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第4話 冒険者ギルド

 冒険者ギルドの建物に入ると、中にいた人たちが一斉にこちらに顔を向けてくる。変わった服装で小さな子供を連れているからか無遠慮な視線が突き刺さり、街でチラ見された時には反応しなかったライムも怯えてしまったようで、胸元にキュっとしがみついてきた。


 これが物語にもよく出てくる、新人に対する洗礼だろうか。しかし、子供を怖がらせる連中には寛容でいられないので、目を細めながら辺りをぐるっと見渡すと、こちらを見る視線は幾分マシになった。ライムもそれを感じ取れたのか、もう大丈夫というように笑顔を向けてくれる。



「受け付けに行こうか」


「うん!」



 建物の中は複数の受付窓口があり、他にも横長のカウンターを備えた場所もあった。奥の方には飲み物や食べ物を出す場所だろう、テーブルや椅子が並べられていて、そこで談笑しているグループもいる。壁には掲示板のようなものに色々なことが書き込まれていたり、何かの販売コーナーみたいなものなのか、商品っぽい小物が多数並んでいた。



「いろんな物がいっぱいあるね」


「また今度ゆっくり見てみような」


「楽しみだね」



 いくつか並んでいる受付の一つに歩いていくが、全員綺麗な女性ばかりで微笑みながらこちらを見てくれている。建物に入った瞬間に辺りを睨み返したのは少しやってしまった感があるが、こういった状況に慣れているのか、受け付けの女性たちは怖がったり不審な視線を向けてこない。



「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。

 本日のご用件は何でしょうか」


「門の所でこれを渡されて、ここに来るように言われたんだ」



 門番にもらった札を受付嬢に手渡すと、それを確認して少しだけ驚いた顔をする。



「別室にご案内いたしますので、少々お待ちいただけますか」


「わかった、よろしく頼む」



 後ろの席に座っていた上司だろうか、その人物に札を手渡すと立ち上がって奥の部屋に入っていく。戻ってきた受付嬢に案内され、小さな応接室なような場所に通された。そこには中年の男性と、背の高い女性の二人が待っていて、男性にソファーに座るよう勧められ、ライムと並んで座ると女性が紅茶のような飲み物を出してくれる。少し口にしてみたが、ほんのり甘くてとても美味しい。ライムも俺の真似をして口に含んだ瞬間、とても嬉しそうな表情に変化していた。



「私はここのギルド長を務めるタンバリーという、彼女は秘書のクラリネだ」


「ギルド長の秘書を務めるクラリネと申します、よろしくお願いいたします」


「お……私の名前は龍青で、こっちの子供がライムという……ます」



 組織のトップが出てきたので丁寧な口調を心がけてみたが、緊張していつもよりぎこちなくなってしまう。



「楽な喋り方で構わんよ、冒険者の連中は口の悪いやつが多いからな」


「すまない、昔から敬語は苦手で、そう言ってもらえると助かる」


「リュウセイ君とライムちゃんか、流れ人(ながれびと)と言うことだが間違いないね」


「俺は地球という星の日本という場所に住んでたんだが、白い光に包まれて気が付いたらこの世界に飛ばされていた」


「そちらの子供も同じ場所から来たのかね?」


「ライムはこの世界に来て出会ったんだ」


「名前はここにいるとーさんにつけてもらったの」


「種族が違うようだが、父と呼ばれているのだな」


「この子は竜人族なんだが、生まれて最初に目にしたのが俺だったらしく、こうして父として慕ってくれている」



 俺に頭を撫でられたライムは嬉しそうな顔になるが、目の前のギルド長と秘書の表情は驚いたものに変わる。五百歳を超えるドラムですら滅多に会えない種族というくらいだから、こうして目の前にいるのが信じられないんだろう。



「流れ人だけでも珍しいが、そのうえ竜人族とは……

 彼女の仲間のことについて何か知らないかね?」


「ライムも生まれたばかりでその事は全く覚えていないし、俺もこの世界のことを知らないので詳細はわからないんだ」



 秘書の女性が資料を持ってきてくれたが、ツノの場所と模様が浮かび上がるのが竜人族の特徴らしく、ライムの種族については間違いないだろうということだ。流れ人についても教えてもらったが、この世界が呼び込んだ客人として、冒険者ギルドが身分の保証や生活していく上での支援をしてくれるらしい。


 俺は荷物の入ったバッグを土手の上に置いたまま飛ばされたので知らなかったが、流れ人は着ているもの以外の所有物は持ち込めない制約があるので、そのための救済措置ということだった。


 流れ人がこの世界に呼ばれた理由は本人にもわからないが、自由に過ごしていれば自然にその目的が達成される。どうしてもこの世界で自活していくのが困難な場合、王家に保護してもらうことも可能らしいが、俺は妹を探す目的があるので、その方法に頼るつもりはない。


 この国や街のことを簡単に教えてもらい、魔法のことも聞いてみたがゲームや小説では出会ったことのない魔法体系だったので、また後日じっくり調べてみることにしよう。簡単に説明してもらった限りでは、黒・赤・緑・青・黄・水・紫・白の八種類の魔法があり、人は必ずいずれかの色を持っている。赤・緑・青の三色は、火・風・土・水の属性もつくらしいが、色々複雑みたいなので今日の所は詳しく聞くのをやめた。



「リュウセイ君の持っている色を調べさせてもらっても構わないかな?」


「まだ理解しきれていないし、お願いする」



 収納魔法が発現しているのはわかっているが、何色に該当するのとか知らないので、調べてもらうことにした。秘書の女性が持ってきた丸い玉に手をかざすと、中心が紫色にぼんやりと光りだす。



「さすが流れ人と言うべきか、珍しい色が出たものだな」


「紫色ですから、リュウセイさんは収納魔法が使えるはずです」


「ライムもやってみていい?」


「ライムさんは竜魔法という我々とは違う魔法が使えますので、色はつかないかもしれませんが、どうぞやってみてください」



 丸い玉にライムも手をかざしてみるが、先程のように中心の色が変化することはなかった。少し残念そうにしているライムの頭を撫でながら、きっとすごい魔法が身につけられるから大丈夫だと慰める。



「収納魔法は少し練習して使えるようになったんだが、途中でこんなものを拾ったんだ」



 《ストレージ・アウト》の呪文を唱え、ドラムからもらった(ウロコ)をギルド長に差し出す。



「こっ、これは黒竜様の!?

 一体どこでこれを見つけたのだ?」


「ここから少し離れた場所にある丘の近くで見つけたんだ」


「今朝早くに、西の街道近くで竜の目撃情報がありましたので、恐らくその時に落とされたのではないかと」



 目立たないように移動してきたとはいえ、あの巨体だからやっぱり誰かに見られていたのか。さすがに竜本人に貰ったとは言えないので、拾ったことにしようと三人で決めたが、幸い俺やライムが運ばれたことまでは伝わっていないようでホッとする。鱗がここに存在するいい証拠にもなってるので、結果オーライだな。



「これをギルドで買い取ってもらうことは出来るか?」


「もちろん当ギルドで買い取らせてもらう!」



 少し興奮気味のギルド長が、嬉しそうに鱗の表面をなでている。次第に恍惚とした表情になっていくのは、少し不気味だ。小さな子供にはあまり見せたくない姿だが、ライムは秘書の女性が出してくれた飲み物に夢中で、全く関心を示してなかった。


 そこからは秘書の女性が中心になって、ギルドのランク制や登録について教えてくれた。まずは一番低い白級(しろのきゅう)からスタートだが、このランクは店や職人の手伝いをしたり、清掃や採集の仕事ができるらしい。


 ギルドカードには身分証と住民票の役割もあるようで、ライムも同じように発行してもらえた。まだまだわからないことや知りたいことも多いが、一度に覚えきれないし、まずは着るものを何とかしたい。それにこの世界に飛ばされたのが夕食前だったので、ちょっとお腹が空いてきた。


 ほんのり甘い紅茶みたいな飲み物のおかわりを持ってきてくれたので、ライムと二人で飲みながら買い物をする場所や宿泊施設のことなどを聞いていく。ギルド長はドラムにもらった鱗に頬ずりしながら、部屋から退出してしまった。



「ギルド長は竜の鱗が好きなのか?」


「すごくうれしそうな顔してたね」


「普段は真面目で冒険者のこともしっかり考えてくれる方なのですが、あの不思議な手触りと光沢に魅了されていまして……」


「確かに元いた世界にも無いような材質だったな」


「あの様子だと、素材に加工される前に持ち帰って、ご自宅で一緒に眠るでしょうね」



 竜の鱗がそんなに好きなのかギルド長は。職権乱用している気がしないでもないが、喜んでもらえたのなら良しとしておこう。秘書の女性も違う世界のことに興味があるのか、良ければ色々聞かせて欲しいと言ってきたので、この世界について教えてもらう時に話す約束をした。


 妹が一緒の現象に巻き込まれたので、もし他にも流れ人が来たら伝えて欲しいことや、仔猫のこともお願いして今日は帰ることにする。竜の鱗の買取代金は大きな袋と小さな袋に入れて手渡されたが、贅沢をしなければ半年くらい生活できるお金らしい。流れ人ということで色を付けてくれてるみたいだが、ドラムには感謝しないといけないな。



◇◆◇



 その場で二人分のギルドカードを発行してもらい、スポーツ施設でもらうメンバーズカードくらいの大きさで、今のランクを示す白い色の金属っぽい板を受け取ってきた。移動するために再び抱きかかえたライムが、珍しそうに俺と自分のカードを色々な方向から見ている。本人にしか使えないように、箱のような道具の上に手を置いて個人登録しているが、二枚のカードの違いは名前の部分しかない。


 自分の能力を左手に表示させた時に気づいたが、やはりお約束どおりに異世界語の読み書きが出来た。話すことは出来ても文字が理解できなかったライムには、ゆっくりと教えていこうと思う。そんな事を考えながらギルドの出口へ向かって歩いていると、突然横から声をかけられた。



「おう、さっきはすまなかったな、嬢ちゃんを怖がらせるつもりはなかったんだ」



 声のした方に視線を向けると、そこに立っていたのはいかにも冒険者風という、軽装の防具を身に着け腰に剣を刺した、俺と変わらないくらいの身長をした男性だった。体つきは服の上からでもわかる程がっしりしていて、首から黄色のギルドカードをぶら下げていた。いま作ってもらったカードとは少しデザインが違うが、さっきの説明だと段位の最高ランクだ。



「いや、もう気にしてない。さっきは初めての場所だったから驚いてしまっただけだ」


「ライムも、もう平気」


「後から来たヤツに聞いたが、兄さん流れ人なんだってな」


「目が覚めたら知らない場所で寝ていて、この子が見つけてくれたんだ」


「ほぅ、そうだったのか……

 おっと、俺の名前はシンバっていうんだ」


「俺は龍青という名前で、こっちはライムだ」


「ライムといいます、よろしくおねがいします」



 ライムに挨拶されたシンバは、ニカリと笑ってくれる。前歯が一本無いが、いい笑顔だった。使い込まれた装備品を見る限り、かなりの年月を冒険者として活動してきたんだろうことは判るので、魔物との戦いで折れてしまったのかもしれないな。



「しかし、こうして改めて見ると、リュウセイはいい面構えしてるな」


「とーさんカッコイイ!」


「元いた世界では、かなり怖がられたんだが」


「はぁーっははははは、リュウセイの顔を怖いなんて言ってるようじゃ、魔物とは戦えないぜ!」



 奥のテーブルの方からも「そうだそうだ」という声が聞こえるし、そういって笑うシンバの顔も元の世界の基準だと、かなりの強面(こわもて)だ。室内をぐるりと見渡してみてもその顔つきは様々で、優しそうな笑顔で談笑している人や、鋭い目つきで壁の掲示板を眺めている人、それに額からツノが生えていたりケモノの耳がついている人など多種多様だった。



「ここにいるのは全員冒険者なのか?」


「依頼を持ってくる街の住民もいるが、ガラの悪そうな奴らは全員冒険者だ」


「なんだと! テメーが一番悪人面(あくにんづら)じゃねぇか」

「そこの可愛い嬢ちゃんが怖がったのはシンバのせいだぞ、ちったー反省しろ!」



 奥の方から口々にヤジが飛んでくるが、このギルドの雰囲気を見ていると、思い描いていた冒険者の姿とは少し違った。もっとこう「ここは子供が遊びに来る場所じゃねぇ」とか「新人のくせにデカイ面しやがって」みたいなイメージがあったが、こうして話している姿は気さくでいい人たちに見える。



「ライムかわいいって言われた」


「良かったな」



 嬉しそうにこちらを見るライムの頭を撫でてやりながら、なるべく可愛い服を選んでやろうとこの後の買物を計画する。



「話し方も堂々としてるし、リュウセイは冒険者向きだな。この先わからない事があったら俺やその辺の連中に聞きな、力になってやれると思うぜ」


「昔から敬語は苦手だったんだが、こうして気楽に話せる人と知り合えてよかったよ。俺はまだこの世界のことを知らないから、色々頼らせてもらうと思うがよろしく頼む」


「よろしくおねがいします」



 一緒に頭を下げてくれたライムのおかげで、その場の雰囲気がほっこりした。今日はこれから服を買いに行くと告げ、冒険者ギルドを後にする。建物を出る時にライムが手を振っていたが、全員が振り返してくれていたので、あの場の友好的な雰囲気はこの子がいてくれた影響も大きかったんだろう。抱き上げた小さな存在にそっと感謝をしながら、雑貨屋へ向かって歩いていった。


資料集の方に記載していますが、主人公たちの言うことをあっさり信用してくれたのは、虚偽の判別をする特殊な感知魔法を使っているからです。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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