第41話 限定スキル
ダンジョン内に生える薬草は、ギルドでもかなり喜んでもらえた。材料の在庫不足が解消されたとはいえ、今は素材の需給が逼迫しているので、買取金額も上乗せしてくれている。
「あの薬草が、こんなに高く買い取ってもらえるなんて、私も初めてです」
「以前この町で取引していた業者が廃業して、新しい所が買取りと供給を始めたみたいだね」
「前の業者は材料を別の目的に使ってたから、国に取り潰されたという噂を聞いたぞ」
「悪いことしてたって、だれかが話してたよ」
薬やポーションの材料になる草や魔晶を一体何に使っていたのかはわからないが、今度の業者はそんな不正行為をしていないので、価格が元に戻ったのはそれが理由だろう。ダンジョンに行けるようになった俺たちに、今が稼ぎ時と他の冒険者が教えてくれたので薬草採集をやってみたが、今日みたいに群生地が見つかるなら買取価格が落ち着くまでこちらをメインにしても良いかもしれない。
「悪い人が捕まったから、薬やポーションの値段も元に戻ったんだね」
「不正に関わった人は強制労働させられたりするのに、どうしてそんなことに手を染めるのか理解できません」
「犯罪行為に対する処罰は厳しいからな」
「悪いことは、ぜったいやっちゃダメだね」
飲食スペースで座りながら話をしていたライムの言葉で、近くにいた冒険者たちも一斉にウンウンと頷いている。こうした重い罰則がこの国の治安の良さに繋がっているが、どれだけ厳しい処分を下されようと法を犯す人がいるのは、どの世界でも同じだ。
「リュウセイさん、しばらく薬草の採集を続けますか?」
「材料が不足している間は、意識して探してみようと思う」
「お兄ちゃん、もう少し下の階も行ってみる?」
「中層までは行ってみたいな」
「今日の手応えを見る限り、今の調子で下を目指して経験を積んでいけば、問題ないと思います」
「そう言ってくれると自信が出てくるよ、ありがとう」
両手をぐっと握りしめて応援するように笑顔を向けてくれたコールの頭を撫でると、目を閉じて嬉しそうに身を委ねてくれる。その姿が可愛いかったので、ツノもそっと撫でてみた。
「とーさん、ライムもー」
「お兄ちゃん、私も、私も」
俺の膝の上に座っているライムの頭とツノを撫で、隣りに座っている真白の頭にも手を伸ばす。これまでもライムの頭はよく撫でていたが、コールが加入してついつい頭やツノに触れてしまうことが増えたせいで、真白もこうして良くねだってくるようになった。
「お前ら本当に仲がいいな」
「妹のマシロちゃんや娘のライムちゃんはまだわかるが、この街に来て知り合ったコールちゃんともだからな」
「俺なんか鬼人族のツノに触ろうとして、思いっきり怒られたぜ」
「ツノは私たちの誇りなんだから、簡単に触らせてあげるわけ無いでしょ」
「そんなに大事な場所だったのか」
「我らのツノに触っても良いのは、長年の信頼を築き上げた友か家族だけだ」
「俺たち獣人族も耳やしっぽは簡単に触らせないぜ」
「ライムはとーさんに、なでたり触ったりしてもらうの好きだよ」
「私もリュウセイさんに触ったり撫でてもらうと、すごく安心できます」
「リュウセイ君のなでなでって少し特殊なのかしら……」
「そんなスキルは聞いたことがないが、リュウセイは流れ人だから何か持っていそうだ」
「なぁなぁリュウセイ兄ちゃん、俺の頭と耳を撫でてみてくれよ」
「大事な場所らしいが構わないのか?」
「ゴチャゴチャ考えるより、実際にやってみてもらった方がわかりやすいから、遠慮なく撫でてくれ」
中学生くらいの男の子がそう言って近づいてきたので、手を伸ばして頭と一緒に耳を撫でてみる。真白は治療の時に、ライムは子供同士のじゃれ合いで触ったことがあるらしいが、俺は初めての体験だ。日本の犬を思わせるような耳とふさふさしたしっぽの様子から、犬人族か狼人族だろう。髪の毛とは少し手ざわりの違う耳の毛は、ふさふさしていてとても触り心地がいい。
「どうだ?」
「う~ん……嫌なわけでもないし、特別気持ちがいいわけでもないし、普通?」
「なら俺のも撫でてもいいぜ」
「俺にそんな特殊な力はないと思うんだがな……
何か感じるものはあるか?」
「……あー、普通だな」
少し横に広がった耳と長くて細いしっぽを持っているので、猫人族だろう若い男性の頭を撫でてみたが、これも普通という反応だった。しかし、大事な場所だと言っていたのに、こんなに簡単に触らせてしまっていいのだろうか。俺としては耳をモフれるので問題はないが。
「「「「「……まさか、女性限定で発動するってことはないよな?????」」」」」
「俺以外のパーティーメンバーは全員女性だが、それは無いんじゃないか?」
「ならアタイの耳も触ってみてくれよ」
背の高い丸い耳を持った女性が、テーブルの上に乗り上げるようにして、こちらに頭を差し出してくる。かなりの戦闘力を持った胸部が机と体に挟まれ、男性たちの視線を集めているが大丈夫だろうか……
「なにか特別なものは感じるか?」
「いやぁ……一言でいうと普通だな」
「お兄ちゃん、私もなでて」
俺の周りに集まった冒険者たちの間を縫うようにして、小さな女の子が近づいてきた。長くて少したれた耳は兎人族みたいだが、俺たちのやり取りに興味が出てしまったんだろう。上着の裾を持ち上げている、丸いしっぽが可愛らしい。
ベージュ色の髪の毛から伸びた耳は、先に行くほど色が薄くなっていて、とても綺麗なグラデーションだ。内側の毛は更にフワフワで、極上の手ざわりをしている。
「くすぐったかったりしないか?」
「うん、大丈夫! お父さんに触ってもらう時みたいに気持ちいい」
「「「「「……幼女限定スキルか!!!!!」」」」」
どうしてこの世界の冒険者は、ここまで息がぴったりなんだ。それに幼女限定って、俺はどういった目で見られているのか不安になる。
「コールは俺より少し年上だぞ?」
「リュウセイさんの妹的存在……………いいかも」
十八歳のコールは子供扱いされて機嫌を損ねると思いきや、遠くの方を見ながらどこかに旅立っていた。
◇◆◇
その後も何人か耳を触らせてもらったが、あいにく小さな男の子がギルド内にいなかったので、俺のなでなでスキルは幼女限定で確定した。なんとなく理不尽な気もするが、思う存分耳をモフれたので良しとしておこう。
「そういえばリュウセイ、竜人族の情報って何か聞けたか?」
「ギルドの幹部にも聞いてくれたみたいだが、特に収穫はなかったよ」
「見たことのないヤツの方が多い種族だから、仕方がないか」
「新しく街に来た連中にも聞いてたみたいだが、なかなか難しいな」
「もう少し南の方に行くと海に面した街もあるから、水が好きな種族なら近くにいるかも知れないね」
「海って泳げたりするんですか?」
「夏になると海岸に出て泳いだりするわよ」
「冒険者活動した後に泳ぐのも気持ちいいんだぜ」
「濡れたまま装備や剣を扱うと錆びてしまうから、泳いだ後はしっかり水洗いするんだぞ」
「海に面した場所の依頼で水中に落ちたことがあって、後でえらい目にあったよ」
「よく洗ったつもりでも錆びてくるんだよな、あれ」
「かーさん、“うみ”ってなに?」
「海はとっても大きな水たまりなんだよ」
「塩味の水が広がっていて、果てが見えないくらい大きいんだぞ」
「味がついてる大きな水たまりって、おもしろそう!」
「私も海って見たことないから、想像ができません」
「夏になったら泳いでみたいなぁ……」
「俺も久しぶりに水泳がしたいし、南の街で夏を過ごすのも良いかもしれないな」
もうじき黒月に入るから、まだまだ先の話だが旅の楽しみが増えた。ドーヴァにいつまで滞在するかは決めていなかったが、タイミング良く泳げる街に行けるようにスケジュールを考えてみよう。
◇◆◇
ギルドの飲食スペースで一休みした後に宿まで戻ってきたが、ヴェルデを呼び出してしばらくすると、コールの左手をツンツンと突き始めた。
「ピッ、ピピピ」
「ヴェルデどうしたの? くすぐったいよ……」
「俺がそうされた時に新しい魔法が発現したから、コールもそうなんじゃないか?」
「そういえばそうでしたね、ちょっと見てみます」
《魔法を見せて》
全員の前で魔法を表示してくれたが、左手の甲に浮き上がった文字は[製水|清浄|□□|■■]に変化していた。
「やりましたよリュウセイさん、魔法が増えてます!」
「やったなコール。
それに枠がもう一つ開放できるようになってるよ」
「本当ですか!?」
「あぁ、以前見た時と同じように清浄の下が、濃い枠から薄い枠に変化している」
「三つ目の魔法が発現できるようになるなんて、夢みたいです」
少し興奮気味のコールが、俺の近くに来て下から見上げるように見つめてきたので、頭とツノを優しく撫でる。
「“せいじょう”って何ができるの?」
「体をきれいにする魔法だったな」
「はい、生活魔法の中でもすごく人気があって、私もずっと欲しかったんです」
「旅の間も水の消費が抑えられるし、冒険中に汚れた時もきれいにできるし、いい魔法が発現したねコールさん」
「コールおねーちゃん、すごい!」
「試しに使ってみますね、ライムちゃんが一番でいいですか?」
「うん! やって、やって」
コールはライムの手を取ると、少しだけ目をつぶった後に呪文を唱えた。
《きれいになれ》
ライムは少し身震いしたが、自分の体の変化に気づいて手を見つめたり、髪の毛に触ったりしている。
「お湯で拭いてもらった後みたいになったよ!」
「ホントだね、髪の毛も洗った後みたいにサラサラだよ」
「乾かす手間も省けるし、清浄魔法は凄いじゃないか」
「みんなの役に立つ魔法が発現して嬉しいです、リュウセイさんたちに出会えて良かった……ありがとうございます」
「魔法の枠を四つも持っていたのはコールの才能なんだ、それは誇って良いことだ」
「そうだよ、私たちの生活環境がどんどん良くなるのはコールさんおかげなんだから、こっちこそお礼を言いたいよ」
「リュウセイさん、マシロさん……」
両目が潤みだしたコールが俺の胸に顔を埋めてきたので、そのまま抱き寄せて頭をそっと撫でた。きっと泣きそうになった顔を、見られたくなかったんだろう……
その後は全員をきれいにしてもらい、薄い枠になった部分を俺の魔法で解放しておいた、次にどんな魔法が発現するか楽しみだ。コールが加入してくれて、ご飯が美味しくなったり清潔に過ごせるようになったり、俺たちの暮らしがどんどん豊かになっている。
生活魔法というのはあまり目立たない存在だが、その名が示す通り“生活”に密着したとても素晴らしい“魔法”だな。
取り潰された悪徳貴族の経営していた業者は、権力を使って他の街から在庫が流れ込むのも阻止してました。小売価格が正常になったのは、国の補助で運搬コストを相殺しているから。
原材料不足はまだ解消されないので、買取金額も助成金が上乗せされています。
次話で主人公たちは次の街へと移動を開始します。
出会い系チートは健在ですのでご期待下さい(笑)




