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第94話 王都の外へピクニック

 今日は西門から表に出て、その方向にあるダンジョンを二つ確認し、丘に移動してお弁当を食べる。午後からは南下して、大きなダンジョンの位置を確認した後に、南門から入って家に帰る予定だ。


 拠点情報がカードに刻印されているので、西門から出る手続きは簡単だ。妖精のギルドカードを提示したのは驚かれたが、そのうち慣れてもらえるだろう、きっと。



「あるじさまー、どっちのダンジョンから行ってみるのー?」


「まずは山にあるダンジョンから行ってみようと思う」


「山の中にあるダンジョンは珍しいんですよね?」


「山ダンジョン、ここと北部地方の二つだけ、とても貴重」



 ソラの説明を聞いているアズルは、ホッとした表情をしている。高い場所に登るのではなく、山の内部が積層型になっていて、普通のダンジョンとあまり変わらないことに安心したみたいだ。唯一の違いは、階層を下っていくのではなく、登っていく点だろう。



「そっちに行ってる人、あんまりいないね」


「山の中にあるダンジョンは迷路のような作りだから、あまり人気がないみたいだな」


「ギルドで売ってた地図を見たけど、お兄ちゃんの得意そうなダンジョンだったよ」


「直線の組み合わせで出来てるダンジョンだったから、見通しも良くて自分の位置が把握しやすいと思う」



 山のダンジョンは方眼紙に通路や部屋を書き込んでいったような、昔ながらのゲーム出ててくるタイプのダンジョンだ。その手の迷路なら、別の場所に飛ばされたり下層階に落とされる罠や、複数のスイッチを操作すると出現する通路みたいなギミックがなければ、イベント会場や遊園地にある巨大迷路とさほど難易度は変わらない。



「私も地図は見ましたけど、そんな事を言えるのはリュウセイさんだけじゃないかと、最近思い始めてるところです」


「私たちは実際に飛び上がって上から眺められるけど、リュウセイ君って街を歩いてても上空から見下ろしてるんじゃないかって思える把握の仕方をしてるわよね」


「さすがに自分を俯瞰(ふかん)しながら見ることは出来ないが、頭の中に地図を思い浮かべるのは得意だぞ」


「その感覚ってよくわからないなー」


「きっと私たちが持っていない感覚を、ご主人さまは身に付けているんです」


「リュウセイ変態」


「その言い方は勘弁してくれ、ソラ」


「とーさん、よしよし」



 肩車したライムが、頭を撫でながら慰めてくれる。小さな感覚も二つあるので、ヴェルデとヴィオレも何かしてくれているんだろう。頭の上にいるメンバーの気遣いが身にしみる。



「あそこに見えてきた入り口がそうね」


「なんか遺跡の入口みたいに見えるな」


「ここ石で出来てるダンジョン、通路もあまり広くない」


「クリムちゃんの苦手な場所ですね」


「飛翔系を覚えたから、そっちで戦ってみるよー」


「クリムおねーちゃん、がんばってね」


「だいぶ上手に使えるようになってきたから任せてー、ライムちゃん」



 このダンジョンは難易度も最上階で中級程度だから、一度は全階層を攻略してみよう。こういった迷路型のダンジョンは、袋小路に宝箱があったりしそうで冒険心をくすぐる。



◇◆◇



 山のダンジョンを後にして、次は地下型のダンジョン目指して進んでいく。そっちのダンジョンはドーヴァのものより小さいが、分類としては大きなダンジョンになる。



「ソラちゃん、こっちのダンジョンは普通なんだよね」


「こっちは普通、ただ大きいだけ」


「他になにか特徴はあるのか?」


「薬草生えやすい、だから人気ある」


「こっちは人もいっぱい歩いてるね」



 山のダンジョンと違い、こちらの入り口は冒険者たちが次々と入っている。さすがに下層域は上級に分類されるが、ここも安全に行けるところまで攻略してみよう。



「それなら、もう一つの方が面白って言っていたダンジョンなのね」


「そっちが他に類を見ない特殊なダンジョン、しかも超巨大、絶対行きたい」


「中で野営しながら攻略する人もいるんだったよねー」


「寒い階層には行きたくありません」


「私もあまり暑いのは嫌だなぁ」



 寒いのが苦手なアズルと、日本の夏を思い出したんだろう真白が、顔をしかめる。王都の南にあるダンジョンは、とても広大で階層ごとに環境がガラリと変わる。まるで色々な場所を詰め合わせたような作りになっていて、森のようになった階層や、砂漠のような階層がある。寒いかったり暑かったりする階層もあり、地底湖のある階層には水中生物型の魔物まで出現するのが特徴だ。



「ダンジョンの中に咲く花も見てみたいわ」


「中でしか食べられない果物もあるんだって」


「ダンジョンの外に出すと腐ってしまうんだったな」


「マシロさんの作るジャムとか食べてみたいです」


「かーさん、作れる?」


「小屋を出せる場所があれば作れるよ」



 やはり食べることに意識が行ってしまうのは、このパーティーらしくていいな。確かにダンジョン内で料理も可能だと思うが、あまりいい匂いを漂わせると他の冒険者を困らせたり、魔物を呼び寄せたりしそうだ。甘いものが好きな魔物がいるかは知らないが。



◇◆◇



 そうして王都の西側にある二つのダンジョンと、山裾に広がる森林も確認して丘の近くまで到着した。かなりの広さと標高があり、ここからだと頂上の方は全く見えない。遠くから確認した時、大きな木が見えていたので、そこをゴールにして競争をするらしい。



「今こそあるじさまとの絆の力を見せるときだよー、アズルちゃん」


「もちろんですクリムちゃん、でも姉妹だからといって手加減はしませんからね」


「望むところだよー」


「私もチェトレではだいぶ走り込みましたから、まだまだ負けませんよ」


「ライムだって成長したんだから、がんばる!」


「面白そうだし、私も参加してみようかしら」


「ピピーッ!」


「ヴェルデも参加したいんですか?」


「ピッ!」


「意外なところから強敵が参戦してるー」


「ヴェルデさんといえども、ご主人さまのあ~ん権は渡しません」


「あ~んは全員にちゃんとするから、あまり無理はしないようにな」


「死なない程度に頑張る、絶対上まで自分で行く」


「ソラちゃん気合入ってるね!

 お兄ちゃんのお姫様抱っこで連れて行ってもらうのも捨てがたいけど、私も頑張るよ」



 さすがにこの勾配をお姫様抱っこで運ぶのは骨が折れそうだ。まぁ、俺はソラを見守りながら、のんびり頂上を目指そう。



「リュウセイ君、開始の合図をしてもらえるかしら」


「わかった、手を叩くから用意はいいな……」



  ―――パンッ!!



 全員が一斉にスタートを切り、ヴェルデの補助魔法で強化されたコール、そしてクリムとアズル、更にライムが走り出す。少し遅れたがヴェルデも一気に上空に飛び上がり、頂上を目指して羽ばたいていった。ヴィオレも斜め一直線に進んでいくが、これは最短距離だな、さすが年長者だ。



「ヴェルデちゃんも気合が入ってるなぁ」


「真白はどうする、俺たちと一緒に行くか?」


「最近ちょっと運動不足だから、駆け足で行ってみるよ」


「あまり無理はするなよ」


「動けなくなったらお兄ちゃんに運んでもらうから大丈夫だよ」



 こちらにウインクして離れていった妹を見送るが、授業で定期的に運動していた頃と違い、今はその日の活動内容で運動量が決まる生活をしてる。ここのところ船での移動や、王都でバタバタしていたから、運動不足を感じるのも仕方がないか。



「リュウセイも先いって大丈夫、私ちゃんと登れる」


「頂上が見えてきたらそうするよ、それまで一緒に登ってもいいか?」


「うん、近くにいてくれると力湧く、リュウセイのそんなところ好き」



 突然飛び出たストレートな言い方にちょっと照れてしまうが、ソラが頑張っているところを近くで応援してあげたい。正直なところあまり無理はして欲しくないが、過保護すぎるのはソラも望んでいないだろう。


 徐々に息が荒くなってきた姿を見守りながら頂上目指して進んでいったが、上の方から応援する声が聞こえる。



「みんな速いな、誰が一番になったのか気になるよ」


「はぁはぁ……きっとヴェルデ、………飛べるの有利……はぁはぁ」


「確かに一気に上昇して一直線に飛び始めたし、あの速度なら勝つのは当然か」


「船と……はぁはぁ、同じ速度出せる」



 ソラの息がかなり上がってきてるので、そこからは無言で歩き始めたが、声だけでなく手を振るみんなの姿が見えてきた。



「後ちょっとだ、頑張れソラ」


「リュウセイ……先行って待ってて………はぁはぁ……たどり、着いたら………抱っこして欲しい」


「わかった、上で待ってるからな」



 そこから全力疾走で上まで行き、一生懸命登ってくるソラを見守りながら応援する。



「ソラおねーちゃん、がんばれー」


「ソラちゃーん、もうちょっとだよー」


「あるじさまが手を広げながら待ってるよー、頑張れー」


「ソラさん、あと一息です、ご主人さまの包容はすぐそこにあります」


「もうちょっとです、ソラさん! ヴェルデも応援しています」


「ピピピーッ!」


「疲れたら私が癒やしてあげるから頑張るのよ」



 みんなの応援を受けたソラが一歩一歩近づいてきて、しゃがんで広げていた俺の腕の中に倒れ込んできた。かなり息は荒いが、とても満足そうな気持ちが伝わってくる。



「頑張ったな、ソラ」


「小人族の……はぁはぁ………限界超えた…超頑張った」



 白く燃え尽きた感じに体重を預けてきたソラの頭を撫で、そのまま抱き上げて休ませようとしていた時、周囲に一陣の風が吹き、上空から空気を震わせる声が聞こえてきた。



『お主たち待っておったぞ』



 俺たちの上に真っ白の竜が現れ、こちらを見下ろしていた――


三体目の竜が登場しました。

性別は♀です。


竜にはそれぞれ特徴があって、最初に出てきた黒竜のドラムは知能が高いとか、二番目に出てきた水竜のベスは体力があるとか、そんな設定があります。

白竜のフィドに関しては次話で明らかに。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
― 新着の感想 ―
[一言] 性別態々言及した辺りパーティー入りしそう
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