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第62話 ソラの魔法

 ソラの宿泊先から荷物を引き揚げ、黄雷(おうらい)の里にある家まで戻ってきた。いきなり宿を出ていくことになったが、冒険者には良くあることらしく何も文句は言われなかった。


 管理棟でソラと一緒に暮らしていくと説明した時は、さすがに昨日の今日なので驚かれたが、こちらも快く受け入れてもらえた。宿屋といい管理棟といい、差し入れをして交渉を担当した真白の手腕も大きいだろう。俺に対する言動は少し残念なところがあるが、全てのスペックが高水準だからな……



「全部円滑に終わった、驚きしか無い」


「マシロさんが話をして、ライムちゃんがニッコリ笑ってくれたら、全てうまく行きそうな気がします」


「商売とかやっても成功するんじゃないかなー」


「こちらに有利な条件で取引したりできそうですね」


「私が将来やりたいのは食堂だから、役に立つのは仕入れの時くらいかなぁ」


「ライムは看板娘やるの」


「私はお水を作って料理のお手伝いですね」


「私とアズルちゃんは給仕かなー」


「洗い物や後片付けも、私とクリムちゃんにお任せください」


「計算得意、会計とかできる」



 次々と役割分担が決まっていくが、俺は仕入れや裏方を担当しよう。最初は三人で始める予定だった食堂も、ずいぶん大きくなってきた。ちょっとしたファミレス規模の店くらいなら、出来そうな気もしてくるな。



「食堂の話はひとまず置いておくとして、ソラに俺と真白の魔法を教えるよ」


「そうだった、家族になれるのが嬉しくて、すっかり忘れてたね」


「私は赤の土属性で、魔法は二枠あるんだよー」


「私は青の水属性で、魔法の枠は三つになるそうですが、今のところはクリムちゃんと一緒に二つ目の発現待ちです」


「私は黒の生活魔法で、ご存知の通り製水と清浄が使えます。最終的に四枠使えるようになるみたいで、今は三枠目の発現待ちですね。ヴェルデは緑の土属性で、枠は一つしかありません」


「ピピー!」


「ライムはまだ使えないけど、竜魔法をもってるの」


「ちょっと、待って……二つとか三つ、それに四つ………達人、英雄、魔神、揃ってるのおかしい」


「……うっ、やっぱり魔神ですか」



 ソラの口からも魔神という言葉が出て、落ち込んでしまったコールの頭をそっと撫でる。その単語が出るってことは、きっと同じような資料や本を読んだんだろう。



「俺にはその人が潜在的に持っている魔法枠を、開放する力があるんだ。その力を使って、普通は使えないはずの枠を利用できるようにした」


「流れ人の力?」


「この世界に無い魔法だから、間違いなくそうだろう」


「それ素晴らしい、私はどう?」


「ソラの魔法を見せてもらってもいいか?」



《魔法、見る》



 キラキラとして目で俺を見つめるソラが呪文を唱えると、小さな左手の甲に[感知|□□|■■]と表示された。水色の魔法は感知以外存在しないが、新しい枠を開放したら何が発現するんだろう。



「ソラは三枠持ってるな」


「ふぉぉぉぉぉー、感知魔法以外存在しない水色で何が出るんだろう! リュウセイ、どんなに辛くても我慢するから、ひと思いに私を(つらぬ)いて」


「別に穴を開けたりしないし、痛くないから心配しなくても大丈夫だ」



 相変わらず興奮しすぎると言動が際どくなるソラに苦笑しながら、左手を握って呪文を唱える。



スロット(魔法枠)リリース(解放)



 すると表示されていた文字が[感知|感知|□□]と、今までにない変化の仕方をした。これは感知魔法が二重化されたんだろうか、それに即座に次の枠が開放可能になった。


 そのままもう一度スロット解放の呪文を唱えると、ソラの左手には[感知|感知|感知]と三つの感知魔法が並ぶことになった。



「これは感知魔法が並列化されたんだろうな」


「別の魔法が発現しなかった、ちょっと残念」


「しかし俺の予想通りだとすると、ソラは三種類の感知魔法を一度に使えることになるぞ」


「試してみる」



 持ってきた荷物の中から彩色石(さいしょくせき)を六個取り出して、青と水色と紫色の手に持って呪文を唱えた。青は人のいる場所がわかる石で、水色は水源の感知だ、紫は魔力を帯びた魔道具にも反応するんだったな。



《感知、開始》



「みんなの場所わかる、裏の井戸見える、管理棟に何か魔道具おいてある」


「ソラちゃん凄いねー」


「彩色石をいちいち持ち替えないで済むのは、素晴らしいと思います」


「地味だけど、便利かも」


「ソラおねーちゃんの魔法って、魔物を探したりできるの?」


「赤の石、使うと出来る」


「汚れて危ない水や、近づくだけで状態異常を起こす場所もわかるはずだ」


「ダンジョンで魔物を避けながら安全な場所を探して、危険な場所に近づかないようにするなんてことを、一度に出来るようになるね」


「でも私、マナ少ない」


「それは私にお任せだよ!」



 授業で発表する時のように、シュタっと右手を上げた真白がソラに近づいていく。隣りに座ってじっと顔を見られたソラは、ちょっと恥ずかしそうにしている。



「なに……するの?」


「ふふふー、とっても気持ちいいことだよ」


「……えっ?」


「ソラちゃんはそのままじっとしててくれるだけで、天にも登るような快感が得られるからね!」


「マシロ、ちょっと怖い」


「一度この(よろこ)びを体験すると元には戻れない体になるから、お姉さんに任せ……ふにゃっ!」


「いい加減にしないか」



 ソラの両肩をがっしり掴みながら、顔をどんどん近づけていく真白は少し暴走気味だ。そんな残念妹の頭に軽くげんこつを落とすと、ウインクをしながらペロっと舌を出して、こちらに反省の表情を見せる。魔法を思う存分使えるのは気持ちがいいらしいが、あの言い方はちょっとやり過ぎだからな。



「ソラちゃんが可愛すぎて、つい迫っちゃったよ」


「真白には契約をして繋がった人物のマナを、一つにして管理する力があるんだ」


「お兄ちゃんが上級魔法使いくらいのマナを持ってるし、ライムちゃんはそれの十倍近くのマナがあるから、ソラちゃんも繋がったらそれを使えるようになるよ」


「コールがマナ不足おこさないの不思議だった、謎が解けた」


「私も元のマナ量だと自分の飲む水くらいしか作れませんでしたが、今では料理に使う全ての水を魔法で出せるようになったんです」


「ソラおねーちゃんも、魔法をいっぱい使えるようになるからね」


「私もみんなと一つになりたい、マシロやって」


「覚悟はできたようだね! じゃぁ、すぐ済むから少しだけ目をつぶってね」



 どうしても少しイケナイ感じに聞こえてしまうのは、俺の心が汚れているからだろうか。そんな葛藤をよそに、目をつぶったソラの額に、真白が軽く口付けをする。



コネクト(接続)



「終わったよ、ソラちゃん」


「これで一つになったの?」


「うん、これで終り。ソラちゃんのマナは、コールさんより少し多いくらいかな」


「そんなこと、わかるんだ」


「私の持ってる魔法は三つあって、治癒とマナ共有(シェアリング)とマナ計器(メーター)なんだ」


「そして俺が収納と、さっきやってみた魔法枠制御と、もう一つが色彩強化という魔法だ」



 そしてソラに色彩強化で、みんなの持っている魔法がどう変化するか説明していった。実際の効果も少しだけ披露すると、その顔がどんどん驚きの表情に変わる。



「解呪や霊薬に匹敵する治癒、全属性の身体補助、完全防御、上位属性魔法、瞬間移動と空間転移……

 ……いま私、おとぎ話の中にいる気、する」


「一度使うと元に戻るから、その都度強化し直さないといけないし、使い勝手は悪いんだけどな」


「それに強化状態で使うと、マナの消費も増えちゃうんだ」



 大雑把に計測してもらったが、通常の強化で元の倍程度マナを使ってしまう。二倍強化になると、五倍くらいの消費量になるようだ。ライムのマナのおかげで、全員が使ってもすぐ枯渇することはないが、乱発は避けるようにしたほうが無難だろう。



「欠点あっても、効果は破格すぎる」


「ソラの魔法も強化してみようか」


「どんな風に強化されるか、楽しみ」



 ソラの手を取って通常の強化魔法をかけてみると、三つの魔法が同時に[感知(拡大)]に変化する。これは文字通り、感知できる範囲が広がったんだろう。そして二倍の強化魔法をかけると、今度は三つが同時に[感知(拡張)]に変わった。



「拡張とはどういった効果があるんだろうな」


「拡大と拡張はよく似ていますが、意味に違いはあるんでしょうか」


「どっちも大きくするって意味だよね」


「何となくだけど、新しい事がわかるようになる気がするなー」


「こんな時のクリムちゃんの勘は案外当たるんです、実際に使ってみてもらえませんか、ソラさん」


「なんか私がいつも考え無しみたいな言い方で酷いよー、アズルちゃん」


「俺はクリムが、ちゃんとみんなのことを考えてくれてるのは判ってるし、明るくて元気なところも好きだからな」


「わーい、やっぱりあるじさまは味方だー」



 俺の腕を抱きしめに来たクリムの頭を、膝の上に座っていたライムと一緒に撫でる。しっぽもピンと上を向いて、ユラユラ揺れているので相当嬉しいみたいだ。



「クリムちゃんだけズルい……

 私としたことが不用意な発言をしてしまいました、不覚です」



 アズルはそんな俺たちを見て、がっくりと肩を落としている。不公平にならないように、後で頭を撫でてあげよう。



「リュウセイ、拡張の効果わかった」


「どんな感じになったんだ?」



 クリムたちと他愛のない話をしていた最中に、感知魔法を発動させていたソラが答えを見つけたみたいだ。



「今まで全部同じ見えてた、それが変わった。パーティーメンバー、他とは違って見える」


「それって、個人が特定できるようになるのか?」


「そこまではわからない、でも他とは別なのわかる」


「周りにいる人と別の色で見えるとか、そんな感じなのかな?」


「うん、それに近い。

 ライム、少しリュウセイから離れて」


「わかったー」



 ライムが膝の上から降りて少し離れた場所に立つと、ソラが何かを確かめるようにグルっとあたりを見回した。



「強さや大きさみたいなの、わかると思う」


「そこまでわかるようになるのか、凄いな」


「ライム小さいけど強い、ヴェルデも同じ、多分精霊に近い存在だから」


「ピピピー」


「強い魔物があらかじめわかるというのは、とても凄いですよソラさん」


「拡張の効果って便利だねー」


「万が一離れ離れになっても、ご主人さまとソラさんが一緒にいれば、見つけてもらいやすくなりますね」


「この世界って連絡手段が限られてるから、使い方次第で便利になりそうだよ」



 きっとソラが仲間として心を寄せている人は、別のイメージとして感知されるようになったんだろう。それにライムやヴェルデが強く見えるのは、潜在能力まで見通せるようになったと考えられる。感知できる範囲を広げる拡大、そして感知できる能力を広げる拡張、言葉の意味としては成程と納得できる。


 強化魔法の特殊効果がまた一つ判明したが、ソラの感知魔法はこれから先の冒険で大きな武器になるのは確かだ。


ソラの魔法と強化効果が判明したので、登場人物の欄に追加して、主要キャラの身長対比の画像も追加しています。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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