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第89話 快気祝いとお風呂

 拠点候補の家を見せてもらったが、まさに全員の希望をすべて叶えるような造りで、もうここしか無いと契約を決めた。年配の夫婦が使っていた家だけあって、内部も過度な装飾はほとんど無く、残されていた家具も品の良いものばかりだった。


 今日と明日で専門家に掃除と点検を頼み、補修が必要な箇所があったら修理してくれるそうだ。夫婦で使っていたという寝室には大きなベッドがあったが、同じものをもう一台並べ全員で眠れるようにしてくれる。その費用は全てトラペトさんが負担してくれることになった。


 これだけの家具を残して引っ越してしまった理由を聞いたが、大きな荷物を持って移動するより現地で買ったほうが遥かに安いからだそうだ。大型トラックや重いものを運ぶ重機がない世界ならではの事情だった。



◇◆◇



 お昼を食べた後は真白やコールも調理に参加して、ラチエットさんの快気を祝う料理を作ることになっている。王都も海に面しているので魚はある程度とれるらしいが、やはりチェトレには敵わないので、ヴィオレの収納から新鮮な食材をいくつか提供して腕をふるってもらった。



「見たことのない料理がいくつもあるし、これだ海産物を贅沢に使えるなんて、貴族のパーティーでも滅多にお目にかかれないよ」


「ヴィオレさんに保管していただいていた、チェトレの食材を使わせていただいておりますし、マシロさんに教えていただいた料理も多数ございます」


「トラペトさんが珍しいものがお好きと聞いたので、色々作らせてもらいました」


「私もマシロちゃんの料理が好きだから嬉しいわ。

 さぁ、みんなでいただきましょう」



 今日は屋敷で働く使用人や、執事の男性も一緒に食事を摂ることになった。トラペトさんも家族や使用人を連れて外食するらしいし、こうしてみんな集まって食事をする光景は、自分の持っていた金持ちのイメージとはかけ離れている。



「このサクサクした衣がついた揚げ物なんて、今まで食べたことがないよ」


「若旦那様、こちらはパンを細かく()り下ろして、開いた魚にまぶして揚げております」


「パンを付けて揚げると、こんな食感になるなんて実に面白いね」


「魚だけでなく、こっちの貝柱を揚げたものも美味しいわよ」


「焼いた柔らかいお肉の塊が入ったスープも美味しいです」

「お肉の旨味とスープがよく絡んで、とても幸せになれます」

「うむ、これは素晴らしい……」



 パン粉を使った魚や貝柱のフライ、それにカスターネさんの作る赤いスープを使った煮込みハンバーグも好評で、使用人の人たちや執事の男性も次から次へと口に運んでいる。



「とーさん、美味しいね」


「こうやって大勢で食べるご飯は楽しくていいな」


「厨房も広くて使いやすかったし、みんなに手伝ってもらえたから、すごく作るのが楽しかったよ」



 今日購入した家も厨房の設備はかなり充実していて、複数の料理を一度に出来るようになっていたので、この先の生活がますます楽しみになってくる。



「お母様が元の生活を送れるようになって、こんなに美味しい料理を食べさせてもらって、今日はとても幸せな一日だったよ」



 そう言ってくれるトラペトさんは少し涙声で、隣りに座っているラチエットさんに優しく頭を撫でてもらっていた。



◇◆◇



 ラチエットさんの快気祝いは美味しく楽しく終了し、俺と真白は少しソワソワとして気持ちで、今夜泊めてもらう部屋に集まっている。何しろこの家にはお風呂がある、この世界に来て初めて体験できるこの気持は、元日本人の二人にしかわからないだろう。



「ライムはとーさんといっしょに入る」


「あるじさまー、お風呂の入り方教えてー」


「クリムちゃん抜け駆けはダメです、私だってご主人さまに頭やしっぽを洗って欲しいんですから」


「ライムは娘だから一緒に入れるが、さすがにクリムとアズルは問題があるだろ」


「一緒に入ったら、もっと絆が深まりそうなんだけどなー」


「おじいちゃんも“裸の付き合いは大切だ”と言ってました」



 きっと同性同士のことを言っていたんだと思うが、なんてことを教えてくれたんだ。それに、この世界ではどうなのかわからないが、実際に裸になるんじゃなくて、精神的な意味合いが強いと思うぞ。



「私ならリュウセイも無問題、ライムと体型あまり変わらない」


「ソラはクリムやアズルより年上じゃないか、それに以前もう大人って言ってたぞ」


「むぅ失敗した、なら今だけ半額、七歳なら問題ない」


「俺にとってソラは年頃の女の子なんだから、数字の問題じゃないぞ」



 半額ってなんだ、自分を安売りするのは止めて欲しい。一瞬ソラなら大丈夫かもと思ってしまったが、何か新しい扉を開きそうなので、思考から退散させよう。



「あの……私もお風呂の入り方って知らないんですが」


「コールまで何を言い出すんだ……」



 いくらなんでも同年代の女性と混浴は却下するしか無い、しかも序列二位の戦闘力は危険すぎる。そういえば、元の世界だとそろそろ誕生日を迎えてるはずだから、コールとは同い年になってるな。



「私のことは気にせず入っていても構わないわよ、リュウセイ君」


「空を飛べるから乱入は防げないと思うが、水着は付けてくれるんだよな?」


「さあ? どうしようかしら……」



 ヴィオレがいたずらっぽい目でこちらを見つめるが、変な所で茶目っ気を出すのは勘弁して欲しい。まぁ、こうして気を許してくれたり、からかわれたりするのは嬉しいんだが。



「なんだか君たちを見ていると、すごく楽しいね」


「みんな仲が良くて、とてもほっこりするのよ」


「仕事一筋で、家族のことしか見ていなかったカスターネまで、気を許しているのが良くわかるよ」


「孫がたくさん出来たみたいだと、とても喜んでいたわ」



 ヴィオレを連れていたので出会いのインパクトもあったし、ライムに“おばーちゃん”なんて言われたら仕方ないよな。



「みんな、全員一緒にお風呂に入るのは無理だし、今日は諦めて別々に入ろうね」


「珍しいですねマシロさん、いつもなら真っ先にリュウセイさんを誘うかと思っていたんですが」


「ふふーん、甘いねコールさん!

 私は“()()()()()()”って言ったんだよ」


「つまりどういうことですか?」


「私たちの拠点になる家にも、少し大きめのお風呂が付いてるのを忘れたの?

 今日がダメでも、いつかお兄ちゃんとのお風呂を勝ち取ってみせるっ!!」



 こぶしを天に突き上げながら何を力説しているんだ、うちの妹様は。



「さすがマシロ、伊達に妹つづけてない、見習う点多い」


「やっぱりマシロちゃんはブレないねー」


「さすがとしか言いようがありません、完敗です」


「私もリュウセイ君を困らせたいわけじゃないし、今日はやめておくわ」


「……マシロさん、恐ろしい子」



 パーティーメンバーが、どんどん真白の思考に影響されている気がするな。慕ってくれるのはとても嬉しいが、小柄な女の子ばかり揃ってるので、今は妹のように接しているのが一番楽しい。



「うふふ、話はまとまったみたいだし、クリムちゃんとアズルちゃんは私とお風呂に入る?」


「やったー、ラチエットさんと一緒に入りたいー」


「ラチエットさんにたくさん甘えられます、楽しみです」


「コールさんとソラちゃんは、私と一緒に入ろうね」


「よろしくお願いします、マシロさん」


「裸の突き合い、全力でやる」



 ソラの言ってることは何となくニュアンスが違う気がするが、何かお風呂でやってみたい事でもあるんだろうか?



◇◆◇



 ライムと一緒に入ることと、お風呂を楽しみにしていることが伝わっていたので、一番に入らせてもらうことになった。いつもはかけ湯だけだが、今日は全身を洗ってからお風呂に入ることにする。



「今日は羽も石鹸で洗うから出しっぱなしで構わないぞ」


「出したままおふろに入ってもいいの?」


「今からきれいに洗うから大丈夫だ」



 以前より大きくなった羽を出して椅子に座ってもらい、全身にお湯をかけて頭から洗っていく。少しもたれかかるように後ろに倒れてもらい、よく泡立てた石鹸で細くてきれいな髪の毛を洗っていく。俺に言われたとおりに、ギュッと目をつぶっている姿はとても可愛らしい。



「お湯をかけるからな、ちょっと息を止めてるんだぞ」


「(コクコク)」



 羽と同じように成長したツノもきれいに洗い、お湯をかけて泡を流していくと、洗いたての緑の髪が光を反射してキラキラ光っている。



「もういいぞー」


「せっけんでツノを洗ってもらうと、ツルツルしてすごく気持ちよかった!」


「髪の毛も輝いてるし、ツノもピカピカになったぞ」


「ホントだ! あっちにある明かりが映ってる」



 お湯で濡れて、部屋の明かりを反射している自分のツノを鏡で見たライムは大喜びだ。洗顔の後に、全身を泡だらけにしてはしゃぐライムに俺も背中や頭を洗ってもらい、二人で泡を流してから湯船に浸かる。



「お湯のなかで羽をだすの、すごくきもちちいい」


「これからは、いつでもお風呂に入れるようになるからな」


「あたらしいお家にひっこすの楽しみだね」


「まさか王都で家が手に入るなんて、思ってなかったよ」


「みんなうれしそうだから、ライムもうれしい」



 ライムと向かい合わせに抱き合うようにしながら、湯船の中でゆったりと温まる。水の中でユラユラと漂っている羽をそっと撫でると、気持ちがいいらしくギュッとしがみついてきた。



「こんどは、かーさんやおねーちゃんと、いっしょにおふろに入ってみる」


「みんなもライムと一緒に入りたいだろうから、順番に誘ってあげれば喜んでくれるぞ」


「とーさんもいっしょに入ってくれる?」


「母さんやお姉ちゃんたちとは無理だが、ライムと二人だけならいつでも入るからな」



 温まってリラックスしてきたのか、ゆったりとした話し方になるライムと存分におふろを堪能し、ホカホカの体で寝室へと戻った。


 やはりお風呂はいい、この気持ち良さは初体験のメンバーも、絶対に気に入ってくれるはずだ。


ライムには羽があるので、向かい合わせに座っています。

なんと言ってもまだ0才児ですからね、何ら問題はありません(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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