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第48話 ピザトースト

誤字報告や評価ありがとうございます。

ローマ字入力なので、隣接するキーに指が飛ぶのは仕様です(笑)

 俺や真白の持つ力のことを詳しく説明したり、強くなった強化魔法で何が出来るようになるのか、色々と検証してみたいこともあるが、今日は時間も遅くなってしまったので一晩寝てから考えることにした。ハグレが壊してしまった放牧場の修理を手伝ったり、パーティメンバーが増えて水も多めに確保しておく必要があるため、この村の滞在期間を一日延長したから時間は十分ある。


 貸してもらった家にはベッドが二つ置いてあったので、その横に収納に入っていた二つを連結して、ブラッシングや抱っこをしていた。ライムがウトウトしだしたのを合図に眠ることにしたが、今日は俺の横にクリムが、反対側にはライムを挟んでアズルが横になっている。



「あるじさまの収納魔法って凄いねー」


「先程の荷車もそうでしたが、こんなベッドが二つも入っていたのは驚きました」


「他にもこの人数なら十分泊まれる小屋も入ってるしな」


「マシロちゃんがさっき使ってくれたマナ共有だっけ、あれのおかげなのー?」


「元々お兄ちゃんのマナの量はすごく多かったから、これくらいなら一人でも入れられるんだけど、ライムちゃんがいるからまだまだ大丈夫だよ」


「この村に来た時も馬車二台分の荷物を運んでましたから」


「ライムちゃんはこんなに可愛いのに凄いですね」



 アズルは俺との間に寝ているライムの頭を優しく撫でてくれている。双子の姉妹だが、快活な喋り方をするクリムは明るくてとても人懐っこいのに対し、言葉づかいが丁寧なアズルは穏やかで落ち着いた雰囲気をまとっている。陰と陽ではないが、バランスの取れた姉妹なのだろう。



「二人の住んでいた村でも、竜人族は見たことないんだったな」


「森の近くにある小さな村だったけど、そんな話は聞いたことなかったよねー」


「私たちを育ててくれたおじいちゃんは、今は絶滅してしまった獣族やオーガ族のことも詳しく知ってましたけど、竜人族については謎の多い種族と言ってました」


「人前にあまり姿を表さないみたいですけど、人嫌いじゃないといいですね」


「話す言葉も同じだし、ライムちゃんみたいに他の人たちとも一緒に生活できるんだから、人見知りとか恥ずかしがり屋の種族だったりして?」



 コールと同じことは俺も考えたことがあるが、クラリネさんに教えてもらった限りでは過去に他の種族と対立したなんて記録もないし、真白の推理も案外的を射てるかもしれない。



「ライムちゃんが居てくれたらお友達になれるかなー」


「ご主人さま達のいるこのパーティーなら、どんな種族でもお友達になれそうです」


「エルフ族と知りえたら、森の中とか探索してみたいよ」


「鬼人族のコールちゃんともこんなに仲がいいんだから、あるじさま達なら大丈夫だと思うー」



 深い森を探索するにはエルフの力は必須だし、協力してくれる人は是非見つけたいと思っている。まだ二つの街にしか行ったことはないが、そのどちらでも見たことがなかったので、出会うのは難しいかもしれないが。


 そんな話をしながら、その日は眠りについた。




―――――・―――――・―――――




 朝いつもと違う感触で目がさめると、左右に寝ていたクリムとアズルの顔が間近まで迫っていた。ライムはいつものように俺の上なので、二人とも寝ている間に密着するような姿勢になるまで近づいて来てしまったようだ。コールより少し背が高いとはいえ、まだ十二歳の二人がこうして寄り添ってくれていると、妹が増えたみたいでついつい愛おしくなってしまう。


 朝の光を受けて、クリムの深みがある赤い髪とアズルの濃くて鮮やかな青色の髪が、より一層きれいに見える。そしてやはり目立っているのは、二人に共通しているねこみみだ。わずかな音や気配に反応しているのか、時折ピクッと動くのが可愛らしい。見ているとついつい触りたくなるが、起こしてしまうと可愛そうなので我慢しよう。


 いつものように朝のまどろみの時間を楽しんでいたが、やがて二人同時に身じろぎした後、閉じられていた目がゆっくりと開いてくる。こちらをボーッと見つめていた瞳の焦点が合うと、花の咲くような笑顔をみせてくれた。



「おはよう、クリム」


「おはよー、あるじさまー」


「おはよう、アズル」


「おはようございます、ご主人さま」


「二人ともよく眠れたか?」


「旅を始めてから一番ぐっすり眠れたよー」


「二人だけだと不安があったんですけど、ご主人さまや皆さんが近くにいてくれて、それが安心に繋がったみたいです」


「これからはずっと一緒だからな」


「うん!」「はい!」



 手を伸ばして二人の頭を撫でると、嬉しそうに体ごと擦り付けてくる。自分の耳に二人のねこみみが当たってちょっとくすぐったいが、こうして甘えている姿はとても猫っぽい。全員が起きてくるまでゆったりとした時間を過ごし、朝ごはんを食べた後に村長の家へ向かった。



◇◆◇



 改めて昨日のお礼を言われた後に、もう一日滞在したいと言うと集まっていた人たち全員が歓迎してくれた。ライムは子供たちと家畜の世話を手伝いに行き、真白とコールは村の女性たちに料理を教えてもらうみたいだ。俺とアズルとクリムの三人は、ハグレが壊してしまった放牧場の柵や、踏み荒らされた部分の整地を手伝う。



「ご主人さま、こちらにある資材はどうしますか?」


「大きなものは収納で運ぶから、余分に持っていっても大丈夫だ」


「あるじさまー、これはどうするの?」


「手で運べる荷物は、無理ない範囲で持っていくよ。全て収納に頼ってたら、体がなまってしまうからな」


「ここに荷物を持ってきてもらった時も驚いたが、収納魔法は凄いもんだ」

「あれだけ派手に壊されたから、復旧には時間がかかると思っていたが、この調子だと今日中に終わりそうだよ」

「しかし、アズルちゃんとクリムちゃんの二人は、妙なことを言っているな」

「ご主人様とか、主様ってどういうことだ?」

「あの男性冒険者と主従契約を結んだんじゃろ」

「爺さん知ってるのか?」



 和気あいあいと話しをしながら修繕の準備を進めていたが、二人の呼び方に疑問を持った若い男性たちに、立派なヒゲをたくわえた獣人族の老人が説明をしてくれるみたいだ。ちょっと興味があるので、俺も聞いてみよう。



「主従契約は古いしきたりじゃから、今の時代に知っとるほうが珍しいな」

「俺も彼女たちと同じ猫人族だが、そんなの聞いたことなかったぞ」

「俺も初めて聞く言葉だ」


「私たちは育ててくれたじいちゃんに教えてもらったんだよー」


「守りたい場所や仲間ができて、願いを聞き届けてくれる人に出会ったら使いなさいと言われました」


「二人の首元に印が浮かんでおるじゃろ、あれが契約の証じゃ」

「確かに紐みたいな印があるな」

「昨日の戦いで出来た傷かと思ってが違うんだな」

「互いの信頼関係がよほど強固でないと契約は成立せんはずじゃが、やはり強大な敵に立ち向かった戦友じゃからかの」



 そう言ってこちらを見ながら、意味ありげに笑ってくれる。出会ったその日に契約が成立するというのは、元の世界にいた時からの繋がりを知らない人には、そう見えてしまっても仕方ないことだが。



「契約を結んだら、なにか制約ができたりするのか?」


「ワシらの祖先である獣族には、恭順を求められる強制力があったと聞いておるが、血の薄くなった獣人族にとっては結婚みたいなもんじゃな」

「こんな可愛い子を二人とも嫁にしたのか!」

「ちくしょー、羨ましいぜ」

「一緒にいた人族と鬼人族の女の子も可愛かったし、娘までいるのに欲張り過ぎだぞ」


「いや、妹と大切なパーティーメンバーだし、まだ結婚とかは考えてないぞ」


「私はご主人さまに何人お嫁さんがいても気にしませんよ」


「あるじさまは種族の違いなんか関係なく大切にしてくれるからねー」



 なにやら「酒池肉林」とか「一人くらいこっちによこせ」とか若い男性を中心に色々言われたが、みんな笑っていたので軽い掛け合いみたいなものだろう。そもそも二人はまだ十二歳で日本だと小六か中一だし、この世界でも未成年なのはみんなも知っているはずだ。


 作業を進めながら獣人族の老人に他にも知っていることを教えてもらったが、お互いの絆の深さに応じて獣人族の身体強化スキルを増幅する効果があると言われているらしい。なにせ今は知っている人も少ないし、若い頃に冒険者活動で各地を回っていたその老人も、契約を成立させた人を見たことがなかったので、本当にそんな効果があるのかはわからないみたいだ。



◇◆◇



 主従契約の話を聞いてからクリムとアズルの二人は上機嫌で、軽快にステップを踏みながら荷物を持って放牧場に歩いている。



「二人ともごきげんだな」


「すごくいい話を聞けたからねー」


「おじいちゃんにも教わらなかった事がわかって嬉しいです」


「じいちゃんはなんで教えてくれなかったんだろうねー」


「色々と知識のあった人みたいだし、当然知っていた気はするけどな」


「力を目当てに安易な契約をしないように、わざと黙っていたのかもしれません」



 二人を育ててくれた人のことはまだ良く知らないが、子供のためを思って意図的に情報を伏せたというのは十分考えられる。そんな優しかった人を悲しませることの無いよう、二人のことは大事にしよう。



◇◆◇



 壊された柵の残骸を撤去して、持ち込んだ資材を加工しながら大まかな形を整える作業をしていると、白い動物を引き連れた村の子供たちが、数人の大人たちと一緒に放牧場にやってきた。その中にはライムもいて、手を振りながらこちらに駆け寄って来る。



「とーさーん、クリムおねーちゃーん、アズルおねーちゃーん」



 その勢いのまま胸に飛び込んできたので、受け止めながら衝撃を逃がすように体を回転させる。遠心力で下半身が持ち上がって、ライムはとても楽しそうにしているが、こちらは目が回りそうになったので程々で停止した。



「動物の世話はどうだった?」


「すごく楽しかった! 白と黒にもさわらせてもらったし、ブラッシングもしてあげたんだよ」


「喜んでもらえたか?」


「クリムおねーちゃんとアズルおねーちゃんみたいに、気持ちよさそうにしてくれた」


「ライムちゃんはブラッシングが得意なんだねー」


「今夜はライムちゃんにやってもらっていいですか?」


「ライムに任せて!」



 村で飼育している動物はみんなが白と黒と呼んでいて、正式な名称は知らない。白は長い毛を持った羊やヤギに似た動物で、この毛を加工して布にしている。黒の方は縮れて短い毛をした動物で、乳を絞るために飼っているそうだ。


 動物たちが外へ行かないように柵を仮組みしていると、村の方から今度は女性たちが集団でやってくる。その中には真白とコールもいるので、お昼を作って持ってきてくれたみたいだ。



「みんなー、お昼ごはん持ってきたよー」


「かーさーん、コールおねーちゃーん」



 村の子供たちと一緒に白の間を走り回っていたライムが二人に駆け寄り、両方の手を繋ぎながらこちらにやってきた。二人は大きなバスケットを持っているので、その中にお昼が入っているんだろう。バスケットの中から折りたたんだ布を取り出して地面に敷き、飲み物や料理の入った箱を取り出して並べる。



「村に大きな石窯があったので、それで作った料理なんですよ」


「ピザトーストみたいなものを作ってみたんだ」


「すごくおいしそう!」


「こんな料理はじめて見たよー」


「彩りも鮮やかです」


「外で食べるのにピッタリの料理だな」



 ベーコンと薄く切った色とりどりの野菜が乗せられたパンに、溶けたチーズが絡まってとても美味しそうだ。濡れたタオルで手をきれいに拭いて、いただきますの挨拶をした後に食べてみたが、まだほんのり温かくてとても美味しい。ライムやクリムとアズルにも好評で、他の場所からも「美味しい」とか「こんなの初めて」という声が聞こえてくる。



「パンに塗ってあるソースもすごく美味しいな」


「ソースの作り方は村の人に教えてもらったんだけど、焼いたら一段と美味しくなるみたいだね」


「村にある石窯はパンを焼くとき以外はほとんど使われなかったようなので、マシロさんが新しい活用法を考えてくれたんですよ」


「パイみたいなお菓子を作る時にも使ってたみたいなんだけど、ピザっぽい料理は作ってないって聞いたから、挑戦してみたんだ」


「かーさんすごいね」


「こんな美味しい食事が食べられて幸せだよー」


「焦げたチーズがこんなに美味しいなんて知りませんでした」


「真白は次々と新しい料理を広めていっているな」



 美味しいお昼を食べた後は柵の補修を再開し、水を十分汲ませてもらった後に貸してくれた家に帰ってきた。この後はクリムとアズルに俺たちの持つ力の説明をして、新しくなった色彩強化の検証をやってみよう。


パン窯とピザ窯って色々違いはあるんですが、細かい設定にはあまり突っ込まない方向で!

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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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