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第73話 チェトレの冒険者ギルド

誤字報告ありがとうございます。

相変わらずタイポ多いマンなので、とても助かります。


この話も最後の方で視点が変わります。

 チェトレの街の冒険者ギルドは、中の規模もアージンと同じくらいだった。ただ、ダンジョンが存在しないので、素材買い取りカウンターが設置されてなく、依頼を張り出すボードは緑や紫のサイズが大きい。帯剣したり防具をつけた人がほとんど居ないので、今まで見てきたギルドの雰囲気とは大きく異なっていた。



「ようこそチェトレの冒険者ギルドへ、旅行者の方ですか?」


「しばらくここに滞在して依頼も受けたいから、本拠の移動を頼む」


「はい、承りました……って、まだお若いのに特別依頼の達成者なんて凄いですね」


「あと、出来ればでいいから試してみてもらいたいんだが、妖精のギルドカードを発行して欲しいんだ」


「はい……?」



 ライムを膝の上に乗せた真白が窓口の前に座り、俺は立った状態で話していたので、頭の上に乗っているヴェルデとヴィオレの姿は見えなかったのだろう。妖精のギルドカードを発行して欲しいと言うと、受付嬢はキョトンとした顔でこちらを見ている。



「ソラちゃんは実体を持ってる私たちも、個籍(こせき)の魔道具に登録できるんじゃないかって言うの」


「妖精も個人紋(こじんもん)ある、登録できるはず、試してみて」



 ギルドカードを発行する時に道具の上に手を置いて登録をするが、あれは個人紋という生物個有の情報を読み取っているらしい。元の世界で言うところのDNA(遺伝子情報)や生体認証と同様の仕組みで、偽造や不正利用を防止する。その気になれば野生の動物でも登録できるらしく、妖精なら確実に大丈夫だろうとソラは言っていた。


 俺の頭から離れ、受付カウンターの上に立ったヴィオレの姿に、受付嬢の目は釘付けだ。目の錯覚か幻とでも思ったんだろう、まばたきをしたり目をこすったりを繰り返している。ヴィオレはちょっと面白がっているのか、手を振ったりその場でクルッと回ったり、自分の存在をアピールしているみたいだ。



「……よっ、妖精なんて初めて見ました! すっごく可愛いですね!!」


「あらあら、ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」


「ヴィオレおねーちゃん、よかったね」


「ライムちゃんたちと出会ってから、新鮮な体験が次々できるわね」



 他の窓口にいた受付嬢も集まってきて、「可愛い」「ちっちゃーい」「羽が綺麗ね」と口々に声を出していて、ちょっとした騒ぎになってしまった。後ろの席にいる男性職員も、背伸びをしながらこちらを覗いているが、この場所の女性率が高いからだろうか、ちょっと及び腰だ。



「このままだと業務に支障が出そうだから、登録を試してもらっていいか?」


「あっ、はい、そうでしたね。

 では、この紙に名前を書いて、こちらの箱に手を乗せて下さい」



 真白が登録用紙に代筆をして、ヴィオレが箱の上に手を置くと、無事ギルドカードが発行できた。それを受け取ったヴィオレは、ちょっと嬉しそうだ。やはり自分だけの持ち物というのは、物や動植物に関心が高い妖精にとって、特別に感じるんだろう。



「思った通り登録できた、ヴィオレよかった」


「うふふ、ギルドカードを持っている妖精なんて私だけかもしれないわね、嬉しいわソラちゃん」


「この仕事もそれなりに続けてきましたけど、今日ほど驚いたことはありません」

「凄いな、妖精のギルドカードだぜ」

「ある意味、超貴重品だな」

「妖精なんておとぎ話の中だけだと思ってたわ」

「私も絵本でしか見たことなかったけど、実物って可愛い」



 気がつくと俺たちの後ろにも人だかりができていた。ソラは俺の前に立ってるから大丈夫だが、コールは腕をそっと掴んできているし、クリムとアズルもピッタリ寄り添ってきている。人が押し寄せてきているし、場所を入れ替わって全員を自分の前に移動させた。



「ありがとうございます、リュウセイさん」


「あるじさま、ありがとー」


「お気遣いありがとうございます、ご主人さま」



 三人ともちょっと圧倒されていたみたいで、小声でお礼を言ってくれる。ソラと一緒に四人の頭をそっと撫でて、本拠変更の手続きが終わるのを待った。



「種族がバラバラなのに、すごく仲のいいパーティーですね」


「とーさんと、かーさんと、おねーちゃんたちは、みんな仲良しだよ」


「こちらの小さなお子さんも、今まで見たことのない種族の気がするんですが……」


「ライムは竜人族だよ」


「……えっ!?」


「おいおい、今日は一体何の日なんだ」

「妖精に竜人族もなんて、伝説級の種族がどうしてこんな街に……」

「竜人族なんて何年か前に、森で迷ったやつがそれっぽい人影を見たって大騒ぎして以来だぞ」


「そのことで誰か詳しい話を知らないか?」



 ギルドや他の組合にも問い合わせる予定にしてるが、せっかくだしここでも聞いてしまおうと、後ろを向いて集まった人に問いかけてみた。



「迷ったやつは人影を見ただけらしいが、頭の両脇に大きなツノがついてたと言ってたぞ」

「もう何年も前の話で、見たってやつもこの街にはいないがな」

「髪の毛は白っぽくて、背の高い男の人って聞いたよ」

「そいつは見られてると気づくと、森の奥に走っていったそうだ」

「森の奥には大きな湖があるみたいだから、そこで暮らしてたんじゃないかって噂されてたわね」



 さすが現場に近い場所だけあって、髪の色や性別の他にもおぼろげながら判明した。森の奥に入るのは危険だから、目撃情報だけは出来るだけ多く集めるようにしよう。



「こちらで宿泊施設の紹介ってやってもらえますか?」


「はい、いくつかご紹介できる場所はありますよ」



 集まってきた人たちの話が一段落したところで、真白が宿泊施設のことを問い合わせてくれた。トーリの街で借りたような一軒家で、石窯や全員で眠れるベッドルームなどの要望を伝えていくが、受付嬢の顔は難しいものに変わっていく。



「やっぱりこの条件で探すのは難しいですか?」


「一応“赤日(せきじつ)の港”という所なら、調理設備や大部屋のある家が借りられますけど、紹介状がないと入れない場所ですので……」


「これ、使えますか?」



 トーリにある黄雷(おうらい)の里でもらってきた紹介状を手渡すと、一瞬だけ驚いた表情が笑顔に変わる。



「同じ商業組合系の施設ですから、これをお持ちなら問題なく泊まれますね」


「ありがとうございます、ではそちらに行ってみますね」


「みんなで寝られるところが見つかってよかったね、かーさん」



 この手の施設には管轄する組合がいくつかあるらしいが、国内最大規模の商業組合だけあって利用できる物件も多い。これでこの街でも真白の作る料理を、思う存分堪能できそうだ。



「マシロの料理、食べ放題」


「水は私に任せて下さい」


「いっぱい食べるよー」


「クリムちゃん、食べたらちゃんと運動もしないと太りますよ」



 アズルの発言で、パーティーメンバーに緊迫した空気が流れた。この街では食に関して自重しないようするつもりだが、やはり女の子としてはその辺りが気になってしまうのだろう。



「みんなで砂浜に走りに行くのもいいな」


「体を鍛えるのに向いてるんだったよね、お兄ちゃん」


「柔らかい砂が衝撃を吸収するから関節への負担が減るし、足場の悪い場所で走ると足腰を効率的に鍛えられるぞ」


「それいいねー、あるじさまと毎日走りに行くー」


「私ももっと素早く動けるようにがんばります」


「ライムもいっぱい走るー」


「私もヴェルデの補助をより使いこなせるように、砂浜で鍛えます」


「ピピッ!」


「私も体力もっとつけたい、でもリュウセイの抱っこ減るの悲しい」


「ソラもライムも疲れてなくても抱っこや肩車はするから、その点は心配しなくても大丈夫だ」


「うれしい、リュウセイありがとう」


「わーい、とーさん大好き!」


 真白の膝から降りたライムとソラが、左右から腰に抱きついてきたので、両手で頭を撫でる。さっきまでライムの頭に手を伸ばしていた受付嬢が、こちらを恨めしそうな顔で見てくるが、ちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。それに、他の受付嬢たちも何か言いたげにこちらを見ているので、ここでも訪ねる窓口は順番に変更したほうが良さそうだ。


 本拠変更の手続きを終えたカードを受け取り、周りに集まっていた人たちと少し話をしてから、冒険者ギルドを後にした。赤日の港という宿泊施設は比較的海寄りの場所らしいので、時間があったら海岸にも行ってみよう。どんな物件があるのか期待を膨らませながら、ソラとライムを両腕で抱っこして、教えてもらった方向に全員で歩いていった。




―――――*―――――*―――――




 龍青たちが出ていった冒険者ギルドの中にいた人たちは、少し興奮気味に彼らのことを話していた。飲食スペースを兼ねている休憩所には、年齢や性別を問わず様々な種族が集まっている。



「いやー、すげーもん見たぜ」

「あんな構成のパーティーを見るのは初めてだ」

「三つの種族でパーティーを組んでるのも珍しいが、あいつら六つの種族が揃ってたぜ」

「これでエルフ(もりびと)がいたら、完璧だったわね」



 ここは港街ということもあって、旅行者や別の場所から来る商人も多数いて、珍しい物や人に対する耐性は高い。しかし、幻の種族と言われる竜人族や、おとぎ話の世界でしか語られることの無い妖精族までいるのだから、いくら慣れていたとしても驚くのは無理がない。


 それに龍青たちのパーティーは、人には見ることの出来ない精霊族と、大きすぎてこの場にいられない竜族を除けば、エルフ族以外の種族が全て集まっている。



「赤日の港を利用できる紹介状を持っていたし、あの男はどっかの貴族の子供なのか?」

「ワシにはそんな感じに見えなんだがな」

「金持ちや権力者独特の、嫌味な雰囲気は感じられなかったよな」

「そもそも、そんなヤツが竜人族の子供に父さんと呼ばれたり、小人族にあそこまで慕われたりしないわよ」

「それに緑の鳥、あれは守護獣だ」

「鬼人族の女性の言葉に反応してたけど、彼女の守護獣なのかな」

「守護獣持ちは他にはない強さがある、そんな人物を無理やり従わせるのは困難だ」



 体格にハンデのある小人族が、他種族に子供扱いされるのを嫌うことは有名だし、守護獣を召喚したまま行動するのは、相手を心から信頼することや、何があっても自分の味方でいてくれる安心感がないと、決して出来ることではない。それだけ強い繋がりがあのパーティーにはあるという事実を、ここにいる者たち全員が受け入れざるを得なかった。



「妖精って怒らせると怖いんだろ?」

「妖精に見限られて破滅したり、不幸になったりする物語は多いよ」

「よくそんなのと仲間になろうと思ったよな」

「あくまで物語だから実際はどうかわからないけど、ここに来た妖精は可愛かったなぁ……」

「俺も妖精とお友達になって、一緒に寝たり飯を食べたりしたい」

「竜人族の子もかなり可愛いぞ、あんな子に“父さん”なんて言われたら俺は昇天するね」

「私はあんな小さな子に“お姉さま”とか言われてみたいわぁ」


「「「「「お前ら、そんな趣味があったのか!?」」」」」


「妖精の女の子やライムちゃんに変なことしたら、冒険者ギルドを敵に回しますよ?」


「「「「「「「そんな事するわけないじゃないか!!!」」」」」」」



 受付嬢たちの視線に射抜かれ、集まって話していた集団は一斉に居住まいを正した。ライムやヴィオレの可愛さを間近に見ていた彼女たちは、全員が龍青たちパーティーの味方になっていたのだった。



◇◆◇



 仕事を終えた住人や、街に立ち寄った商人たちで賑わう酒場で、酒と夕食を楽しんでいる集団があった。その一人は、龍青たちの入場手続きをした門番だ。



「今日はえらく静かだな、やっぱり昼間のことが気になってるのか?」

「……あんな集団が来たら、街で何をやらかすか気になるだろ」

「男は鋭い目つきをしてたが、小さな子供を育ててるんだし、心配するこたねぇだろ」


「そいつらって、男が一人であとは女ばかりの連中か?」



 職場の同僚に肩を叩かれていた門番の男性に、隣のテーブルにいた日焼けして体格のいい男性が話しかけた。彼らのテーブルはみな小麦色の肌をした男性たちで、運搬船の船乗りをしている集団だ。



「あぁ、人族の男と女がいて、竜人族の子供に妖精までいたな、他には小人族と獣人族の二人だ」


「そいつらなら街で見かけたが、頭の上に緑の鳥と一緒に居たちっこいのは妖精だったのか」

「俺も見たぜ! 妖精が見られるなんて幸先がいいな」

「この街に来たばかりだが通りで見かけたよ、妖精がこの街にいるなんて幸運だ」



 自然を相手にする船乗りにとって、水や風を司る精霊たち、そして物に取り付く妖精たちは、航海の安全を願う大切な存在だ。ヴィオレは花の妖精だが、そんな事はこの男たちにとって些細な違いだった。



「仲の良さそうな人たちでしたし、妖精が一緒なのですから他人を害することなど、ありますまい」

「心根の悪い人物に、妖精は近づかんものですからな」

「ワシもこの街に滞在しとる間に、一度は拝見してみたいものじゃな」



 別のテーブルにいた年配の男性たちは、全員が商会の同業者だった。彼らも、妖精は家や店を守る存在として大切にしており、中には毎日お供えをしている者がいるくらいだ。




 門番の男性の心配をよそに、妖精と行動をともにする龍青たちは、街の住民にも好意的に受け入れられていた。


一般人の持つ妖精のイメージと、商売人や船乗り達の持つイメージのちょっとしたズレがあるのは、創作と伝承の違いと言った辺りです。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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