第95話 白い竜
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突然現れた白い竜の目的とは……
それでは、お楽しみ下さい。
『お主たち待っておったぞ』
突然上空から降りてきた真っ白の竜が、そう言って俺たちを見下ろしてくる。この登場の仕方はベスと同じだが、待っていたとはどういう事なんだろうか。
「ふぉぉぉぉぉぉー、竜! また竜に会えた。みんなと居ると、これがあるから嬉しい!!」
「疲れてるんだから、あまり興奮すると良くないぞ、ソラ」
「帰るまでリュウセイに抱っこしてもらう、ずっと離れないようにする、だから平気」
「来るときはライムがとーさんに肩ぐるましてもらったから、帰りはソラおねーちゃんの番だね」
「ソラちゃん頑張ったもんねー」
「あの頑張りは私も見習いたいです」
「ソラさんの姿を見てると凄く応援したくなります」
「わかるよコールさん、ソラちゃんからは凄く一生懸命さが伝わってくるもん」
「リュウセイ君の近くにいると、私の種族スキルをずっと受けていられるから、存分に癒やされるといいわよ」
「リュウセイやみんな、応援してくれたから頑張れた、こうやって少しづつ体力つけていく」
『……すまぬが、妾を無視して話に興じるのは、やめてくれまいか』
「おっとそうだった、直前に感動的なことがあったから、そっちに気を取られてたよ」
『まあ、構わぬのだがな……
……ベスのやつと同じ登場の仕方をしたのは、失敗だったのぅ』
小声で何やらブツブツ言っているみたいだが、空気を震わせるような響きは近くの動物や鳥を怯えさせている。若干音量を絞ったところで、元の体が大きいからつぶやきは丸聞こえだ。
「さっき待っていたと言っていたが、それはどういうことなんだ?」
『数日前から妙な気配を感じておったのだが、さすがに街の中に顔を出すわけにはいかぬゆえ、それが外に出てくるのを待っておったのだ』
「その気になる気配というのは、一体何なんだ?」
『人族のお主の腰につけているものが、気になっての』
「邪魔玉を浄化した後にできた、透明な玉がここに入っているが」
『やはりお主たちが、ベスの言っておった流れ人とその一行か』
「ベスじーちゃんのこと、しってるの?」
『最近ベスのやつから面白い話を聞いてな、妾も会ってみたかったのだが、お主たちだったとは幸運だの』
そういうことなら話をしてみたいが、いかんせんここは高台で目立ちすぎる。何となく遠くのほうが騒がしい気がするので、一旦ここから離れた方がいいだろう。
「ここで話をしていると目立つから、どこかに移動したいと思うんだがどうだろう」
『確かに遠くのほうがちと騒がしいの、どこか良い場所はあるか?』
「泉のそばに霊木が生えていて、年中花が咲いてる場所は知ってるか?」
『お主たちが邪魔玉の浄化をやったという聖域だな、そこなら人目にも付きにくかろう』
「俺たちは転移魔法でいけるから、そこに移動しようと思う」
『ベスに聞いておったが、流れ人はとんでもないことが出来るの……
妾もすぐ飛んでいくゆえ、そこで話をしようではないか』
「バニラちゃんに会えるね、とーさん!」
「予定とは違ってしまったが、あそこでお弁当を食べような」
「聖域で食べるハチミツは格別だし、私は大歓迎よ」
「あるじさまー、いっぱい走ってお腹が空いたから早く行こー」
「私もいつもよりお腹が空いていますし、早速移動しましょうご主人さま」
「転移門を開くから順番にくぐってくれ」
『近くに竜族がおるというのに、お主たちは本当に悠々自適だのぉ……』
そんなフィドの声を聞きながら、俺たちは全員で転移門をくぐりバニラのいる聖域へと移動した。
◇◆◇
「バニラちゃーーーん!!」
「キューーーーーッ!!」
泉の花広場に転移すると、気配を察知してくれたバニラが霊木から飛び出し、ライムに向かって走り寄ってきた。幸い観光客もいないようだし、ここならゆっくりと話ができる。
「元気にしていたか?」
「キュイッ」
「今日もバニラちゃんは白くて可愛いなぁ」
「キュキュー」
真白や他のメンバにも頭を撫でられて、その度にバニラは嬉しそうな鳴き声を上げる。チェトレの街に行ってから一度会いに来ているが、花もバニラも元気そうで安心した。
みんなで再会を喜んでいたら、また風と共に白い竜がおりてきた。
『待たせたの、お主たち』
「王都からこんな短時間で来られるなんて、さすがは竜族だな」
「フィドばーちゃん速いね」
『妾はベスより若いゆえ、別の呼び方を希望するぞ、竜人族の子よ』
「じゃぁフィドおばちゃん?」
『ふむ、それくらいならまぁ良かろう』
「俺もフィドと呼ばせてもらって構わないか?」
『もちろん構わぬぞ』
全員が簡単な自己紹介と挨拶をすませたが、フィドには霊獣や霊木の意志がある程度わかるという特技があった。バニラがこうして俺たちのことを家族同然に慕っている気持ちを感じて、かなり驚いているみたいだ。
『助けてもらった恩があるとはいえ、ここまで霊獣に慕われるのは凄いの』
「やはり名前をつけたからじゃないか?」
『霊獣に名前をつけるなど妾も聞いたことはないが、そのような儀式で紡がれる縁があるとは、まっこと面白いものだ』
「それより、俺の持ってるものに興味があるんだったな」
『そうであった、妾に見せてはもらえぬか?』
「ずっとしまいっぱなしだったから、どうなってるかわからないが取り出してみるよ」
腰につけたポーチから布にくるまれた玉を取り出し、中身を露出させると以前とは違う姿をしていた。シャボン玉みたいに透明だった玉は、白くて虹色の光を反射するものに変わっている。
「白くなってるね、とーさん」
「いつの間にか変わってたんだな」
「前にヴィオレさんが言ってた聖魔玉っていうのになったの?」
「どうなのかしら、見たことがないからわからないけど、変な力は感じないわよ」
「聖魔玉、金色に光る、これ恐らく別物」
『小人族のソラが言う通り、これは聖魔玉とは別物ぞ』
「フィドちゃんには、これが何かわかるのー?」
「クリムちゃんったら、竜族のかたにまでそんな話し方で……」
『その程度のこと気にせず良い、獣人族のアズルよ』
「あの、フィドさん、悪いものではないんですよね?」
『安心せい鬼人族のコールよ、これは霊魔玉の卵のようなものゆえ、悪い影響は与えぬよ』
「霊魔玉、聞いたことない」
ソラですら聞いたことがないというのは、人には殆んど知られていない存在ということだろうか。そんな珍しいものが、どうして持ってるだけで生み出されたのか、疑問は尽きない。
『専門家を連れてくるゆえ、詳しい話はそれからするのが良かろう。お主たちは弁当とやらを食べておれ、すぐ戻ってくるでな』
そう言い残してフィドは飛び去ってしまった。それを見送った俺たちは、言われた通りお弁当を食べることにした。
◇◆◇
きれいな花を愛でながらご飯を食べ終え、今日頑張ったソラを膝の上に乗せてくつろいでいる。もちろん全員にあ~んをして食べさせたが、みんな大喜びだったし餌付けをしているみたいでちょっと楽しかった。機会があればまたやろう。
そうやって時間をかけてお昼を食べたので、食休みを始めてすぐに空から白い竜が近づいてきた。地上まで降りてきた背中には、白くて大きな蛇が乗っている。
『こやつはこの大陸に最も古くからおる霊獣でな、お主たちの持つ霊魔玉の孵化を手伝ってくれる』
「孵化って何かが生まれたりするのか?」
『先ほど卵と言ったゆえこう表現したが、殻に包まれている力を開放すると考えれば良い』
詳しく説明してくれたが、今の状態は活性化する前の霊魔玉といった感じらしい。これは聖域を維持する要の一つで、霊魔玉・霊木・霊獣の三つが揃うことで力を発揮できる。
「キュキュー、キュゥーン」
「バニラちゃん、なにを話してるのかな」
「きっとライムちゃんやみんなのことを、白蛇さんに話してるんだと思うよ」
「世界初の試み、慎重さ求められる」
本来なら不活状態の霊魔玉は、霊木の精気と霊獣の力を少しづつ与え、地脈が活性化する時期に合わせて開放する。今回は大陸でも有数の力を持つここの霊木、そして霊獣の長とも言える白蛇、更に地脈を操れる竜族の能力を集結して、活性化を試みようとしている。
どうしてそれに挑戦するかと言うと、バニラが俺たちと一緒に暮らしたいと、強く願っているからだ。その気持ちを汲んだフィドが、大陸最古の霊獣に相談してここまで来てもらった。あと、とても面白そうだというフィド個人の思惑もあったようだ。かなり好奇心の強い竜らしい。
「しかし、どうして霊魔玉に変化したのかわからないんだが、流れ人の力が関わっているのか?」
『霊魔玉は世界の意志が生み出すと言われておるのでな、同じ力が働いた流れ人が近くにおれば、その影響を受けて変化することも考えられよう』
「私やお兄ちゃん以外の流れ人は、霊魔玉の素材になるようなものを持ってなかっただろうし、わからない事だらけだね」
「でもバニラちゃんと一緒にくらせるなら、ライムとってもうれしい」
「リュウセイさん、マシロさん、ライムちゃん、白蛇さんがこっちに近づいてきますよ」
バニラと白蛇が話をしていた霊木の方に視線を向けると、二人が揃ってこちらに近づいてきていた。そしてバニラの口には、小さな木の枝が咥えられている。
『ほほう、霊木の協力も得られたようだの、これは愉快なことになってきた』
「何が起きるか楽しみだねー」
「聖域ってこんな感じで増やしてしまっても良いんでしょうか」
『世界に仇なすことならば、霊獣や霊木は協力せぬゆえ問題は起こらぬよ』
「聖域は妖精や精霊も住みやすくなるから、私としては大歓迎ね」
王都の一部を勝手に聖域化して問題はないのかとも思ったが、あちこち飛び回っていたヴィオレによると、なんと王城にも聖域が存在する。霊獣は確認できなかったが、霊木は見つかったそうだ。
それにフィドの話によれば、自分たちの里を聖域化したエルフ族もいるらしい。どのような手段でそれを成し遂げたかわからないが、百年ほど前から霊木と白狼を祀っている里があるとのことだ。
王城にあったり、自分たちで作り出すような場所なら、増えたとしても問題はないだろう。それに俺たちの優先することは家族の幸せだ。特にライムが喜ぶのなら、聖域化でもなんでもやってみよう、全員の気持ちはそれで固まった。
ポーチに入れっぱなしで忘れていたとも言う(笑)
薬などもいれてますが、真白がいるので全く使わないから仕方ない。
次回はいよいよ新たな聖域の誕生です。
―――――・―――――・―――――
(2020/05/02)
設定の齟齬が発生したため以下の行を変更しました。
158行目:
「聖魔玉は光る、これ恐らく別物」
↓
「聖魔玉、金色に光る、これ恐らく別物」
以上です。
 




