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第40話 薬草採集

 窓から差し込む明かりが覚醒を(うなが)し、次第に意識がはっきりしてくる。昨日の記憶が蘇ってきたが、真白とコールは二日酔いになったりしていないだろうか。


 早々に寝てしまった二人が心配になり顔を横に向けると、左腕に抱きついた真白がいつもの安心できる笑顔を浮かべてくれた。昨日は少し離れて寝たが、無意識に寄ってきたのか起きてから近づいてきたのか、いつもと同じ姿勢になっている。



「おはよう、お兄ちゃん」


「おはよう、真白」



 二人で朝の挨拶を交わしていると、反対側でもゴソゴソと動く気配がする。その方向に目を向けると、コールも同じようにいつもの姿勢で横になっていて、こちらを見ながら笑顔を浮かべてくれている。二人とも体調は悪くないみたいで安心だ。



「おはようございます、リュウセイさん」


「おはよう、コール。

 二人とも体におかしいところはないか?」


「いつもより早く目が覚めて、お兄ちゃんの寝顔をたっぷり堪能できるくらい調子がいいよ」


「私も早く目が覚めてしまって、起きようかと思ったんですけど、ついリュウセイさんを見ていました」


「私、昨日はいつの間にか寝てたみたいなんだけど、何があったのお兄ちゃん」


「私も気がついたらリュウセイさんの隣で寝ていて……いつの間にベッドに入ったんでしょうか」


「二人とも昨日のことは、どこまで覚えてる?」


「えっと……乾杯してご飯を食べて、甘くて美味しかったジュースを全部飲み終わったとこまでは覚えてるよ」


「私もご飯を食べ終わって、きれいな色の飲み物が全部なくなったところまでは覚えてますね」


「そうか……

 実はあの飲み物はお酒だったらしくてな、二人ともそのまま寝てしまったんだ」



 あの惨劇は伝えなくてもいいだろう、特にコールは羞恥心が振り切れてしまいそうだ。後でライムにも口止めしておこう。



「あれ、そんな飲み物だったんだ……

 途中からなんか気持ちよくなって、おかしいとは思ってたんだよ」


「あの、リュウセイさん……

 酔って何かご迷惑はおかけしませんでしたか?」


「二人ともベッドに運んだくらいで、何もなかったから安心していい」



 二人はホッとした表情になって起き上がると、ベッドから降りて着替えに向かう。ヴェルデもコールたちが普段の状態に戻っているのがわかったのか、近くに戻ってきていた。



「昨日は逃げたな、ヴェルデ」


「ピピーピ?」



 俺がこっそり話しかけると、ヴェルデはとぼけたような鳴き声を出し、顔をそっと背けた。状況判断の的確さは褒めるべきところだが、あの苦労は分かち合って欲しかったぞ。




 ライムが起き出すのを待って、昨日のことを内緒にする相談をしてから朝ごはんを食べる。今日もダンジョンに潜って、少し下の階を目指す予定だ。



◇◆◇



「リュウセイさんがいると、ダンジョンの移動が本当に楽ですね」


「ダンジョンは分かれ道や部屋が目印になって、現在位置が把握しやすいからな」


「私だと地図を見ながらでも曲がり角を間違って、引き返したりすることがあります」


「森の中とかだと、お兄ちゃんでも迷っちゃう?」


「特徴のあるものが所々にあれば何とかなるかもしれないが、見通しが悪くて同じような木が生えているような場所だと自信はないよ」


「深い森はエルフ(もりびと)族がいないと、まず迷いますからね」


「お耳の長い人なんだよね?」


「私も会ったことはありませんが、そうみたいですよ」


「この街にもいないみたいだな」


「一度でいいから見てみたいよね」



 今日は一直線に下へ降りる場所に向かっているが、最初に地図を確認してからは俺のナビでどんどん進んでいる。分かれ道で立ち止まる必要もなく、魔物との遭遇にだけ気をつけていればいいので、話をしながらでも余裕を持って進むことが出来る。慢心や油断はダメだが、常に緊張しっぱなしでは長時間の攻略は無理なので、これ位のゆとりがあった方がいいだろう。



「コールさんはどの階層まで行ったことがあるの?」


「今のランクでパーティーを組まずに行くのはあまり良くないんですが、中層域まで行ったことがありますよ」


「俺たちのパーティーで行くとしたらどうだ?」


「そうですね……防御に関しては私とヴェルデがいれば大丈夫ですので、リュウセイさんが慣れてくれば問題ないはずです」



 魔物は魔晶を核にしてマナで体を作っているが、そこにダメージを与えることで構成を保てなくなって消えてしまう。大抵の魔物は体の中心に近い場所に魔晶があるので、それを直接砕けば一撃で消えてしまうが、それだと素材も手に入らないし、レアドロップのアイテムも出ない。俺も何度か魔晶をうっかり砕いてしまっているし、そんな事態を避けるために手や足の部分を切ってダメージを蓄積していく。


 やはり急所というものがあり、わかりやすいのは首や腰だ。ただ、そこを狙って正確に斬りつけるには、まだまだ俺の技量だと足りていない。とはいえ上層階の魔物だと、どこを斬ってもだいたい一撃で消えるので、ここで狙いを意識しながら数をこなして慣れていくしか無い。



「後は囲まれた時の対策か……」


「このダンジョンだと、集団で襲ってくる魔物は最下層くらいにしかいませんが、前衛や飛翔系の赤魔法を持った人がいるといいですね」


「確かマラクスさんがそうだったよね」


「土ぞくせいのひしょう系って言ってたね」


「リュウセイさんたちのお知り合いですか?」



 もちろん性別のことは内緒にして、この街に来る時に一緒に旅をしたマラクスさんのことを話しながら歩く。ギルドで別れてから一度も会っていなないが、もう査察の仕事は終わったんだろうか。ライムもすごく懐いていたし、一緒にいて気疲れしない人だった。そういった意味ではコールと同じだから、もしかしたら二人の相性も良いのかもしれない。



「かーさんは、マラクスおにーちゃんに、何度もけっこんしてって言われてたよ」


「そんなこと言われたんですか!? それで返事はなんて言ったんです?」



 こうした話に食いついてくるのは、コールもやっぱり年頃の女の子だ。昨日は酔った勢いで好きと言われてしまったが、ラブなのかライクなのかよくわからないので、変に意識せず今まで通り付き合っていこう。



「私にはお兄ちゃんがいるから断ってるよ」


「そうですよね、リュウセイさんがいるのにマシロさんが受け入れるはずありませんよね」


「とーさんもダメだって言ってたもんね」


「リュウセイさんなら“付き合いたければ俺を倒してからにしろ”とか言いそうです」



 良くわかったなコール。流石に半月近く一緒に生活しているだけあって、俺の内心も完全に読まれてしまうようになった。


 ――俺がわかりやすいだけかもしれないが。



◇◆◇



 遭遇した魔物を倒しながら下の階へと進んでいき、上下の階をつなぐ通路から離れた場所に向かっているが、ライムが何かに気づいて通路の先を指差した。



「とーさん、あそこ! あの草がそうだよ」


「やっと見つかったか」


「あまり人の来ない方に来たのは正解でしたね」


「ひと目でわかるなんて流石だよ、ライムちゃん」


「いっぱい勉強したからね」



 いま俺たちは、地下五階を探索している。魔物の種類は少し変化があり、ネズミやウサギのような姿をしたものが出なくなった代わりに、犬やキツネに似たものが出てくるようになった。スピードも若干早くなったが、コールと二人で十分対処できている。


 そしてこの階層まで一気に降りてきたのは、ダンジョン内にしか生えていない薬草を探すためだ。人があまり来ないだろうと当たりをつけて、道が入り組んで小部屋の多い場所を目指したが、その考えは正解だったらしく、真白に抱っこされたライムが真っ先に見つけてくれた。



「外にある植物はここで育たないのに、日の光の届かないダンジョンの中で青々と葉を茂らせてるのは何だか不思議だね」


「逆にこの薬草はダンジョンの外で育てられないから、ここの光や環境に特化した植物なんだろうな」


「リュウセイさんもマシロさんも、難しいことを考えるんですね」


「俺たちの世界に無かったものだから、つい興味が出てしまうんだ」


「とーさんとかーさんが前に、“がくもん”とか“かがく”って言ってたやつ?」


「そうだよ、ライムちゃん。私もお兄ちゃんも学校で色々なお勉強をしてたから、珍しいことや不思議なことがあると、つい考えちゃうんだよ」


「ライムも、とーさんやかーさんと、がっこうに行ってみたい」


「ライムちゃんだと学校に行く前に通う、幼稚園からかな」


「それってどんな場所?」


「一番小さな子が通う小学校って場所に行く前に、みんなで勉強するところだよ」


「でもライムは字もだいぶ読めるようになったし物覚えもすごく良いから、小学校でも大丈夫かもしれないな」



 街にでかけた時に、同じくらいの子どもたちと一緒に遊ぶことがあるが、言葉づかいや物事のとらえ方は明らかに違う。年齢的には0歳だが、四歳児くらい身長を持つライムの身体能力は、同じ体格の獣人族に負けないくらい高く、知能や知識だとギルドに依頼を受けに来る子供と同レベルだ。



「学校に通ったら、ライムちゃんが一番になれるかもしれませんね」


「一番になって、とーさんやかーさんやおねーちゃんに、いっぱいほめてもらいたい!」



 この世界の学校は貴族や富裕層の子供しか通っていないはずだが、もし誰でも通えるようになって一番を取ったりすると、親としてはとても嬉しいだろう。しかし、平民の子供が優秀すぎて貴族の反感を買うなんて定番に事態になりそうなので、たとえその機会があってもよく考えて決めないと、この子の将来に影を落としてしまいそうだ。


 そんな場所に行けない一般の子供は親が読み書きを教えたり、年寄りが子供を集めて塾みたいなこともやっている。ライムも文字の形は全部覚えているので、後は難しい単語の意味や言い回しを学んでいけば、日常生活で困ることはないだろう。




 そんな話をしながら薬草採取して袋に詰めていったが、この辺りは本当に人があまり来ないらしい。部屋いっぱいに群生していたので、かなりの量が集まっている。この手の素材はいくらでも買い取ってもらえるから、今日の収入には期待できそうだ。


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後日談もよろしくお願いします!

色彩魔法あふたー
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