表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/273

第92話 新居と嬉し泣きと買い物

誤字報告ありがとうございます。

「る」と「ろ」って見分けが付きませんよね!(ROW-GUN

 全員で玄関の前に立ち、扉に鍵を差し込むと、鈍い音がしてロックが解除される。


 中に入ると玄関ホールがあって、正面には二階に上がる階段、右手には厨房やお風呂に洗濯場などの水回り、それに食堂や倉庫がある。左手にあるのは大きなリビングと多目的ルームだ。



「お兄ちゃんと家庭を持って、こうして一軒家に住むのは、私が一番叶えたかった夢なんだ」


「俺もまさかこの歳で、首都に庭付きの家を持てるなんて思ってなかったよ」



 いつも俺とのことは冗談めかして話す真白も、今は感極まったような顔で瞳も潤んでいる。そんな姿を見せられると愛おしさがこみ上げてきて、涙がこぼれ落ちる前にそっと抱きしめながら頭を優しく撫でる。



「かーさん、泣いてるの?」


「心配してくれてありがとう、ライムちゃん。お母さん悲しくて泣いてるんじゃないよ、嬉しすぎて涙が止まらないの」


「父さんと母さんのいた国だと、こんな家は成功した一部のお金持ちしか買えなかったし、一軒家なんて何十年もかけて買うようなものだったからな」


「お兄ちゃんがいてくれて、ライムちゃんが娘になって、みんなと家族になれてすごく幸せ」


「真白が妹で俺も幸せだ、せっかく自分たちの家に来たんだから、みんなでリビングに行こう」


「うん、ごめんねみんな、リビングに行ってお茶を飲もうか」



 顔を上げて涙を拭いた真白の手を引きながら、全員でリビングに移動した。


 この家を最初に見せてもらって気になっていた、塀のひび割れや門柱の汚れも全て綺麗になっていて、庭も整地され雑草も刈り取られていた。


 それは家の中も同様で、床や柱もピカピカに磨き上げられていて、リビングにあったソファーもクリーニングに出したように綺麗になっている。専門の業者に掃除をお願いしてくれたらしいが、その技術は眼を見張るばかりだ。



◇◆◇



 リビングでお茶を楽しんだ後に、一階の部屋をすべて確認してみる。どこもしっかり掃除をされていて、食事やお風呂も即座に楽しめるようになっていた。倉庫もかなり広さがあるので、野営で使う小屋や荷車なども全て出しておき、作り付けの棚にも細々としたものを収納していく。


 食堂には背の高い椅子が複数置かれ、俺たちの家族構成に合わせたきめ細かい配慮がされていた。


 洗濯部屋は勝手口の外に作るストックヤードのような造りで、三方にある大きな窓も全て磨かれ、陽の光を取り込んだ内部が温室のようになっている。窓を開ければ風通しも良くなるので、ここには日本にあるような物干し台を設置したい。


 脱衣場から風呂場は土足禁止エリアなので、全員が家の中で使うスリッパを脱いで部屋に入る。湯船の形は日本のお風呂というより海外のバスタブに近いが、大きさも十分あって洗い場には鏡も設置してある。



「今日からヴェルデも一緒にお風呂に入ろうな」


「ピピーッ!」



 王都に来てからずっと呼び出していなかったヴェルデが、嬉しそうに鳴き声を上げてくれる。今夜からは狭い桶の中でなくて、四人くらい入れる大きなお風呂で思う存分お湯浴びが出来る。



「トラペトさんの家にあったお風呂より、ちょっと大きいくらいだね」


「トラペトさんが四~六人家族用の家と言っていたし、子供たちと一緒に入ることを想定した広さなんだろうな」


「清浄魔法が活躍できないのは少し残念ですが、お風呂の魅力を前にしたら選択の余地などありません」


「コール、すっかりお風呂の虜」


「今日はクリムおねーちゃんと、アズルおねーちゃんと、いっしょに入る」


「楽しみだねー」


「ライムちゃんの羽もきれいに洗ってあげますね」


「私も羽仲間でライムちゃんと一緒に入ることにするわ」


「ヴィオレおねーちゃんは、ライムがあらってあげるね」



 真白とコールとソラがまた一緒に入ることになったが、前回と同じように落ち込んだ風にはならないだろう。俺はライムと入ることもあると思うが、それ以外の日はヴェルデとのんびりお風呂を楽しもう。



◇◆◇



 二階の寝室には大きなベッドを一台追加して、連結した状態で並べてくれている。元々家具をあまり置いていない部屋だったので、二台のベッドが並んだ状態でもスペースには十分余裕があり、俺たちの人数に合わせたチェストやクローゼットがトラペトさんからプレゼントされ、部屋の中に設置されていた。



「着替えは全部ここに入れておこうね」


「ライムのカバンは、ここにぶら下げておく」


「私はこの引き出しを使わせてもらいます」


「下の方、確保する」



 倉庫で取り出した荷物の中に入っていた自分たちの服を、それぞれ使いやすい場所に収納していき、示し合わせたように全員がベッドに上がってくつろぎ始めた。



「ベッドがフカフカで幸せー」


「こんなに綺麗にしていただいたんですから、お掃除とか頑張らないといけないですね」


「ライムもお手伝いする!」


「掃除道具とか買い揃えないといけないな」


「調理器具とかも買い足したいから、お昼から買い物に行こうか」


「私は空から王都内を散策してみたいから、別行動でも構わないかしら」


「他の妖精いたら、仲良くなって、会ってみたい」


「わかったわソラちゃん、会ってくれそうな子がいたら紹介するわね」


「私は花壇や畑を作る道具を見たいです」


「本、欲しい、少し見てもいい?」


「商業区まで行ったら待ち合わせの時間を決めて、ある程度自由行動にしたほうが良いかもしれないな」


「私は屋台や露店をじっくり見てみたいよー」


「私もクリムちゃんと一緒に、お店を見て回ります」



 午後の予定も決まり個室も一通り回った後に、俺と真白とライムの三人で外に出かける。真白が手作りクッキーの入ったカバンを手にしているのは、これからご近所へ挨拶へ行くからだ。


 全員だと人数が多すぎるので、夫婦と子供ということになっている三人で行動しているが、真白の機嫌がうなぎ登りで、とどまる所を知らない。



「お兄ちゃんっ、私たちの仲の良さをご近所中に(とどろ)かせようね!」


「そこまで気合を入れなくても大丈夫じゃないか?」


「そんなことはないよ、第一印象は大切だからね。近所に越してきたのが、円満家庭の仲良し夫婦って思われた方が、絶対にお得だよ」


「確かにそれはよくわかるが、他にも家族はいるんだぞ」


「おねーちゃんたちもみんな仲良しだって、おしえてあげようね」


「全員お兄ちゃんのお嫁さんにしちゃう?」


「落ち着くんだ真白、勝手に夫婦にしたらみんなに怒られるだろ」


「誰も怒らないと思うけどなぁ……」


「ライムも大きくなったら、とーさんとけっこんするからね!」



 やっぱり可愛い娘にこうやって言われると嬉しい。真白は小さい頃から“お兄ちゃんと結婚する”だったから、落ち込んでいた父さんの気持ちが良くわかる。そういえば母さんは、やたらと俺たちのことを応援してくれていたな。



「お母さんはライムちゃんのことを全力で応援するからね」


「ありがとう、かーさん」


「やっぱりあの人の子供だな、真白は……」


「何か言った? お兄ちゃん」


「いや、娘に言われて一番嬉しい言葉を聞くことが出来て、ちょっと感動していただけだ」



 こんな調子で近所を回っていたものだから、どの家でもとても好意的に迎え入れてくれた。多種族の家族がいることを告げても何も言われなかったし、真白の戦略は大成功といった所だろう。



◇◆◇



 午後からはヴィオレが単独で街の散策に行き、残りのメンバーで買い物へと向かった。中央広場までは矢印が書いてあることもあり、容易にたどり着くことが出来る。



「帰り道はお兄ちゃんが頼りだね」


「最短距離で帰ってもいいが、みんなが覚えやすいルート(経路)を選んで進むよ」


「リュウセイさんはもう道を覚えてしまったんですか?」


「商業区の周りにある、入り組んだ場所はまだちょっと自信はないが、王都は案内板もあるし目印になる建物が多いから、覚えるのは比較的簡単だな」


「あるじさま凄いねー」


「朝も道案内を断っていましたから、住宅区の辺りは大丈夫なんだろうと思っていましたが、そこまで把握されていたとは驚きです」


「リュウセイなら、配達の依頼できる」


「きのう行ったときも、はってあったね」


「報酬は低かったけど、店や施設を覚えるためにやってみてもいいな」



 この街で定住すると決めたから、できるだけ広い範囲を把握しておきたい。それに船で来ているので、街の外の地理もさっぱりわからない。近くにある三つのダンジョンの位置も含めて、みんなで外に出かける日も作ろう。



「私たちも早く道を覚えないと、依頼も受けられませんね」


「中央広場まで行ったらギルドは簡単に行けるし、今日は頑張って帰り道を覚えるよー」


「その道順だけ覚えれば、迷ってもやり直しが出来ますから、私もがんばります」


「迷子になったら、ソラおねーちゃんの魔法でさがしてもらう」


「リュウセイと一緒なら、絶対見つけてあげる」


「さすがソラちゃんだね、愛してるよ」



 真白は手を繋ぎながら歩いていたソラを引き寄せ、そのまま抱き上げて頬ずりしている。柔らかくて好きと以前言っていたソラは、抱っこされながら嬉しそうに甘えていた。


 そんな二人の姿は通行人の注目を浴びるが、女の子同士がじゃれ合っている姿は絵になるんだろう、立ち止まる人が多くてちょっとした渋滞が発生し、慌ててその場から退散する。



「バラバラの依頼を受けた時は、前みたいにギルドで待ち合わせしてもいいが、仕事場まで行くのが問題になるな」


「薬草採集の依頼も受けたいですから、街の外や森の位置も覚えないといけません」


「街の外は明日にでも行ってみようよ、お兄ちゃん」


「近くに見晴らしのいい丘があると言ってたから、ついでに散策してみるか」


「お弁当を作るから、そこでお昼を食べようね」


「やったー、おべんとう楽しみ」


「材料も買って帰りましょう、マシロさん」


「丘の近くに来たら、誰が一番先に登れるか競争しようねー」


「勝った人にはご主人さまに、あ~んしてもらえる権利を付けませんか?」


「それならライムは、とーさんと同化してはしる!」


「ライム、それ反則」


「ライムちゃんとリュウセイさんが同化したら、私とヴェルデでも勝てません」


「ピー……」


「私とソラちゃんなんて勝負にもならないし、自分の足で丘の上まで登れたら、あ~んしてもらえるでいいんじゃないかな」


「超頑張る、這ってでもたどり着く、いまこそ小人族の底力見せる時」



 ソラがやたら気合を入れているが、また俺の意思は関係なく褒賞にされてしまっている。まぁ、楽しくお弁当が食べられるなら、あ~ん位はやることにしよう。




 こうして明日の予定も決まり、それぞれの買い物もすませて家に帰ることになった。


野営に使う小屋が大体8畳くらいの大きさなので、荷車込みで収納できる物置部屋がついた家の広さは、推して知るべしといったところです。


異世界人より家に対する思い入れの強い主人公と妹ですが、意外な形でその影響が判明します、お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ