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第97話 イコとライザ

《《イコとライザの名において、我らの棲み家として(ちぎり)を交わさん》》



 ヴィオレが連れてきてくれた、他には居ないかもしれない姉妹妖精が、玄関扉に手を添えて呪文を唱える。すると体が白い光に包まれ、二人の手から扉の中へ吸い込まれるように浸透していく。


 やがて光が収まると、そこに浮かんでいた姿は先程とは違い、着ているものがメイド服になっていた。この世界で何度か見た使用人の服装でなく、いわゆる喫茶店で見られるようなフリルの付いた可愛いエプロンに、頭にもひらひらしたカチューシャをつけている。服は黒に近い濃紺で、肩の部分がふっくらボリュームのある長袖と、(すね)の辺りまであるスカートのワンピースだ。


 黒い革靴と白いソックスを履き、首元には赤いリボンも添えられており、身長こそ二十センチ程度しかないが、どこからどう見てもオムライスにハートマークを描いてくれそうなメイドさんだった。



「ふぉぉぉぉぉー、何その服、超かわいい! 作り方を参考にしたいから脱いで、さぁ早く」


「おやめになって下さいなのです」


「あ~れ~、お助けぇですよ」


「リュウセイ、後生だから離して、ヤるなら今しかない!」


「落ち着くんだソラ、それだけは絶対に駄目だ」



 二人に掴みかかって服を脱がそうとするソラを、慌てて後ろから抱きしめて制止する。イコもライザも結構ノリノリだったが、この世界にも時代劇は存在するんだろうか。



「ねぇイコちゃんライザちゃん、どうしてメイド服に変わったの?」


「これはこの家にあった使用人の思念(イメージ)なのです」


「家に影響を与えた方が持っていた服装が再現されたのですよ」


「俺の持ってる使用人(メイド)印象(イメージ)がこんな感じだな」


「あっ、お兄ちゃん、私もこんな子が家事を手伝ってくれたらいいなって思ってた」


「つまりこれは俺と」「私の」「「影響を受けたってことだな(だね)」」



 それならさっきの帯を引っ張られながらクルクル回りそうなやり取りも、俺たちの持つイメージを読み取られてしまったのかもしれない。ヴィオレとはまた別の神秘的な力があるのは、やはり妖精族だからなんだろう。



「これって、とーさんとかーさんの世界の服?」


「そうだよライムちゃん、お母さんのいた国ではこんな格好をした人が、お店で給仕をしてくれてたんだ」


「元々あった使用人の服を、父さんたちの国が独自に発展させたのがこの服装なんだ」


「私は凄く可愛くていいと思いますよ」


「この服を着て、ご主人さまにご奉仕したいです」


「私もこの服を着て、あるじさまに食事とか運ぶよー」



 クリムとアズルが着るとねこみみメイドさんか、特定層に大人気になるのは間違いない。その姿を想像してみたが、素晴らしいビジョンしか浮かばなかった。



「それで二人は、この家だと家の妖精としてやっていけそうか?」


「はい、ここはとても素晴らしい家なのです」


「この家なら妖精のスキルも使い続けられるですよ」


「まあまあ、それは凄いじゃない、やってみてもらっても構わないかしら」


「はいなのです」


「いくですよ」



大きくなるのです( 人 化 )

大きくなるですよ( 人 化 )



 呪文を唱えた瞬間に再び二人の体が光りに包まれ、それが一気に大きくなる。やがて光が収まるとイコとライザの身長が、真白の肩くらいの高さに大きくなっていた。背中にあった羽も消えて、耳が少し尖っている以外は普通の少女と全く変わらない。


 着ているものもそれに合わせて大きくなったので、メイド服のディテールまでしっかりと確認できる。俺に抱きかかえられたソラが、また二人に掴みかかろうとしたので制止した。



「家の妖精はこんな事が出来るのか」


「これなら普通に生活もできそうだね」


「掃除や洗濯はお任せ下さいなのです」


「料理を作ったりも出来るですよ」



 普通の家だと限定的にしか力を使えないため、この姿になることはまず無いらしい。それは家の妖精が使う魔法に関しても同様で、家の保守だったり屋内の生活環境だったり、どれかに絞って力を行使する。


 ところがこの家だと妖精の使える魔法全てに加え、人化スキルを同時に使っても大丈夫ということだった。それだけの力を秘めているのが、ここに出来た聖域ってことなんだろう。



「リュウセイ離して、もう襲ったりしない、後ろの構造とか見るだけ」


「わかったよ、自重してくれるなら問題ない」



 少し落ち着いてきたらしいソラを離すと、後ろに回って観察したり覗き込んだり、色々な方向から二人を観察している。そしてしゃがみこんでエプロンやスカートの裾を触っていたが、突然それを上にめくりあげた。


 ソラにはもう一度、自重という言葉を覚えてもらう必要があるみたいだ。



「スカートの中、真っ黒で何も見えない、どうして?」


「それは結界魔法なのです」


「私たちはこの姿でも飛べるので、下から覗かれても平気ですよ」



 二人は玄関にある雨よけの(ひさし)を超えてフワフワと上昇していったが、確かにスカートの中には謎の暗黒空間が広がっている。いくら見えないといっても、じっと見つめるのは失礼なので視線を戻したが、結界魔法というのは凄いな。



「封印のようなことも出来るので、掃除道具とかしまっておけるのです」


「収納魔法とはちょっと違うですが、とても便利ですよ」



 とりあえずいつまでも玄関の外にいても仕方ないし、中に入って自己紹介から始めよう。



「とにかく歓迎するよ、これから家族として仲良くやっていこうな」


「よろしくお願いしますなのです、旦那様」


「よろしくお願いしますですよ、旦那様」



 何やら、俺の立ち位置はこの家の(あるじ)になっているみたいだ……



◇◆◇



 二人の見立て、というか直感によると、俺がこの家の(あるじ)で真白が夫人になるようだ。それを聞いた真白は大喜びだったが、奥様呼びだけは拒否していた。他のみんなもお嬢様呼びしされそうになって、全員が断っている。カスターネさんも同じことをしようとしていたが、使用人にはそうした暗黙のルールでもあるんだろうか。


 結局、俺の旦那様呼びだけは覆らなかったが、他のメンバーは様呼びで、ライムだけはちゃん呼びで納得してもらった。



「つまり、必要な材料さえ買ってくれば、靴を脱いで生活する家に出来るってことだな」


「はいなのです、旦那様」


「厨房の床も石畳のようにすれば問題ないですよ」


「凄いねお兄ちゃん、これでバニラちゃんもベッドやソファーに、気兼ねなく上がれるようになるよ」


「よかったね、バニラちゃん」


「キュキュー」



 いくら汚れない体だとしても、埃や砂は多少付いてしまうので、この家全体が日本様式になれば、バニラも快適に過ごせるようになる。しかも妖精の魔法を使うと、短時間で終わってしまうらしく、明日の朝に材料を買ってきて作業してもらうことにした。



「一緒に家の傷んだ所も直してしまうのです」


「古い家なので弱くなってる部分があるですが、新築同様に修理するですよ」


「凄いんですね家の妖精って」


「お任せくださいなのです、コール様」


「二人で力を合わせると、普通の妖精より大きな魔法が使えるですよ」


「自分で誘っておいてなんだけど、とんでもない子を連れてきてしまったわね」



 二人が結界魔法を使うと、家の中を外から覗かれないようにしたり、音や匂いを完全に遮断することも可能になる。やろうと思えば家全体を見えなくすることも出来るらしく、プライバシーの確保や防犯に関しては王城すら超えているだろう。



「この家、大陸一安全」


「二人がいてくれると、俺たちが冒険者活動で家をあける時も、バニラを安心して任せられるな」


「掃除や洗濯はもちろんのこと、庭や花壇のお手入れもやりますので、気兼ねなく活動して下さいなのです」


「バニラ様に危害が及ぶようなことは、起きないようにするですので、安心して下さいですよ」


「キュイーン」



 聖域化や姉妹妖精やら、本当に今日は濃い一日になってしまった。家事全般の知識が備わってる二人は料理も作れるらしいが、そこだけは真白が譲らなかったので、コールと四人で共同作業をする事になった。真白の持つレシピを習得した二人は、全ての面で他の家妖精を凌駕する存在になれそうだ。



◇◆◇



 調理人数が倍に増加して更に凝った料理も可能になった晩ごはんは、とても美味しかった。料理が出来るだけあって、イコとライザの二人は普通の物も食べられるし味もわかる。経験がなくても妖精として知識を持って生まれてきた二人は、そのどれとも該当しない真白の作る料理に感動していた。


 家族が一気に三人増えた食事も賑やかに終わり、洗い物はいつも以上のスピードで完了した、妖精の力というのは本当に凄い。そして、今日のお風呂は真白とソラとライムとバニラが一緒に入り、コールとクリムとアズルとヴィオレにヴェルデも加わって一緒に入っていた。


 俺は一人のお風呂を満喫しているが、家の様子を自分の目で確かめておきたいと、仕事に精を出していたイコとライザはどうするんだろう。そんな事を考えながらかけ湯をしていたら、浴室の扉が突然開き二つの人影が入ってきた。



「お背中流すのです、旦那様」


「頭も洗ってあげるですよ」


「ちょっと待て二人とも、さすがに一緒にお風呂は問題があるぞ」


「マシロ様が“二人はしょうがくせいだから大丈夫”と言ってくれたのです」


「ヴィオレ様は“絶対にお風呂は体験した方がいいわよ”と言ってくれたですよ」


「だからって俺と一緒に入る必要はないんじゃないか?」


「私たちはお風呂に入ったことがないから、旦那様に教えて欲しいのです」


「それに一緒に入った方が、お湯も時間も節約できるですよ」



 さすがは家の妖精だけあって、そんな所はしっかりしてるな。それに見た目は確かに小学生だし、同じ妖精でもヴィオレの時のように狼狽してしまう気持ちにはならない。ここは親戚の子供と一緒にお風呂に入ると、思考を切り替えよう。



「小さくなった方がいいですか?」


「私たちはどっちでもいいですよ?」


「いや、せっかくだしその大きさで入ってみよう、頭や背中は俺が洗うよ」


「やったーなのです」


「嬉しいですよ」



 見た目の年齢相応のはしゃぎ方をする二人を椅子に座らせ、かけ湯をしてから順番に頭や背中を洗っていく。それが終わった後に、俺も同じように洗ってもらった。


 イコとライザは全身を洗おうと張り切っていたが、それだけは断固として拒否している。



「お風呂にはいってみた感想はどうだ?」


「これは素晴らしいものなのです」


「野良のままだったら味わえなかった幸せですよ」



 結んでいた髪を解いて少し雰囲気の変わった二人と、湯船に浸かりながらのんびり話をする。今日はとても濃い一日だったが、最後の最後でこんなイベントが待ってるとは思わなかった。



「妖精は寝る必要がないとヴィオレは言ってたが、二人はどうするんだ?」


「睡眠にも挑戦してみるのです」


「寝る時に使う服はコール様からお借りしたですよ」


「二人には少し大きすぎるから、明日は私服や寝間着も買っておこうな」


「こんな家にお仕えできるなんて幸せなのです」


「私たちの()める家なんて、どこにも無いと思っていたですから、感謝の気持でいっぱいですよ」


「俺も二人に来てもらえて良かったと思ってるよ、ありがとう」



 イコとライザの頭を撫でると、嬉しそうに微笑みを返してくれる。二人がいてくれるおかげで、家に関する心配事が完全に無くなってしまう。それに、日本様式の生活が出来る目処が立ったというのが、とても嬉しい。


 そのまま十分温まり、二人を連れてお風呂から出ることにした。


マイホームに思い入れのある日本人らしく、あらぬ方向に影響を及ぼしました(笑)

そしてお約束(?)の生娘コマ回し。


資料集の方を更新して仲間たちの項目にイコとライザを、サブキャラの竜族にフィドを、泉の花広場に白蛇を、それぞれ追加しています。


次回が8章の最終話になります。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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