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第77話 新しい朝

 ゆっくりと意識が覚醒してくると、部屋の中はだいぶ明るくなっていた。夜中に起きてきたライムと少し話をして、抱きしめながら一緒に眠ってしまったみたいだ。



「お兄ちゃん、おはよう」



 ベッドの横を見ると、俺が看病する時に使った椅子に真白が座り、こちらを見ながらニッコリと微笑んでいる。



「おはよう、真白。みんなはもう起きてるのか?」


「うん、みんな少し前に起きて、朝ごはんを食べ終わってるよ」


「だいぶ寝坊をしてしまったみたいだな」


「ライムちゃんは顔色が元に戻ってるし、もう大丈夫だと思う」


「確かに熱は下がってるみたいだ」



 ライムの額に手を当てると、昨日のような熱さは感じなかった。しかし、その姿には少し違和感がある。触って確かめようと思ったが、気持ちよさそうに寝ているのを起こしてしまうと可愛そうだから我慢した。



「リュウセイ君はそんな格好で寝て大丈夫だった?」


「ピピ?」


「ヴィオレとヴェルデはずっとそばに居てくれたのか、ありがとう」


「妖精は寝なくても平気な種族だからね」


「ピッ!」


「俺は驚くほど体調がいいよ、こうして見守ってくれていた二人のおかげかも知れないな」


「私はここでリュウセイ君とライムちゃんの寝顔を見ていただけで、特別なことはしていないわよ」


「ピピー」



 そう言って微笑むヴィオレの顔は、昨日までと少しだけ違う気がした。とても柔らかくて安心できる、真白の笑顔に近い感じがする。理由はわからないが、より親近感が増すのは確かなので、悪いことではないだろう。



「あるじさま起きたー?」


「話し声が聞こえるので来てみました」


「リュウセイさん、ライムちゃんの様子はどうですか?」


「熱も下がってるし、もう大丈夫だと思う。それより、みんなに迷惑かけたり我儘を言ってしまって、すまなかった」


「リュウセイがそばにいる、ライムにとって一番いい、その姿みたら一目瞭然」



 ライムは俺のシャツをキュッと握って、縋りつくようにして眠っている。初めて出会った時もそうだったが、こうされていると俺も安心できるのが不思議だ。


 みんなで話をしていたら、ライムがわずかに身じろぎをした。



「……ん…とーさん、おはよう」


「おはようライム。体の調子はどうだ?」


「いつもと一緒だよ、心配かけてごめんなさい」


「そんなこと気にしなくていいんだ、ライムが元気だったらそれだけでいい」



 挨拶をしてくれた後に、申し訳無さそうな顔をするライムを、両手でぎゅっと抱きしめる。しがみついてきた大切な娘の頭を撫でようとすると、腕を持ち上げた動きで掛け布団がずれてしまった。



「ライムちゃんの羽、大きくなってるね」


「ホントだねー」


「一晩で成長したんでしょうか?」



 今までは小さくて背中にちょこんと付いている感じだったが、一晩で二回りくらい大きくなっていた。それに頭を撫でてみて確信したが、ツノの大きさも明らかに違う。



「羽もツノも大きくなってる、ライム一晩で成長した」


「私たちみたいにツノが生え替わったりせずに、そのまま大きくなるんですね」


「その羽もしまえるのか?」


「うん、ちゃんと出来るよ」



 俺から離れて立ち上がったライムが少し力を込めるような仕草をすると、濃い緑色のきれいな羽は背中に吸い込まれるように消えた。めくれていた服も元の位置に戻ったが、身長に変化はないみたいだ。



「昨日は背中がムズムズすると言ってたが、そっちはどうだ?」


「ムズムズも無くなったから平気だよ」



 羽とツノが大きくなった以外は、今までと変わりがないようで安心したが、真白が何かに気づいたみたいだ。ちょっと驚いた顔で、ライムの方を見ている。



「お兄ちゃん、ライムちゃんのマナなんだけど、以前の倍くらいに増えてるよ」


「後天的にマナが増える、普通の種族はありえない、ライムの発熱、原因はそれに間違いない」


「急にマナが増えて何かおかしなところはない?」


「かーさん、ライムお腹すいた!」



 ライムが元気になったことに気を取られて、朝食のことをすっかり忘れていた。俺もまだ食べていないし、思い出すとお腹が空いてくる。全員で食堂に移動して、俺とライムとヴィオレで朝食を食べることにした。



◇◆◇



 一部とはいえ体が成長してよほどお腹が空いていたのか、ライムはいつもより多めに食べていた。元気になった証拠だし、良いことだ。



「ピピッ、ピッ!」


「ヴェルデちゃんどうしたの、ライムの左手になにかある?」


「ピピ!」


「ヴェルデがこうしてるということは、ライムちゃんの魔法が使えるようになったんじゃないですか?」


「ほんと!? コールおねーちゃん」


「今までもこうして教えてくれたから、多分そうだろうな」



《力が見たいの》



 ライムが自分の魔法を表示させると、左手の甲には[同化]という文字が浮かび上がっている。



「同化って何が出来るんだろー」


「ライムちゃんが何かを取り込んでしまうということでしょうか」


「言葉の意味だけ考えると、自分を別のものに合わせるのも同化だね」



 アズルの言っていることも、真白の言っていることも、どちらも同化という意味では正解だろう。ただ、これは魔法だから、別の作用や効果も考えないといけない。



「とーさんはどんな魔法かわかる?」


「竜魔法は、父さんや母さんが発現してる特殊な魔法と同じだろうから、ライムが望んでいる効果があるんじゃないかと思う」



 真白はみんなと繋がりを持ちたい、相手の事をもっと知りたいという欲求が強い。それがマナの共有や可視化という魔法で発現したんだと思う。そして俺は誰かの力になりたいという欲求が、思いのほか強かったみたいだ。それはまだ子供だった頃から、妹のために何かしてあげたいと考えていた影響だろう。



「それならライムの魔法、リュウセイと一緒に居たい気持ち、発現したんだと思う」


「ライムの気持ち……とーさんが大好きなこと……………なんかわかった気がする!」



 ライムは自分の両手をじっと見つめると、そのまま俺の方に差し出してきた。導かれるようにその手を取ると、にっこり微笑んだ後に呪文を唱えた。



《とーさんといっしょ!》



 その瞬間ライムの体が光を放ち、それが彗星のように尾を引きながら俺の方に飛んでくる。その光が首の周りをクルクルと回転し、やがて一つになって肩の辺りで形になる。




 ――そして、俺の世界が変わった。




 ここにいる全員の息遣いや鼓動まで感じられ、見ていないのに誰がどんな表情や動きをしているのかまでわかる。それに加えて、時間まで引き伸ばされてしまったような感覚もあり、誰かの攻撃や飛んでくる矢ですら反応できそうな気がする。



「リュウセイさんと肩車する魔法なんですか!?」


「それだけじゃやないよコールさん、お兄ちゃんもライムちゃんも緑色に光ってる」


「ねぇねぇ、何が起きてるのー?」


「ご主人さまとライムちゃんが、一つになったように見えます」


「ふぉぉぉぉー、これが同化! 竜魔法の神秘!!」


「あらあら、これは凄いわね」


『ヴィオレは今の俺たちの状態がわかるのか?』

『ヴィオレおねーちゃん、教えて』


「二人は今、一つの存在と言っていい状態だと思うわ、同化という魔法を考えたらピッタリじゃないかしら」


「きっとリュウセイに、ライムの持つ竜人族の力が宿ってる、それが今の状態だと思う」


『確かに感覚が鋭くなってるし、体も軽くて思ったままに動かせそうな気がする』

『ライムも今まで出来なかったことが、出来るようになった気がする』



 俺は椅子から立ち上がり、体を軽く動かしてみる。感覚も身体のキレも大幅に向上しているが、それに振り回されることもなく完全に制御できている。まるで脳の処理能力が、一気に向上したような感じだ。



『もう少し激しく動いてみても大丈夫か? ライム』

『とーさんと一つになってるから、何をやっても平気だよ』



 その答えを聞いて、反復横跳びのようにサイドステップを連続で繰り出してみたが、明らかに常人のできる動きとは違っていた。



「おっ、お兄ちゃん、それ瞬間移動を使ってるんじゃないよね?」


「私でも目で追えないよー」


「明らかに獣人族の私たちを超えていますよ」


「ヴェルデに強化してもらった私でも、その動きは無理です」


「それだけ破格の魔法、マナどれくらい使うの?」


「そうだねソラちゃん、ちょっと見てみるよ……

 お兄ちゃん、ライムちゃん、その魔法すごくマナの消費が多くて、動いてなくてもどんどん減っていってる。あまり長い時間使うのは無理だね」


『これだけの力を維持するために、ライムが成長したんだと思うが、無理は禁物だな』

『とーさん、そろそろ離れるね』



 ライムが肩車から降りる動作をすると、同時に魔法も解除された。一緒に居たいと思ってる間は完全に同化しているが、自分の意志で離れそうとして動くと解除される感じか。


 色々と試したいことはあるが、こんな狭い家の中では無理だろう。浜辺に行って人の目につきにくい場所で、思う存分体を動かしてみたい。あの感覚は人という枠を完全に超越していた、その力に溺れることの無いように気をつけよう。


パイ○ダー・オン!(笑)

乙女の嗜みではありませんが、主人公は戦車並みに強くなれます。


次回はパーティーメンバー相手に、主人公とライムが無双します。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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