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第67話 妖精族

「あらあら、この場所によく入ってこられたわね」



 声をかけながら目の前に飛んできた女性は、先端に向かって薄くなっていく、少し赤に寄った淡い紫色の髪の毛を腰の辺りまで伸ばし、背中に蝶のような形をした薄い羽が生えている。俺たちの少し上方に浮かびながら綺麗な紫色の瞳でこちらを見つめてくるが、その表情には疲れが色濃く出ていた。



「すまない、感知魔法でここに二つの反応を見つけたから、気になって入ってしまったんだ、もし迷惑ならすぐ出ていく」


「感知魔法には反応しないように結界が張ってあるんだけど、どうして見つかってしまったのかしら」


「私の魔法、リュウセイの力で特別製」


「この場所に精霊かそれに近い存在がいると反応が出たんだ」


「まあまあ、そんな事まで判ってしまうのね、凄いわ」


「その羽の形、花の妖精……だよね」


「小さいのに物知りさんね」


「わたし小人族、これでもう大人」


「あらあら、ごめんなさい。小人族はそういう風に言われるのが嫌いだったわね」


「ねぇ妖精のおねーちゃん、あの白くてちっちゃい子、ぜんぜん動かないけど大丈夫?」



 ライムが指さした先には、真っ白でフサフサの尻尾を持った生き物が、丸くなるようにして横たわっている。こうして話していても全く動く気配はなく、一見すると死んでしまっているようにも見える。



「あの子、たぶん霊獣」


「あなた本当によく知ってるわね」


「どんな存在なんだ?」


「聖域の守護者、この木と泉、守ってると思う」


「ここ聖域だったんだねー」


「年中花が咲いている秘密はそれだったんですね」


「そんな場所に私たちが入ってしまって、良かったんでしょうか」


「ピピー」


「鬼人族のあなたは守護獣持ちなのね、あなた達はここに害をなす存在じゃなさそうだし、構わないわよ。それに、よく見たら霊獣の心配をしてくれた子は竜人族で、獣人族までいるのね」


「俺と妹の真白は流れ人で、全員がパーティーメンバーなんだ」


「二人はライムのとーさんと、かーさんなんだよ!」



 ライムはそう言いながら、俺と真白の二人と手をつないでくれる。それを見た妖精族の女性は、かなり驚いた顔をしている。



「あらあらまあまあ、流れ人が二人もいて竜人族を子供として育ててるなんて、とても素敵ね」


「差し支えなかったら、霊獣のことやこの場所について教えてもらえないか?」


「この場所に入ってこられるほどの力を持っているのだから、構わないわよ」



 そうして妖精族のヴィオレが教えてくれた話はこうだ。

 後ろの白い狐はこの聖域を守る霊獣だったが、ある時期からこの場所に不浄な力が流れ込み始めた。霊獣は必死にこの場所を守ろうとしたが、流入し続ける力に対抗しきれず徐々にその力を奪われたいったそうだ。


 今では動くこともままならなくなり、結界の(かなめ)となる霊木や周りの花たちにも影響し始めた。花の妖精であるヴィオレは何とか力になろうと、この場所や花を荒らす野生動物を追い払っていたらしい。しかし、不浄な力は妖精にも悪影響を及ぼすので、今はかなり無理をしているみたいだ。



「とーさん、かわいそう」


「そうだな、これは何とかしてやりたいな」


「お兄ちゃん、一時的にだけど私の魔法で、その力を取り除いてみようか」


「動物や妖精に効果があるかわからないが、症状の緩和くらいできるかもしれないし、やってみよう」


「あなたたち何をするつもりなの?」


「私とお兄ちゃんの力で、呪いや状態異常を解除することができるんです、その不浄な力で弱った体も一時的に回復させられるかもしれません」


「特殊な治癒魔法だから、動物や妖精に悪い影響は出ないと思うんだ」


「流れ人って、とんでもないことが出来るのね……

 わかったわ、まずは私に試してもらってもいいかしら」



 ここに入る前に真白にも二倍の強化魔法をかけているので、そのままヴィオレの手を取って呪文を唱える。



「どうですか?」


「まあまあ! 凄いわね、体がすごく軽くなったわ」


「浄化はこの力にも効くようだな」


「それにあなたたちの近くって、不浄な力をほとんど感じないの、不思議ね」


「ヴェルデも精霊に近い存在だけど、大丈夫?」


「ピピピーピ、ピッ」



 コールに問いかけられたヴェルデが、俺の頭に飛んできて何かを訴えるように鳴き始めた。



「アズルの障壁魔法じゃなくて、俺に不浄な力を防ぐような能力があるのか?」


「ピピッ!」


「私の障壁魔法はまだ物理だけですし、この部屋に入ってから解除していますよ」


「あらあらホントね、あなたの頭の上にいるとすごく楽だし落ち着くわ」



 何やら変な力に目覚めたのか、元から持っていたのかわからないが、俺の近くにいると不浄な力の影響を受けにくいみたいだ。それなら霊獣を抱いて、真白に治癒魔法をかけてもらおう。



「ヴィオレさんでいいか?」


「ヴィオレでいいわよ、でもこの場所すごくいいわー」


「ピピー」


「ヴィオレが気に入ったのならずっといて構わないけど、俺が霊獣に触っても大丈夫か?」


「あなたの近くが不浄の力の影響を一番受けないし、あの子を抱いてもらえるかしら」



 ヴィオレの許可が出たので、力なく横たわっている白い狐をそっと抱きかかえ、頭を優しく撫でる。霊獣といってもちゃんと体温があり、毛もフサフサで触り心地は抜群だ。



「キュ……」


「とーさん、すごくかわいいね」


「はやく元気にしてやろうな」



 俺に抱かれて少しだけ楽になったのか、顔を上げてか弱い鳴き声をあげたが、これは可愛い、可愛すぎる。元気になったら思いっきりブラッシングしてやりたい。


 真白に念のため二倍の色彩強化をかけて、そのまま霊獣に治癒魔法を発動してもらう。すると、体がだいぶ楽になったらしく、真白の手をペロペロと舐め始める。体力はまだ戻ってないかもしれないが、ひとまずは安心といった所だろう。



「お兄ちゃん、この子すごく可愛い! 私、飼いたい!!」


「その気持ちは俺もよくわかるが、この場所の守り神みたいな存在は飼えないと思うぞ」



 正直言うと、俺もこのまま連れて帰りたい。真っ白で尻尾もフサフサだし、何より仕草が可愛い。



「れいじゅうちゃん、よかったね」


「キューン!」


「リュウセイさんこれはいけません、私も飼いたくなってきました」



 コールもこの可愛さにやられてしまったか、だが仕方ないだろう。



「尻尾がフサフサだねー」


「ご主人さまの心を一瞬で掴んでしまいました、強敵の出現です」



 アズルはいつも何と戦っているんだろうか……



「霊獣が人に懐くだなんてとても面白いわ、さすが流れ人とそのパーティーね」


「真白の魔法で一時的に回復はしたが、俺たちはいつまでもここに留まれないし、こうなってしまった原因を排除したいと思う、何か心当たりはないだろうか」


「それが、この不浄の力がどこから流れ込んでいるのか、私やその子にもわからないのよ」


「いつ頃からこんな状態になったんですか?」


「私はたまたまここを訪れた時に気づいたのだけど、去年の秋頃かしらね……

 その時はまだここまで酷くはなかったわ」


「それならヴィオレが来る少し前か、夏あたりからの可能性が高いな」


「キュキューン」



 腕の中で鳴いた霊獣が、俺の予想が当たってると言ってくれているみたいだ。だとすればかなりの長期間、ここを守るために頑張ってくれたんだろう。



「辛かっただろうによく頑張ったな、偉いぞ」


「キューーー」



 頭を撫でると気持ちよさそうに目を閉じて、全身の力を抜いてくれる。しかし、この子もヴィオレも不浄な存在に気づいていないということは、発生源は地下か水中だろうか。こればかりは闇雲に探すわけにもいかないだろうし、時間もかかりすぎる。



「リュウセイ、感知魔法つかってみる」


「そうか、ソラの感知魔法なら原因の特定ができるかもしれないな」


「赤、黄色、紫で調べる、どれかに反応する確率高い」



 敵意を調べる赤と、汚染や瘴気を調べる黄色、そして魔力を調べる紫か。二倍の色彩強化をかければ、感知を阻む結界を突破できるようだし、それなら可能性は高いだろう。



「簡単に探せないみたいだからソラの魔法が頼りだ、頑張ってもらっていいか?」


「みんなの役に立つ嬉しい、それにリュウセイ居ないと、きっと見つからない」


「ソラおねーちゃん頑張ってね」


「任せて、ライム」



 ソラに二倍の強化魔法をかけて、探知魔法を発動してもらう。これで原因が見つかってほしい、集中するソラを見ながら、みんなで祈った。


二倍の強化魔法で拡張された効果には、結界の突破も含まれていました。

入り口も〝そこに存在する〟と強く意識できなければ、触ってもただの木と感じてしまう、とても高度な結界です。

(24話の作中で説明した、小屋にかけられているのが“簡易”結界なのは、こうした上位存在があるから)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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