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第71話 お別れ、そして……

短かったですが、道中編の最終話です。

次回から南部最大の港街が舞台になります。

 光と花が共演する一大スペクタクルを全員で堪能した翌日、いよいよこの場所を発つことになった。たった一日足らずとはいえ、一緒に遊んで一緒に寝たバニラとの別れは全員が名残惜しく思っていて、やはりライムはいつまでも離れようとしなかった。



「そろそろ行こうか、ライム」


「……うん」


「元気でねバニラちゃん」


「また会いましょうね」


「今度はお土産持ってくるねー」


「バニラちゃんの喜びそうなものってなんでしょうね」


「専用のブラシ買う、またブラッシングしに来る」


「まあまあ、ブラシは喜びそうだわ」


「キュイ!」



 みんながそれぞれ分かれの言葉を告げ、ライムも最後の包容とばかりに、バニラをきつく抱きしめている。



「ぜったい会いに来るね」


「キュイ、キュイッ」



 ライムは抱いていた白くて小さな体を地面におろし、もう一度だけ頭を撫でる。その後、俺が抱っこして森の外へ移動を開始したが、肩越しに後ろを見てバニラに向かってずっと手を振り続けている。



「ぜったい、ぜったい会いに行くかならねーーーっ!!」


「キュィィーーーーーンッ!!」



 やがてバニラの姿が見えなくなり、手をふるのをやめたライムの両目には、大粒の涙が浮かんでいた。俺はその頭を優しく撫でながら語りかける。



「ちゃんとお別れができて偉かったぞ」


「……だって、とーさんと約束…したから」


「親しい人との別れが辛いのは誰でも同じだ、それを我慢することはないからな」


「とーさぁーん……うっ、うわぁぁぁーん、バニラちゃんとお別れするの、寂しかったのぉ……」



 ライムは俺に抱きつきながら、ワンワンと泣き始めた。今まで何度も別の街に移動したが、ここまで別れを寂しがることはなかった。それだけバニラが、この子の中で大切な存在になっていたということだ、きっと家族と同じ親しみを感じていたんだろう。



「ライムに一つお知らせがあるんだが聞いてくれるか?」


「えっぐ……とーさん…なに?」


「実はな、あの聖域は父さんの転移先に登録できたんだ」


「それって、とーさんの魔法で、いつでもあそこに行けるの?」


「あぁ、時々会いに行こうな」


「……やったーーーーっ! とーさん大好きっ!!!」



 一瞬で笑顔に変わったライムは、再び俺に抱きついてきた。泉にダイビングしたり、二人目の竜と出会ったり、妖精が仲間になったり、幻想的な光景を見たり、これだけ記憶に残るイベントが発生したので、あの場所は転移先としてしっかり記録されていた。それを伝えるタイミングはみんなに相談して、ちゃんと別れを済ませてからということで、今になったのだ。



「やっぱりお兄ちゃんの魔法は便利でいいね」


「あのままお別れは、私も寂しかったですから」


「ダンジョンに行くときも、すごく楽できるよねー」


「一瞬で地上に戻れるのは、ご主人さまのおかげです」


「リュウセイの魔法、最高」


「妖精の時空魔法でも、空間転移は無理なのよね、本当に反則だわ」



 いくら反則な魔法でも、こうして娘の笑顔が見られるなら全く問題ない。ソラの話だと転移魔法が使える魔道具は存在するらしいが、大掛かりな準備が必要で、かなりの制約もあるらしく、俺のように手軽には使えないみたいだ。


 元気を取り戻したライムは俺の腕から下りると、クリムとアズルと手をつなぎながら、悪路をものともせず軽快に歩きはじめる。俺はソラを抱っこして真白やコールと一緒に、三人を見失わないように追いかけていった。ヴェルデとヴィオレは仲良く俺の頭の上にいるが、二人とも飛べるのに横着しすぎじゃないだろうか。



◇◆◇



 横道から街道へと戻り適当な場所でお昼を食べることにしたが、ヴィオレの時空魔法は早速役に立ってくれた。



「熱々でおいしいよ、かーさん」


「時空魔法は凄いな、驚いたよ」


「私たちはこんな食事を摂ることがないから、こうした使い方はあまりしないのだけど、喜んでもらえるのは嬉しいわね」


「お弁当で使える料理の選択肢が格段に増えるのから、すごく嬉しいよヴィオレさん」



 出来たての料理を鍋や容器に詰めて、それをヴィオレに預かってもらったが、時間が停止するというだけあって、いつまでも温かい状態で保存できる。紫の魔法だと空間しか操作できないが、そこに時間まで加わるのは、この世界で妖精という種族が、より高位の存在として力を授かっているのだと思う。



「妖精について書かれた書物ほとんど無い、だから誰も能力、知らなかった」


「色々な場所にいるのだけど、夢や見間違いと思われることも多いみたいよ」


「こうやって普通にお話できるのにねー」


「あの時のような出会い方でなければ、幻と思って見過ごしていたかもしれませんね」



 霊木の中で出会った時は、話しかけられるまでヴィオレの存在に気づかなかったが、妖精には相手に認識されにくくなる力もあるらしい。ヴィオレの話とソラの推測だと、ステルス能力に近い感じがする。



「妖精には私のように、限定的に時間と空間を操れる力を持った者とか、あなた達とは違う力があるけど、邪気の影響を軽減したり消し去ってしまった、リュウセイ君やマシロちゃんの力のほうが不思議だわ」


「水竜のベスさんも、浄化や軽減は無理だと言ってましたね」


「浄化した邪魔玉(じゃまぎょく)はリュウセイ君が持ってるのよね?」


「あぁ、俺の収納にしまってある」


「それ、収納にしまうのでなく、なるべく身につけておくことって出来るかしら」


「これくらいなら、いつも腰につけているカバンに入れられるが、壊れたりはしないか?」


「簡単に割れたり傷ついたりはしないと思うから大丈夫よ」



 俺は邪気が抜けて透明で虹色に輝く玉を収納から取り出し、布を巻き付けた後に腰のポーチへ入れておく。



「何か意味、あるの?」


「ソラちゃんは聖魔玉(せいまぎょく)って知ってる?」


「邪魔玉の反対、邪気を払う効果ある」


「さすがよく知ってるわね。リュウセイ君は邪気の影響を軽く出来るから、近くに置いておくと聖魔玉みたいな物にならないかなーって」


「俺はそんな力を出してないと思うぞ」


「ちょっとした確認みたいなものだし、少しだけ私の(たくら)みに付き合ってくれると嬉しいわ」


「企みというのが気になるが、俺やパーティーメンバーに危険なことにならないんだよな?」


「それは大丈夫よ、私が保証するわ」



 人とは違う存在の彼女が言ってるんだから、何か感じるものや気になることがあるんだろう。それに、俺たちと一緒に行動したいと言ってきた本人が、パーティーメンバーの不利益になる提案をしてくるとは思えない。



「その聖魔玉というものに変化すると、妖精の皆さんに良い影響を与えたりするんでしょうか?」


「私たちだけでなく、コールちゃんや他の種族にも好ましいのだけど、実物は私も見たことがないから、何かに変化してからのお楽しみってところかしらね」


「何になるか楽しみだね、とーさん」


「悪いものにならないように、気をつけないといけないな」



 これがどんな結果につながるのかわからないが、悪いことにはならないだろう予感はある。ヴィオレ本人にも確定的なことはわからないようだし、気長に構えていたらそのうち答えが見つかろだろう。



◇◆◇



 地面に広げた布の上で食休みをしていると、ヴェルデがクリムとアズルの間を行き来しながら鳴き始める。二人の左手を中心に飛んでいるので、魔法が発現したと見て間違いないだろう。



「ヴェルデちゃん、どうしたのー?」


「ヴェルデさんがこうしているのは、新しい魔法が発現した合図でしたっけ?」


「ピピッ!!」


「クリムさんアズルさん、そうだと思いますから、魔法を見てもらっていいですか?」



《まほーひょーじ》

《魔法表示》



 二人がそれぞれ呪文を唱えると、クリムの左手には[具現【土】|飛翔【土】]の表示が、アズルには[障壁[物理]【水】|障壁[魔法]【水】|□□]の表示に変わっていた。



「あるじさまやったよー、飛ばせる魔法が発現したー」


「私は魔法障壁も張れるようになりました、ご主人さま」


「二人とも良かったな。アズルはもう一枠開放するとして、クリムは飛翔系のままでいいか? 設置が良かったら、一度消して取り直すことが出来ると思うぞ」


「設置系は使い方が難しそうだから、飛翔系でいいよー」


「アズルおねーちゃん、どんな魔法にするの?」


「土や石の塊だから、小さな(たま)を飛ばすことにするー」



《とんでけー》



 誰もいない方向に向かって呪文を唱えると、小さな土の弾が道端にあった岩に命中した。



「クリムおねーちゃん凄い、当たったよ!」


「森で動物を狩るときなんか便利そうだねー」


「クリムちゃん、鳥とかも狙えそう?」


「小さいものに当てるのは、もっと練習しないと無理かなー」


「歩きながらでも使える魔法だし、旅をしながら練習だな」


「慣れるまで、目標に指をさすのがコツ、そう書いてる本あった」


「ありがとー、ソラちゃん、頑張ってみるー」


「アズルも枠を開放しておこうか」


「お願いします、ご主人さま」



 アズルの手を握って枠の解放をすませたが、魔法が発現するトリガーはよくわからない。こうしてくつろいでいる時もあるし、新しい知識がきっかけになったこともあった。ヴェルデがいなかったら、しばらく気づかないこともありそうだ。



「ヴィオレも俺たちに新しい力が発現した時、何か感じたりするのか?」


「今は何も感じなかったわね」


「精霊に近いヴェルデと、妖精との違いなんでしょうか」


「それもありそうだけど、ヴェルデちゃんがこうして気がつくのは、マシロちゃんのマナ共有で繋がってるからかもしれないわ」


「ヴィオレさんは共有できなかったもんね、残念だよ」


「ヴィオレおねーちゃんの魔法は、ライムたちとは違うんだよね」


「妖精も精霊も少し違うわね。でも竜族は同じようにマナを使うわよ」


「みんなとつながってなくても、ライムはヴィオレおねーちゃんのこと大好きだよ」


「まあまあ、ライムちゃんはやっぱり優しいわね」



 ヴェルデはコールを通じて俺たちと繋がっているが、ヴィオレだけそれが出来なかったから、思うところがあったんだろう。本当に優しい子に育ってくれている。


 竜族はマナの塊を直接ぶつけて攻撃するとドラムが言っていた、いわゆる“ドラゴンブレス”のようなものらしい。攻撃方法や体の大きさからして、多分ライムよりも遥かにマナの量は多いはずだ。八人いる竜のうち誰かが共有させてくれたりすると、小さな村ごと収容できる容量とか得られるかもしれないな。



「私たち邪気を浴びても影響なかった、みんな繋がってたから?」


「リュウセイ君が浄化していたのか、防いでいたのかはわからないけど、そんな力を共有していたんじゃないか、私はそう考えているわ」


「マナ以外でもお兄ちゃんと繋がってるのは嬉しいな」



 俺の近くが一番影響を受けていなかったからだろう、ヴィオレの中では何かの力があると確定しているようだ。目に見えるようなものじゃないし他の原因があったかもしれないから、あまり意識するのはやめておこう。


 それより他人同士だったみんなが家族みたいにしていられるのは、様々なつながりを感じているからだろう。これからも、それを大切にしていこう。


落として上げるのは色々思う所もありますが、経験を重んじる王宮流でマリンさん仕込です(笑)


次章では主人公とライムの関係に、大きな変化が訪れます。

さらに依頼がきっかけになって新しい道が開けたり、濃いめの内容になっていますのでご期待ください。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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