第64話 ソラの超絶技巧
第5章の最終話になります。
ダンジョンで発見した宝石は、定期開催しているオークションに、商業組合を通して出品されることになった。この街は物流拠点だけあって、様々な街の商会が常駐しているので、希少なアイテムは競売にかけた方が高値がつくらしい。
冒険者ギルドからの帰り道、俺はライムとソラの二人を抱きかかえながら道を歩いている。ギルドでも落札金額は期待していいと言われ、俺を含めて全員の機嫌がいい。特に発見のきっかけになったクリムと、それを感知したソラの喜びようが顕著で、なぜか俺に甘えまくってくる。
「そういえば、宝石なのにどうして魔力が感知できたんだ?」
「ダンジョンで出る宝石、わずかにマナ溜まってる」
「クリムさんの攻撃で壁が削られた後に気がついたのは、反応が弱すぎて埋まった状態では感知できないからですか?」
「コールその通り、壁が削れなかったら見逃してた」
「クリムちゃん凄いです、これは私も認めざるを得ません」
「ふふーん、もっと褒めても良いんだよー、アズルちゃん」
「そんな風に言われると、やめたくなりますね」
「酷いよー、アズルちゃーん」
「クリムおねーちゃん、よしよし」
落ち込んだ風に大げさに肩を落とすクリムの頭を、ライムがあやすように撫でている。双子の姉妹だけあって、こうした遠慮のないやり取りは見ていて楽しい。
「ライムちゃんは優しいなー
さすがは、あるじさまとマシロちゃんの娘だねー」
「ふふーん、自慢の娘だからねー、クリムちゃん」
「マシロさんまで、クリムちゃんの真似を……」
胸を反らせながらモノマネっぽい返事をする真白に、アズルが苦笑を浮かべる。俺の首に掴まってご機嫌のソラと、腕を背中で組んで半分後ろを振り返りながら器用に歩くコールも、このやり取りを見て笑顔を浮かべていた。こうして大きな成果をあげた後はとても楽しい、特別依頼達成の時もそうだったが、これが冒険者活動の醍醐味だ。
「攻撃の時にダンジョンの壁も一緒に削るようにしたら、宝石って見つかりやすくなるのー?」
「宝石はいろんな出かたする、石の下から出たり上から落ちてきたり、今回たまたま壁の中だった」
「ソラおねーちゃん、このダンジョンには他にも宝石がでるの?」
「一度みつかると次、一ヶ月後か一年後か誰もわからない、宝石の出やすい時期、周期あるから」
「トーリのダンジョンは宝石が出やすいって言っていたが、その周期が短いのか?」
「周期にはかなりブレある、百年単位で見た時、トーリ一番多かった」
今回見つかったのは、本当に運が良かったんだな。それに、ソラが三並列の探知魔法を常時発動していなければ、まず間違いなく見落としていただろう。知識も豊富で情報も正確だし、本当に頼りになる仲間が加入してくれて嬉しい。
◇◆◇
帰る途中で買い揃えた食材で少し豪勢な夕食を食べ、いつものようにベッドの上でまったりとした時間を過ごす。今日のお礼も兼ねて、ブラッシングは特に念入りにしようと思っている。
ブラシを持ったソラが俺の足の上に座り、今日の膝枕はライムが担当してくれている。今までにない布陣だったが、先にブラッシングを受けたアズルは、真白とコールのダブル膝枕を堪能しながらノックダウン中だ。
「ふぁー、ソラちゃんもブラッシング上手だねー」
「アズルとクリム感じる場所、把握できた、ここをこの角度でこう!」
「ふにゃぁぁぁー」
普段はブラッシングを受けても比較的余裕のあるクリムだが、ソラのテクニックの前にメロメロになっている。
「私の手で存分に踊るがいい!」
要領の良さや洞察力はさすがだが、ノッてきたソラはちょっと暴走気味だ。縦横無尽に動かすブラシに合わせて、クリムの間延びした声が聞こえる。膝枕をしながら、ねこみみをモフりまくってるライムもノリノリで、クリムの体はどんどんベッドに沈んでいった。
ここで止めてもいいが、何となく対抗心を燃やしてしまった俺も、ブラッシングを再開する――
「もっ………もうらめぇー」
さすがに今日はクリムも液状化してしまった、少しやりすぎてしまったのは反省点だが、幸せそうなクリムの顔が見られたので後悔はしていない。ソラとライムはひと仕事終えた満足感なのか、額の汗を拭うような動きをしている。この二人は時々動きをシンクロさせるのが可愛らしい。
「クリムおねーちゃん、フニャフニャでかわいい」
「ライムちゃんの膝枕とー、なでなでも好きー」
「今日はクリムさんも動けなくなってしまいましたね」
「ソラちゃんのテクニックは、お兄ちゃんやライムちゃんを超えてるかもしれないね、お見事だよ」
「任せて」(ふんす!)
こうして腰に両手を当てて気合を入れる仕草も、ライムとは別次元の愛らしいさがある。小人族は子供扱いされるのを嫌う種族だと聞いたので、可愛がりすぎるのは控えようと頭の隅で思いつつ、目の前にある頭をなでなでしてしまう。
「とーさん、ライムも膝のうえに行っていい?」
「構わないが、ソラはどうする?」
「ライム、一緒に座ろう」
「ありがとう、ソラおねーちゃん」
あぐらをかいた足の上にソラとライムが別れて座り、お互いに見つめ合いながら微笑んでいる。
「そうしていると、二人は姉妹みたいに見えます」
「お兄ちゃんがお父さんだね」
「ライムみたいな、可愛い妹うれしい」
「ライムもソラおねーちゃん大好き」
二人は抱きしめあってお互いの顔をすり合わせているが、目の前でそんな光景を見せられたら無性に可愛がりたくなってしまう。
「ソラは俺の娘みたいに思われても平気なのか?」
「リュウセイなら、どう思われても平気、どんなことされても、嬉しい」
ここまで言ってもらえると、自分の中に特別な感情が湧き上がってくる。並んで座る二人の頭を撫でながら、ソラにはもっと多くのものを見せてあげたい、そんな気持ちを一層強くした。
「ダンジョン攻略が終わってからのことを、相談したいんだが構わないか?」
「次の街に行く話だよね」
「競売が開催されるのは十日後という話だし、この宿を借りて暫くするとひと月になるから、契約更新せずに次の街に向かおうと思うんだ」
ここの宿を最初に借りた時に、ビブラさんとマリンさんが助けてくれたお礼にと、一ヶ月分の家賃を支払ってくれている。俺たちも最初から、それくらいの期間はこの街でダンジョン攻略と依頼をこなしていく予定だったから、タイミングとしては丁度いい。
「ダンジョンを最後まで攻略した後に十分な準備時間がありますから、いいと思いますよ」
「コールちゃんの言ってた花が咲いてる場所には絶対行こうねー」
「ご主人さまやみなさんとの旅ー、とても楽しみですー」
「またかけっこしようね」
「最近ちょっと力が強くなった気がするから、今度は負けないよー」
「私も体が軽くなってきてるのでー、きっとご主人さまとの絆が深くなってきたに違いありませんー」
「負けないように頑張ろうね、ヴェルデ」
「ピーッ!」
「リュウセイに、いっぱい肩車してもらう」
「私はお兄ちゃんのお姫様抱っこがいいなー」
そうやってみんなで今後の予定を語り合っていると、ヴェルデが何かに気づきコールの左手に飛んでいった。これは例の合図だと思うが、魔法が発現するのはいつも突然だな。
「ピッ、ピピッ」
「もしかして新しい魔法が増えたの、ヴェルデ」
「ピピー!」
コールが魔法表示の呪文を唱えると、そこには[製水|清浄|照明|□□]と新しい魔法が増え、最後の枠が開放できるようになっていた。
「明るくなる魔法だよね、コールおねーちゃん」
「そうですね、使ってみましょう」
《明るくなって》
呪文とともに発生した光球が、コールの頭上でフワフワ浮かんでいる。光量も十分あり、ランプの光で灯されていたロフト部分が一気に明るくなった。光球の位置は自由に動かせるらしく、天井の近くや座っている場所に移動してくれる。
「さわっても熱くないね」
「魔法の光、実体ない、触っても何かにぶつかっても平気」
「ホントだー、不思議だねー」
「何も感触がないのに光ってるのは不思議ですー」
クリムとアズルは器用にしっぽを動かして触っているが、ブラッシングで整えられた毛が乱れる様子はない。
「これがあると野営の時に、明るい家で過ごせるね」
「ランプの光とは比べ物にならないくらい明るいし、ますます俺たちの旅が快適になるな」
「コールおねーちゃん凄い!」
「生活魔法って地味だと思ってたんですが、こうして色々使えるようになると本当に便利です」
「魔法が三つ、コール英雄になった」
「じゃぁ、もう一つの枠も開放しておくか」
「お願いします、リュウセイさん」
コールの左手を握り、スロット解放の呪文を唱えて、最後の一枠を開放しておく。ここにどんな魔法が発現するのか、また楽しみが増えた。
「コール魔神になる」
「ソラさん、お願いですから魔神はやめて下さい」
「魔法の解説書を書いた人が、今のコールを見たら驚くだろうな」
「六つ持ってる人、探したい」
「そんな人、この世界にいるんでしょうか」
「神話って言われるくらいだから、神様みたいな人かもしれないね」
この世界の神は一人で、博愛と潔白を司っている女神が信じられているが、それに近い存在がいるならやはり女性なんだろうか。
「物語の世界には、女神様の眷属いた」
「それってどんな人ー」
「眷属というくらいですからー、女神様の使いじゃないんでしょうかー」
「アズルの言ってること一番近い、眷属だと六つあるかもしれない」
「だがそれだと、女神様はもっと凄いということになるな」
「ライムみたいに、他の人とちがう魔法をつかえるのかな」
「女神様、きっと万能」
コールの新しい魔法が発現して、みんなの話は大いに盛り上がり、ベッドの上はいつも以上に明るい雰囲気に包まれていた。
次話から港街へ移動を始めますが、主人公の設定がやっと回収されます(笑)
ご期待下さい。




