第13章 烏の身
社内で突然の放送が鳴り響いた。
「グループリーダー十名、至急社長室へ集合してください」
俺の所属しているグループのリーダーがおもむろにオフィスチェアから立ち上がりこの部屋から去った。放送は社長の緊急招集に違いない。俺が入社してから放送でのグループリーダー全員の呼び出しは一度も行なわれたことは無い。それほど今回は会社にとって重大な出来事なのだろう。この部屋に居る社員は放送があってからそわそわしている。近々、大規模なリストラを実施する情報が出回っている。噂程度ではあるが社員たちは自分がリストラされるのではないかと怯えている。この部屋にいる社員は同じグループで仕事を続けてきた仲間だ。
グループリーダーが社長室から帰ってきた。
「おい手を止めて話を聞け。今後に関わる重要な話だ」
「社員のリストラですか?」同僚がリーダーに質問する。
ニュースで騒がれていることについて社長から会社の方針を伝えられたのだろう。
「リストラなんて会社の今後に関わるようなちっぽけなことじゃない」
「じゃあ何のことについてですか?」
「世界の今後についてだ」グループリーダーはふざける様子もなく真顔で話している。
「今からの話を聞いて退職することも可能だ。その場合、各々の自己都合退職ではなく人員整理による会社都合退職として処理する」
「その話って何ですか?」同僚が聞くと、リーダーは一息吐き口を開く。
「ゲームの世界と私たちが住む世界が入れ替わる【メルム】が起こる」
部屋がざわめく。リーダーは言葉を続けた。
「この会社に居る社員はメルムの後に元にいた世界に戻り、最低限の生活を営める権利を与える。しかしメルムの発生後にこの世界に戻った際、社長命令に背くことや反逆行為が確認された場合、権利を剝奪する」
「オレらそんなことしないですよ!」
「もしものためだ。頭の片隅にでも入れておけ」
「なあ。それって家族はどうなるんだ!オレだけだったらゲーム界に家族を残して……」
「家族もこの世界に連れてきていい。最低限の生活を社員と同様に送れるように手配をする」
「そうか良かった……」同僚はリーダーの言葉に胸をなでおろした。
「概要は伝えた。この中で退職を希望する奴はいるか?」リーダーが質問するが、手を挙げる人は居なかった。
「では話の続きをしよう……」リーダーは言葉を続ける。




