第45話 仇討ち
誤字報告やブックマークありがとうございます。
一文字抜けるだけで穢れを知らぬ乙女になってしまうとは!(意味深w
※今回も直接的な表現を避けていますが、部位欠損状態の話なのでお気をつけ下さい。
色彩強化でブーストした魔法をスタンバイしているクリムと一緒にハグレのいる場所に走る、その間に自分にも強化をかけておく。
「俺が魔物の気を引いて体勢を崩すから、合図したら背後から思いっきり殴ってやれ」
「わかったよー、がんばるー」
アズルの治療が始まって少し安心できたのか、こわばっていた表情も柔らかくなって喋り方にも変化が出てきた。恐らくこれが彼女の本来の話し方なんだろう、変に緊張もしていないようだしこれなら大丈夫だ。
俺は収納から両手剣を取り出して握りしめる。まだ軽々と振ることは出来ないが魔物にダメージを与えるのが目的でなく、自分にターゲットを移すためなのでリーチの長いこの剣が最適だ。
「コール、俺が左側に飛んで魔物を斬りつけるから、こっちに狙いを変えたら少し離れてくれ!」
「わかりました!」
コールとは何度も連携の訓練をやっているので、簡単な打ち合わせでも十分意図は伝わるだろう。コールの左側を確認して、少し奥に視線を合わせ呪文を唱える。
《ショート・ワープ》
一瞬で視界が変わり、たたらを踏みそうになるのをグッとこらえ体を反転させると、目の前にはコールと睨み合っている魔物の姿がある。瞬間移動した俺には気づいていないようなので、剣を上段に振りかぶって斬りかかった。
「お前の相手はこっちだ!」
そう声に出して斬りつけると、ダンジョンで戦った魔物とは全く違う手応えがあった。あっちは粘土を斬っているような感じがしたが、目の前の魔物はゴムのように反発する手応えがある。これが強いハグレの特徴なんだろうか、そんな考えを振り払って目の前の魔物に集中しながら、色彩強化の呪文を再度自分にかける。
魔物は突然現れた俺に攻撃されたのに気づき、こちらを赤い瞳で凝視すると腕を振り上げながら殴りかかってきた。
《ショート・ワープ》
腕を振り下ろすタイミングで視線をずらし、魔物の横に瞬間移動する。狙いを定めないので思った位置とはズレてしまうが、攻撃が空振りに終わった魔物はそこに誰もいないことに戸惑い動きを止めている。
「どこを見ている、俺はここにいるぞ!」
声を出しながらもう一度斬りかかると、それに反応してこちらを凝視した魔物の顔は、疑問と怒りが一緒になった感じに見えた。横薙ぎの攻撃も同じように躱して五回ほど逃げ切ってみせたが、攻撃したはずの獲物が全く違う位置に立って挑発する行為に苛立ったのか、頭の上で両手を握りしめて大きく振りかぶった。
クリムを確認するとしっかり魔物の背後に位置取りしているので、これがチャンスだ。
《ショート・ワープ》
―――ドォォォーーーーーン!!
地面を揺らす衝撃と土煙が舞い上がり、さっきまで俺が立っていた場所が陥没している。当たったら即死だったなと頭の隅で考えながら、全力攻撃で大きく体勢が崩れた魔物を確認して声を上げる。
「クリム! 今だっ!!」
「アズルちゃんの仇だーっ! 思い知れーーーーーーッッッ!!」
クリムは魔物の背後から走り寄り、上空にジャンプしながら呪文を唱える。
《おしおきハンマーーーーーッ》
クリムの手には自分の背丈と同じサイズの土で出来た巨大ハンマーが具現化され、魔物の背中を強かに打ち付ける。アズルを助ける時は全く効いていなかった攻撃も、強化された魔法と全身全霊を込めた気合の一撃で魔物の体を地面に叩きつけ、そのままの勢いで押しつぶした。
位置的に魔晶も砕いてしまったんだろう、魔物の形が揺らめくように消えると、そこには何も残っていなかった……
「……やった………やったよー! 魔物を倒したよー!!」
「よくやったなクリム」
「瞬間移動で逃げられるとわかっていてもハラハラしました」
「コールとヴェルデもありがとう、おかげで倒すことが出来た」
「ピピー!」
「そうだ! アズルちゃんの様子を見に行かないと」
真白のいる方へ走り出したクリムを追いかけるが、かなりのスピード差があって追いつけない。
「あれが獣人族の身体強化スキルか……
さっき一緒に走ったときとは段違いの速さだ」
「走る速度が速くなったり、力が強くなるみたいですが凄いですよね」
「ダンジョンでも戦ってる姿を見ることはあったが、実際に競争してみると力の差が実感できるな」
「短い距離ならリュウセイさんに敵う人はいないと思いますけどね」
「瞬間移動は反則技だからな」
今まで瞬間移動は魔物に接近する練習ばかりやっていて、攻撃を回避するのはぶっつけ本番だったが、何とかうまくやれたと思う。戦闘中に敵から目を離すのは正直怖いが、相手の気配みたいなものを常に意識できるようになれば、たとえ自分の位置が一瞬で変化しても対処しやすくなるだろう。
◇◆◇
アズルの治療をしていた場所まで戻ってきたが、真白の顔色は悪い。この世界の基準に合わせて、大きな怪我などの耐性は上がっているが、やはり間近で見るのは辛かったんだろう。
クリムは涙を堪えるような顔をしているが取り乱してはいないので、最悪の事態は避けられている思うが……
「真白」
「……お兄ちゃん」
真白は俺の胸に飛び込んでくると、顔を押し付けて嗚咽を漏らし始めた。周りにいる人も明るくしてしまうような、普段の妹とは正反対の姿に俺の心も締め付けられる。背中に手を回して強めに抱きしめ頭を優しく撫でていると、潤んだ瞳で俺を見上げてきた。
「命に別条はないんだな?」
「うん、血も止まったし傷もふさがったんだけど……
ごめんねアズルちゃん、クリムちゃん……ごめんね」
再び胸の中で泣き始めてしまった真白の頭を、コールも優しく撫でてくれる。いくらこんな状況への耐性が上昇したとしても、何も感じなくなったわけではない。妹をしっかり支えてやれるように、俺はまっすぐ立ち続けた。
「マシロさんがいなかったら、この場はもっと悲惨な状況になっていたはずです、それを回避できただけでも奇跡に等しい出来事なんですよ」
「小さな村に大怪我を治せる治癒師がいるのは普通じゃなって私も知ってるから、泣かないで」
「真白がそうしているとクリムやアズルが責任を感じてしまう、顔を上げてやれ」
「わかったよお兄ちゃん、今夜はいっぱい抱っこしてね」
「あぁ、何でも言うことを聞いてやるよ」
ギュッと抱きついてきた真白の背中と頭を撫でていると、こちらを見上げる表情もいくぶん柔らかくなってくる。そんな時、横になっていたアズルから、小さなうめき声が聞こえてきた。
「……ぁ………うぅ…ん……………ここは…私どうなったの……」
「アズルちゃん!」
「クリムちゃん、よかった無事だったんだね……魔物はどうなったの?」
「魔物は倒したよ」
「そっか、やっぱりクリムちゃんは強いね」
「違うよ、ここにいる人たちが手伝ってくれたんだ」
枕元に座り込んだクリムにそう言われ、アズルがこちらに視線を向けてくれる。治癒魔法で傷口は完璧にふさがっているため、痛みを感じていない姿にホッとする。
「この人たちは?」
「俺は冒険者をやってる龍青というんだ、今日はこの村に依頼の品を届けに寄ったったんだが、ハグレが出たと聞いてここに来た」
「私はこの人の妹で真白っていうの、よろしくね」
「私はこの人たちのパーティーメンバーでコールといいます、こっちは守護獣のヴェルデです」
「ピッ」
「こっちのマシロちゃんが魔法でアズルちゃんの怪我を治してくれたんだよ」
「そうだったんだ……
白の魔法が使えるなんて凄いですね、おかげで助かりました、ありがとうございます」
「痛みが残ってたり、気分が悪かったりしない?」
「はい、少し違和感はありますが大丈夫です」
まだ自分の体の状態は確認できていないみたいだが、やはり大きな怪我をしてしまった後なので、それを感じてしまっているんだろう。辛い現実を突きつけることになるが、その役目は俺がやろう。
俺はアズルのそばに膝を立ててしゃがみ込み、ゆっくりとその言葉を告げる……
「落ち着いて聞いて欲しい。
君の怪我は真白が治療してくれたが、魔物に踏まれてしまった足は元に戻らなかった」
「……えっ!?」
クリムの助けを借りながら上半身を起こし自分の左足を確認するが、それを見た瞬間に目を大きく開け両手を口元に持っていく。
「アズルちゃん……」
「……もう靴を履けなくなっちゃったね」
寂しそうに漏れたその言葉は震えていて、顔色も明らかに悪くなってくる。真白とコールも俺のそばにしゃがみ込み、見ていられないとばかりに背中から抱きついてきた。
「無くなってしまった部分を元に戻すことは不可能なのか?」
「治療の依頼の時に聞いたことがあるけど、そんな霊薬は存在するみたい」
「でもそれって簡単に手に入るものではないんですよね?」
「王家とか一部の大貴族は持ってるらしいけど、一般に出回ることはないって聞いたよ」
「そんな存在があることがわかれば十分だ、自分たちで手に入れられるかもしれないからな」
「待って下さい! 出会ったばかりの私のために、皆さんの冒険者活動や生活を犠牲にするなんて出来ません」
「アズルちゃんは、ずっと私が支えていくから」
「俺には大した力はないし、勇者のように世界を救うなんて大それた事はできない。でも目の前で苦しんでいる人や困っている人がいれば、できるだけ手を差し伸べてあげたいんだ」
皮膚が白くなるくらい両手を強く握りしめると、そこにヴェルデが飛んできて左手の甲を突きだした。今までのパターンからすると、これは何か新しいことが起きたサインだ。
《アビリティー・オープン》
魔法の一覧を表示すると、そこには今まであった“色彩強化”が変化し“色彩強化×2”になっていた。
結末は簡単に予想できると思いますが、次話は安心して読める内容です。
(それに新キャラの素性も明らかに)




