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第56話 珍しい依頼

台風19号被害の報に接し、心よりお見舞い申し上げますとともに、一日も早い再建をお祈り致します。

 朝早くにビブラさんとマリンさんは、この街を出発した。全員で街の入り口まで見送ったが、馬が俺たちのそばを離れようとしなくて大変だった。コールの清浄魔法やおいしい水、それにみんなのブラッシングを受け、別れられなくなってしまったみたいだ。


 二人の避寒先はダンジョンも無く、近くに大きな森や水場の存在しない街なので、俺たちの目的とは違いすぎて一緒には行けない。しかし、次の目的地として訪れる予定にしている、南部にある大きな港町で竜人族の手がかりを探した後は、王都を目指してみるのも良いかもしれない。マラクスさんにもまた会いたいし、この国最大の都市というのは一度見ておきたい。転移魔法で行き来できる地点を増やしておくのは、何かあった時に役に立つだろうから、機会をみて相談してみよう。



◇◆◇



 トーリの冒険者ギルドは規模も小さく、張り出されている依頼も荷運びなどが圧倒的に多い。クリムとアズルの冒険者登録をしに訪れて以来だが、少し遅い時間になってしまったので冒険者もほとんどいない。



「何かいい依頼があるかなー」


「やはり紫の掲示板に貼っているものが多いですね」


「リュウセイさんなら、どんな依頼でも受けられそうです」


「せっかく色々学んだ後だし、やっぱり今日はダンジョンに行ってみたいから、やめておこうと思う」


「ライムもみんなで一緒に依頼をしたい」


「お兄ちゃん、これなんかどうかな?」



 真白が指さした先にある依頼表には、ダンジョン内の護衛と書かれている。今まで見たことのないタイプの依頼だが、戦闘能力のない人がダンジョンで何をするんだろう。



「こんな依頼はドーヴァでも見たことなかったですね」


「変わった依頼なのー?」


「倒した魔物から出たアイテムは全て護衛者の物になるという条件しか書かれていないので、発掘とか調査が目的なんでしょうか」


「ダンジョンってなにが出るの?」


「宝石とか出るらしいんだが、父さんも詳しくは知らないんだ」


「お前たち見ない顔だが、この街に来たばかりか?」



 掲示板の前で依頼内容について話をしていたら、横から声をかけられた。そちらを見ると、剣を腰に挿して小型の盾を持った人族の男性が立っている。身長はあまり高くないが、体つきはがっしりしていて、後ろにいる三人はパーティーメンバーのようだ。


 少し小柄で目付きが鋭い男性は何となくすばしっこそうな気がする、体の大きな男性は体格に合わせたような盾を持っているので壁役だろう、一番若く見える男性は短剣しか装備していないので後衛職だろうか。



「この街には少し前に来たんだが、依頼を受けるのは今日が初めてなんだ」


「すいません、邪魔になってましたか?」


「いや、見たことのない顔だったから声をかけただけだ、気にしないでくれ」

「君たちはその依頼に興味があるのかい?」


「俺たちはドーヴァで活動していたんだが、そこでもこんな依頼は見たことがなかったから、なにが目的なんだろうと思ったんだ」


「ダンジョンの護衛ってのは、国かどっかの団体が研究目的で指名依頼するのがお決まりだから、こうして張り出されることはねぇな」

「間違いなく個人の依頼だろうけど、内容と報酬の支払いが不安で、誰も受けようとしないみたいだね」

「ギルドを通してるからある程度の保証はあるんだろうが、ちょっと割に合わない依頼だぞこれは」



 依頼票の報酬を見ると、確かに金額は少ない。一人で護衛をするならともかく、俺たちみたいにメンバーが多いと、普通の依頼をこなしたほうが実入りは多い。



「ダンジョンで何を調べるんだろうねー」


「なにか探しものでもあるんでしょうか」


「調査つっても、この街のダンジョンに調べるような場所は何もねぇぞ」

「宝石類にしても偶然みつかる事がほとんどで、狙って探すのはほぼ不可能だからね」

「目的もはっきりしないし、ちょっと胡散臭い依頼だから、受ける時は慎重にな」


「ありがとう、みんなで相談してみるよ」



 この四人のパーティーは、この街に来たばかりでまだ若い俺たちを心配して、声をかけてくれたみたいだ。使い込まれた装備品を見ると冒険者活動も長いみたいだし、不明瞭な内容や報酬のことを、それとなく注意してくれたんだろう。



「その依頼、出したの私」



 突然後ろから声をかけられて振り返ると、そこには誰も居なかった。空耳かと思ったが、ライムに服の裾を引っ張られてその存在に気づく。身長は俺のみぞおちくらいの高さで、淡い水色の髪を肩くらいまで伸ばした、小さな女性が立っている。髪の毛から覗いている耳が少し尖っているが、もしかしてエルフ族なんだろうか。



「嬢ちゃんがこの依頼を出したのか」

「その身長と耳の形は小人族(こびとぞく)だね」

「力の弱い小人族がダンジョンに行くのは危ねぇぞ」

「お前はまだ子供だし無理はしない方がいい」


「小人族、この身長で、もう大人」



 その女性は子供と言われ、澄んだ青空のような瞳を四人の冒険者たちに向ける。もしかしたら睨んでいるのかもしれないが迫力は全く無く、どちらかと言うと可愛らしく見えてしまう。


 依頼主がこの場にいるのだし、せっかくだから疑問の解消をしてしまおう。



「ダンジョンの護衛って、一体何をすればいいんだ?」


「魔物から私、守ってくれたらいい、後は何もいらない」


「ねぇ、ダンジョンで何をしたいのか教えて欲しいなー」


「クリムちゃん、初対面の人なのに言葉づかい。

 ごめんなさい、良ければダンジョン行く目的を教えてもらえませんか?」


「私、色々なもの見たい、そして知りたい、だからダンジョンも同じ」


「ダンジョン見学に俺たちを雇おうってことか?」

「それならこの報酬額も納得できるかもしれないね」

「だが受けてくれるやつは居ねぇと思うぞ」

「ここのダンジョンの難易度は初級から中級だが、この報酬額だと上層を少し見て帰るくらいが適正だ」


「出来れば全部見たい、ダメ?」


「さすがにそこまでは無理だ」

「嬢ちゃんはどんな魔法が使えるんだ?」


「私は水色、でもマナ少ない、長時間は無理」



 水色ということは感知魔法か。魔法発動時に触れる彩色石(さいしょくせき)によって、その効果が変わるというレア魔法だ。



「完全に非戦闘員じゃねぇか」

「報酬をもっと上乗せしないと、そこまでは出来ないぞ」


「私に出せるの、これで精一杯だから、魔物から出た魔晶やアイテム、全部渡す」



 女性は何とかならないかと言いたげな顔をしているが、護衛対象が一人増えるというのはパーティーにとってかなりの負担になる。それがわかっている四人は、受注は無理だという姿勢を崩さなかった。



「とーさん、ライムこの依頼やってみたい」


「そうだな……ビブラさんから教わった技術を確認するのに最適な依頼だと思うが、みんなはどうだ?」



 このダンジョンは難易度的に、ドーヴァにあった中層域くらいだ。その階層は既に経験があるし、クリムとアズルが加入してくれたので、護衛対象が増えても大丈夫だろう。



「一つ質問があるんですけど、構いませんか?」


「うん、なに?」


「今日一日でダンジョン全部を回るのは無理ですけど、それでも良いんですか?」


「行ける所まででいい、また依頼出す」


「なら私は受けてもいいと思うよ、お兄ちゃん」


「私もライムちゃんの直感を信じることにしていますし、リュウセイさんの決定なら異論はありません」


「私があるじさまや、みんなを守るから安心してねー」


「ご主人さまや皆さんを危険に晒さないよう、全力で守り抜きます」


「ならこの依頼を受けることにしようか」


「ホント!? 嬉しい」


「まぁお前たちのパーティーで決めたことだ、無理ないように頑張れよ」

「怪我しねぇようにしろよ」

「ダンジョンの中で出会ったら声をかけてね」

「集団で襲ってくる魔物は居ないが、気を抜くんじゃないぞ」


「ありがとう、精一杯やってみるよ」



 四人のパーティーと別れた後、窓口で依頼を受ける手続きをしてダンジョンへと向かう。途中で自己紹介をしたが、依頼主の名前はソラで、年齢は十四歳だそうだ。小人族の成人年齢は知らないが、人族と同じなら微妙に足りしていない気がする。


 親元を離れて独り立ちした後は、この街に来て依頼をこなしながらお金を稼ぎ、やっと誰かを雇えるくらいの貯金ができたらしい。



「ソラさんでいいか?」


「呼び捨てでいい、私もそっちの方が楽」


「わかった、ソラだな。今日はよろしく頼む」


「依頼を受けてくれてありがとう、こっちこそよろしく、リュウセイ」


「ソラおねーちゃんは、ダンジョンに行くの初めて?」


「うん、だからワクワクしてる。それに竜人族に会えた、夢みたい、色々話を聞きたい」



 ソラはとにかく好奇心が旺盛らしく様々なものに興味を示し、知っていることを一生懸命伝えようとしてくれる。



「ソラちゃんって、凄く物知りだよねー」


「主従契約まで知っているとは思いませんでした」


「今の時代に主従契約、結べるなんて興味深い、一体何したの?」


「う~ん、運命の出会いってやつかなー」


「身も心もご主人さまに捧げたからでしょうか」


「ふぉぉぉぉぉー、それって深く繋がったの!? 体の芯まで貫いてもらったとか、そういう…!」


「クリムおねーちゃんとアズルおねーちゃんは、とーさんに抱っこしてもらったり、くっついて寝てるよ」


「添い寝と抱っこ! 新たな学説になる、そんな予感する……」



 街を出てダンジョンに向かう短い時間で判明してしまったが、ソラは好奇心が強すぎて未知の事象に対して暴走気味なところが欠点かもしれない。普通に喋る時は特徴のある話し方をするが、興奮すると自制が効かなくなるらしく、軽く叫びながら頬を紅潮させている。



「ソラちゃんって、ちょっと面白い子だね、お兄ちゃん」


「マセ過ぎな気もするんですが、気のせいでしょうか?」


(ライム)の前で、あまり変なことを口走って欲しくないが、まずは彼女の自制心に期待しよう」


「何となく大丈夫な気もするけどね」


「私にはギリギリという感じがします……」


「楽しそうにしている限りは、様子を見る方向で行こうと考えてるよ」



 根拠はライムが依頼を受けようと言ったせいだが、ソラは何かしら悪意のある子ではないというのが、俺の直感だ。それに主従契約のことを知っていたり、知識はかなり豊富なんじゃないかと思う。護衛任務の間に色々教えてもらえるなら、依頼料は気にしなくても良いかもしれない、そんな気持ちになっていた。




 こうして、ちょっと変わった依頼を遂行するために、トーリのダンジョンに潜ることになった。


ちょっと訳ありなキャラの登場です。

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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