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第59話 買い出し

 ソラと約束したお昼前にライムを肩車しながら待っていると、道の向こうから小さな人影が現れた。手に持っているカバンは普通のサイズだと思うが、どうしても大きく見えてしまうので手伝おうと近づいていくと、向こうも俺たちに気づいて小走りに駆け寄ってきた。



「ソラおねーちゃん、いらっしゃい」


「ごめん、待たせた?」


「ちょうどいま来たところだから大丈夫だ、それよりカバンを持つよ」


「ありがとう」



 ライムを肩から下ろしてソラのカバンを受け取り、三人で管理棟へと向かう。二人が手をつないで歩いている姿は、幼い姉妹のように見えてしまうが、もう十四歳のソラには失礼な見方だな、気をつけよう。


 管理人の男性にゲストで一人家に泊めたいと言ったが、元々七人用だったこともあって、あっさり了承してもらえた。というか、ライムがお願いしたらサムズ・アップしながらオーケーが出た、さすが俺と真白の娘だ。



「あっさり、入れてもらえた」


「まぁ、ライムのお願いだからな」


「ライム、凄い」


「ソラおねーちゃんの役にたてて、ライムもうれしい」


「本当にいい子、ギュッてして、いい?」


「うん、いいよ!」



 ソラがライムを抱きしめて頭を撫でているが、その姿はすごくほっこりする。ここだけ特別な空間になってしまったと思えるくらい、癒やしの波動に満ちている感じだ。


 そんな二人をいつまでも見ていたい衝動に駆られたが、お昼の準備がそろそろ終わるはずなので家へと向かう。中に入ると甘い匂いが漂ってくるが、冬に南部地域で収穫できる果物を使って、真白がジャムを作ってくれたからだ。そのジャムを使ったパウンドケーキを焼いて、その余りはパンに塗って食べることにしている。



「ただいま、みんな」


「ただいまー」


「……お邪魔、します」


「ソラちゃんいらっしゃいー」


「おかえりなさい、ご主人さま、ライムちゃん。

 それに、ようこそソラさん」


「いらっしゃい、ソラさん。すぐご飯にしますから、中に入って座って待っていて下さいね」


「あるじさまー、荷物は私が持っていくねー」


「私はマシロさんのお手伝いをしてきますから、ご主人さまとライムちゃんも席に座っていて下さい」



 キッチンにいる真白は手が離せないようでこの場に来ていないが、クリムとアズルとコールの挨拶を受けたソラは、ちょっと頬を染めている。



「凄く甘い匂い、する」


「かーさんがジャムを作ってくれたんだよ」


「果物を砂糖と一緒に煮て作るんだ」


「甘い果物のソース、食べられるの!?」


「大量に作ったみたいだから、お代わり自由だぞ」



 それを聞いたソラの口から、また涎がたれそうになっている。やはりどの種族も、女の子は甘いものが好きだな。ライムはもちろんのこと、他の四人もジャムは大好物だ。


 三人で席につき、今のうちにこの家の作法を伝えておこうと、隣りに座ったソラに声をかける。



「この家では食べる前に“いただきます”と言って、食べ終わったら“ごちそうさま”と言うようにしてるんだ。もしソラに食事の前にお祈りするような作法があったら、そっちを優先してもらいたいが、特にこだわりがなかったら二種類の挨拶を言ってもらっても構わないか?」


「お弁当食べた時も言ってた、どこかの風習?」


「俺と真白の二人が続けてきた習慣みたいなものなんだが、詳しい話は長くなるから夜にするよ」


「わかった、変わった習慣とか面白い、私もちゃんと言う」



 そんな話をしていたら、荷物を置き終わったクリムが席に座り、真白とコールとアズルの三人が料理を運んできてくれる。



「ソラちゃんいらっしゃい、今日は遠慮しないでたくさん食べてね」


「うん、楽しみにしてた、どれも美味しそう」


「晩ごはんが濃い目だから、お昼はあっさりした物にしたんだ」



 テーブルに並べられた料理は、スープ代わりになる野菜のたっぷり入った卵とじと、とろみのあるソースが掛かったハンバーグのような塊がある。そして薄くスライスされたパンに、赤紫色に輝く大量のジャムだ。それを見るソラの瞳は、宝物を目の前にした時のようにキラキラしている。



「かーさん、これハンバーグ?」


「それはね、茹でた豆を潰してから固めて焼いてるんだよ」


「これ、豆なの!?」


「そうだよソラちゃん、甘いジャムを付けたパンを食べた後の口直しになるから、交互に食べてみてね」


「豆がこんな料理になるなんて凄いねー」


「私もスープにしたり、何かと一緒に煮込む料理しか知りませんでした」


「マシロさんのお手伝いはずっと続けていますけど、いつも驚かされてばかりです」


「さぁ、冷める前に食べちゃおうね」



 真白の号令で全員がいただきますの挨拶をして、気になる料理から食べ始める。豆で出来たハンバーグは、少し塩辛いソースが掛かっていて、確かに甘いものの箸休めに丁度いい。汁がたっぷり入った卵とじは素材の旨味が十分出ていて、あっさりしているのにとても深い味わいだ。手作りのジャムも酸味と甘味のバランスが良く、口にしたみんなが笑顔になっている。



「凄い、全部美味しい、マシロは料理の天才」


「ソラちゃんに喜んでもらえて良かったよ、晩ごはんも期待しててね」


「口の中、幸せ止まらない、晩も楽しみにしてる」



 ジャムをたっぷり塗ったパンを口いっぱいに頬張り、一生懸命モグモグ動かしているソラの顔は、とても幸せそうだ。その姿を見ているこちらまで、温かい気持ちになってくる。今日はこの場に誘うことが出来て本当によかった、パーティーの誘いを断られても、こういった機会は何度も作りたい。



◇◆◇



 少し食休みをした後は、話をしたりゲームをしたりしながら、みんなで思い思いに過ごす。ソラも色々な話を披露してくれるが、どれも知らないことばかりでとても面白い。全て本から得た知識らしいが、やはり実際に見て触れた昨日のダンジョン探索は、とても刺激的だったようだ。



「お兄ちゃん、ちょっと足りない材料があるんだけど、買ってきてもらってもいい?」


「あぁ、構わないぞ」


「ごめんね、ちゃんと確認したつもりだったんだけど」



 お茶とおやつを食べた後、晩ご飯の準備に取り掛かっていた真白が、俺の近くに来て申し訳無さそうにお願いしてきた。俺はソラと話をしながら、ライムたちがやってるカードゲームを見てるだけなので、そんな事気にせず用事を言いつけて欲しい。



「料理は任せっぱなしなんだから気にするな」


「ありがとう、これ買い物リストね」



 真白からかメモを受け取って席を立つ。

 今夜のご馳走を楽しむため、運動がてら出かけるのに丁度いい。



「俺は今から買い物に行くけど、ライムたちはどうする?」


「ライムはクリムおねーちゃんとアズルおねーちゃんと遊んでる」



 昨日の買い出しの時に見つけた色々な絵が描かれた札を二組利用して、神経衰弱やババ抜き(ジジ抜き)を教えたら、すっかりハマってしまったみたいだ。


 元々の目的は絵で言葉を覚えるためのものらしいが、こうしてゲームに使うのもいいだろうと買ってみたのは大正解だったな。食後もみんなで遊んだし、今はクリムとアズル相手にカードを引き合っている。



「リュウセイ、私も行く」


「店のある区画までは結構距離があるが、構わないのか?」


「食べ過ぎた、少し運動したい、お腹空くようにして、晩もたくさん食べる」


「それなら一緒に行くか」



 二人で家を出て並んで歩くが、ペースはライムと同じくらいで大丈夫だろうか。昨日は一日中ダンジョンに入っていたので、それなりに体力はあると思うが、小人族と竜人族では身体スペックが大きく異なるはずだ。



「歩く速度はこれくらいでも大丈夫か?」


「もっと早くても、平気」


「買いに行くのは仕上げに使う材料だから、少しくらい遅くなっても平気だし、のんびり行こう」


「わかった」



 ソラの返事を聞いて道を歩き始めるが、二人ともコミュ力に問題があるため、沈黙の時間が訪れて少し居心地が悪い。身長差がありすぎてソラの頭頂部しか見えないが、淡い水色の髪の毛はサラサラで、思わず撫でたくなってしまう。



「ソラの髪はきれいだな」


「触ってみる?」


「俺が触ってもいいのか?」


「クリムやアズル、撫でられて嬉しそうにしてた、体験してみたい」


「それなら撫でてみるよ」



 俺たちと一緒に行動してそんな場面を何度か見たせいか、ソラの好奇心を刺激してしまったみたいだ。立ち止まってそっと触れてみるが、ライムとおなじように細くてクセのない髪は、とても手触りがいい。



「不思議な感じ、する」


「サラサラでとてもさわり心地がいいよ、いつまでも撫でていたいくらいだ」


「好きな時に、撫でてもいい」


「そうか、それならソラも俺に何かして欲しいときは、遠慮なく言ってくれ」


「じゃぁ……手、繋ぎたい」


「もうじき人通りの多い場所に出るし、その方がはぐれなくて良いかもしれないな」



 差し出された小さな手を握って移動を開始したが、こうして移動するのが楽しいらしく、ソラは弾むように歩きはじめた。ほんの些細なことだと思うが、こんなに喜んでもらえるのはうれしい。



◇◆◇



 買い物を終え、二つの荷物をカバンにまとめ収納に入れておく。店と店の距離が遠かったので、結構な距離を歩いてしまった。ソラと一緒だったので歩くペースはゆっくりだったが、食後の軽い運動としては十分だろう。



「収納魔法、便利」


「たしかに便利なんだが、何でも収納に頼ってしまうと体がなまってしまうから、依頼の時なんかは自分でもある程度運ぶようにしてる」


「ライム抱っこするの、運動になってる?」


「本人も喜んでくれるし、俺も楽しいし、軽い鍛錬にもなるし、利点ばかりだな」


「今日の荷物、持って運ばないの?」


「今日の荷物は軽いし、ソラと一緒だから収納して帰るよ」


「なら……わ…私を………抱っこして、みる?」


「もしかして歩きすぎて疲れたか?」


……うん(ホントは違うけど)、ちょっと、疲れた」


「それなら遠慮すること無い、帰りはそれで歩こう」



 しゃがんで首に掴まってもらった後に、腕の上に座ったソラを持ち上げるが、片腕でも十分支えられるくらいの重さだ。



「重くない?」


「これくらいなら全然余裕だ、ライムと一緒に抱っこしても大丈夫だな」


「リュウセイ、力持ち」


「ある程度鍛えてるが、そこまで力はないと思うぞ」


「視点高い、あんなに遠くまで見える、こんなの初めて、凄く楽しい」



 他の種族に抱っこされたことはなかったのか、ソラは一気に変わった視線の高さに驚いて、興味深そうにキョロキョロ辺りを見回している。



「肩車ならもっと遠くまで見えるぞ」


「ライムが肩の上、座ってたやつ?」


「やってみるか?」


「やりたい!」



 今度は頭に掴まってもらい、そのまま持ち上げて肩車の姿勢に変更する。そうすることで更に視点が高くなり、頭の上からは「ふあー」という、ため息のような感嘆の声が聞こえてきた。



「どうだ?」


「鬼人族の男の人、同じくらいの高さになった、こんな風に見えるんだ、凄い凄い!」



 近くを歩いていた鬼人族の男性が、俺たちの姿を見て手を振ってくれている。視線が若干上の方を向いてる気がするので、俺の身長がプラスされたソラの頭の位置は、彼より少し高いんだろう。



「このまま歩いてみるぞ」


「うん!

 ……肩車楽しい、ライムが嬉しそうにしてる理由、良くわかった」



 肩車のまま街を歩いたり、抱っこしたままお店を覗いてみたり、少し寄り道をしながら家へと帰ることにした。ソラは始終ご機嫌で、今度は互いに無言になることは一度もなく、楽しく家まで帰ることが出来た。


異世界で流行らせる遊びはリバーシ(オセロ)と相場が決まってます(?)が、現地にありそうなもので出来る新しい遊びは、やっぱりこの二つが鉄板です(笑)

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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