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第87話 時化の翌日

誤字報告ありがとうございます。

主人公が危うくお星さまになってしまうところでした(笑)

 朝、目がさめるといつもの心地よいライムの重さと、片方には真白のまろやかな感触、そして反対側にはコールのツノが生み出す極上の刺激(ツボ押し)が感じられる。いつもの朝と違うのは、目の前にドーラが浮いていることだ。



「おはよう、ドーラ」


「……おはよう、リュウセイ」


「夜中は何してたんだ?」


「……少しヴィオレと話してたけど、一緒にリュウセイにもたれかかって目をつぶって休んでた」


「ゆっくり出来たか?」


「……いつもはそんな事しないから、不思議な感じだった」



 今日は船の揺れもほとんど感じず、海上が穏やかなのがわかる。目の前にいるドーラからも緊張した様子が抜け、話し方が柔らかくなっているのは、心配事が無くなった効果のせいだろう。



「そういえば、ヴィオレはどこだ?」


「……まだリュウセイの頭の所で休んでる」


「そうか、昨日はだいぶ頑張ってくれたし、ゆっくりさせておこうか」


「……それがいいと思う」



 真白とコールは寝た時間が遅かったから、まだ起きられないのは無理としても、ソラやライムたちも眠ってるということは、まだ朝の早い時間なんだろうか。この部屋には窓がないから、いまいち時間がわからない。



「昨日寝た期間は結構遅かったが、早く起きすぎたかもしれないな」


「……私がじっと見てたから起こしちゃった?」


「いつもと同じ感じに自然に目が覚めたから大丈夫だ、寝起きのだるさもないし疲れも取れてるよ」


「……そう、それならいい」


「それよりドーラは疲れてないか?

 昨日は時化(しけ)で大変だったし、そうやって飛ばなくてもどこかに座って構わないぞ」


「……妖精は飛ぶのに力使わないよ」


「そうだったのか、ヴィオレはよく俺の頭の上にいるから、体力を使わないようにしてると思ってたよ」


「……単に快適な場所にいるだけだと思う。

 ……でも、そうだね、私も下に降りる」



 そう言うと、ライムが持ち上げている布団の隙間に入ってきて、うつ伏せに寝転んだ。



「男の硬い体だから、あまり寝心地は良くないだろ」


「……木や鉄よりマシだし、温かくて快適」


「確かにそんなものよりは柔らかいな」



 船に宿ってる妖精らしい比較対象が面白くて、朝からほっこりした気分になってしまった。出会ったばかりだが、ドーラと話しているとなにか落ち着く感じがする。柔らかな声色と、彼女の持つゆったりとした雰囲気のせいだろうか。


 みんなが起きてくるまで、そんな他愛のない話を二人で続け、この船や先代船長のことなどもドーラに教えてもらった。



◇◆◇



「ふぉぉぉぉぉー、また妖精に会えるなんて、奇跡!」


「あまり興奮するとドーラが怖がるから、抑え気味にな」



 案の定ソラはドーラの姿を見て興奮し、テンションが上りまくっている。あぐらをかいた足の上にライムと一緒に座って、俺の頭のうえにいるドーラをガン見しているが、少し怯えるような気配が伝わってくる。まぁ、船酔いはすっかり良くなっているみたいで何よりだ。



「ドーラおねーちゃん、すごくかわいいね」


「……ありがとう」


「羽の形ちがうし、雰囲気もヴィオレと違う、同じ妖精なのに面白い」


「一口に妖精といっても、宿るものが違うと姿も変わってくるのよ」


「でも、ドーラちゃんもあるじさまにべったりだねー」


「出会ったばかりの妖精にそこまで懐かれるのは、さすがご主人さまです」


「昨日怖がらせてしまった時も、リュウセイさんの後ろに隠れてしまいましたし、すぐ仲良しになってましたね」


「……ここにいると安心できるから、みんなと話せる」


「どうしてそう思ってもらえるのか不明だけど、ドーラの役に立ってるなら嬉しいよ」


「ライムのとーさんだからね」


「そうだね、お兄ちゃんだもんね」



 相変わらずよくわからない理由だが、野生の勘とか第六感とか、そんな超感覚なんだろうか。



「そういえば、昨日はブラッシング出来なくて悪かったな」


「ライムちゃんにやってもらったから大丈夫だよー、あるじさま」


「膝枕も、ラチエットさんとカスターネさんにやっていただきました」


「思う存分、頭を撫でさせてもらったわ」


「小さな子供の頭を撫でることはあるのですが、心ゆくまで触らせていただいたのは初めてでございます」



 二人とも満足そうにしているし、ラチエットさんとカスターネさんも嬉しそうなで安心した。だが、ブラッシングは俺の楽しみでもあるので、今夜は念入りにやらせてもらおう。



◇◆◇



 作り置きで朝食を終え食休みしていると、船長が部屋まで来てくれた。改めて昨日のお礼を言われ、風で航路から外れてしまったので到着が半日ほどずれ、予定日翌日の早朝になると告げられた。



「また水の補充に行きますので、必要な時はいつでも言って下さい」


「お客様にはご負担をおかけして申し訳ございません、今後はこのような事態に陥らぬよう体制を整えさせていただきます」


「……私も全部守れなかった、ごめんなさい」


「……………!?

 わ、(わたくし)の錯覚でなければ、妖精が二人いらっしゃるように見えるのですが」


「もうひとりの妖精は、この船に宿っているドーラと言うんだ」


「……いつもお菓子ありがとう」


「まさか妖精ご本人からお声がけいただけるなんて、感慨無量にございます」



 船長は感極まったのか両目がうるみだしている、本当にこの船のことを大切にしてるんだろう。そしてポケットから小さな紙束を取り出し、勢いよくペンを走らせはじめたが、何をしてるんだ?



「あらあら、上手に描けてるわね」


「私、これでも昔は画家を目指していたのです」



 ヴィオレが船長の後ろに回り込んで手元を覗き込んでいるが、ドーラの姿をスケッチしているみたいだ。あっという間に描き終わり、こちらに見せてくれた絵は確かに上手だ。



「こんな短時間で仕上げたと思えないほどの出来だな」


「……ちょっと恥ずかしい」


「船長のおじちゃん、すごく上手」


「この絵は船長室に大切に飾らせていただきます」



 他のメンバーからも口々に賞賛の言葉をもらい、大切な宝物ができたとご満悦の顔で部屋を後にしていった。船長の意外な才能を目にすることが出来たが、妖精といい関係を築けると航海の安全にもつながるので、今回のトラブルは悪い結果だけ残すことがなくて良かった。



◇◆◇



 全員で甲板に行くと昨日とは打って変わって海は穏やかになり、吹いてくる風も穏やかだ。緑月(みどりのつき)になって気温も徐々に上がってきているが、王都に向かって北上している形になるので、チェトレより肌寒いのは仕方がない。



「風が冷たいからあるじさまの後ろに行ってもいいー?」


「私もそうさせて下さい、ご主人さま」


「背中にくっついていて構わないぞ」



 クリムとアズルは寒いのが苦手なので、俺の体を風よけにしてピッタリ寄り添ってくるのが可愛らしい。やっぱりこの二人は、コタツでぬくぬくしている姿が似合いそうだ。



「おや、君たち。昨日はお世話になったね、ありがとう」

「怪我の治療していただいて、ありがとうございました」

「妖精さんのおかげで、ぐっすり眠れたわ」

「みなさん、おはようっす!」

「あんたらのおかげで、塩水で濡れた体もきれいに拭かせてもらえたぜ」



 これまでも元気に挨拶するライムやモニカのおかげで、他の乗客にも好意的に見られていたが、今日は色々な人に声をかけられる。



「あなた達、この船ではすっかり有名人になってしまったわね」


「昨日は船長と一緒に全部の客室を回ってますから、皆さんに覚えられてしまいました」


「船員の人に英雄様と言われるのが恥ずかしいです」


「私も拝まれたりするのは、ちょっと困るわ」


「船酔いの苦しさ、体験した者にしかわからない、ヴィオレは救いの女神」


「ヴィオレがいなかったら長時間船酔いに悩まされ続けたし、コールがいなかったら水の使用が大幅に制限されていたから、こればっかりは仕方ないだろうな」



 恥ずかしそうに下を向いてしまったコールの頭を撫でていると、船内からモニカの家族が出てきた。こちらに気づくと手を振りながら走ってきたので、もうすっかり元気になったみたいだ。



「ライムちゃーん」


「モニカちゃーん、もう大丈夫?」


「ようせいさんがきてくれたから、げんきになった!

 きのうはありがとう、ようせいさん、おねえちゃん、おにいちゃん」


「元気になってよかったわ」


「……私じゃ船酔いは治せないから、ごめんね」


「ふわぁー! ようせいさんが、もうひとりいるよ!?」


「この子は船を守っているドーラと言うんだ」


「おふねにもようせいさんがいるんだ、すごいね!

 わたしはモニカ、よろしくね」



 可愛くお辞儀したモニカの頭を撫でてあげると、嬉しそうに微笑んだ後にライムと手を繋いで離れていき、仕事をしてる船員やマストの上にある見張り台に立つ人に手を振っている。作業の邪魔にならないように、うまくモニカを誘導している辺り、さすがはライムといった所だろう。



「昨日は本当にありがとう」


「今朝はご飯もたくさん食べてくれて、すっかり元気を取り戻しました」


「モニカちゃんは元気な姿が似合いますから、良かったです」


「あの子はライムちゃんに会うまで、ずっと元気がなかったんです」


「引っ越しで友達と離れ離れになるのが辛くて、船に乗ってからもずっと泣いていたんだよ」


「そうだったんですか……」


「でもライムちゃんやあなた達に出会えて、やっと元の明るさを取り戻したんです」


「良ければ王都でも会ってやって欲しい」


(ライム)も喜びますから、必ず遊びに行かせてもらいますね」


「収納魔法で荷物が運べるし、人手が足りなかったら引越の手伝いもするよ」


「王都の生活は不安だったけど、家を紹介してくれる人や娘の友だちも出来て本当によかった」


「この船に乗って良かったわね、あなた」



 夫婦で寄り添って仲睦まじくしている姿に触発されたのか、真白がそっと近づいてきたので軽く抱き寄せるようにして頭を撫でる。ライムにとっても、こうして仲良く出来る友だちが出来たのは喜ばしい。


 少しトラブルもあったが、忘れられない船旅になりそうだ。


資料集の方に航海中の登場人物や、王都ノリーのダンジョンについて追記しています。


次回はいよいよ王都に到着し、拠点探しが始まります。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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