知らないケモノの姿。

 それは人の七倍ぐらいの大きな球体だった。まるでダンゴムシが丸まったみたいな丸だ。

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