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第54話 訓練開始

話の途中で視点が変わり、ビブラとマリンから見た主人公たちパーティーについて語られます。

 買い物やギルドでの手続きを終わらせた翌日、俺は訓練用の木剣を構えてビブラさんと対峙している。ここは宿泊施設の裏手にある広場で、人通りもなく訓練をするのに最適な場所だ。


 先程から何度も斬りかかっているが、一撃も有効打を与えられていない。まるで、そこを攻撃するとわかっているかの様な動きで、的確に防御したり受け流される。



「リュウセイ君は基本に忠実な剣筋だね」


「剣の扱いはギルドで習っただけで、実戦もまだ中層域までしか無いんだ」


「変なクセがない分、伸びしろは大きいよっ」


「ビブラさんにそう言ってもらえると希望が見えるなっ」



 会話の合間あいまに攻撃をしているが、フェイント気味に放った連撃も簡単に弾かれてしまう。



「中層域くらいまでなら今のままでも大丈夫だが、下層域になると駆け引きや連携攻撃をしてくる魔物もいるから、注意が必要だ」


「相手の動きを予測するだけでなく、こちらの思惑に誘い込んだり臨機応変な対応の必要があるってことか」


「その通りだね!」



 防御から一変して、鋭い斬撃を繰り出してきたビブラさんの攻めを受け止めきれず、思わず半歩引いて体の軸をずらしてしまった。そんなスキを見逃すはずもなく、喉元に切っ先を突きつけられ、俺は両手を上げて降参のポーズを取る。


 再び互いの距離を取ると、今度は自分に色彩強化の魔法をかけ、ジリジリと距離を詰めていく。



ショート(短距離)ワープ(瞬間移動)



「その魔法は相手にとって非常に脅威だが欠点もある、目線で出現する場所がわかってしまうんだよ」


「それを見切って回避できるのは、ビブラさんくらいしかいないと思うが」



 突然目の前に現れた俺に微塵も動揺せず、横に飛んで回避すると自分の剣を軽く振った。空振りして体勢の崩れた俺の手に鈍い痛みが走り、思わず持っていた剣を手放してしまう。



「初見はさすがに驚いたけど、同じ相手に何度も使うと効果は無くなるね」


「移動した直後に相手を認識するまで、わずかに間が空いてしまうのも問題だな」


「自分の技の欠点をしっかり理解して、使い所を間違えないようにしないとだめだよ」


「とーさん、はい、これ使って」


「ありがとうライム」



 剣を落としてしまったことで小休止していると、ライムがタオルを持って近くに来てくれる。俺は少し手合わせしただけで、冬の季節にも関わらずじっとりと汗をかいているが、ビブラさんは涼しい顔をして息も乱れていない。



「ビブラおじーちゃんすごいね、とーさんの攻撃がぜんぜん当たらないよ」


「体のキレも速度も、まだまだ現役でやっていけるんじゃないかと思ってしまうな」


「技術は体が覚えているからある程度動けるが、さすがに体力が保たないから難しいね」



 そうは言っているが、俺からすればとても六十代とは思えない身体能力をしている。純粋な戦闘力だと近衛兵に敵わないと聞いたが、誰かを守ったり降りかかる驚異を排除する能力は、恐ろしく高いと感じる。



「あっちの三人も休憩するみたいだな」


「ライム手ぬぐい渡しに行ってくるね」



 クリムとアズルは、二倍の強化魔法を使ったコールと模擬戦をやっていたが、地面に座り込んで一休みしている。三人とも肩で息をしているから、かなり激しく動いたみたいだ。



「コール君は鬼人族とは思えない体の動きだね」


「元々器用だったみたいだし、ヴェルデがかなり強力な守護獣だから、あそこまでの動きが出来るんだと思う」


「まだまだ力に慣れてない部分はあるが、技術と経験を身に付けていけば、今の近衛隊長といい勝負が出来るようになるかもしれないよ」


「王様に忠誠を誓ってるという獣人族だったか」


「体格が良くて力と速度もある虎人族(とらじんぞく)の強い男だよ」


「鬼人族の女性は小柄だから、大人と子供が戦ってるみたいに見えそうだ」


「ははは、確かにそうだね」



 ライムからタオルを受け取って、汗を拭きながら楽しそうに話をしている姿を見て、そんな光景を少し想像してしまった。近衛隊長というくらいだから、この国でも頂点に立てるほどの強さがあるんだろう。そんな人物と、耐久力以外はすべての面で不利な女性の鬼人族が対等に戦っている光景は、かなり異彩を放ってしまいそうだ。



◇◆◇



 その日は相手を交代したり多対一の戦闘体験をしながら、ビブラさんのアドバイスを受けていった。初日ということで自分たちの持つ能力や技術の確認という面が大きかったが、夕方には全員がヘトヘトになってしまっていた。


 ビブラさんも結構動いていたはずだが、あまり疲れた様子でなかったのは流石だ。俺たちの動きは、まだまだ無駄が多いってことなんだろう。


 王族のボディーガードをしていた人だが、訓練でダンジョンに入ることもあったらしく、対人戦闘や護衛技術だけでなく、集団戦を含めた幅広い分野を教えてもらえるのがとてもありがたい。二人がこの街に滞在している間に、出来る限りのことを吸収しよう。




―――――*―――――*―――――




 龍青たちが借りている家で食事をとり、コールに清浄魔法をかけてもらった後、ビブラとマリンは自分たちの家へと戻って、リビングでお茶を飲みながらくつろいでいる。



「とても楽しそうな顔をしていますね、あなた」


「仕事を引退してからもうこんな機会はないと思っていたが、才能ある若者を育てるというのは楽しいものだ」


「あなたから見てどうでしたか?」


「リュウセイ君の動きはまだまだ素人だが、元の世界で泳ぐ運動を続けていた恩恵だろう、動きのキレがすごくいいよ」


「流れ人の特殊な魔法を持っていると言ってましたね」


「自分や他人の魔法を強化する効果があるらしいが、瞬間移動には驚いた」


「あなたはその魔法をかけてもらわなかったの?」


「鬼人族のコール君が、獣人族以上に体を動かせるほど強力な効果があるんだ、私の体が保たないよ」



 ビブラは緑の身体系で風属性(俊敏向上)を持っているが、苦笑しながらそう言って強化された動きを思い出す。あれだけ激しく体を動かしても筋肉や関節を傷めないのは、鬼人族の耐久力があるが故だ。普通の人族、しかも六十を超えた体であんな無茶なことをすれば、必ずどこか痛めてしまう。



「私は少ししか見ていませんが、二対一で訓練をしていましたね」


「まだまだ力の使い方を上手く掴めていないようだが、獣人族のクリム君とアズル君を超える動きを時折見せてたので、それを常に引き出せるようにするのが第一目標だよ」


「コールちゃんは、これからもっと強くなれそうね」


「彼女が実戦経験を積み重ねていくと、どこまで強くなれるのか少し楽しみだ」



 一緒に旅をする中でその人柄に触れ、ライムが実の祖父母のように懐いている姿を見た龍青たちは、訓練を受けるに当たって自分たちの能力を全て伝えている。貴重な霊薬や魔道具に匹敵する効果を、一時的にとはいえ得られる能力に二人は驚いたが、それを誰かに口外するつもりは全く無かった。



「コールちゃんだけでなく、クリムちゃんとアズルちゃんも強くなりそうよ」


「クリム君は魔法を二枠、アズル君は魔法を三枠も持っているから、このさき大きく化けるのは間違いない」


「私も照明以外の魔法を使ってみたかったわ」


「お前も私も一枠しか無かったな」


「コールちゃんなんて四枠も持ってるみたいなのよ」


「後天的に魔法枠を増やせるなんて前代未聞だが、それを差し引いても四つなんて伝説だからね」



 複数の魔法枠を持った人物は、騎士団や近衛兵を含めて国の関係者ですら(わず)かしかいない、それだけ貴重な才能だ。もし潜在的に複数の枠を持っている者が多数存在するなら、この世界の魔法の在り方に大きな変化が起こる。


 一人の人間が全ての国民を検査するのは不可能だし、持つ者と持たざる者の格差が拡大するのは避けるべきだろう。そうした影響や懸念に関して、この事実を知っている全員の思惑は一致しており、龍青に相談されたビブラたちも、今まで通り仲間内や信頼できる者だけに留めておくべきだとアドバイスしている。



「王都で話を聞いた時はどんな人たちかしらと思っていたけど、流れ人の二人もパーティーメンバーもいい子たちばかりだわ」


「竜人族は私たちの生活に溶け込めるのかと思っていたが、杞憂だったな」


「ライムちゃんが素直でまっすぐ育っているのは、リュウセイさんとマシロちゃんのおかげよ」


「お前から見てあの二人はどうだい?」


「ちょっと甘やかし過ぎなところはあるけれど、むしろあの若さであそこまでしっかりしているのは驚いたわ」


「本人たちはちゃんと出来ているか、不安だったみたいだな」


「違う世界から来たんだもの、それは仕方ないわね。他の親御さんからも話を聞いて、しっかり勉強もしているし、どんな世界や種族でも子育ては変わらないわよ」



 王都では、まだギルドの幹部くらいしか知らないが、この世界に流れ人が訪れたという話は王家にも伝わっている。二人は仕事を引退してからも交流のある元同僚に聞いていたものの、まさか実際に自分たちが出会えるとは思っていなかった。


 この世界を訪れた流れ人は、記録や伝承に残っているだけで十数人存在し、ビブラも元の職業柄その概要を簡単に知っている。違う世界から来た人物は種族も様々で、背中に鳥のような羽が生えた種族や、水の中でしか生きられない者もいたという。その者たちが遺した知識や技術は、今では生活の一部にすっかり溶け込んでいた。


 最も近年だと百年以上前で、もう当時のことを知っている者はほとんど存在しない。その男性は頑固で融通がきかず、いつの間にか人前に姿を見せなくなったという記録が残っていて、彼がこの世界に呼ばれた理由や成し遂げたことは一切不明だ。為すべき事という点に於いては龍青と真白もまだ不明だが、ああして集まっている仲間たちに意味があると二人は考えている。



「竜人族の子供に本当の親同然に懐かれ、他種族の仲間たちとも家族のように付き合っている、今度の流れ人はとても面白いね」


「仲間同士で仲良くしている姿は珍しくないけれど、鬼人族があんなに風にツノを触らせていたり、獣人族が全てを委ねるように自分の弱点を好きにさせるなんて、恋人同士でもあまり見られないもの」


「主従契約が成立しなくなったのは、長い年月で獣人の血が薄くなってきたからと言われていたが、目を覚まされた気分だ。もし言い伝え通り獣人族の力を引き出すのなら、彼女たちはもっと強くなれるよ」


「強力な守護獣の加護を受けているコールちゃん、今の時代に主従契約を成し遂げたクリムちゃんとアズルちゃん、それに幻とまで言われている竜人族のライムちゃんと、彼女を娘として育てているリュウセイさんとマシロちゃん、そんな人たちに出会えて私は幸せよ、あなた」


「私も仕事を引退して他人との関わりが少なくなったが、まさかこうした出会いが待っているとは思わなかったよ。旅行を趣味にしていて良かったな」



 ビブラとマリンの二人は、お互いの顔を見ながら微笑み合う。もしまた行く先が同じになったら一緒に旅をしたい、そんな話をしながら二人だけの夜を楽しんでいた。


流れ人の遺したものは、作中でも追々語られる機会があると思いますが、カタカナ語の一部やオノマトペなんかはその影響を受けています。

(決して手軽に表現の幅を広げようとか、楽しようとかではありません、そういう世界なのです、設定なのです、ファンタジー万歳!)


◇◆◇


話の整合性を保つため、176行目の部分を書き換えました。

(2020年3月10日)


※旧

過去にこの国を訪れた流れ人は記録に残っているだけで数十人存在し


※新

この世界を訪れた流れ人は、記録や伝承に残っているだけで十数人存在し

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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